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【人】 高山 智恵「そっか、黒江さん。そうだったんだ。 ……いや、めちゃくちゃ大変だったんだね」 それ、私にくらいその時に話してくれて良かったのに――と言いそうになった口を噤む。 ちゃんと頼れる親御さんがいる彼女に対し、ただの元同僚の私なんかに言えることじゃないでしょって。 ――助けてあげたい。 そう思ったって、助けてほしい相手は私って訳じゃないでしょって、私はひとり思い直したんだ。 ――わざわざナナが私に電話しようとしていたことの意味も考えずに、ね。 (106) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:42:02 |
【人】 高山 智恵『はい、大変でした。なので、 私よりもマネジメントが得意な高山さんに オープニングスタッフになって貰いたいです』 …………あの、ナナ、あなた今なんて言った?? とっさには何も彼女に返せず、「えー」だの「あー」だのといったしどろもどろな声ばかりが喉からこぼれ出る。 っていうかオープニングスタッフって言うけれど、カフェ開業計画は一旦白紙に戻してそれっきりなんだよね? 今はもうちょっと先にやることない?? いやそれとも単に計画とか準備とかを一緒に手伝ってほしいってだけの意味合い? 正直、私自身かなり混乱していて、この時きちんと筋道立てて考えられていたのか自信がない。 「あ。うん、だから私に電話しようとしてたんだ……。 うん、そう言って貰えるのは嬉しいん、だけれど。 ちょっとこっちの勤務とかのこともあるから すぐさまスタッフに〜っていうのは難しいかな……」 実際今の私は正社員の身分だ。それは彼女も当然把握している。 本気でナナの店に移るとなれば、うちのカフェでもそれ相応の引き継ぎをきちんと行わなければならない。私も将来独立を考えてるってことは店長も聞いてるから>>2:105、そこまで強硬に引き止められる……ってことはないと思う、けれど。 というかこれ、古巣からの人材引き抜きってやつじゃ……。ナナ本当に堂々とこういうこと言うよね……。 (107) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:42:57 |
【人】 高山 智恵『難しい、ということは、ダメってことですか?』 「あ、ううん、そうじゃなくて―― いや、うん。本当にダメかも。 流石にうちの店を無責任に出て行くのはできないから もしそっちのオープン時に引き継ぎ間に合いそうなら スタッフになる、くらいに考えといて」 「分かりました」と答えたナナの声色があからさまにしょぼんとしていたので、誤解を避けるためにもう少しだけ付け加える。 「でもさ、資金集めとか仕入れ先のこととか、 そういう事前準備で今からでもやれることあったら 今の私にできる範囲で、ちゃんと力になるから。 そういうのは本当遠慮なく伝えてよ」 これに続いての「分かりました」は、明らかに先ほどと異なる声の弾み方だった。 ……彼女、本当に私のことをアテにしていたってことらしい。 (108) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:45:06 |
【人】 高山 智恵「あと親御さんとかにも言われてるかもだけれど、 協力者は多ければ多いに越したことないから、 私の他にもちゃんと仲間見つけておくんだよ」 『分かってます』 あ、この「分かってます」はちょっとイラッとしているやつだ。こういうところがこの娘は……。 尤もこうは言ったものの、私の方でもちょっと人材は見つけておいた方がいいかな、とは考えている。 いや流石にうちのバイトの子を大量に引き抜くとかそういうことはしないけれど。そもそも勤務地遠くて無理とか出てくるだろうし。立地どうなるかにもよるけれど。 「じゃあ、何かあったら連絡して。 こっちでも何かあったらまた電話するから」 『はい。分かりました。それでは――』 いやいや、まさか不倫疑惑からこんな話に発展するとは……。 そう思いながら通話を終えようとして――ふっと、零していた。 (109) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:45:42 |
【人】 高山 智恵「それと、だけれど」 『……どうしましたか?』 幸い、ナナはすぐさまに通話を切ってしまう前に、私が零したことに気づいてくれた……いや、「幸い」って言うべきなのかな、これ。 「ううん、何でもない」の一言で誤魔化しちゃおうかとも考えたけれど、変に含みを残したまま話を打ち切ってしまうのもどうかと思い直して話を続けることにした。彼女、こういうことがあると、けろっと忘れてることもあれば執拗に覚えていることもあるので……。 「それが、その」 『はい』 「えっと、さあ……」 話を続けることにはしたものの、肝心のその先が見つからない。私のそんな躊躇いにも、ナナが通話を打ち切ることはなかった。 辛抱強さを表すような沈黙を前に、私は言葉を迷っていた。 (110) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:46:30 |
【人】 高山 智恵 ――私、本当はあなたを愛しています。 そんな私でも、あなたと一緒に居てもいいですか? これは、この時率直に思っていたこと。 言いそうになってしまったのは、そんな言葉。 けれどもこんなこと、言えない。言えるわけない。 大分、大分迷った先に、出てきたのはこんな問いだった。 (111) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:46:53 |
【人】 高山 智恵「私、これからも――ううん、ずっと、ナナの側にいてもいい? あ、『側に』って言っても今は離れてるけれど、 そういうことじゃなくて、心理的に?って意味―― 勿論物理的にでも、会える時は会いたいし……」 取りようにとっては事実上の愛の告白だけれど、ナナはそこまで行間を読み取らない。多分、この言葉を額面通りに受け取るだけだ。 かといって、真意を察しないナナ相手だからこんな姑息な言い回しを平気で言えた――という訳でもない。言ってしまって良かったのか、という自問は尽きない。 もしもあの娘が、それでもこの言葉の意味を解ってしまったら? ううん、それよりも――言葉の意味も解らないままYesを返してしまったら? それは私が彼女を騙した、ということになるんじゃない? 『高山さん』 幾らか間を置いてから、ナナの淡々とした返答が響く。 その幾らかの間も、続きを待つまでの数秒も、ひどく、ひどく長い時間に思えた。 (112) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:48:29 |
【人】 高山 智恵『いいに決まっています。 物理的にも心理的にも、側にいてほしいと 思える人だったから高山さんと電話しています。 わざわざそんなことを訊いてくるなんて、 やっぱり高山さんは 変 すぎる人です』……だよね。やっぱり普通にそう受け取るよね。 額面通りに受け取ったナナからの真っ当な指摘が、色々な意味で胸に刺さる。 確かに彼女の言う通り、言葉通りの意味において、私の問いには本当に何の意味もない。 そして、真意に気づかないナナの側に居続ける私は、彼女に嘘を吐き通したまま、ずっと側にいるなんてことができる? 「そっか、……そうだよね、うん、私、変だ。 とにかく、ありがとね、黒江さん。 それじゃ、また――」 “ 私は私のままでいい ”――。 そんなメッセージも遠くなってしまうような自己嫌悪は、努めて声に滲まないように取り繕って。 こんなことならいっそ直接的に告白してしまえば良かった。彼女への助力を反故にして裏切ることになっても、今この場ではっきり言ってしまえば良かった。 でも、あの娘と離れたくない、力になりたいっていうのも、私の本音で――。 (113) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:49:12 |
【人】 高山 智恵 今度はナナの方が「高山さん」と、通話を切ろうとする私を引き止めた。 そして彼女は、私のように逡巡を挟むことなく、スピーカー越しにはっきりと告げてきた。 『なんなら私、高山さんと結婚してもいいと思っています。 そのくらい、高山さんが側にいてくれると、 助かりますし嬉しいです。 だから私、31日にそちらのカフェに来ます。 私は店長から貰った黒猫マントを着ようと思うので、 高山さんは一昨年の魔術師マーリンの仮装で来てください』 え? と思った矢先に矢継ぎ早に告げられたのは、何かとんでもない無茶振りだった。 (114) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:51:01 |
【人】 高山 智恵 確かにハロウィーン前日と当日は学生諸君客のハロパに合わせる形で、接客担当は何かしらの仮装をしてくるのが通例になっている。 (なので、基本裏方に徹していたナナは仮装をしなかった。彼女が貰った「黒猫マント」というのは、バイトのホールスタッフからイベント後に返品されたものが彼女に回ってきた形だ) 仮装の度合いもカチューシャ一つから全身コスプレまで業務に支障を及ぼさない範囲で様々だが、大学時代のことが切欠で決定された私のマーリンはその中でも結構なコスプレだった。 衣装の詳細は皆々様のご想像にお任せしておこう。 「う、うん……分かった。 じゃ、来てくれるの、待ってる」 『はい。それでは失礼します』 こうして今度こそ、通話は打ち切られた。 (115) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:51:40 |
【人】 高山 智恵 はあ、と狭いリビングのカーペットの上で溜息をつき、仰向けに寝転がった。……なんか何時かの写真のだるだるなカナブンの幼虫みたいだな私、なんてぽつりと思う。 ………………。 ちょっと色々なことがありすぎた挙句、最後の仮装の無茶振りに全部持っていかれて呆然とするばかりで――。 どうでもいいけれどこのアーサー王伝説のマーリン、相当な ナンパ男 だったっていう伝説もあるんだよね……。多分ナナはそこまで深く考えてはいないだろうけれど。そう、魔術師マーリンの再来の件のインパクトで、一瞬、記憶から抜け落ちていたのだけれど。 基本的に、ナナは嘘を吐けない>>2:107。嘘を言っていたとしたら、それは彼女自身が真実だと誤認したことだ。 そしてこれまた基本的に、彼女はわりと物言いが直接的だ。含みを持たせた言い方だとか比喩だとかは、皆無という訳ではなかった気もするけれど、あまり言わない方だ。 そしてそんな彼女は確かにさっき、あんなこと>>114を口にしていた。 それも、わざわざこちらを引き止めて言い置く形で、だ。 (116) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:52:46 |
【人】 高山 智恵「 ……そういう、こと、なの ? 」 「もしかして」、という期待自体は確かにあった。けれどそれは全部、ただの自分に都合の良い妄想だと思っていた。 だから――この状況に対して、全く現実味が追い付いてきていない。 どうする。どうすればいいの私。本当どうすればいいの?? もう一回電話掛け直して問い質す? いやいやこんな調子で問い質しに行って私ちゃんと喋れる?? 大人しくじっと塀の上で佇んでいた野良猫にいきなり襲撃された時でも、こんなに動揺したことはなかった。 ――とりあえず落ち着こう。落ち着こう……。 買ってきたばかりのプラリネの箱を開け、シンプルに徹したくちどけと甘味に意識を一旦向ける。 本当は彼女の恋路を応援する心算で買ってきたこのチョコレートだった、けれど……その恋路の先が本当にどこに繋がっているのか、すぐさまにはちょっと予想図が描けない。 (117) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:53:25 |
【人】 高山 智恵 ああ全く、本当に、本当に。 猫は気まぐれで、薄情に見えて、時に凶暴なようでいて――それでもちゃんと体温のある生き物で。 そんな一見気まぐれにも受け取られかねない正直な一言に、こんなにも揺り動かされている。 ――ううん、これは猫の一言じゃない。人間であり、ナナという人だ。 本当の意味で、私はあの娘から離れられなくなった。離れようがなくなった。 ナナの言葉の真意は、それでも未だはっきり自信を持って確かめられたわけじゃない。けれど。ううん、だからこそ。 せめてハロウィーンの当日には、ちゃんと彼女の思いに向き合って――私の想いも、今度こそ伝えよう。 (118) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:54:47 |
【人】 高山 智恵枯らそうと思っていた幾年もの想いは、けれども――。 今年の冬をもまた、越していこうとしているよ。** (119) sakanoka 2022/10/24(Mon) 12:55:26 |
【独】 高山 智恵/* エピのうちになんとか〆られるところまで〆ようとしたら異様に長くなってしまった……! どうしようかなーと大分迷ったんですが、片想いor失恋、とのことでしたので、それに甘えてこんな形の終わり方に落ち着かせました! と、昨日から体調は大分戻ってきています。ご心配おかけしました……! とはいえもう一度顔出しできるかちょっとわからないので、今の内にご挨拶。 さかのかです。今回飛び入りでこの村をお見かけして、丁度今なら入れる!と思って飛び入りいたしました。 ゆるっと参加の中でも他の方と素敵なお話いただけたり久々にがっつりソロル頑張れたり、絡みのないところでも陰から皆様の想いの物語にどきどきさせられたり、ですごく楽しかったです! 村建てくださったもくもくさん、ご一緒くださった参加者の皆様、ありがとうございました! (-67) sakanoka 2022/10/24(Mon) 13:01:37 |
高山 智恵は、もう一度戻れたらいいなの期待を置きつつ、どろん** sakanoka 2022/10/24(Mon) 13:07:08 |
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