「デーモンマンは……俺は付き合うけど。自分で見たわけじゃないし、サブ・ボップが出てるのちょっと気になる。絶対クソ映画だけど。あとなんでキラーポテト二回も観ちゃったの？」

断定した上に散々なことを言っている。ひどい。

「一回目にどうしてこうなったのか分からないってところも二回目以降に見直して気付けることもあるし、二回目以降には二回目以降なりの楽しみ方があるよ。好きなシーンを噛みしめるとかさ」

シアタールームが空いていると聞けば一つ頷いてあなたに続く。向かう途中で端末も開きつつ。

「なあシトゥラ、映画観る時になんか食べたり飲んだりするほう？今のうちに頼んでおこうと思うんだけど」

(3日目)
降ってくる拳をただただ驚きに満ちた顔で見つめ続ける。

受け入れているのは、自分が人間達の全ての言うことを聞くようにと教育を受けて作られたからだ。
でもそれはおかしいと否定する者がいた。それから、分からないなりに考えている。考えて、それでも貴方を受け入れている。
…………どうしてだろう？

「シトゥラ」

答えが出せない。分からない。
でも、貴方に寄り添いたくて。
腕を伸ばし、貴方を抱きしめようとする。

「………………死んじゃダメ。本当なら、それも受け入れてあげたかった。
でもね、俺は逃げるつもりはないんだ。ゲームに参加する理由を見つけてしまったから。
俺は嘘つきだね。最低だね。

ごめん、ごめんね、シトゥラ…………」

「………………」
「…………………………。」　
目を伏せた。逸らしても合わせても、伝わった恐怖とジブンの気持ちを伝わってしまいそうで。
だってないのだ。ルール上、絶対に誰かが死ぬ。この船には誰も死なない方法なんて。



「…………ハグ、していい？」
だめかな。今のあなたを宥める方法はこれしか思いつかない。

「シェルタンくんは……」

と何かを言いかけてやめた。
この人には何も背負わせたくない、この人は今のままで、この人には幸せになって欲しいと。
だから自分の内に眠る恐怖を怒りを黒い感情を見せたくはなかった。

「美味しい物をいっぱい食べて欲しいね。変なメニューもあるけど、ここのシェフたちはみんな腕がいいからさ」

変わらずいてくれとそう願われたらなおのこと、だ。
あなたとの間には、この穏やかで柔らかい空気感さえあればいいとシトゥラは心から思った。

/*　この辺でキリがいい感じがするので〆ようかと思うのですが大丈夫でしょうか？

あの後サルガスにはギャラシャを途中まで見た後、バーナードの元に向かって続きを観ようとしたところキファが興味を持ったので、結局三人で最後まで見た後別な映画を見て過ごした……という事情があり、そもそも観ようとした理由であるシトゥラに感想を伝えるという件を忘れていたのである。

「そうだな……。
　私からの感想とすると、観客に何を伝えたいのか、この場面に意味は有るのか、そういった場面が非常に多く散見させられ、その正体は一体何なのだろうと随分と考えさせられたが……

　最終的には、共に観た者との総評も纏め、
と結論が付いた。」

散々な感想がまた一つ増えた。

(1日目)
「ままのあかちゃん……、ままのあかちゃんほしい」

へにゃりと表情が崩れる。
その顔立ちは大人びた子どもと呼ぶにふさわしいもので、女になれなかったという言葉を裏付けるように感じるかもしれない。

「ままのまね……がんばる、んっ……」

探るようにあなたの秘部に触れ指を動かす。ただ、怖いのか指はいれずに割れ目を撫でさするにとどまっている。

「ね、まま。きもちんぎっ！？」

肉芽をすられた瞬間、感じたことのない感覚に声が上がる。

「あ、あ……しょこ、しょこ……らめ、へん、へんになりゅ……」

白と黒を基調としたテーブルセットは花咲く中庭、噴水も見やすいような位置にある。

『お待ちしています』

短く返して、テーブルの上を整えようか。茶菓子も、紅茶も。貴方からの連絡に合わせて支度をして。
美しい薄緑の貴方が訪れるのを心待ちにしている。

(3日目)
力なく拳を下ろすと、小さく首を横に振った。

「い、いい、の。ぜ……ぜんぶ、わわわたしの、わがままだ……から」

ゲームに参加している以上命を奪うことも奪われることも避けられない。それはシトゥラもわかっている。
わかっている上で、どうにもならないことをあなたにぶつけた。
それだけなのだ。
抵抗する様子はない、抵抗しようという気もないのだろう。シトゥラは大人しくあなたの胸に収まった。

「だ、だだだって、わたしも、もうころ……ころしちゃった、から。は……はまるくん、こ、ころしちゃっ……」

じっと手を見る。
肉を切る感覚は未だに残っていて、それを消し去りたいのか必死にあなたにしがみつく。

「ね、ね、まま。お、おねがい、おねがいあるの。あ、あのね、ままの、ま、ままのやくしょくわわかんないから、だからね、あっ、ままが、ままがおおかみだったら」

涙に濡れた顔をあげ、あなたを見上げる。

▽

言葉はない、ただゆっくりと唇を動かす。
その動きが何を言っているのかわかるのであれば



シトゥラがそう言ったことが理解できるだろう。

「シトゥラー……？ここかなー……」
あなたをもうしばらくロビーで見ていないような気がして、医務室と、あなたの自室を訪ねていく。

いなかったら諦めるし、他の誰かが一緒にいるような様子でも、やっぱり諦めるだろう。

「そう、それだ！」

それだとはキラーポテトのことである。いや、キラーポテトのことだけどそうではなく、二回見たことについてだ。
あなたに指を突き付けキレッキレの謎のポーズを取っている。

「一回目見た時はさっぱり訳が分からなくて、二回目見たらわかるかと思ったけど、二回見ても全然わかんなかったんだ」



「あ、それならとの二本見ようか。空きは……、うん。このあとの予約もないみたいだし、二本見れそうだ」

端末でカップルシートの予約状況を確認し、すかさず延長分の予約もいれる。

「映画見るとき？よくコーラとポップコーンって言うよね。まあ、私はコーラ飲むと胃が気持ち悪くなるから飲まないんだけど……。あ、でも小魚のお菓子とかつまんでるかも」

「は、はははぐ？……い、いいよ。も、もち、もちろんさ……」

腕を広げあなたを待つ。
こんな時でも、こんな時だからこそシトゥラは『シトゥラ』であろうとしている。

正気だと
踏みとどまれていると
そう必死でアピールしている。

言いかけた言葉 何を思っているかなどやはり分かりません。
ですが、何かを言いかけたからこそ 私は。

「･･･いつでもお待ちしております」

話を聞いて全てを背負うなどそのときにならねば何も言えません。
ですからもしも、もしも言いかけた言葉を吐き出したい時はいつでも受け入れましょう。

変わらずいて欲しいということは、何も隠すことを願う訳では無いのですから。

端末で名を呼ぶのみでも、私は直ぐに駆けつけますからね シトゥラ様。

いっぱい食べて欲しい その言葉に笑顔で頷いて、シェルタンはそうしたことを思っているのでした。

/* 大丈夫にございます！

「まともではないごみ溜め」

何と言うことだ、これは絶対に見たらダメなやつだ。
まともな精神状態じゃない時……いや、まともな精神状態の時でも見てはいけない。

シトゥラは後で見ようと思った。

「なんか……悪いことしたなぁ……。お詫びにこれ、見ない？大丈夫、ファンが多い作品らしいから。きっと楽しいよ」

タブレットを操作しあなたに見せたのは

向かう足取りはしっかりしている。

極彩色の奇妙な物体も見えていない。

私は大丈夫。

向かった先、中庭にいるあなたを見た瞬間鼻の奥がツーンとなった。
生きている
生きている
起きてくれた

駆け寄ろうとするも脚がもつれ転ぶ、それでもあなたに駆け寄ろうと

「ラサルハグくん！！！！」

あなたの名前を叫んだ。

自室で誰かが来た気配を察した。
摩耗した精神は限界に近く、すでに部屋を取り繕うという発想すらわかない。

よろよろと立ち上がり何度か転びながら訪問者を迎える。

「あ、ああ、あ、か……カストルくんか、ど、どう……どうし、た、の？」

こんなにもこの人は僕を案じてくれたのだと。
胸が温かくなるような、気がしたから。

駆けて、転んだ貴方を見れば珍しくこちらも駆け寄って。
手を差し伸べてから、そっと貴方にハグしようとするだろう。

「シトゥラさん、おはよう。…会いたかったです」

「あ、はは、ははは。転んじゃったよ、歳かな……」

声も震えていない、手足に力は入らないが、それでも普通に振舞うことはできる。

「うん、ラサルハグくん。おはよう、……おかえり」

ギュッと抱きしめる。
あの時とは違う、ぬくもりがある、生きている。
あなたは生きている。

包むように抱きつく。
何も言わない。ただあなたの背中に手を回している。

何も言えない。言える言葉がなくなってしまった。
今は。

だからアピールを受け止めている。

暫くは、又はあなたが嫌がるまでは。

「……満足。……よく、眠れます、ように。」
最後に離れたあとは、ゆっくりと間違えないようにその言葉を呟き、他の何も注意することなく少女は帰っていくだろう。

「…それだけお疲れなのでしょう。どうか無理はなさらないで」

クルーとしての仕事をしながらのゲーム参加が大変であるのは想像せずともわかるから。
せめて小さくとも、安らぎの場になればと願う。

「ただいま。…そうだ、聞いてくれますか？貴方に名を呼んでもらう夢を見たのです。
…だから。起きてから、きっと貴方が約束を果たしてくれたのだろうな、と思って。ありがとう、シトゥラさん」

「あ、ああ……」

大人しくあなたの体温に包まれる。
自分が震えていることにも気が付かないで。

「あ……」

シトゥラは呆然と、去るあなたの背中を見送った。
ぽたぽたと涙が床に落ちている。

「シトゥラ……シトゥラに会いに来たんだ」
前の処刑のとき、あなたがしてくれたように、あなたの手を取った。
大丈夫じゃないことは見てわかった。きっと今の気持ちの一端くらいは分かってあげられるような気もした。

「一緒にいてもいい？ちょっとだけでもいいから」

「うん、ちゃんと約束守ったよ」

立ち上がり服の汚れを払う。
名を呼んでくれと、なんて簡単な願いだろうと思った。
でも、そうなった時なんてつらい苦しいことなんだろうと心から思った。

「だからね、おかえり。ラサルハグくん、起きるのを、待ってた」

「SORE……？？？」

"それ"が指し示すものも分からなかったのに、なんかキレッキレですごいポーズを取っているのも分からなくて、謎が謎を呼ぶ展開にめちゃくちゃびっくりしている。


「え、あ、ならからにしようぜ。あの、うん、映画観終わった後の爽快感が全然違うと思うから……」

延長まで速やかに入ったのでこれは逃げられないなの気持ちになった。映画観るのも一緒に楽しむのも悪くないんだけど。

「なるほど、じゃあ小魚のお菓子と……チュロスも頼んじゃおっと。飲み物は炭酸以外にしとくか」

と、適当に注文しておく。シアタールームに着く頃には座席前に置かれていることだろう。