冷えてしまったか
　　全く、人の子とはこれしきのことも耐えられぬとは
　　不便よの

　　手を


［　その言葉を告げると同時に体ごと持ち上げる。　］


　　まるで重さを感じぬな。それに冷たい
　　雪を運んでいるかの様だ
　　凍えてしまっては務めも果たせぬぞ巫子よ

　

［　みつきの体を持ち上げたまま
　　飛ぶ様に山を高速で移動する。

　　風を感じるはずの感覚はなく、
　　逆にどこか温かみすら感じるはずだ。




［　人がどれだけの温度で死ぬかはわからない。
　　動物も生き物も寒さで死ぬことは知っている。



　　そうして鬼の塒へと向かっていった。　］

　

［　廃れた神社の本殿のような造りの建物。
　　こぢんまりとした印象ではあるだろう。

　　中に入れば神気が満ち、清浄な空気が漂う。
　　囲炉裏も見当たらないが
　　温かさもしっかり感じられる。

　　その場に鬼はみつきを下ろすと
　　深く息を吐き、己の巫子を見る。　］

　

　　ここがこれから我と巫子が住む塒だ


　　よいか？
　　巫子には務めがある
　　それを果たせば山の機嫌は良い。
　　吹雪もなく天候は安定する。
　　夏は日照りもなく雨を降らせることもできる。
　　村を、人を、守ることができるのだ。

　　

　　早速そなたの、巫子の生気を我に与えてみせよ
　　さあ、みつきならどう与えてくれる？



　

［　あえて方法を教えず、楽しそうに
　　余裕のある笑みをしてみせた。



　

　　なんだ、我を待たせる気か？


［　時がそんなに経ってはいなくとも
　　そう言って急かすのも意地悪の一つだ。


　

［　手招きをして、みつきを呼び寄せる。


　

　

［　かしこまらなくて良いと言われれば
　　多少息ばかりはしやすくなったものだが
　　とはいえ言葉尻は崩せるはずもなく。　］


　　　ことだま.........そう、簡単には、ということは
　　　月迦嶺鬼様の御名は真名なのですね



　

　　　.......たましい、ですか







　

［　からからと映っていた笑顔が消えたことに
　　気がついた時にはもう、
　　空気は酷く重たくなっていた。


　

　　　.......................。
　

　
　

　　　...痛いことは 怖いので
　　　私にできることですぐが避けられるのなら
　　　すぐでは無い方が.......よいですね、


［　かじかんで痺れるように痛む手を見つめて、
　　へにゃりとわらってみせる。

　

　　　手？…よろしいのですか...？っ、と、


［　気安く触れて良いものかと手を差し出しかけて
　　止まるも、体が宙に浮く。

　　驚いたように目をまたたかせて
　　続いた言葉にはやや申し訳なさそうに
　　目を伏せた　］
　

　

　　　.......あの、.............、
　　　体温......
　　　

［　体温だけで風よけはされない、
　　一部だけでなく全身暖かみを覚えるのも
　　体温だけ、のおかげでないことはなんとなくわかる。
　　
　　巫子を他の要因から守るためと言えば
　　そうなのかもしれないが、
　　それでも、口にせずには居られずにぽつりと零した。

　　以降は、乗せられる風に
　　しがみつくように目を瞑って。　］
　

　　　山にこのようなところが.......あったのですね


［　鬼が住むというからどんなおどろおどろしい
　　ものかと思ってみれば、
　　神の住まいだったように綺麗な空気が流れている。
　　…だった、ような。

　　深い息の音に、あなたの方へと向き直った。　］
　

　　　お務め.......生気、ですか、
　　　.......えっと、


［　何とも分かりやすく困ったような顔で
　　目を泳がせる。...分からないことは苦手だ。


　　余裕たっぷりの笑みがまた何とも言い難い。
　　面白い答えを期待されているのだろうか？
　　一歩進めば憎たらしいまでありそうな
　　その笑みはこちらの悩みをより深くさせた。　］
　

　　　......っ.......いえ、そういったつもりでは
　　　.......意地悪、ですね




［　ろくに回したこともない頭の中を
　　考えがぐるぐると巡る。

　　優しい面も確かにあったけれど
　　今のこのお方は意地悪だ、
　　急かされれば更に困ったように。　］
　

［　考えつくとしたら、ひとつしかなく。
　　まだ少し悩むような足取りで
　　手招きに従うようにあなたの元へと足を進めた　］
　

　　　"こちらへ、向いて"
　　　

［　するりと左手をあなたの頬へ伸ばして、
　　添えるように触れる。
　　先程よりは暖まっているから
　　酷く冷たくはないはずだけれど。



　　だから、これは見様見真似。
　　村で見た営みの一部の真似事。　］