──　プロテア：港　──



　　
　　およそ1週間の船旅を終え、
　　潮の香り漂う港の硬い石畳を踏めば
　　誰にも聞こえぬように小さく息を漏らした。



　　無表情のままにくるりと船の方へ
　　身体を向き直せば今まさに
　　降りてこようとしていた女性に手を差し出して。　］
　

　　　　───お手をどうぞ、…ヴィオラ様


［　細くしなやかな手が、差し出した手へと乗せられる。
　　万が一には抱きとめられるように
　　注意を払いながら、下船を終え。


　

　 ｢　ノア。
　　　此度は貴方の休暇も兼ねていると
　　　伝えたでしょう。
　　　





　　申し訳ありません、と頭を下げる。
　　とはいえ彼女も無意識に手を乗せていたようで、
　　少しバツの悪そうな顔をしていたが

　

　　　足元にお気を付けて、
　　　…こちらは"僕"、からの心配です





　　休憩がてら、城下町を見て回りたい
　　という彼女に連れそうよう町中へと進んでいく。
　　周りをきらきらとした瞳で見渡す
　　ヴィオラ様を一歩引いたところから
　　私は見守っていた。　］
　

　　なぜ両面を知られているかと言えば、
　　ひとえに彼女がであり、
　　私がだから、だった。　］**
　

　　──　城下町　──


［　人の入れ替わり激しい港から
　　中心部へと移動する。

　　活気に溢れるのは港もこちらも同じだったか、
　　一人駆け出して行こうとする彼女に
　　ひやひやとしながらその姿を失わぬように
　　幾度か声をかけ止めながら歩いていた。　］


　　　ヴィオラ様、お一人で行かれては…


［　とまでは
　　口に出来ず、その後は押し黙る。



　　傍目から見れば"少し良い所のお嬢様"
　　とその付き人に見える装いだった筈だ、

　

　　｢　 わたくしももう15です！
　　　　貴方に心配されるような歳ではないでしょう？

　　　　気づく者などおりませんよ。　｣


［　……当の姫様はこの調子だ。


　

　

　　　　───…あまり度が過ぎますと、
　　　　お父上に苦言を呈されますよ。


［　ため息ひとつ着くわけにもいかず、
　　彼女の父…国王に密やかに助けを求めるも
　　また無邪気に駆けていこうとするお転婆姫。




　　ふっと心にを落とせば、苦い顔をして。　］
　

［　思いを浮かべながら進んでいれば、
　　目線の先、花屋の店員が驚く声が聞こえたか。
　　なにやら突然に花が散ったのか、
　　い花弁が空を舞っている。>>68
　　
　　となる花弁は
　　風に乗りてとなり
　　やがてを形作り、この手に届いた。　］
　

　







［　飛んできた花弁に手が触れた途端、
　　聞き覚えのない声がすぐ傍で
　　囁かれたように耳へと届く。



　　首を傾げていれば不思議そうな顔で
　　こちらを見つめるヴィオラ様が居り。
　　伺ってみれば
　　
　　というのでますます首を傾げ。　］
　

　

［　今こそ王家に…王女様に仕える騎士として
　　日々精進を続けているが、
　　実の所少々な経歴持ち、だ。

　　具体的に言えば、冒険者。
　　リーディスのギルドは勿論、
　　隣国プロテアのギルドも頻繁に利用していて。

　　最後にクエストに行ったのは10年は前、
　　13の時から必要な時だけパーティを組む
　　フリーのソロとしてやっていた。　］
　

［

　　かつてそう呼ばれ、
　　いつしか姿を消した少年を
　　まだ覚え知る者は居ただろうか。



　

　　──　回想：冒険者時代　─


［　、と呼ばれた魔法士は
　　特に攻撃魔法に秀でていた訳では無い。
　　万能型、と呼ぶのが正しいか。
　
　　あらゆる魔法において
　　一級以上の実力を持っていた為に
　　パーティに足りないポジションがなんであれ
　　合わせることが出来た。


　　珍しく覚えている人といえば……そう、
　　同じくあちこちを回っているような
　　同業者、?は覚えていた。　］
　

［　10年経てば定かでない記憶もあるけれど、
　　一言で言えば軽い男。




　　　どうしてあれほど細やかに
　　　敵のことを見てサポート出来るのに

　　　人に対してはトラブルを起こすの？




［　歳は聞いていたっけ、
　　同じくらいの歳になったと知った今なら
　　轟速で頭を叩きたいような
　　セリフを吐いたのは何となく覚えている。

　

［　───…あの時はどんな返答が帰ってきたんだったか。



　　時折

　　なんて思うのだ。　］**
　

　──　回想：冒険者時代　──



　

　　　ノア、です。よろしくお願いします


［　身の丈に合わない大きな杖を抱えて
　　それぞれにぺこりと頭を下げる様子は
　　初対面ではしっかりしていそうという印象を
　　抱かせていたのか。>>129


　

　　　…ふぅん。
　　　まぁ、あの人達も
　　　しょうもないことで怒りすぎだね
　　　

［　パーティメンバー(元)の姿を思い浮かべつつ
　　さらりと肩を持ちかけるくらいのことを
　　言えばそれ以上は追求しなかった。



　　へらりと笑う彼につられるよう
　　そこまで変わらない表情筋が
　　微笑を形づくっていたのはここだけの話。　］
　

　　　　………僕は、より先に
　　　　名前を呼ばれるような魔法士になるもの。


［　ニヤリと上げられた向こうの口角とは反対、
　　未来を想像してぎくりと肩を震わせ挙動不審に。



　　若者の戯言と聞き流されたか、
　　そこまで大げさに重たい会話ではなかったので
　　向こうは忘れているかもしれないが
　　

　

　

　　──　回想：若者と、＿＿　──


［　勇者に憧れる若者───
　　良い響きだと思う。

　　夢を見るのは好きだ。
　　僕自身、夢を見て、冒険者をやっているんだから
　　それでも、はある


　

　　　…お兄さんのパーティは何が足りないの？
　　　攻撃、強化、それとも防衛？
　　　

　　　……───わかった、行くよ。




　　強いと言われる冒険者が立ち替わり
　　隣の人間を変えていることも
　　噂ながらには知っていた。>>140


　

　　どんな答えだったにせよ
　　後々気がかりになるからと
　　承諾の返事をしたには違いない。


　　　　　　　　　　　Perl blueのもうひとつの特徴だ　］
　

　

　　それもあり平気かと問われれば
　　反射的に眉間に皺を寄せ。　］




　　　っ、…後ろにいたお兄さん、だっけ。


［　若干食い気味に平気だと返した辺りで
　　振り向いてその顔を見れば違うか、と気づき。
　　
　　話しかけてきた人の隣…じゃなく、少し後ろに居た人>>140
　　

　　珍しくどうでもいい…とか、気にしていないような
　　感情を漂わせていたのは覚えていた。
　　
と
　　皺を解けば改めた顔で、　］
　

　　　　大丈夫


［　問いの真意から外れ、
　　くすりと笑う少年は
　　まだ背の伸びきらない子ども。

　　目に見える強さばかりを追い求めて居たから


　

　　　──…難しいこというんだね

　　　実力以外の強さなんて、…



［　周りに仲間は見えなかった
　　だから零れ落ちてしまった言葉に
　　はっと口を塞ぐ。



　　もし答えが返ってくる前だったなら
　　なんでもない、と仕切り直してから　］
　

　　　　本当？
　　　　プロテアに来てそれなりに経つけど
　　　　とっておきは見つかってないんだ
　　　　嬉しいな

　　　　行こう。お腹空いた、

　

［　空腹には手温いくらいの依頼が丁度いいよ
　　実力の片鱗くらいは見せられたんじゃない？

　　話はもう少し続きそうだ

　

　　　




　　　　　　　　　　　　





　

　

　　──　過去：10年前　──


［　リーディス王国のPrincessヴィオラ
　　彼女が6歳の誕生日を迎えようとしていた頃の話。

　　リーディス王家にはいくつかの習わしがある。

　　その中の一つが、

　　国中から選ばれた特に能力の高い人間から
　　6歳の誕生日に王室の子自ら、
　　自身の剣となるものを選ぶものなのだが、…　］
　

［　ちなみに拒否権などは無く、
　　状況に引き摺られるように
　　たかが18の魔法しか知らない男が
になった。






　

　

　

　　──　過去：霧の日　──


［　冒険者時代の頃、噂話の一つとして
　　「霧の夜に開く酒場」の話は聞いたことがあった。

　　にしても街の中心からは少し遠い、
　　わざわざ見に行くほどの場所でもないと、
　　その時は興味も持たず。　］





［　特に行かない理由となった致命的な言葉。
　　好き好んでそんな危険を求める意味はないと
　　城に囚われるまで町外れに行くことはなく
　　ノア=ワーグナーとはそういう少年だった


　　

　

［　放っておいても消えてしまいそうな声で
　　呟くも反応はなかった、な


　　ずる、と手が扉の上を滑り落ちて
　　両膝が地に着く。
　　静まっている空気を震わしたのは男の嗤い声。　］
　

　

　　　──　ゲンザイ　──


［　灰色の罪を黒罪と決めるのは誰か

　　法か？倫理か？　　　　　　

　　頂点の許しだ

　　　　　　　　　　　　　　王が是と言えば是
　　　　　　　　　　　　　　王が否と言えば否

　　私は今も、白い名誉を背負っている


　

　

　　──　過去：出会いを過ぎて　──


　　




［　…仕えて6年程経った頃。




　
　

　　　───…何故そんなことを聞くのですか。


　　「　はぐらかさないでください　」




　　心の中でため息をつき
　　"嫌いじゃないですよ"と答えを返したが
　　見透かされているように
　　なんとも不服そうな顔を返された。


　

　

　
　「　…わたしは、ノアが好きです
　　　笑っていてほしいの

　　　小さいとき、はじめてあなたを見ました
　　　大きな大会に出ていたでしょう？
　　　それで、呼んでほしいとお父様にせがんだの

　　　あなただけ、わたしが選んだんです
　　　だから、………ごめんなさい

　　　わたしはいずれ、どこかへと嫁ぐでしょう
　　　その時には、
　　　自由に生きてもらいたいと そう思ったのです…　」
　　

［　まるで王族らしからぬ言葉に加えて、
　　弱々しい言葉に 深く、下げられる頭。
　　床に落ちる一滴の雫。

　　誰かに見られたらと肝が冷えるより先に、
　　湧いてきたのはだった。

　　目の前のこの子にじゃない






　　こんなことを聞かされて
　　どうやって嫌いになんてなれただろう
　　真っ直ぐに王族の運命を受け入れて
　　人のことまでも思えてしまう若き少女を　］
　

　　　…顔を上げてくれないかな、


［　耳元に口を寄せ
　　彼女にしか聞こえないような小さな声で。
　　
　　金糸のように光に当てられ
　　透き通る髪のホワイトブロンドに手を伸ばす。
　　丁寧に結われた先の髪留めを外せば
　　少女の腰元まではらりと髪が身体を流れた。　］
　

　　　私は貴女に忠誠を誓った
　　　お父上の前で、リーディスの神の下。



　　　…誓いを直そう
　　　貴女が生を全うする為のとなりて
　　　貴女の生涯のになると。

　

［　髪と──まだ何も飾られる手の指先へ。

　　口付けの後、光の影に隠れて
　　くすりと小さく笑みを漏らす。