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【人】 天原 珠月[私には幼馴染みがいる。 幼い頃から家は隣同士、両親も仲が良く、年は少し離れていて性別も違ったが、本当の兄と妹のようだと周りに言われてきた。 あいにく実の兄はいたことがないから、今もそばを歩いているその人が兄らしいのかはよく分からない。 血は繋がってないことだけは確かだけれど。 でも『えー? その年で幼馴染みのお兄ちゃんとそんな仲良いの? なんか意識とかしないの?』なんて大して親しくもない同級生に言われようが知ったことじゃない関係のはずだ。 そう、ほんとに余計なこと言わないで欲しい。 意識なんてしてない。欠片もしてない。 そもそもしてたら、両親が無理になったからって、ふたりきりでコテージに泊まりに来ることにならない。 ちらりと隣を見てみる。 ……うん、絶対向こうも何もないな。 こんなこと言われたといつものように話せばすっきりするのかもしれないけど、まぁ、いいか。 変な話題はおしまい、おしまいっと。] (52) soranoiro 2023/03/01(Wed) 1:37:46 |
【人】 天原 珠月[到着まで後もう少しというところで急に足を速める。 ここまで前を歩いて先導してくれた人を一気に追い越し、ニヤニヤという悪戯な顔で一番乗りを奪っていく。] んんー! 着いたぁ! [春用のニット帽を外すと結んで押し込んでいた長い金髪が一気に溢れ、白い上着の背に流れる。 つり目がちの紫の瞳が後ろの幼馴染を振り返り、ほら早く早くと急かすように手招いた。 二家族でキャンプに訪れるのは毎年恒例のようなものだったが、子供であるふたりだけなのは初めてだ。 といっても片方は成人済み、片方も来年成人の年齢だけど。 このキャンプ場は初めて選んだ場所で、森の中の道はなかなか複雑そうで迷子にでもなるんじゃないかと思ったがそんなこともなく――心地よい春の風に誘われるように歩いていると、気づけば目の前の木々が開け、この木製のコテージが姿を現していた。] ねぇ、雅空兄ぃ、ここって湖が近いんでしょ? [兄と呼ぶ幼馴染の服を遠慮なく引っ張る。 これくらいで転ぶようにヤワじゃないのは知っている。 早く見に行きたい、とせっつくが、まだコテージの鍵も借りていなければ荷物も運び込んでいなかった。**] (53) soranoiro 2023/03/01(Wed) 1:44:26 |
【人】 天原 珠月ふーん。 まぁ雅空兄ぃよりは若いですからねぇ。 [子供扱いする言い方。>>55 昔からよくされて、昔はもっと激しく反発もしていた気がする。 思春期とか反抗期というやつだったのだろう。 幼馴染が専門学校に入ってから、店であの服を着始めてから。 自分は美容専門学校に入学して、秋のインターンシップに期末試験、最近は練習漬けに課題に頭を悩ませ――様々なタイミングでいくら家が隣とはいえ一緒に住んではいないのだから、顔はどうにか合わせられるくらいで接する時間が減ることはあった。 つまり、自分の春休みであるこの期間、幼馴染とがっつり過ごすのは久しぶりな感じもして……だからなのだろうか、こうして子供扱いされるとほっとするような気さえするのは。] はぁい。 [チラッと足下に視線を落としてから。 それにしても、よくあるキャンプ場らしい光景が目に飛び込んでくれば、なんとなく拍子抜けしてしまう。 周りを窺えない森の中の道が長かったからかもしれない。 トンネルを抜けた先は異世界でした展開を一寸妄想したのは内緒にしておこう。] (94) soranoiro 2023/03/01(Wed) 12:20:23 |
【人】 天原 珠月ああ、そっか、温泉もあるんだ。 [アウトドアワゴンをひとりで引きながらも、案の定幼馴染は難なく自分に追いついて来ていた。 鬱陶しそうにされたので一際強く服を引っ張ってやる。>>56 パッと手を離すと、説明にふんふんと頷いて。] キャンプ場に温泉って珍しい気がしない? コテージも立派そうなの多いし、まるで別荘地みたい。 [管理人のもとへ向かい、二家族分の家名で予約したコテージの鍵を受け取る幼馴染を見守る。 最後によろしくお願いしますと軽く頭を下げた。 レンタルってなにが出来るんだろうか。 気にはなるけれど、今は泊まるコテージへの興味の方が強く、手のひらに渡してもらった鍵を握りしめる。] ……。 [少し考えて、ひらりとアウトドアワゴンの後ろに回り、ささやかながら押す力を足すことにした。] (95) soranoiro 2023/03/01(Wed) 12:22:07 |
【人】 天原 珠月[自分たちのコテージまでの距離はそれなりにあった。 まず視界に飛び込んでくるのは広々とした湖だ。 ざぁぁ、とふいに風が吹いて、穏やかな湖面がやさしく揺らされ、これから落ちてゆくばかりの太陽の光をきらきら反射する。 澄んだ水の匂い。 風が耳元を過ぎていく音。 少し眩しい。一瞬目の前が霞む。] あっ、うん。 [知らず知らず魅入られたかのように突っ立っていたらしく、幼馴染の促し>>57に我に返って肩を揺らす。 金髪をひるがえし慌てて後を追った。 コテージは湖のすぐそばに建っていた。 ある程度年季は入っているのか木に艶があり美しく、手すりなどの木材を交差させたデザインがシンプルながらオシャレで、管理の行き届いた清潔感とぬくもりのある外観をしている。 ガラス窓が広い作りのため室内からでも湖が見渡せるだろう。 2階は狭そうだけれど何の部屋なのかな、と考える。 焚き火スペースに寄ってみると、そろそろ気温も下がって来る時間だと無意識に腕をさすり、焼き場を発見すれば……お腹に手を当てようとしかけて自制した。] (96) soranoiro 2023/03/01(Wed) 12:25:32 |
【人】 天原 珠月へっ!? [テラスに外から上がろうとしていたのがバレたか。 肩を掴まれ>>58、思わず素っ頓狂な声が漏れた。 先に行くなよって、どこへ、と口を尖らせたのはそっちが鍵を渡したんでしょうという意味であるが、向ける足を玄関へと変え、ガチャン、とコテージの鍵を開けた。 ドアノブを掴んで開く前になんとなく後ろは一度振り返った。 どんなワクワク顔してんのかなと思ったのだ。] わぁ、意外とひろーい! [ドアを開け、立ち止まって歓声を上げたら幼馴染が背中にぶつかりかけたので、ごめんごめんと横にずれる。 なんだかんだこれじゃ同時一番乗りかも。 隣を見上げ、目を細めてふふーっと笑う。まぁいっか。] まずあっちの窓開けてくるね。 2階のぼるときは教えて、私も一緒にいくー。 [まずはさっき幼馴染の指折り数えていた行動をこなすべく、てきぱきと動き出した。*] (97) soranoiro 2023/03/01(Wed) 12:27:37 |
天原 珠月は、メモを貼った。 (a13) soranoiro 2023/03/01(Wed) 12:33:38 |
【人】 天原 珠月[このコテージにはちゃんとキッチンまであり、外でのバーベキュー以外にも食事には困らなさそうで一安心。 材料面というより幼馴染が使える設備という意味で。 キッチンを探りたくなる気持ちを抑え、その奥の窓へ。 カーテンとガラス窓を開けるとほんのり涼しさを増した風が頬をかすめて部屋の中へと入っていった。 森の方は木々の影が長く伸び、複雑に交差している。 深い森の恐ろしさというよりは森のざわめきに癒やされる心持ちの方が強いが、迷子になりやすいかもな、とは思った。 ふと思い出す記憶がある。>>54 幼い頃にまだ見知らぬ土地をひとり彷徨っていたとき。 全部が嫌で、全部が怖く見えて、近づいてきた大人たちからも逃げ、びーびー泣くしかできなかったとき。 『だいじょうぶだよ』と言ってくれた声。 見上げた顔。表情。一緒に進んでは止まる足音。 あの頃から自分より大きかった手。] ……。 [あの時って幼馴染は、雅空は幾つだったんだっけな。] (139) soranoiro 2023/03/01(Wed) 19:09:07 |
【人】 天原 珠月……いやいや、この年で迷子はしないから。 [なに思い出してんだか、と自分に突っ込む。 ええーそんなの記憶にないし。私幾つだったと思ってんの、といつだったか幼馴染に抗議した覚えがある。 実はめちゃくちゃ思い出せるとか、あの後数年は懐きに懐いていつも後ろをひっついて回る勢いだったとか、保育園じゃなくて小学校に着いてく!と母親を困らせたとか、お兄ちゃんと呼んでた時期があるとか……覚えてないったら覚えてない。 最後は中学に上がるまでの話だから無理がある嘘だが。] 昔のこと思い出すって、年かなぁ。 雅空兄ぃのじじくささが移ったかな……。 [なんて呟いた。*] (140) soranoiro 2023/03/01(Wed) 19:09:20 |
【人】 天原 珠月[やっぱり幼馴染はキッチンが気になる様子。 そういえば色々持ってきてそうだったなぁ。 予想通りというわけで、キッチンを素通りした>>139のは正解だったと頼まれたリビングの窓を一通り開けていく。 さすがにちょっと寒い気もするが少しは我慢である。] こたつ入りたい〜。 [こっそり寄り道して手を突っ込んでみる。 まぁ当たり前だけれどスイッチが入っていないため中はひんやり冷たく、子供っぽく眉を下げてしまう。 風呂場へ突入すると幼馴染の言っていたチェック項目に加え、備品にしっかりドライヤーがあるのを確認する。 しっかり使い付けのシャンプーや化粧品は持参していたが、コテージにもセンスの良いアメニティグッズが準備されていた。 幼馴染はこういうのは持ってきていないと決めつけていたが、自分のものを貸してやる必要はなくなったわけだ。 ……良い香りの選んできたし、せっかくだから旅行の間くらい分けてあげないこともないけれど。] (166) soranoiro 2023/03/01(Wed) 21:19:51 |
【人】 天原 珠月[そしていよいよ2階である。 屋根裏部屋は永遠の憧れであり、そのためにアルプスの少女になりたいと願う時代があったくらいなのだ。 幼馴染も部屋を誕生日にねだられた時には驚いたはず。] 階段は意外と急だね。 [さすがに一軒家のようには広くないから仕方ない。 今日はパンツスタイルなので、遠慮なく先を登らせてもらうと、上に着いてから手を差し出した。] ……天窓だ。見て、ほらっ! [干し草で出来てはいないちゃんとしたベッドが二つ並び、間のテーブルには小さなランプが置かれていて。 寝転がるとちょうど夜空が見上げられる位置に窓がある。 片方のベッドに駆け寄り手をつくと窓から空を仰いだ。 夕暮れの気配のする空に薄い雲、悠々と鳥が飛んでいく。] 夜は静かそう。森の中だもん。 [いつもの家とは全然違う環境に来たのを実感する。] (168) soranoiro 2023/03/01(Wed) 21:37:57 |
【人】 天原 珠月ふぅ、さすがに少しは疲れたかなー。 [そのまま大きく伸びをする。 屋根裏部屋だけあって下の部屋より大分狭く、ベッドだけで精一杯な空間でもあり、必然的にそれぞれの距離は近い。 上にやっていた視線を下ろすと幼馴染が、いる。 数秒の間さえ開けず、子供のように笑う。 さっきの幼馴染につられたみたいに。] ……ベッドの間越えて蹴ってきたら枕投げるからね? [多分蹴られなくても投げる。確定事項の笑みだった。*] (169) soranoiro 2023/03/01(Wed) 21:38:02 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空― 別世界の話 ― [ペルラは幼い頃に祖母から聞いたことがあった。 自分たちの暮らす島を浮かせる力を持つらしい巫女と、その巫女に仕え守り続ける守り人の伝説のようなお話。 生まれ育った場所は浮遊する大地の端っこで。 険しい山ばかりの島にしがみ付くように存在する小さな村。 住民は少ないけれどみんな家族のようなところ。 物心ついたときには羊や山羊を犬と一緒になって追いかけ回し、小さな妹や弟をおんぶして家を手伝った。 適齢期になれば村の男性と結婚し、家業を継ぎ、子供を生み育てていく。それもまた幸せだ。 でもきっと、この高い高い山の向こう側に行くこともないのだろうと、時折ひとりで空を見上げながら思っていた。 ――ある日突然やってきた、島を治める長老たちの使い。 彼らに『次の巫女になって欲しい』と言われる時までは。] (-106) soranoiro 2023/03/02(Thu) 0:59:02 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[まず思ったのは、巫女って本当に居たんだということ。 今の巫女が自分を占いのようなもので見つけ出したらしい。 長老の使いは丁寧に分かりやすく説明してくれた。 この世界には不思議な力を持つ者が珍しくはあるが当たり前に存在しており、それぞれ能力を生かして生活している。 巫女もその中のひとりとも言えるが、力の及ぼせる影響が人々の暮らす島の浮力の維持であることから、なくてはならない存在、決して途切れさせてはならない存在である。 巫女は見習いから始まり、今の巫女が役目を終えたと同時に後を継ぎ、定期的に島の様々な場所で祈りを捧げて過ごす。 巫女はこの島のために在る。 この島には巫女がいなくてはならない。 だから特別視され、ある意味、神聖視されている――と。] (-107) soranoiro 2023/03/02(Thu) 1:00:00 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空私、巫女になります。 大丈夫、ちゃんと、頑張ってくるから。 [両親は自分とは別に巫女の説明をしてもらっていた。 父は険しい顔をして母は泣いていたが、何かに納得し覚悟を決めたかのような瞳もしていて、ただ何度か頷いた。 賛成もしない代わりにぎゅっと強く抱きしめてくれた。 巫女見習いになると決めたのは10を数える頃。 すぐに生まれ育った町を離れることになる。 長老の使いたちが乗ってきたのは古めかしい飛行船だった。 大きくて丈夫そうだけれど、ギシギシ耳に痛い軋む音がして、窓が少なくて外は見えないのに風の音ばかり響いていた。 山を越えるのをきちんと眺めることは出来なかった。 すでに丁重に扱われはじめているのは気づいていたからこそ何も言わず、ただ、はいと頷くのを繰り返していた。 島の中央が栄えた街というのは噂で聞いていたが、本当に建物ばかりで溢れ、人がたくさん行き交い、夜になっても明かりが灯っている、田舎者には目まぐるしい世界で。 修行などはここで、と街の中央に建つ、塔のある石造りの高い建物に案内された後は、自室もそこに与えられた。] (-108) soranoiro 2023/03/02(Thu) 1:01:32 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[自分には不思議な力がある。 というのをあっさり認められたのは、物心つく頃からそれらしい経験をしており、村や村に訪れる行商人にも時折そういう力を持つ人が居て、話題だけなら僻地の村でも交わされていたために、そういうものなんだなとふんわり理解していたからだ。 さて、それがどんな力かというと、だけれど。 実は内容はよく分かっていなかった。 なんとなく物を浮かせられる気がしたり。 なんとなく手をかざしたら人の怪我が早く治る気がしたり。 なんとなく水に景色らしきものが映ったり。 そんなひどくあやふやで説明しがたいものだったのだ。 でも、たしかにこの中に巫女の力が潜んでいるらしい。 ここから巫女として島の浮力の助けとなる力へ全部を集め注げるようにならねばならないと言われ。 街に来た翌日から、もう厳しい修行の始まりだった。 身を清めるための泉に浸かるときだけはひとりで、震えをおさえてまっすぐ立ち、ため息にならないように息を吐いていた。] (-109) soranoiro 2023/03/02(Thu) 1:04:38 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[巫女見習いとして真面目であれば何も言われない。 表情が固かろうが、必要なとき以外は無口であろうが。 この島のため。この島のため。 きっとお父さんもお母さんもみんなも応援してくれている。 必死な日々は過ぎてゆこうとしていた。 ――そんなある日。 巫女見習いさまの守り人候補だと連れられてきた彼は。 たくさんの大人たちに囲まれているのに、なんだか堂々として臆する様子を見せない年上の少年だった。 石造りの部屋の中、窓は閉まっているのに。 何故だろうか。ふわりと風が吹いたような。 彼の周りにだけ感じる澄んだ気配に目を瞬かせる。 そして次に発する台詞もまた、予想外すぎるものだった。] (-110) soranoiro 2023/03/02(Thu) 1:05:28 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[ちびちゃん、と彼は呼んだ。 しゃがんで目線を合わせる仕草は自然で、でもここの大人たちのように畏まっていなくて、距離が近い。 彼の瞳はうつくしい青色をしていた。 いや、ただの青ではない。 泉の清らかなばかりの色とも、深い湖の少し怖い色とも違う。 空みたいだ、と思った。 周りの大人たちが見えなくなった。 気づいたら、ただひとつ頷いていた。 それだけではどちらへの返答か分からなかったかもしれないが、じっとまっすぐ見つめる紫がかすかに潤んでいた。] (-111) soranoiro 2023/03/02(Thu) 1:08:14 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空私も、あなたの名前が知りたい。 ……ちゃんと、呼びたい。 [視線が交われば、風に水の香りが添えられる。 それは水と親和性の高いらしい自分の力の影響か。 おそるおそる手を差し出す。 優しくも不器用な問いへ、震えながらも強い答えだった。*] (-112) soranoiro 2023/03/02(Thu) 1:09:51 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空― 巫女見習いの日常 ― [守り人候補との出会いを経ていくらか。 石造りの塔に一日中こもる生活は変わっていなかった。 自らの力と向き合う修行がメインなのは当たり前として、力を捧げていく島についても学ぶのは大事なこと。 科学的な知識に実用的な地理、人づてに語られる伝承もと、読み書きは一応出来るものの膨大な文書に目眩がする。 あとは一般教養に礼儀作法も身につけねばならない。 巫女は神聖視され、ある意味では特別扱いされる存在のため、人前では常に相応しい言動をするべきというものだった。] ……。 [塔にある図書室にはひとつだけ窓がある。 どうしても疲れたときにそこから空を眺めるのが習慣だった。 今日も先生が退室した隙に、ほんの少しだけと自分に言い聞かせ、石造りの冷たい窓枠に手を乗せて顔を上げる。 午後の空は明るく青く、薄暗い室内に慣れた目に眩しい。 こしこしと目を擦りながら視線を動かしていく。] (-158) soranoiro 2023/03/02(Thu) 15:56:27 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[中心街でもこの一角は石造りの建物が多いが、少し離れた向こう側には、昼でも夜でも細長い筒から煙がもくもくと立ち上り、明かりの消えない、鉄などで出来ているらしい茶色い建物が複雑に今にも崩れそうなバランスで組み合わさっている、この辺りとはまた雰囲気の違う場所がある。 地理の勉強によると、様々な飛行艇の整備工場や他の島までも行けるような飛行船の発着場などがあるらしい。 今日はそちらが気になりじっと目を留めた。 理由は最初分からなかった。けれど。] ……鳥? [煙に紛れるようにして、一羽の鳥が飛び立ってゆく。 群れじゃないなんて珍しいなぁ。 なんとなく視線で追い続け、あれ、違うと気づく。] 鳥じゃない……? [鳥にしては大きい。 でも、両翼があるように見える。 ひらりひらりと旋回し、高度を増し、姿が小さくなる。] (-159) soranoiro 2023/03/02(Thu) 15:56:36 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空もしかして、人? [知らず知らず身を乗り出し、息を止めて目をこらす。 きら、きら、と。銀色の何かが太陽の光に反射していた。 あの鳥は、どんな景色を見下ろしているのだろう。 どんな風を受けて、どこに向かい、何を思っているのだろう。 自由に空を舞う姿がうつくしく心に刻まれていく。 鳥の正体をまだ知らない日のことだった。**] (-160) soranoiro 2023/03/02(Thu) 15:57:06 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空― 巫女と守り人の日常 ― [自分は記憶力には優れているらしく勉学は順調で。 しかし力の方向性の制御に関してはなかなか上手くいかず、試行錯誤を繰り返しては調整を見誤ってその日の力を使い切り、ヘトヘトになったり立ち上がれなくなったり。 そんな日々の中、今日は風を待っていた。] ……昼下がりの鐘。西側の塔。4階の窓。 [昨日アスルから渡された羊皮紙は、小さく折り畳んでずっと袖の内側に仕舞っていたせいで皺くちゃだった。 彼の仕事場を訪れたときは長老の使いも隣にいたというのに、こんな内容の秘密文を堂々と差し出すものだから、誤魔化して隠すのが大変だったのだけれど。 午後のこの時間はいつもひとり。 4階は図書室。窓はひとつ。計ったかのような指示。 風を待てとは、一体何をするつもりなのか。 彼が風に関する不思議な力を持つのは知っている。 なにか飛ばしてくるとか? お届け物かな? 約束の時間より少し前、たたっと窓へと向かう。 何か飛んできても受け取れるように開け放ち、一応ドアから先生が来ていないのを確認してから目をこらした。] (-184) soranoiro 2023/03/02(Thu) 18:38:46 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空……え? [何度か眺めたことのある鳥が飛んでいる。 今日もこの時間なんだなぁ、なんて思っていたら。 近づいてきている、ような。 街の上を悠々と旋回していると思えば、一気にこの塔の方へ、何なら自分のいる窓を目指すような動きで。 え? え!? ぶつかる!? いつもこちらまでは来ないのに。 あの鳥は何を考えて……いや、違う。 あの人は、 ――――アスルだ!] (-186) soranoiro 2023/03/02(Thu) 18:39:38 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空……ッ、……うん! [考える暇はなかった。 衝動と本能、背を押してくれる力。 鐘の音が鳴り響く中、風に彼の声がする。 窓枠に足をかける、両足で立つ。 不安定に揺れる身体。 自分には自分を浮かす力はないはずで。 でも、踏み出した。窓枠を思いっきり蹴った。 こちらへ飛んでくる鳥へ、彼へと手を伸ばしながら。] (-187) soranoiro 2023/03/02(Thu) 18:40:34 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空きゃ……っ [4階の高さから重力に逆らえず落ちていく身体。 肩までの金髪と真っ白な装束が風に遊ばれる。 つかの間の恐れをかき消すように。 伸ばしたままの手を力強く掴み取る手。 くるりと一回転すれば今までの全部がひっくり返るような感覚とともに身体が軽くなっていく。 引っ張り上げられ抱き寄せられ、必死で声に従う。 わたわたと伸ばした片手が取っ手にどうにかしがみ付き、彼の手に包まれ、掴まれている片手も同じように。 軽い身体は風に揺れるけれど、心に安堵が押し寄せる。 触れ合った手と抱き寄せられたときのあたたかさが鮮明で。] も、もたれるって、こう? 大丈夫? [重くないのかなって思うが今はそれどころでもない。 初めての空中に、初めての乗り物に、初めての飛行。 導かれるままに姿勢を安定させると、ふわり、翼のようなグライダーは風に乗り、鳥のように空を飛び始めた。] (-188) soranoiro 2023/03/02(Thu) 18:41:44 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空アスルのお家? わぁ、大きな湖がある……きっと素敵なところね。 [こんなビックリなことをいきなりするなんて、という抗議は欠片も出てこなくて、でも心臓はドキドキしっぱなしで。 頬を紅潮させながら景色を見渡す瞳は大きく輝く。 声だって最近のおとなしい響きではなく、子供のように張り上げられ、アスルの言葉に溌剌として返した。] そう、私のお家はあの山の向こう側。 険しい谷もあって、いつもすごい風が吹いているの。 [あそこには行けない、の言葉に眉が下がる。 こんなに鳥のように自由に飛ぶ彼にも無理なんだって。 でも、いずれ、という呟きが実は届いたから、もしかしたらという期待が胸に消えない光を残してしまう。] (-189) soranoiro 2023/03/02(Thu) 18:42:27 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空空を飛ぶって、すごいね。 [鳥なんじゃないかと思っていたのは、アスルだった。 この人は鳥のように自由に空を飛んで、風の中を舞うように翼をはためかせるのだ。 振り返ったら青い瞳が予想以上に近くにあった。 何を言わずにじいっと見つめた。 空の色のように様々に移り変わる青に、景色と一緒に、自分の姿が映り込んでいるのに、何故か心が震えた。] うん、きれい。 [満面の笑みを浮かべる。] この島は、こんなに広くてきれいなんだなって。 たくさんの色があって、たくさんの人や生き物がいて。 [私はこの島を守るための力になれるのだと。 初めてちゃんと思えた気がした。] (-190) soranoiro 2023/03/02(Thu) 18:44:24 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[アスルはペルラと名前を呼んだ。 彼の教えてくれたかったことは伝わっていた。 巫女としての自覚を促すためなんかじゃないのだろうと分かっていて、彼の気持ちが瞳から涙を溢れさせた。 ペルラは、巫女になる。 巫女が役目を終えるときは――。 アスルは知っているのだろうか。 それでもペルラには、自由でいろと言ってくれるのだろうか。 手は包まれているから涙を拭えない。 風に飛ぶ滴で泣いているのは伝わってしまうかな。 ありがとう、と小さな声で呟く。 子供に戻ったみたいにしゃくり上げて泣いて。] (-191) soranoiro 2023/03/02(Thu) 18:45:16 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空うん、私、今は自由! [この翼の中は、アスルの世界なのだと思った。 それならば自分は巫女じゃないペルラなのかもしれない。 巫女だからは無理でも。それは願ってもいい?] アスルと一緒なら……空を飛びたい。 色んなところを見に行きたい。 [素直に頷き、もう涙は溢さなかった。 内緒と笑ったアスルと向き合って同じように笑った。**] (-192) soranoiro 2023/03/02(Thu) 18:46:08 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空― 巫女と守り人の日常 ― [アスルと空の旅をしてから、不思議なほど浮かせるために力を集めるのが上手くなっていた。 浮遊する感覚を自分自身で体験したからかもしれないし、心の在り方の変化のせいかもしれなかった。] よし、誰も……いない。 [本日は規則を自分から初めて破った記念日となる。 夕方までのやることリストは全て終わらせたし、泉でいつもより長く身も清めたし、今日は倒れるほど疲れてはいない。 ただ対外的には疲れたので晩ご飯はいりません、寝ます、と伝えておきながら、フード付きの地味なローブを着て、抜き足差し足、ベッドの上を布で膨らませて部屋を出ると、警護のおじさんの隙を突いて建物からも脱出する。 ここまでは順調だ。 次のミッションは街で目的の店を見つけること。 塔に通いで来ている女性たちが話しているのを聞いたのだ。 街で最近話題のパン屋の新作パンのこと。 なんでも林檎と蜂蜜がたっぷり混ぜ込まれているのだとか。] (-197) soranoiro 2023/03/02(Thu) 20:30:45 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[なお、見習いの自分にはお給金なんてものはない。 衣食住を十分に保証してもらっておきながらこれ以上欲する思考なんて当然ないものの、今回ばかりは別。 どうしようかなと思っていたら、現役の巫女は優しくて、何を察したのか最近頑張っているご褒美とお小遣いをくれたのだ。 これまでなら使い道のなさに逆に迷ったかもしれないが、有り難く頂いて、今もう手のひらに握りしめていた。] パン屋さん……あ、あった! [フードを深く被った子供は物珍しいのだろう。 もうそろそろ陽が落ちきろうとしている時間帯なのもあるか。 労働帰りの大人の目線をかいくぐり、なんと最後のひとつという目的のパンに心の中で歓声を上げる。 そして、これをひとつください、と言いかけて、あ、と声が漏れたのは、ほんの少しだけお金が足りなかったからだった。] ううん、また、今度にします。 [パン屋のおばさんはオマケしてあげると言ってくれた。 子供なのが分かったからか、理由は知らないけれど。 でも次に来るお客さんはちゃんと目の前のパンの対価を払えるかもしれなくて、ならば、頷いてはいけないと思った。 残念で仕方なくても我慢しようと決めて、お礼を言って店を出ようとしたら、おばさんは更に引き止める。 じゃあ、お嬢ちゃんが大人になってからもここに通って、パンを買ってくれれば良いんだよ、と。 覗き込むようにして苦笑して、恰幅のよい彼女は笑った。] (-198) soranoiro 2023/03/02(Thu) 20:31:17 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空はぁ、はぁ……! [紙袋に入ったパンをひとつ。 大切に胸元に抱えて、前に一度だけ長老のお使いの人と歩いた道を、何度も迷いながら走ってゆく。 入り組んだ路地。 灯り始めた街灯の光と伸びる黒い影。 鼻腔をくすぐるオイルの匂い。 この時間になっても蒸気がそこかしこから立ち上り、夜通し働く人が居るのだろうと思わせる一方で、人の集まる食堂からは陽気な賑やかさがたくさん溢れていた。 呼び止められ咎められぬよう、たたっと通り過ぎる。 この辺りだったかな? もう一本向こうの道だったかも。 困り果て、オイルに濡れたズボン姿のおじさんに、フードから顔が見えないように気をつけながら、尋ねた。 アスルという人の仕事場を知りませんか?と。] (-199) soranoiro 2023/03/02(Thu) 20:31:57 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空着いた、ここだ……。 [アスルの仕事場といえばいいのか家といえばいいのか。 自分はまだよく知らないのだけれど。 窓から覗き込むかぎり小さく明かりはついていそうなものの、人の気配は感じられない。 もう仕事を終えてどこか行ってしまったのかな。 ご飯を食べに出かけているのかな。 大きな湖のある実家に行っている可能性だってあった。 ……お手紙も出していなくて、約束もしていないのだ。 驚かせてあの瞳をまん丸にさせたいと願っていたとはいえ、さすがに考えなしだったと今更後悔する。 そっと入り口のドアを押してみる。 どうせ鍵がかかっているだろうと思って。] (-200) soranoiro 2023/03/02(Thu) 20:32:31 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空あれ? [かすかな音を立てて、ドアは開いてしまった。 逆にどうしたらいいのかと固まってしまう。 鍵のかけ忘れかな、そもそもかけない習慣なのかな。 ええいと足を踏み出して少しだけ入らせてもらう。 外にいては人目につくし、今更誰かに見つかって塔に連れ戻されたくなかったのだ。 ほんの少しでも可能性があるなら、会いたかった。 会って、この前の空の旅のお礼を言いたかった。 かといって他人の家にずかずか踏み入ったりはできない。 ドアのすぐ隣の壁か、仕事場で飛行艇のようなものがあればその影に隠れるようにして、小さく膝を抱えて座り込んだ。 どうせ夜の間は帰れないからもう少し待っていよう。 そうしてどこか夜をこっそり過ごして朝には部屋へ戻ろう。 身を縮こまらせながらの時間はゆっくり長く。 頭に浮かぶのは、自然と全部、アスルのことだった。] (-201) soranoiro 2023/03/02(Thu) 20:32:54 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[アスルはどんなお仕事をしているんだろう。 アスルは何時になったらお休みになって帰るんだろう。 夜ご飯はお家で食べるのかな。 それともさっきみたいな食堂に行くのかな。 買ってきたパン、……受け取ってくれるかな。 あまいの好きじゃなかったらどうしよう。 もう食べたことあったりして。 人から貰っていたりして。 アスルは自分よりとても大きくて、もう大人みたいだもの。 ちょっとだけ、さむい。 ……パンも、冷たくなって、固くなっちゃったかな。] (-202) soranoiro 2023/03/02(Thu) 20:33:23 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空アスルと……もっとお話したいなぁ。 巫女になったら守り人と……たくさん一緒にいられるかな。 [少しでも冷えないようにパンを一番暖かい場所に抱え込んで、いつしか修行終わりの身体は疲れを思い出して。 うつらうつら、頭が揺れる。 小さな寝息が零れ出すのにそう時間はかからなかった。*] (-203) soranoiro 2023/03/02(Thu) 20:36:10 |
【人】 天原 珠月な、放り投げるって言った? ひっど、ひどい、こっちは枕で勘弁してあげるのに! [女性に優しくしないとモテないんだからね、と。 終わりまで言ったところで、放り投げず枕をぶつける彼氏なら良いかと言われれば全くそんなことないなと思い返す。 そもそも恋人同士なら一緒のベッドでいいわけで。多分。 ……結論。ここでモテるモテない関係ないし、雅空兄ぃはもさい眼鏡をまずどうにかすべき。よし。] キャンプの夜といえば、寝るのもったいないでしょ。 小さい頃は夜通し起きてようと頑張ってたなー。 [大体失敗して幼馴染より先に寝落ちていた気がする。] まぁ、普段から隣で寝てるようなものかな? あれだけ部屋が近いしね。 [家が隣同士だけならまだしも、さらに自分たちは向かい合う部屋同士が自室であり、窓の向こうはすぐ相手の窓。 そうなればわざわざ玄関を通る必要なんて皆無だった。 数え切れないほど窓枠を乗り越えあってきた。] (276) soranoiro 2023/03/02(Thu) 21:29:30 |
【人】 天原 珠月雅空おじさんが疲れたなら、夜は静かにしててあげる。 [くすりと猫のように笑ってみせる。 そうしてこういうところはシッカリ者で天窓用シャッターを確認する幼馴染>>186を横目に勢いよく立ち上がった。] はぁい。 今日の晩ご飯はバーベキューだよね? [キャンプも毎年ともなれば手順は慣れたもの。 自分は別にアウトドア派ではないが、こういう時に怖いから火なんておこせないと頼るタイプでもなかった。 むしろやる気が湧いてくる。 キャンプと言えば焚き火。炎を眺めるのは癒やし。 後なにより、火があれば幼馴染が美味しいものを作ってくれると、幼い頃から教え込まれているわけで。] ん、火起こしは任せといて。 [階段を降りるとき、幼馴染は絶対に先に行く。>>187 理由は分かるような分からないような、察しているけれど、お礼も嫌だとも言ったことはなかった。 意識してしまうとくすぐったく感じるのも面倒なのだ。] (277) soranoiro 2023/03/02(Thu) 21:30:18 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空……ん、……んんー。 [肩を揺すられ、意識が浮上していく。 アスルの声がする。 今どこかも曖昧なまま、会いに来てくれたんだと思った。 そもそも彼の家に自分が来たくせに、だ。] 起きた……。 [寝ぼけ声で言ったのは、それでも彼が抱き上げてきたから。 自分が目覚めたのに気づいていないのかと。 結局ぼんやりしている間にベッドに下ろされて、多分掛け布団もかけてもらって、やっと瞼から覗かせた紫を瞬かせる。] アスル、お仕事終わったの? ……あ、おかえりなさい、だ。 [自分から離れる前に、彼の手を掴もうとして。] (-229) soranoiro 2023/03/02(Thu) 22:31:20 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空この前のお礼を言いたくて。 お空に連れて行って、鳥の仲間にしてくれてありがとう。 ……いっぱい、ありがとう。 [あ、パンの袋、どこにいっただろうか。 ちゃんと服の内側にあればそれを取り出して。] これ、渡したかったの。 ……冷たくて潰れてしまったかもしれないけど。 [差し出すときは起き上がろうとすることだろう。*] (-230) soranoiro 2023/03/02(Thu) 22:36:04 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空……! [これからも長い間、一緒に。 そうアスルが言った。確かに聞こえた。 ペシペシといきなり自分の頬を叩く自分に驚かせたかも。 よかった、夢じゃない! ふにゃりと弛んだ笑みは年相応に見えたろうか。] うん! アスル、よろしくね。 [手を差し出したら握手してくれただろうか。] (-242) soranoiro 2023/03/02(Thu) 23:59:16 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[良い子悪い子論争的には難しい顔をして悩んだ。] 私ね、たくさん考えたの。 [真面目な切り出し方で。] つまり……この場合って、隠し通せれば、アスルに悪い子って思われるだけですむんじゃないかなって。 アスルは私が悪い子だと、いや? [嫌いになるだろうか。 なんて、首をかしげる顔はちょっと悪戯っ子のもの。 だってアスルの真似なのだ。 こうして年下の巫女見習いは順調に悪い知恵も覚えていく。 一緒に食べようというのには喜びかけたものの、それではアスルに食べてもらう分が減ってしまうと眉を下げて。 でもお腹の音の方が正直者だった。] (-243) soranoiro 2023/03/03(Fri) 0:04:31 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[この街に来て、アスルと初めて一緒のご飯だった。 たったひとつのパンを分け合って、熱いお茶をふーふー冷ましながら飲んで、自分はお行儀悪くベッドの上のままで。 帰りの話には目をぱちぱち瞬かせた。 すっかり楽しくて帰り道を忘れかけていた。] ……。 [まだ帰りたくない、と。 言うのを我慢する強さはあったけれど。 アスルが空の散歩に誘ってくれたなら、ぱっと顔を上げる。 瞳をきらきらさせる表情は朝焼けのように明るかった。 今度は前回よりも上手く乗れるだろうか。 そうしたらさらに次は、もっと高くまで、遠くまで、アスルは連れて行ってくれるのかもしれなかった。**] (-244) soranoiro 2023/03/03(Fri) 0:12:12 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空アスル、私、病気になったかもしれない。 アスルのこと考えると、変なのよ。 ……ここがぎゅうってするの。痛くて、苦しいの。 [自分の心臓の上。 胸元を押さえ、そう明かしたのは幾つの時だったか。] (-253) soranoiro 2023/03/03(Fri) 1:10:27 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[ペルラは恋を知らない子供だった。 知ることのないまま、アスルだけを唯一として、巫女として以外は彼だけを追い続け、年を重ねていった。 これが恋と言われればそうなのだろうと思うけれど、恋という単語だけで説明できるとも思えなかった。 アスルを想う気持ちとしか言い様がなく。 彼と一緒に空を飛び、隣に座り、言葉を交わし、瞳と瞳で見つめ合い、手を繋いで、……ぎゅっと抱きしめて欲しかった。 巫女見習いになる前、結婚なら知っていたけれど。 巫女になれば逆にそれは禁じられることになる。 力に影響が出てはいけないと、子を授かることも同様に。 ただ、人を想ってはいけないとは言われないから。 そんなことは誰にも止められないから。 アスルが許してくれるなら、ペルラは、ただのペルラは、いつだって手を伸ばして、彼の世界の中でなら甘えられた。] (-254) soranoiro 2023/03/03(Fri) 1:11:09 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[巫女見習いとしての日々は確実に過ぎていく。 肩までだった髪は腰に届き、アスルには離されるばかりとしても背も伸びて、見習い用の装束は何度か仕立て直された。 人前に出るときの仕草は洗練された女性のものになり。 常にうっすらと湛えた柔らかな笑みは、見習いになったばかりの頃が嘘のようだと言われ、口元に手を当てて苦笑した。 ただアスルとふたりの時はただのペルラで。 草むらにそのまま腰を下ろし、両脚を行儀悪く伸ばす。] 私、やっと力を使いこなせるようになってきたわ。 これならもういつでも大丈夫だろうって。 [アスルになら何でも話せた。 嬉しいことだって、悩んでいることだって。] でも、まだ時々制御が難しいの。 力がありすぎるのも困りものなんだって。 大地に向かわせないといけないのに、ぽーんって空に飛ばしてしまったら、私なんてすぐに力尽きてしまうものね。 [そんな冗談にならない冗談も。 今や言えるのはアスルにだけ。] (-255) soranoiro 2023/03/03(Fri) 1:12:23 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[彼が窓から攫ってくれる日があれば。 自分が彼の家へと忍び込む日もあった。 だってちゃんと従妹という隠れ蓑があるんだもの!] それで良い案を思いついたんだけど、聞いてくれる? 祈りの時に一気に力を捧げるのではなくてね、日々少しずつなにかに力を貯めておくの。 本番ではそれを溶かしながらゆっくり浸透させていく……。 [真剣に、でも生き生きと。 アスルが飛ぶことについて語るときのように。] この耳飾り、きれいでしょう。 遠い昔、人々が地上で生きていた頃、大地の周りは海という塩の水でできたものに囲まれていたんですって。 湖よりももっともっと広いの。 そこでね、貝の中からとれた宝石。……真珠。 とても大切に保管されていたらしいけど、私と相性が良いみたいで……巫女になるときに譲り受けることになったの。 [ある日見せたのは、古めかしい金の葉の装飾に銀白色の柔らかな曲線を描く宝石――満月のような真珠のついた耳飾りだった。] (-256) soranoiro 2023/03/03(Fri) 1:13:25 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空これはね、私のお守りみたいなもの。 [力をきちんと使いこなすための。] ここからが本番。アスル、見ていて? [アスルの隣に座ったまま、両の手のひらを上に向ける。 そうして瞼を伏せると静かに祈りの言葉を紡いでいく。 金色の髪が淡く光り輝き、細まった紫の瞳が煌めく。 どこからか水もないのに滴が落ちるような音が響き、ふわりと清流のような香りがして――手のひらへと力が集まってゆく。 柔らかな光が金にも虹色にも変わり、最後に柔らかな銀白色へ、艶めきを帯びた小さな真珠の粒が、今、生まれた。] これが、私の、この島を守るための力。 私、ちゃんと巫女としてやっていける……。 アスル、私、大丈夫……よね。 [彼へと肩を寄せて、そっと目を細めた。] (-257) soranoiro 2023/03/03(Fri) 1:14:25 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[その翌日だった。 現役だった巫女の力が突然尽き、そのまま彼女は姿を消した。 『巫女は祈りを捧げて力を使い果たすと消えてしまう』 逸話の通りに。 跡形もなく。 泣いて縋ることは許されなかった。 その日に巫女見習いは巫女になった。 ペルラが見習いになって3年、年は13になっていた。**] (-258) soranoiro 2023/03/03(Fri) 1:16:50 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空― 巫女となって ― [巫女として役目を果たす日々は意外なほど平穏でもあった。 満月の夜、半月の夜、三日月の夜、新月の夜。 時には占いで力の不足を察知して。 島中に点在する、時に人の住まない僻地だったりもする祈りの場へ守り人とともに赴き、夜通し祈りを捧げる。 限られながらも広い大地に、山に、谷に、湖に、花咲く野原に、島の奥深くへと力を浸透させて浮力を活性化させるために。 最初は全力すぎて祈り終えた途端にバタンと倒れたり、岩の間からいきなり水を溢れさせたり、急に滴を降らせたり、悪影響を及ぼさずにすんだのが幸いなトラブルは巻き起こしたものの。 自分なりに必死で立ち向かい、アスルへ素直に助けを求めた。 たくさん失敗してへこんだ後だって、彼に空へと連れ出してもらえば心へやさしい風が吹き込んだ。] ねぇ、アスル! さっき、虹が出ていたでしょ? [くすくすと笑い、悪戯に目を細める。] あれなら力の無駄遣いじゃないわね。 [彼の前では、よく、ペルラは悪い子で良い子だった。] (-333) soranoiro 2023/03/03(Fri) 17:46:53 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[巫女になって変化したのは住む場所もだった。 中心部の街であればと条件はあったが希望を聞いて貰えたため、石造りの塔から、街の少し端にある小さな一軒家へ移った。 花屋を営むおばあさんが少し前まで暮らしていた家だった。 古くて必要最低限の部屋しかなく、キッチンもこじんまりしていたが、街中なのにちゃんと庭があって花が植えられている。 おばあさん亡き後も近所の人が世話をしていた花々。 早朝に身を清め、真珠を作り終えた後、ほんのり力を込めた水を如雨露で花にやる、そんな習慣が増えた。] 今日はおまじないかしら? 占って欲しい? [役目で遠出していない期間は、修行や勉学の他に、占いやおまじないを頼まれて行うこともあった。 今日は小さな女の子から恋占いのお願い。 ふふっと微笑んで、グラスの水に花弁を浮かべる。 見習いの間より、街の人々と積極的に関わるようになった。 フードで顔を隠さずに道を歩き、花壇の花が素敵だと言葉を交わし、時に井戸端会議にもお邪魔し、工場街の食堂にだってこっそり行ったりもして、今は定番商品になった林檎と蜂蜜のパンをふたつ買っておばさんにウインクされている。 だって、アスルはパン半分じゃ足りないに違いないもの。 あんなに背が高くなって身体もしっかりして。] (-334) soranoiro 2023/03/03(Fri) 17:49:12 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[街にはたくさんの人がいて支え合って暮らしている。 祈りのために出向くどんなに小さな村だってそう。 自分が生まれ育った場所のように手を取り助け合っている。 巫女になる前日。 アスルがくれた言葉たちを忘れたことはない。 これからも、ずっと、忘れたりはしない。 抱きしめてくれたあたたかさも、背中をとんとんと叩いてくれた手の強さも、髪をすいてくれた指先の優しさも。 頬に触れられたときは、心臓がとくりと鳴ったのも。] (-335) soranoiro 2023/03/03(Fri) 17:49:43 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空アスルーいるー? [今日は自分が忍び込む番。 バレバレと知りつつ律儀にフードは被って人見知りの従妹のフリをするのはほぼ悪戯心というもの。 アスルの仕事場の休憩時間はもう把握済みで、彼の姿を見つけたら目を輝かせ、パンの袋を掲げて見せた。 ふふん、もう自分だって稼いでいて買えるのだ。] 今のアスルだったら、パン3つくらい食べてしまいそうね。 [彼が淹れてくれるお茶は今もほんのり甘いだろうか。 オイルのついた手袋を外す姿を見守って微笑む。 自分の分にだけ蜂蜜を入れてくれていると知ったのは何回か訪れた後のことで、くすぐったい心地がした。] ね、今度、夜の散歩に行きたいな。 [美味しいパンを食べて。楽しい空の旅で遊んで。 ――あなたと、ともにいたいと願って。] (-336) soranoiro 2023/03/03(Fri) 17:53:06 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空……。 …………アスル……ううん、なんでもない。 [あの気持ちは、あの胸の痛みは。 あれからずっと変わらない。 種類は増えた気がする。 苦しいのと、跳ねるのと、急に速くなるのと、時々アスルのそばに居すぎると酷くなるから困ってしまう。 『俺と一緒にいろ。ずっとな。』 それでも、言われたとおりにする。 どんなに苦しさが増したとしても、そうすると決めていた。*] (-337) soranoiro 2023/03/03(Fri) 17:54:13 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[気持ちを通じ合わせたのは互いが幾つの頃か。 年齢など、タイミングなど、些細なことだったかもしれない。 重ねる手の温度は変わらない。 抱きしめ合ったときの感触も、どう関係の変化があったって何がいきなり成長するものでもない。 けれど。温度も力強さも。 なにか違って感じるのは気持ちのせいなのだろう。 空を飛びたい、だけでなく。 抱きしめて欲しいと。 せがむ声に、もう子供ではない、甘い響きが含まれてしまう。 巫女が恋に溺れるのかと不安視する空気は知っていた。 長老たちの一部からは直接批判されたこともあった。 巫女としての能力に影響は出ない、出さないと、それだけは必死で訴えたし、自身を律する気持ちはあった。 でも、なくせはしなかった。 ――ただひたすらに、彼を想わずにいられなかった。**] (-338) soranoiro 2023/03/03(Fri) 17:54:43 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空― 変化 ― [自身に変化が表れ始めたのは20を越えてからだった。 もう過去に役目を終える巫女のいる年齢になっていた。 濃い金色の髪の毛先がほんのり色を淡くしている。 水盆に自分の顔を映せば、紫の瞳もまた少し淡く見えた。 ほんの少しの変化だった。 だが確実に、それは予兆としか思えなかった。 巫女を管理する長老たち以外、街の人々などには特に言うつもりはなかったが、アスルには先に気づかれるだろうか。 隠すという考えは……一瞬だけ、浮かんでしまった。 初めてのことだった。 言いたくない、なんて。 でも、時間は止まってはくれず、役目は訪れ、分かりやすくなる変化とともに、身体は疲れやすくなっていった。 自身の中の力が尽きていく。 砂時計の砂のように減っていき、ひっくり返しは出来ない。 覚悟はしていたことでも身体が冷たかった。] (-343) soranoiro 2023/03/03(Fri) 20:21:52 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[昼の街中を歩けば、子供たちの遊ぶ声がする。 自分と同じくらいの女性はとっくに結婚し親となる年齢だった。 仲睦まじそうに笑い合う夫婦はともに双子を抱いていた。 アスルは、自分より5歳年上。 男性の方が結婚の適齢期は遅い傾向がある。 彼ならば、本来は引く手あまただろう。 守り人もまた、巫女と同じく結婚してはいけないとされているが、力の影響を考えれば不当な縛りとも思えていた。 巫女以外となら、女性と結ばれて子を持って悪くないはずだ。] アスルは、良いお父さんになれるだろうな……。 [最近、そんなことをよく思う。 巫女の自分は、彼と結婚できない。 なにより彼の子孫を残せないのだ、と。] (-344) soranoiro 2023/03/03(Fri) 20:23:25 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[思い詰める日々が続いた。 役目の間は頭から消しても、終えればすぐによみがえる。 アスルとは常に一緒なのだから仕方ない。 巫女と守り人の距離はどうしても物理的に近かった。 でも、心は、そうでなくてもいいのだ。 幼い自分はアスルしか見えず、そのまま大きくなった。 アスルから離れたくなくて我が儘を言い、意識しなくても彼を縛り付けていたのかもしれないと思う。 巫女としてだけの気持ちを持っていれば。 今頃、守り人をしながらであったとしても、彼は別の幸せを得ていたのではないか。 こんな、いつ消えるか分からない女のために、……。 いつになく情緒不安定になっている自覚はあった。 力の安定を欠いたせいに違いない。 淡い紫の瞳から、水が零れて止まらないのだ。] (-345) soranoiro 2023/03/03(Fri) 20:23:55 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[覚悟を決めたのは満月の夜。 祈りの役目を無事に終え、街まで距離があるから無理はしないでおこうと、人里離れた湖畔での野宿を選んだ次の夜にはほんのりと月は欠けていた。 祈りの場の近隣の人々が優しく迎えてくれるのは勿論嬉しかったが、実は、こうしてアスルと野宿するのが一番好きだった。 ここの湖畔は静かで、澄んだ水の香りがした。 焚き火から散る火の粉を追っていけば、夜空に淡い色の月と、きらめく星が眺められたことだろう。 食事を終え寝床を整えて。 隣に座るアスルへと、そっと話しかけた。] アスル。 [巫女として守り人へ話しかけるのとは違うトーンで。 ふたりきりの時だけの響きで。] 両手を出して? 手のひらを上に、ね。 [何のためか言わないのはわざと。 渡そうとしているものを拒否しにくいように、乗せてしまえば断りにくいだろうなんて、悪い考え。 どこの誰に似たんだか、そうよく笑ってきた。] (-346) soranoiro 2023/03/03(Fri) 20:25:23 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[アスルは訝しげにしたかもしれない。 でも、従ってはくれただろうか? それを確認すれば、自らの横の髪をかき上げ、片方の耳から、巫女になった日から片時も離れず着けている耳飾りを外す。 金の飾りがにぶく輝き、歴史ある真珠が柔らかに光る。 力を常に帯びてきた宝石は月日を経てきても美しく、もう自分が身につけていなくても――いつか彼が生を全うするその時まで、朽ちることも、染みこんだ力を失うこともないだろう。 番の片方を、アスルの大きな手のひらに置いた。] ……私からの贈り物。 アスルがこれからもずっと……元気でいられるように。 [健やかに、怪我をせずに。] 自由な鳥みたいで、いてくれるように。 [耳飾りを置いた自らの手を離す。 ほんの少しだけ触れ合っていたぬくもりを、名残惜しく思わないように、我慢して、綺麗に微笑んでみせる。] (-347) soranoiro 2023/03/03(Fri) 20:26:51 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空……アスル。 ただの巫女と、ただの守り人に、なりましょう? [ペルラとアスルではなくて。] 私の心臓は、もう、ドキドキしなくなっちゃった。 苦しく痛いばかりは……辛くなってしまったの。 ……ごめんなさい。 [いつか身体が全部消えてなくなるとしたら。 心臓なんて一緒に泡みたいになって、全部分からなくなって、彼を想う気持ちも、塵のように吹き飛んでしまうのかな。 耳飾りを渡すのが自分のエゴなのは分かっていた。 全部消えるのが怖いくせに、でも、アスルに幸せになって欲しい、可能性を持って欲しい、その気持ちも本当で。*] (-348) soranoiro 2023/03/03(Fri) 20:27:40 |
【人】 天原 珠月[ふぅん、なんでもないのか。>>292 妙に気になってしまったが、脇をくすぐって吐かせるという昔のやり方をしている暇はなさそうだ。 質問の答えに関しては正解!と笑ってみせる。 一個ってどっちを数え忘れたの?とジト目もありつつ。] 新月の夜でも、ここにふたつも月があるってこと。 これはどっちか攫われちゃうかもねぇ。 [わざとらしく顎に指を添えて。 世の中にどれほど月の文字を持つ人がいるかという話でもあるけれど、実は一緒の文字が入っているのはお気に入り。] ……うんうん、そうそう。 [壁一枚あるかないかの違いは、ちょっと、なのか。>>293 男女というくくりで考えるとそんなわけはないだろう。 ただそこに幼馴染という関係性と、過去にベッドに潜り込んだ回数と、今気恥ずかしそうにしたら幼馴染はどんな顔してくるんだろうと一瞬思ったなんて認めたくない、を含めると、ちょっとという表現が適切と頷くことになる。 向こうも納得しているようだ。なら、いい。] (377) soranoiro 2023/03/03(Fri) 21:48:07 |
【人】 天原 珠月[恒例の幼馴染的やりとりの後。 仰せのままに、なんてのたまう姿>>294にため息ひとつ。] 王子としてはマイナス30点、騎士としてはマイナス5点! [とても偉そう。] 料理人としては99点だから許す! [デザート楽しみにしてるんだからね!と。 渡されるものをほいほいと胸元に抱えていき、飲みたいとねだったぶどうジュースにもちろんと笑顔で頷く。>>295 見た目はワインのボトルのようなオシャレなデザインで、正直、味というよりそちらに惹かれてしまったのだ。 来年のキャンプでは自分もお酒を飲める年齢になっているが、幼馴染はもう大丈夫なのだし、飲んだりするのだろうか? お酒が強いとか弱いとか、どっちだったっけ。] こっちから勧めてあげれば良かったかなー。 バーベキューにビールとか最高みたいに聞くし。 [あ、なんならコテージの冷蔵庫に完備されていたりして。 それなら後でせっかくだし飲んだら?と言ってあげよう。] (378) soranoiro 2023/03/03(Fri) 21:48:41 |
【人】 天原 珠月[しっかり軍手をはめてその地に立つ。 もう慣れたもので、手早く木炭も並べられるし、新聞紙の効率のよい丸め方に設置方法も熟知しているのである。 火を起こすことに関してはエキスパートかもしれない。 では、何かを焼くことに関しては? それは……炭を食わされるのでは、と幼馴染と幼馴染の父を青ざめさせた過去が教えてくれるだろう。 幼馴染の声が背後から聞こえる。>>297 職人の背中を見せた後、サムズアップでにかっと笑った。] こんなもんよ。 [良い感じに燃え上がる火が涼しくなってきた風にちょうどよく、明るく照らされる部分は少し熱い。 まず彼が運んでいる料理を興味津々に覗き込む。 バケットとカラフルなタルタルソースに、お魚はマグロかな? おおーと素直に歓声を上げるのは少し子供っぽい。] ソース、これ、パプリカ? [ちゃんと色合いまで綺麗でワクワクする前菜だし、緑のピーマンが入っていないのもとても素敵だ。] (379) soranoiro 2023/03/03(Fri) 21:49:29 |
【人】 天原 珠月んー、ひとつ、いただきます! [バーベキューの材料運びを手伝おうとしたものの我慢できなかった様子で、バケットにソースとお魚をのせて、口に運ぶ。 んんっと瞳が丸くなり、眉が寄せられ、頬が紅潮していく。 例え一瞬前までぶすくれていても、幼馴染の料理には敵わなくて、みるみるうちにふにゃっと緩んでしまう。 ひたすら無言でもぐもぐとし続けているのだが、表情が言葉より雄弁なのはいつものことだったろう。] おいしい。雅空兄ぃ、これ最高に美味しい。 [料理を讃える言葉だけは控えめにしない。 美味しかったら素直にそう言うのは、反抗期だろうが思春期だろうが、ぶっきらぼうな言い方になろうが。] 4面を焼く。なるほど? [すごい、お肉の塊って意外と迫力があるものである。 アルミホイルで包むということは、直火で中まで火を通す必要はないと言うことだろう。 いや、そもそもこの厚さだと無理か。うん。 私に焼かせようなんてさすが良い度胸をしている幼馴染だ、と楽しくて少し危険なバーベキューの始まりだった。*] (388) soranoiro 2023/03/03(Fri) 22:06:25 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[わかった、と言われて。 ほっとした。さみしかった。かなしかった。 ――本当はわかってほしくなかった。 言い出したのは自分なのに、泣きたくて仕方なくて。 ひゅうひゅう言いそうな喉を締め付け、張り裂けそうな胸の苦しさに耐えて、やっぱりそんなの嫌だと叫んでしまいたい自分に絶望しながら、じっと湖面を見つめていた。] ……っ、 [低く怒っている声。 当たり前だと思う。 でも、彼の紡ぐ言葉を聞くうちに、耐えきれなくなっていく。 真正面から向き合うときにはもう決壊寸前だった。] (-383) soranoiro 2023/03/04(Sat) 0:03:31 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空私、は……もう十分、幸せだったの。 アスルにたくさん幸せを貰ったの。 誰よりもアスルと一緒に飛んで、隣で過ごして。 その記憶さえあれば大丈夫で、思い残すことはないって……っ [なのに、そんなことを言う。 まだ未来の長いアスルから手を離したいのに、解放したいのに、――ああ、でも、自分は思い違いをしている、か。 初めから、アスルは自由な鳥だった。 彼は彼らしく、彼の考えで、飛んでいるのだ。] (-384) soranoiro 2023/03/04(Sat) 0:04:37 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空……嫌になったりしない! [もうぐちゃぐちゃだ。 こんなこと言ったら、別れを切り出した意味がないのに。 消えたその先で待たせてくれようとしてた、なんて。 自分の心がどれほど痛んでいるか、わかるのだろうか。 どんなに嬉しいか、どんなに苦しいか。] ……アスルはね、いい父さんになるかなって思ったの。 子供を抱き上げている姿を何度も想像したの。 私には出来ないこと……私じゃ、アスルにあげられない幸せがあるんじゃないかって、怖くなった。 縛り付けているんじゃないかって。 [ぽろぽろと、頬を大粒の涙がすべっていく。] (-385) soranoiro 2023/03/04(Sat) 0:05:29 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[アスルの瞳は空のようで。 彼の気持ちと一緒に、こちらの想いまで映し出すようで。 いつだって何も隠せなくなってしまう。] でも、私が、そうしたかった。 本当は全部、私が、アスルに、あげたかった。 [自分がアスルにあげられるものなんて。 もう、何も残っていない気がしてしまっていた。] 嫌いなんかじゃない……。 でも、嫌いじゃないから、……つらく、て。 [ひくっとしゃくり上げる。] ……本当に、……待っていても、いいの? 私、アスルの言うこと、すぐ本気にしてしまうから。 [子供のように、何度も確かめて。*] (-386) soranoiro 2023/03/04(Sat) 0:09:31 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空……、 [アスルに言われ、彼の瞳に映る自分を見る。 本当だった。浮かべられているのは笑みではない笑みで。 隠しきれない感情でぐちゃぐちゃの顔。 いいお父さんか、と呟く姿をじっと見つめる。 苦笑されるのはなんとなく予想できていたけれど、彼が心の内になにを思い浮かべたのかを知ることはできない。 だって、仕方ないのだ。 この人の子供をと願ってしまう心があるのは。] ……私からだけの幸せ……? [うん、と頷く。 ほっとしたように、でも素直に不安そうに。] (-448) soranoiro 2023/03/04(Sat) 16:01:40 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空もっと……。 うん、空を一緒に飛ぶのなら、たくさんできるわ。 [涙に潤んだ目を細める。] 私もアスルと飛ぶのがなによりも好き。 [そういえば怖がったことなど一度もなかった。 初めてともに飛んだあの日から心は楽しさと幸せに溢れていた。 アスルと一緒だから。空は自由で。 風は時に気まぐれで、激しい時も、なかなかいうことを聞かない時もあったけれど、いつも最後には優しかった。 アスルみたいね、と笑ったこともあったっけ。] (-449) soranoiro 2023/03/04(Sat) 16:02:46 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[アスルの柔らかな笑みに悪戯な笑み。 視界がぼやけていてもはっきりと分かるのは、これまでの年月で何度も何度も見てきて笑い合ってきたから。 ずっと一緒にいたんだなぁ、と思う。] ……うん。 [これからも傍にいたい。 ずっと、傍にいさせて。] アスルが浮気したら、水が溢れて大変なことになるかも。 [泣き顔が笑みに変わるのは自然だった。 頬に触れる大きな手は変わらず濡れたまま、もう片方の頬へは柔らかなぬくもりが涙の跡を癒していく。 くすぐったそうに肩が揺れ、淡い紫が瞬いて。 唇が重なり合うときにはそっと瞼を伏せた。] (-450) soranoiro 2023/03/04(Sat) 16:03:22 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[月と星明かりが明るい夜だった。 波の穏やかな湖に光が映り込み、すべての境界が曖昧だった。 触れるだけの口付けはどこか神聖で。 でもいつものようにあたたかく。 別れではなく、これからを約束してくれる。] アスル、ぎゅっとしてほしい。 [アスルの腕の中が好きだった。 彼の翼の中と同じように自由で、でも身動きができないくらい包まれるのが安心できて、彼だけを想える場所。 胸元に頬を擦り寄せるように潜り込んで。 綺麗な景色も何も見ずに、オイルと鉄のような匂いに澄んだ風のような気配の混じるアスルを感じていた。 よく自分の髪は花の香りがする、みたいにアスルは言ってくれた。 とても嬉しくてそのまま受け取って、彼と会う前に花畑で時間を過ごしたり、本当に髪に花を飾ってみたり、もっといい香りって思ってもらえるように頑張った自分がいたっけ。 懐かしいな。たくさん思い出がある。 これからは、どれくらい積み重ねていけるのだろう。] (-453) soranoiro 2023/03/04(Sat) 16:21:33 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空……私、本当はね、 …………消えたくない。……こわい。 [彼にだけ聞かせる声で。 しがみついて。] (-456) soranoiro 2023/03/04(Sat) 16:39:04 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[でも、顔を上げた時には瞳に輝きが戻っている。] 少しでも長くいられるように頑張るわ。 アスルがもっと大きくなったところ、見たいもの。 [もう成長期は終わったと突っ込まれそうだけれど。 おじさんになっておじいさんになって。 本当は、本当は、複雑な心の中でも、アスルには色んな幸せを掴んでほしいと思うのも全部本当だから。 ……アスルの中に残る自分があるなら。 怖さが薄れて、心の中にランプが灯ったように温かかった。 消えてから待つ間はひとりで寂しいかな。 でも大丈夫、きっと風はどこでも吹いてくれるから。 あなたの言葉を届けてくれるように。] (-457) soranoiro 2023/03/04(Sat) 16:40:53 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空ずっと、貴方だけを想ってる。 私の、アスル。 [巫女にとっての守り人は当然だったから。 自分にはこれが、唯一の告白だった。 こちらから顔を寄せると、綻ぶように微笑む。 夜は星と月の光のように輝く銀の髪に触れ、耳元を掠め、そっと頬を撫で――誓うように口付けをした。**] (-458) soranoiro 2023/03/04(Sat) 16:51:19 |
【人】 天原 珠月へ? 全部で70点? この料理は300点だけど。 [幼馴染>>398は何を言ってるんだ、という顔。 まさか先ほどの点数を合算されているとは思わなかった。] ああ、そういう計算……!? やっぱ雅空兄ぃ変なとこで真面目だよねぇ。 幼馴染やお兄ちゃんとしての点数は別物なのに。 [吹き出して。 ぽんぽんと軍手をしてない手で肩を叩く。 まぁその点数は教えないけれど。 そもそも王子と騎士の点数をわざわざ覚えているなんて、自分にそう思われたい気持ちでもあるの?なんてね。 幼馴染のいうお姫様が末っ子の意味なのは知っている。 昔からよく言われていたし、幼馴染のお父さんも一緒に可愛がってくれ、とても自然に受け取ってきた。] (462) soranoiro 2023/03/04(Sat) 19:56:19 |
【人】 天原 珠月[牛モモ肉はローストビーフになるのだろう。 自分自身の料理の腕は、美容師として忙しく働く母の代わりに簡単な料理をどうにか作ってきた程度だが、小さい頃から幼馴染の店に入り浸っていた――客でもないくせに、邪魔になりにくい観葉植物に隠れた端っこの席でジュースを飲みながら、彼が店を手伝う様子をよく眺めていた――ので知識はそれなりにあった。 どんなソースが用意されているのかも楽しみ。 料理に関してぬかりのない幼馴染ならば、とろみのある美しいソースを作り上げてあるのだろうから。] どれからって言われると迷うじゃん……。 [むむ、と唸って幼馴染にお任せする。>>399] すごい、豪華だね。 ホタテにバター醤油ってなんでこんな合うんだろ? [幼馴染の食材の焼き加減は何より信頼している。 渡されるのを受け取ったり、お皿にのせて貰ったり、これは雅空兄ぃが食べなよと箸で摘まんで口に差し出したり――しかけて数秒止まったが、結局は有無を言わせず強引に突っ込んだ。 少し冷めているのは選んだから火傷はしなかったろう。] (463) soranoiro 2023/03/04(Sat) 19:56:28 |
【人】 天原 珠月かんぱーい! [ふたり分の声が夜に染まっていく森に響いた。>>400 そよ風と静かな波の音。ぱちぱちという火の音。 耳に届く声が幼馴染の声だけで、それが楽しげでリラックスしていているものだから、なんだかほっとした。 幼馴染という関係は変わらなくて、心地良い。 タレで濃いめに味付けられた鳥は炭火の風味がきちんとついていて香ばしく、口の中でほろほろと柔らかすぎない感触が楽しい。 あえて塩とわさびだけを効かされた牛肉は噛めば噛むほど甘いような、これぞ牛!という感じの味がした。 最後の方はわざわざ言葉にして食レポしてあげたのだが、幼馴染の評価はどんなものだったのか。] ご飯が何杯でもいけちゃいそう……。 [これは最大の褒め言葉である。] この焼き鳥を入れたお握りとか、あー、お茶漬けも美味しそうだなぁ……朝から贅沢すぎるかな。 [和食もいいけど洋食もいい。 幼馴染が作ってくれるなら、尚更の話なのだ。] (464) soranoiro 2023/03/04(Sat) 19:57:42 |
【人】 天原 珠月[焼き肉の後の焼きトマトは口直しに最適で。 じつはちょっと苦手な青臭さもなく、トマトってこんなに美味しかったんだなぁと思わせられる。] ……。 [ピーマンはおもわずじっと焼かれている姿を見つめた。 幼馴染用なんだろうとは思ったから箸を伸ばす気はなかったのだが、あれ、鶏肉を詰めたものも現れた。 ちらっと幼馴染の顔へ視線をやり、もう一度網の上へ。 数分後、ピーマンのくせにこんなに美味しくなるなんて、と唸っている姿があったことだろう。 何度かタイマーの音の度にコテージへ戻る姿を見守りつつ。 その後、しいたけの山椒にやられて涙目になっていたら、幼馴染の穏やかに問う声があって、そのまま顔を上げた。 あ、口の周りについているかも。子供みたいに。] (465) soranoiro 2023/03/04(Sat) 19:58:59 |
【人】 天原 珠月学校は、さすがに慣れて落ち着いてるかな。 最初は焦るばかりだったから。 [つい最近まで課題で大忙しだったのだが。] 今でも上手くいかないことばっかりだし、周りに比べても色々下手くそだなーって思うけど……練習をちゃんとすれば少しずつでもマシになるんだって、どうにかやる気出してるところ。 あとね、色んなヘアスタイルを考えるのは楽しいの。 まだまだ技術が追いつかないのはもちろんでも、いつか、本当に形にしたいって頑張れてる。 [まぁお母さんの美容院のお客さんでそんな髪型を頼む人見たことない感じなんだけど、とくすくす笑って。] ……今度、雅空兄ぃの髪も切らせてよ。 [練習台になって欲しいと頼んだことはなかった。 幼馴染の今の髪型は母が仕上げたもので、飾り気なく見えてシャープさがあり、眼鏡の奥の目元が前髪の隙間から覗く、絶妙なラインがきちんと考えられている。 自分だったらどんな風に切るだろう、何度も考えてきた。] (466) soranoiro 2023/03/04(Sat) 20:05:07 |
【人】 天原 珠月コックコート。 あれ着たら雅空兄ぃでも格好良く見えるよね。 [にやにやと笑って。>>401 続く台詞は目を細めながら黙って聞いてから。] そっかぁ。 学校を卒業してからも修行の日々だ。 [それは自分も全く同じなのだろう。] 期間限定の料理、もう春のかな? 私、春野菜のパスタが食べたいー何か考えて! [なんて、冗談半分、実は本気半分。 今からメニューを考えるなんて間に合わないだろうけど、幼馴染なら来年にでも叶えてくれると思ってしまうから。 このキャンプの後は隣のお店に食べに行くね、と言って。 レシピ当てってどんなの?から、新しいメニュー案を尋ねたり、ここなら誰も聞かないからって常連さんの噂話なんて聞き出そうとしたり、テレビで見た白いオムライスの話をしたり。 お互いの近況から始まり、話題は尽きることなく、かといって相手が黙って食べていても気にならない、当たり前の時間。] (467) soranoiro 2023/03/04(Sat) 20:19:23 |
【人】 天原 珠月[幼馴染との時間は日常だから。 バーベキューの時間も、そのひとつで。 楽しくてあっという間でも、寂しいということはなかった。 ――明日からも当たり前にそばにいると思っている。 最後のお楽しみはデザート。 またお姫様、なんていう呼び方とともに。] わぁ……きれい。 [こればかりは美味しそう、より先にそちらが出た。 ちゃんとガラスの器に盛り付けられたシャーベットは、火の明かりに氷がキラキラしていて、涼しげで。 しっとり柔らかそうに漬けられた桃の甘やかな香り。 思わずガラスの器を両手に持ち、見つめてしまいたくなったけれど、それではすぐ溶けてしまいそうで我慢する。] (468) soranoiro 2023/03/04(Sat) 20:37:54 |
【人】 天原 珠月……専属コックさん? [今日の幼馴染はもちろんコックコートなんて着ていない。 キャンプに来ているのだから当たり前だ。 なんなら向こうもこっちも、顔に煤がついていたり、髪に葉っぱがくっついているかもしれない。 でも、綺麗な一礼に。少しだけ、変な感じがした。 顔を上げた幼馴染は相変わらずもさい眼鏡をかけていて、せっかくの髪型の整え方も自分から見たらまだまだなのに。 焚き火の近くにいすぎて、熱くなったのかもしれない。 なんで今更幼馴染に照れたりしているのだろう。] (469) soranoiro 2023/03/04(Sat) 20:39:44 |
【人】 天原 珠月美味しい! ……けど。 [一口。文句なく味は最高だ。 そのくせ、ちょっと不満そうに見上げて。] 私はお客さんじゃないもん。 ほんとのお姫様でもないの。 ほら、雅空兄ぃの分も用意しなきゃ。 私の溶ける前に! 一緒に食べるんだから! [隣に座ってほしい。並んで星空を眺めながら食べたい。 そんな風に我が儘を言い、またせっついたのだった。**] (470) soranoiro 2023/03/04(Sat) 20:45:30 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空― 別れの時 ― [あの別れようとした日から幾年も過ぎた。 力の調整を心がけ、常に島のために力を蓄え注ぎながらも、アスルとの時間を諦めることはなかった。 25になるペルラはもうどこから見ても大人で。 悪戯っぽさとやんちゃさのなくならないアスルもまた30となり、見つめる者をドキリとさせる深い魅力を漂わせていた。] ……仕方ないわね。 [役目へ向かう道中。 水筒から自分で飲めるくせに頼まれて苦笑してしまった。 でも笑みには甘やかさが添えられている。 この前は照れながらそのまま水筒を口に運んであげたのだけれど、今回は――唐突に自分の口の方へ、そして含んで。] ん、…… [アスルの腕を引き、つま先立ちになる。 多少揺れても大丈夫。きちんと抱きつくから。 岩肌に映る影がそっと重なった。 ペルラが想いを込めた水が、アスルへと届いたことだろう。] (-489) soranoiro 2023/03/04(Sat) 21:52:26 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空[楽しい空の旅は終わり。 あっという間に感じるのが少しさみしくて、でも、帰り道もあるのだからといつも自分に言い聞かせる。 ふわりと抱き上げられて、頬に落ちるキス。 くすぐったげに微笑んで身体を委ねた。] うん、そうしましょう。 今回は多めに真珠も作れているから……あまり無理をしなくても大丈夫じゃないかと思うの。 [新月の夜の祈りはより力を使うことが多い。 一説によると月光の助けを得られないからというが、自らの真珠は月のような光を帯びているし、その通りかもしれない。 首から提げたガラス瓶に真珠が幾つも揺れている。 日々時間をかけて作り上げたこの島への祈りの結晶だった。] (-490) soranoiro 2023/03/04(Sat) 21:52:31 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空アスル、行ってきます。 [祈りの間はすぐ傍に居ることはできない。 太陽が沈み、空が夜の色に変わっていく頃、身体を離す。 最近新しく仕立てられた巫女装束のローブは深い青の生地に銀色の糸で細やかな刺繍がされていて、星明かりに煌めく。 そして淡くなり白にも銀にも近くなった月色の髪と、赤みが薄れ紫というよりは空色のようにもなった瞳。 湖へ裸足で踏み出そうとして、一度止まり。 珍しく振り返ると、アスルを探して――まるで祈るように自分を見つめる彼を見つけて――綻ぶように微笑む。 そうして、幼い頃と同じ。 片手を上げてひらひらと手を振ったのだ。] (-491) soranoiro 2023/03/04(Sat) 21:52:36 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空……。 [湖を、水の中を、歩いて行く。 腰ほどまで冷たくも温かな水に浸すと、瓶から手のひらに移していた真珠の粒たちを――星を散らすようにまいた。 ぱぁっと広がる光の粒。 いつもより暗い夜に、まばゆく優しい光が灯る。 祈りの言葉を紡ぐ。 いつも、夜通しそうし続ける。 ――でも、気づいてしまった。意識の片隅で。 気づいていたけれど、もう、どうすることもできない。 足の感覚が消えていく。 泡になるように、真珠が溶けるように。] (-492) soranoiro 2023/03/04(Sat) 21:58:16 |
【秘】 天原 珠月 → 月島 雅空――…………。 [ぱしゃん、と水音を残して。 月の映らない湖から、巫女は姿を消していた。**] (-494) soranoiro 2023/03/04(Sat) 21:59:39 |
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