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【秘】 4432 貴戸 高志 → 1117 闇谷 暁そうこうしているうちにも貴方はぱくぱくケーキを食べ進めていく。いい食べっぷりだ。 時折、恐る恐ると言う風に貴方へ一瞬視線を向ける。 元気に動く唇。ちらりと覗く舌。たまに見える白い歯。 ぞわりとかすかに肌が粟立った。 あの刻まれる感覚が、どうにも忘れられない。 「…………」 小さく息を飲んでは、慌てて視線をカップへ戻す。 「何か。何か…………」 口籠る。言うべきか言わないべきか。迷い、迷って…………。 「噛まれた事と、朝の事を思い出してしまう、から…… …………食事をするお前を、見れなくなってしまって……だな……。 ……すぐに忘れるようにする、元に戻れるようにするから…… …………あまり、俺を見ないでくれ…………」 白状した。耐えられなかった。 (-219) もちぱい 2021/09/20(Mon) 4:18:55 |
【秘】 1117 闇谷 暁 → 4432 貴戸 高志「………、………………そうか。 そっか、俺はてっきり 誰も彼もここを出たいもんだと思ってたから ……そか、お前はそういう奴だもんな。」 寂しげな瞳を伏せた。 じゃあ俺も残ろうかな、と簡単に言えたら、どれほど、………。 → (-225) osatou 2021/09/20(Mon) 11:32:27 |
【秘】 1117 闇谷 暁 → 4432 貴戸 高志なんだなんだと耳を立て 貴方の言葉を待つ。 「 ン"ッグ!? げほっ、けほ、……っ!?」 咳き込み、口元を手で押さえる。 まさかそんなに恥ずかしい思いをさせてしまっていたなんて。 「 ごっ、 ごめ……ん。でも、だって、でも、その、 ああでもしないと、 気持ち、良すぎて、…………… 」すみませんでした………………………。 ケーキを食べ進める手を止め、机上に置いた。 此方も過激なW夜更かしWを思い出して 顔を一気に赤く染め上げていく。 「別に、戻らなくても……良いけど。 ていうか、お前、慣れてるだろ。 何で、その、俺より先に照れるんだよ。」 戻らなくて良い。そのままあの夜の出来事を貴方の中に刻み付けておきたい。 そんな魂胆を見抜かれないように、軽口を吐いた。 (-226) osatou 2021/09/20(Mon) 11:33:19 |
【秘】 9949 普川 尚久 → 4432 貴戸 高志「そぉ……僕のは、なん…癖とか、そのくらいさ。 やりやすいのなら、四つん這いになったとこから 片手後ろにやるのか、それこそ足広げてやるのと違うかな…」 足は簡単に持ち上がる。普川は男子にしては柔軟だ。 「鬱陶しいから謝らんてって言ったら困りそぉ……」 適当な呟きを落としながら、体勢を整えた。曲げた片肘に顎をつけて、上半身をうつ伏せ気味に。覗き込むか向かせるかでもしなければ、顔は見えないだろう。 「………っふ、 ん ぅ…」彼はすんなりとあなたを受け入れた。上着を抱き込み、耐えるように息を詰まらせた。快楽がないと言っても、感覚がないわけではない。不快でないのはまだ救いがあるなと、改めて思い浮かべた。 (-232) Vellky 2021/09/20(Mon) 12:18:53 |
【秘】 4432 貴戸 高志 → 1117 闇谷 暁「…………ああ。俺は、ここで……」 ここを出るかについて、濁した形で返答した。 後ろ髪を引かれる思いは、見て見ぬ振りをした。 ▽ (-236) もちぱい 2021/09/20(Mon) 12:26:34 |
【秘】 4432 貴戸 高志 → 1117 闇谷 暁「謝る必要はない。その、別に、気にしてはいない、し……。 悪くなかった……から……」 俯き言い淀む。だんだん居た堪れなくなってきた。 「…………。 …………こういう、ことは、したことなかった、から。慣れていない」 こういうこと=噛んだり舐めたり。 本当は隠し通す筈だった。白状するつもりはなかった。実際、隠し通すと決めたものは平然とした顔のまま今も頑なに潜めている。 けれど、今抱えている予期せぬ問題は耐えきれず話してしまった。何故だろうと内心貴戸は独り言ちる。それもまた貴方に気を許している証だと気付くのは、いったいいつになるのやら。 「戻せないと俺が困る。 これからもお前とこうしてお茶を共にしたり食事を向かい合ってしたりしたいのだから、お前の口元を見るたびに羞恥心が芽生えるのはたまらなくもどかしい」 そこまで言い切って珈琲で唇を湿らせた。変わりない柳眉、きりりと釣り上がる瞳。あまり動かない表情筋。 いつもと変わらない要素の中で一つだけ、髪からちらりと見える赤く染まった耳だけが二人だけの非日常の欠片を忘れずに抱えていた。 (-237) もちぱい 2021/09/20(Mon) 12:27:16 |
【秘】 1117 闇谷 暁 → 4432 貴戸 高志「……………どうしても?」 こんな未練たらたらの事を聞くつもりは無かったのに 言葉が咄嗟に口から出た。 → (-239) osatou 2021/09/20(Mon) 12:44:44 |
【秘】 1117 闇谷 暁 → 4432 貴戸 高志「…………………………………………」 普通はしないんだ。 噛んだり舐めたり。 そっと緩やかに土下座のポジションを取り始めた。 次第にデコが床にくっつく。 「 そっ、 そうか………。そうだな、お前の顔見えないのは俺も嫌だし ……じゃあ何だ、その、 忘れるんじゃなくて見慣れる、とか どうかなあ……って………………。」 何を言っているんだろう。 此方もあまり正常に脳を動かせていないらしい。 そもそも貴方との行為は、 決して簡単に忘れられる思い出ではないのだから。 (-240) osatou 2021/09/20(Mon) 12:45:40 |
【秘】 4432 貴戸 高志 → 9949 普川 尚久成る程、と準備するときのアドバイス(?)を心のメモ帳に書き留めた。この手の知識、あんまり覚えたくなかったな……と苦々しい気持ちは飲み込んで胃の腑に仕舞い込んだ。 「……別に困りませんが、うっかり謝罪を口にする可能性はあります。善処はします」 足を抱えて本格的に抽送を開始する。顔を背けていることに気付けば、視線こそ時折貴方の顔に向けたものの無理にこちらに合わせようとすることはしないだろう。 「……っ、はぁ……は……ッ」 自身の熱が包まれる感覚に吐息が思わずこぼれ落ちる。 早く終わらせようとしているのか、腰の動きは少しずつ早まっていく。途中から、足を支える両手に向かって身を寄せた。そのまま、シャツの上から時折手でがりがりと己の首元を引っ掻くようにしながら貴方を深く穿ち揺さぶり続けるだろう。 首を引っ掻き始めてからそう暫く経たないうちに、限界が訪れ始める。 (-241) もちぱい 2021/09/20(Mon) 12:46:54 |
【秘】 4432 貴戸 高志 → 1117 闇谷 暁「…………」 視線はカップの中に注がれている。濁った水面の中には荒れた唇を噛む自分がいた。 「ああ。俺が俺として生きるには、きっとこうするしかないから」 ▽ (-243) もちぱい 2021/09/20(Mon) 12:57:24 |
【秘】 4432 貴戸 高志 → 1117 闇谷 暁「……いや、待て。待て暁。 どうしてお前はすぐ土下座をしようとするんだ。」 流石に無視できなかったのでカップを置いて貴方の土下座を妨害しようと試みる。 「見慣れる。見慣れる……? 見慣れるって……その……。…………。 ……………………何を……………………」 頭がうまく回らない。 考えようとするたびに貴方との行為が、貴方の口元が、脳裏によぎって思考を散らす。 (-244) もちぱい 2021/09/20(Mon) 12:57:38 |
【秘】 1117 闇谷 暁 → 4432 貴戸 高志「……そっ、か。 じゃあ仕方ないな。」 その声色は、軽かった。 そうしないと、もう誤魔化せないから。 ただ密かに、己の選択を考え直すつもりだった。 → (-247) osatou 2021/09/20(Mon) 13:28:41 |
【秘】 1117 闇谷 暁 → 4432 貴戸 高志「 土下座は最上級の謝罪かなって……… 」阻止されれば素直に上体を起こす。 貴方の優しさが身に染みた。 「 えっと、 あの、その、えーと…………」 そっと己の口元に触れる。 俺を見慣れろ、なんて、口にするのは結構恥ずかしい。 珈琲を一気に飲み干した。 「ッお、おれを…………、 ………、…………、……………… 忘れないでくれよ……。 」 (-248) osatou 2021/09/20(Mon) 13:29:52 |
【秘】 9949 普川 尚久 → 4432 貴戸 高志「そぉ……」 真面目ね。この善処しますは、Noでなく言葉通りなのだろう。 行為が本格的になれば、浅い呼吸が繰り返され始める。時折、卑猥な音を立てるそこを意識して締めたりなんかもしていた。きゅう。 あなたの体勢がかわった時には気だるげに頭を上げて見やったが、それはほんの短い間だけで、またすぐに元の体勢に戻された。何かを考えようとして、今はいいやと思考を散らす。 顔は伏せ切らず、目も閉じず、どこか遠くを見続けていた。黒塚相手の時も同じだった。 (-249) Vellky 2021/09/20(Mon) 13:43:04 |
【秘】 4432 貴戸 高志 → 1117 闇谷 暁 "忘れないでくれ。" 羞恥で回らない頭が、控えめに届けられた言葉によって冷静さを取り戻した。 砂に染み込む水のように、音もなく心に滑り込んでくる。思考を妨げる余計なものが静かに洗い流されていく。 「……。暁」 貴方と同じように一息に珈琲を呷って、カップを近くに置いた。静かに置こうと努めた筈だったのに、そうやって躾けられてきた筈なのに、存外煩く響いてしまった気がする。 先程までのたじろぎさえも珈琲と共に喉奥へと流し込み、毅然とした様子で一歩、貴方と距離を詰める。 「俺がお前を忘れるはずなどない。 頼まれても忘れてなどやるものか。 世界で最も心を許せる相手をどうして忘れろというのだろう? 安心しろ。或いは、重いと蔑むといい。 闇谷暁と言う存在は、もう俺の中で消えない痕になっている」 真っ直ぐ過ぎるほどの眼差しが、貴方だけを映している。 (-263) もちぱい 2021/09/20(Mon) 16:31:25 |
【秘】 4432 貴戸 高志 → 9949 普川 尚久「っ、先輩……もう、出ます……っ」 時折締められるものだから、その度に悩ましげに眉根が寄った。 自分は無事絶頂に至ることができそうだと判断すると、首筋を引っ掻いていた手は貴方の下腹部へと伸びるかもしれない。 拒まれないのなら長い指は貴方の陽芯に絡みつく。明確に嫌だと言われたらまた最初のように足を支えることに注力するだろう。 やがて、声を押し殺すような息遣いと共に少年の体が大きく震えた。薄いゴムの中に若い種が捨てられる。腹を中心に熱いほどの温もりが広がっているのに、頭と心は妙に冷えて落ち着いていた。 軽く息を整えながら、相手を見やる。貴方の様子はどうだろうか。 貴方の性器に触れることが許されているのならそのまま今度は男性器を弄り続けることに重きを置くし、手を伸ばした時点で拒まれていたのなら大人しく貴方の内部から自身の熱を引き抜いて呼吸を整えていることだろう。 (-265) もちぱい 2021/09/20(Mon) 16:48:35 |
【秘】 1117 闇谷 暁 → 4432 貴戸 高志がつ、とグラスが机に置かれて 「───えっ、」 近付く距離。 貴方からの言葉。 何より真っ直ぐな視線。 ぐっと歯を噛み締めた。 満たされる幸福感から、 どうしようもなくお前が好きだと叫んでしまいそうだから。 「おれも──………………、 …………あ、あーっと、えと、 あ、ほら、その、 今とか普通にこっち見えてるぞ!平気になったな!? 」羞恥心で此方を見えないと言っていた方に 話題を無理やり繋げた。 「あ、あー、あはは、 解決したな。良かったな。………………。」 無理やり過ぎただろうか。 多分全然解決してない。 顔を逸らしつつ、視線だけちらりと貴方へ向けた。 (-272) osatou 2021/09/20(Mon) 18:21:30 |
【秘】 9949 普川 尚久 → 4432 貴戸 高志「…、…っ、そぉ……」 下腹部に伸びた手には、要らない、と一言返るだけだった。扱かれたとしてとも、発言通り彼の性器は萎えたまま。あなたの手は最初の位置に戻ることになった。 「んっ……」 薄い膜一枚を隔てられて吐かれた精。律動の終わりに、これまで知らなかった事実を認識することになった。僕ナマの方が好みなんだなぁ。 あなたが普川を見やれば、彼は始める前とほぼ変わらない体勢になっていた。上着を抱き込み、横向きに丸まって転がっている。見るからに虚無。黒塚との事後もこうだった。 これまでの彼の様子とあわせて考えると、あなたが何か働きかけるまでこの状態は続くだろう。放置して帰っても無問題である。あなたはきっとそうはしないだろうが。 (-275) Vellky 2021/09/20(Mon) 18:40:29 |
【秘】 4432 貴戸 高志 → 1117 闇谷 暁「俺が見れなくなるのは、お前が飲食をしている時くらいでお前自身見れないわけではないのだが……そうだな、今なら平気だと言えるかもしれない。忘れる方が嫌だからな」 馬鹿正直に答えた。この少年は変なところで察することができないらしい。 本人は平気かもしれないとは答えるが、実際のところは分からない。 けれど貴方が見れない羞恥心と貴方を忘れる事実、どちらが嫌か。そんなものとうの昔に答えは決まっていた。忘れるなど、想像もしたくない。 貴方とは打って変わり、平然とした様子で答えた。 それから空間を満たす沈黙。流石にぎごちなさを感じたのか、そうでないのか。 「……ケーキ、美味しかった。まだ食堂にあるんだろう?取ってくる」 そう言って部屋を後にしようとするだろう。 (-278) もちぱい 2021/09/20(Mon) 18:56:10 |
【秘】 4432 貴戸 高志 → 9949 普川 尚久大人しく最初の位置に戻り、吐精する。 快楽と熱が引いて落ち着きを取り戻すと、貴方が虚無になっているのをいいことにいそいそと貴方の世話を焼き始めるだろう。 失礼します、と声をかけてから様々な液体で濡れた下半身をタオルで拭いたり、腹を冷やしてはならないとどこからか毛布を持ってきてはかけてやったり。 好き勝手動いて満足してから、貴方が転がるマットのすぐそばに長い足を折りたたんでちょこんと三角座りをした。 「普川先輩、その、すみ……。……ありがとうございました。 体は辛くありませんか?」 恐る恐る話しかける。 (-279) もちぱい 2021/09/20(Mon) 19:01:40 |
【秘】 1117 闇谷 暁 → 4432 貴戸 高志「貴戸のそういうとこ、す、好きだよ。 良いルームメイトとして な。」勘違いしそうになるぐらいに。 さらりとそう告げて 平然を装う。あまり声が震えなくて良かった。 自分程ではないかもしれないが、 共有した時間を、思い出を、 貴方も大切に思ってくれている事が何より嬉しい。 「………… え? 」ケーキ。 2人で食べるために用意したケーキ。貴方との時間を考えて作ったケーキ。 結果大きくなり過ぎて食堂に置いてきたが その全貌を見られるのは恥ずかしい。 しかし必死に引き止めるのも露骨かなあ、と考え、 「分かった……………………………。」 そう返すしか出来ず、貴方を見送るだろう。 (-280) osatou 2021/09/20(Mon) 19:09:28 |
【秘】 4432 貴戸 高志 → 1117 闇谷 暁「そうか。俺も暁が好きだ」 当たり前のようにそう返した。 貴方の変化に、貴方の心情に気付くことなく。 部屋を出て、ぱたりと扉をしめてから首を傾げる。 「…………?」 自分で吐いた言葉が腑に落ちない。 自分もまた同室の相手を良いルームメイトとして好いていることは変わりない。 ……けれど、本当にそれだけか? 分からない。即座に判断が下せない。何かが引っかかるけれど、その理由を上手く探れない。 "外にいた頃"は迷うことなどなかった。迷う隙を作ることも許されなかった。 だから……考えあぐねている。 「……」 けれどこんな場所で立ち止まっているのもおかしな話だ。ケーキのおかわりを求め、少年は悠々と食堂へ足を運び始めたのだった。 (-282) もちぱい 2021/09/20(Mon) 19:18:15 |
【人】 4432 貴戸 高志食堂。 「これは……ケーキはケーキだが……。 …………ウェディングケーキ?」 既に何人もの少年たちによって食べ進められており、すっかり元の形が分からなくなってしまっていたが。 それでも、ルームメイトが大作を生み出していた事はなんとなく理解できた。 やはり完成した直後の姿を見るべきだった。料理の才能があることは迷彩少年との料理バトルで知っている。見た目も綺麗に仕上げる腕を持っているのだから、さぞや華やかなケーキだったに違いない。 残りのケーキを切り分ける。部屋に持っていく分を確保して、それは一旦冷蔵庫へ。 (139) もちぱい 2021/09/20(Mon) 19:32:17 |
【人】 4432 貴戸 高志珈琲のほうが好みだが、たまには紅茶もいいだろう。 厨房からすっきりとした味わいのハーブティーを淹れて持ってくると、そのままケーキの近くの席を陣取った。 「いただきます」 丁寧に両手を合わせて、そのまま黙々と切り分けては食べを繰り返した。 黙々と、ひたすらに黙々と。 真顔でけろりとした様子で、食べ続ける。 誰にも止められなければ、そのまま最後まで食べようとするのだった。 (140) もちぱい 2021/09/20(Mon) 19:35:02 |
【秘】 9949 普川 尚久 → 4432 貴戸 高志 うわあ至れり尽くせり。拭かれやすいように動いた程度で、あとはされるがままでした。彼はなんだこいつって顔してたけど、些細な事でしょう。あなたは満足できた。 「え? ……ふふ、へいき」 善処している貴戸がちょっと面白かった。先の諦め混じりの笑顔だったり、愛想笑いだったりでなく、気分と一致しての普川の笑いはまあまあ珍しかった。 「お疲れ様。みんなヤった後に動くの好きね、 ほっといたら勝手にやるんに」 榊の方は普川の意識がないから当然と言えば当然であるが、黒塚も普通程度には世話を焼いていた。タオルを寄越してくれたりだとか。 (-284) Vellky 2021/09/20(Mon) 19:47:48 |
【念】 4432 貴戸 高志【回想】 女のなく声がする。 あれは何歳のころだっただろうか。まだ中学生にも上がっていない頃だったと思う。 父にも祖父にも「兄と接してはならない」と言い含められていた。 けれど生まれてからずっとまともに言葉を交わしたことのない兄弟で、そんな彼が呼びつけたとあっては興味が湧かない筈がなかった。 離れに向かい、歳の離れた兄のいる部屋へ。 襖を開けた瞬間嗅いだことのないような臭いが鼻を刺し、たまらず外へと顔を向けた。 一糸纏わぬ男と女が絡み合っている。 女はおかしな声でひっきりなしにないていた。獣のようだと思った。 女に覆い被さっていた兄は自分がやって来たことに気付くと、口元を笑みの形に歪めながら手招きしてきた。 足がすくむ。体が動かない。 あの二人は何をしているのだろう? 頭の中でぐるぐると言葉を巡らせているうちに、色々なもので濡れた兄が己の手を掴んで部屋へと引き摺り込んできた。 大きな手が体を這い回る。理解が追いつかない自分の足首を、未知の恐怖が掴んで離さない。 たまらず周りを見る。先程まで獣のようにないていた女が寝そべりながら頬杖をついて心底冷たい目でこちらを見ていた。 声を荒げてはならない。 そう教わってきたこともかなぐり捨てて、必死に叫んだ。 今思えば様々な言いつけを破った日だと思った。 それでも、離れの襖を開けるまで胸が高鳴っていたことは事実だ。 父や祖父の言いつけに従うのではなく、自分の意思で行動したのだから。 (!0) もちぱい 2021/09/20(Mon) 20:52:02 |
【念】 4432 貴戸 高志【回想】 兄の強姦は未遂に終わった。 屋敷から姿を消した自分を心配して探しにきたハウスキーパーがやって来たからだ。 兄は更に厳重に幽閉されることとなった。 己は殊更厳しく躾けられるようになった。 不出来で恥さらしの兄のこともあり、父と自分は何かあれば親族から言い募られる。揚げ足を取り当主である父を引き摺り下ろし、己の息子を跡継ぎにしたいであろう親族はいつも自分たちを舐めるように注視していた。 貴戸家の、そして会社を継ぐ者として完璧な人間を求められた。 常に堂々と振る舞うこと。人を上手く使うこと。文武両道は勿論のこと人の上に立ち常に導く者であれ。失態は許されない。隙を見せてはならない。 眠る時さえも気が休まらなかった。むしろ、眠る時が一番恐ろしかった。自分の意識の外にある時間。眠りに落ちて制御が出来ない己が何をしでかすか分からない。万が一の可能性さえも生み出してはならないのだ。夜が来るのが怖かった。 (!1) もちぱい 2021/09/20(Mon) 20:52:27 |
【念】 4432 貴戸 高志【回想】 時が流れて高校生になった。 己は恵まれた家に生まれた。生まれいづる先を自由に選択することなど誰にもできやしない。 それならば、恵まれた環境にいる自分は恵まれない人間の分まで相応の責と矜持を持って生きなければならない。そう結論づけて貴戸家の人間として生き続けた。親族も未だ父や自分を堕とすことに成功していない。 血が紡ぐ完璧な筋書きを辿っていたのに、それが崩れたのはとある夏の日だった。原因は貴戸家最大の汚点とさえも言われた実の兄。 どうやって連れ込んだのか知らないが、昔兄と交わった女が再び離れにやって来ていた。 父も祖父も不在の日を狙っていたのだろう。普段よりも厳かな雰囲気が和らいだ屋敷で過ごしていると、遠くで兄の怒鳴り声が聞こえた。 「何があっても離れに近づいてはならない」。 何よりもきつく言われていたことだった。 それでも、足を運んだのはいったい何故だったのだろう。 昔のような好奇心からだろうか。 それとも。 "俺"が呼吸できない世界に耐えかねて、逃げ出したかったからだろうか。 (!2) もちぱい 2021/09/20(Mon) 20:52:48 |
【念】 4432 貴戸 高志【回想】 大きな屋敷同様、古い歴史を持つ離れ。 職人の手によって丁寧に作り上げられた調度品。 貴戸家の資産が、人だったものをぶちまけられて価値を汚されている。 清潔ない草の匂いはむせかえるような血の臭いによってかき消されていた。赤色が家紋の入った畳を侵食している。 女の残骸が浮かぶ血の海の中で、兄は呆けたように佇んでいた。 ああ、なんて愚かな兄だろう。 もうこの人は貴戸家にはいられない。 家を追い出されるのならまだ良い。最悪、"不慮の事故で死んでしまうかもしれない"。 冷め切った頭で淡々と未来を予測した。 予測した……その次の瞬間には。 血の海に、足を踏み入れていた。 (!3) もちぱい 2021/09/20(Mon) 20:53:13 |
【念】 4432 貴戸 高志 誰か教えてくれないか。 限りなく不自由に近い自由。 限りなく自由に近い不自由。 いったいどちらが幸せなのだろう? (!4) もちぱい 2021/09/20(Mon) 20:55:18 |
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