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【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 可愛いなんて母以外に久々に言われた。 母に一瞬意識が向きかけて一気に萎みそうになる気持ちを 可愛いの言葉だけに向けて引き戻す。 今この人に俺は可愛く見えてるのか。 昔の印象のまま固定されているにしても 昔だってそう幼くはなかった筈なのに。 如何して大の大人の男が可愛く見えるやら なんともおかしな話だと思うのに 何故だか悪い気はしなかった。 嫌な気分ではなかった。 どんな評価であれどんな見解であれ 彼に与えられるものなら、なんだって。 あの頃も今も変わらず彼が好きな証明なんて それだけで足りるだろう。 あと男に抱かれてるのも。 こんなに気持ちいいって知ってたとしても 彼以外になんて、考えるのも嫌なのだから。 ] (*4) yahiro 2022/05/23(Mon) 2:17:34 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 興奮の滲む彼の荒く艶やかな呼吸の音。 潤いも足さずに交わる結合に女を抱く時のような水音はなく 汗に湿る肌同士が当たる音と軋むベッドの音が耳についた。 馴染みのある分かり易い快感を以て 欲望の弾ける瞬間へと向け急速に駆け上がりながら 覚えたばかりのまだ不慣れで、 それなのに強烈な心地よさを同時に味わわされて 頭が、混乱する。 男として生きてきた自分の体を作り替えられるような おかしな錯覚に酔い痴れて。 あとを追うように限界を訴える彼の声にぞくぞくと 絶頂の余韻とは違う法悦が駆け抜けて 熱いものを吐き出すさなかの体を休む間もなく 断続的に攻められ、声にならず吐息の音だけで喘いだ。 気遣いや手加減を取り払ったような力強い抽挿に 彼が彼だけの快感を求めて動いているんだと理解して 彼の欲をこの身にぶつけられ受け止めているんだと思えば 訳のわからない感情が込み上げてきて堪らなくなった。 愛おしさと呼ぶには如何にも狂暴で酷く淫らな。 言い表す言葉は見つけられる気がしない。 過去に抱いた女が興奮を煽る為紡いだ言葉が頭に浮かんで 「なかにだして」と強請った気がする。 彼を悦ばせるためではなく純粋に自分がそうされたくて。 きちんと言葉になった自信はない。 ] (*5) yahiro 2022/05/23(Mon) 2:20:14 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 元より入口の皮膚以外殆どが感覚を持たない内臓での交わりだ 中で震える感触も、吐き出された実感もまるでない。 けれど抱きしめられ重なる身体の震えと 生々しい呻き声に彼の絶頂を知る。 体はすっかり疲弊しきって重力が倍に感じるし ぜぇぜぇと繰り返す呼吸の音は耳障りで息苦しく もう指一本動かしたくないのに、興奮が醒めない。 熱くて、暑くて。 張り付く重たい身体が苦痛なのに心地よくて 離れがたくて背中の後ろに体重を預けようとすれば 未だ繋がったままのものが角度を変えて小さく呻いた。 え?萎えてないの?何故? いや、俺もだな?俺もだったわ。何故。 もうなにを考えるのもだるくて 疑問は浮かぶ傍から投げ出した。 重力倍増しに感じるクソ程重たい腕を死ぬ気で持ち上げて 首筋にじゃれついてくる頭をベタつく手で構わず撫でた。 何も考えない頭で、理由もなくそうしたかったから。 ] (*6) yahiro 2022/05/23(Mon) 2:20:53 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 気遣いの戻ったやり方で、すっかり弛緩した体を シーツの上に横たえられる。 死ぬほど疲れていたので逆らわず手伝わず体を預けた。 気遣うならまず抜けとは思ったが言わなかった。 離れたくなくて、言いたくなかったので。 予告通りに汗だくになった身体に 乾いたシーツの感触が心地よくて もぞもぞと蠢き湿っていない場所を探す ] ────、…───……、……っ、…… ……しにそ、……むちゃくちゃ、きもちよかった。 [ 遅れた返事を漸く紡げば、緩みきった口から涎が垂れかけて 垂らしてももう今更どうでもよかったけど 死ぬほど喉が渇いていたので無理やり飲み下す。 みずほしい。けど、いいたくない。 動きたくも離れたくもなかった。 ] (*7) yahiro 2022/05/23(Mon) 2:22:40 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 動きたくも離れたくもない、けれど 顔を見るためのろのろ体を捻れば 彼が出した分だけ多少の滑りを取り戻した中から ずるりと半端に彼が腹圧で押し出されて 強制的に味わわされる排泄と殆どおんなじ原始的な快感に ぞわぞわして戦慄きながら、ぅ゙あ゙とか色気の欠片もない なかなかにひどい悲鳴をか細く溢れた。 ぜんぶ抜けてないから まだこれを味わう事になるのがわかってしまう。 離れたくない以上の嫌を突きつけられて はふはふ喘ぎながらも 当初の目的を成し遂げるべく彼の顔を見る。 ひどく疲弊しきった顔はそのままに目だけギラギラしてる。 これは徹夜が過ぎて疲弊し過ぎたが為に分泌された 脳内麻薬でおかしなテンションになってる顔だ。 ] せんせぇも……誠丞さんも、きもちよかった? 満足したならねなよ。 ひっどいかおしてる。 (*8) yahiro 2022/05/23(Mon) 2:25:05 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 抜いて離れるのも、抜ける感覚も嫌だけど 半端な今の状況が、なかなかやばいとこを押してることに ばきばきに勃起しだす自身でもって察して、 意を決してずるりと完全に引き抜いた。 ずるりと内臓を道連れにするみたいに出ていくのが 気持ち悪くて気持ちよくて え゙だかあ゙だかわからない音で呻いて 謎の情けなさに泣き出しそうになりながらも 重い体を引きずって完全に向き直る。 どろっと産み出された直腸温度にほかほかになった 彼のやつを、そのままでは気持ち悪かろうと その辺のシーツを手繰ってかなり適当に拭いてやった。 自分の尻も気持ちわるいけどこっちは シーツで拭くのが流石に躊躇われてそのままに。 布団でもかけてやるべきだけど これ以上一切動きたくないし暑いので 寄り添うだけにしておいた。 いろいろ考えなきゃいけない面倒なことが かなり、だいぶ、残っている気がする けれど、眠って起きたあとの自分に ぜんぶ押し付けることにして。 ねなよ、おやすみ、を繰り返し 彼が目を閉じるのを見守ってから、自分も目を閉じて 泥のような眠りにずぶずぶと沈んでいった。* ] (*9) yahiro 2022/05/23(Mon) 2:27:27 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 「満たされた」って性欲以外の何が。 思ったけど声に出さなかったのは 何となくその感覚がわかる気がしたからだ。 「何が」と逆に尋ねられても答えられないけれど 何かが漸く満たされた気がして 満たされた気がすることで足りなかったことを知る。 何かが。いやわかんないけど。 普段なら終わった後は暫くもう放っておいて欲しくなるのに わけのわからない多幸感に満ちていて アナルセックスがすごいのか 好きな人との結ばれることがすごいのか 後者だったら美談なんだろうと思うから 後者と思っておくのがよさそうだ。 この充足感が新たな性癖の扉を開いた所為じゃ ないと思いたいなんて考えて、ふと もしそうだったとしても許すのは彼だけなのだから 結局美談と思っておいても大差はないと気付、 ……いたあたりでアナルセックスに思いを馳せていた なかなかに酷い思考を引き戻される。 いやいや尻のことばっか考えても仕方ないじゃん? そのくらいの衝撃だったわけですし。 ] (*15) yahiro 2022/05/24(Tue) 21:50:51 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 先に名前で呼んだのは自分のくせに 俺が呼ぶのは引っかかるらしい。 なんとなく浮かんだ不満のまま なんでだよって突っかかろうとした出鼻は 噛み締めるみたいに名を呼ぶ声にへし折られた。 そんな声で呼ばれてしまえば 些細なことはどうでも良くなってしまった。 ] やだったら……、せんせぇって呼び続けるけど。 けど……でも、……いいじゃんべつに ふたりきりのときくらいは、誠丞さんて呼んでも。 ずっと、『先生』以外の関係になって欲しかったんだ。 こんなことまでしたんだし、 なってくれるんでしょ?せぇーんせ。 [ 見返りを寄越せだなんてなかなか性格の悪い台詞を どうせ叶えてくれるだろうと信じきった甘えた態度で吐く。 何に、とははっきりと名言しなかった。 何になって欲しいのか自分でもよくわからなくて。 ] (*16) yahiro 2022/05/24(Tue) 21:51:12 |
【人】 入院中 阿出川 瑠威[ 彼は俺の家庭教師で俺はその生徒だった。 それだけだったから、それ以外も欲しかった。 それ以外の時間の彼を知りたかった。 その手始めに欲しかったのが性的な接触で 体さえ交われば彼の特別な存在になれるんだと夢見てた。 彼は主治医で俺は患者だった。 それ以外を欲しがってまた彼が 俺の前からいなくなってしまうのが怖かった。 それでも欲しがる気持ちは消えることなく 変わらないどころかより強い執着として 俺の心の中に燻り続け 欲しがる事すら許されない窮屈さに腐敗していった。 病院から飛び降りようとしたのは、多分故意だった。 母がいないうちに、そう思った気持ちも嘘じゃない けれど それ以上に、あの時強く思ったことは……… ] (112) yahiro 2022/05/24(Tue) 21:52:43 |
【人】 入院中 阿出川 瑠威[ 彼の一番になりたかった。 彼の唯一になりたかった。 彼を自分だけのものにしたかった。 心も体も時間も全て、この先の未来さえも 彼を俺に縛り付けてやりたかった。 彼に俺を刻みつけてやりたかった。 彼に俺を縛り付けて欲しかった。 心も体も時間も全て、この先の未来さえも 俺を彼だけのものにして欲しかった。 俺の唯一は彼以外いない。 俺の一番はずっと彼だった。 そう自覚して初めて 母の気持ちが少しだけわかった気がした。 きっと俺は母に似ているのだと思う。 或いは俺のほうがもっと酷いかもしれない。 愛し方と、歪み方が。 ] (114) yahiro 2022/05/24(Tue) 21:54:52 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 途中で一度手洗いに起きた。 その時に彼をベッドに縛り付けてやろうかと思った。 転院させられたとは聞いたが 現状どういう状況なのかわからないなりに 彼をあの病院に戻れるよう何か手伝えないかと 思っていた気持ちに嘘はない。 けれど。それ以上に。 気付いてしまった。自分の気持ちに。 彼をここから一歩たりとも外に出したくない。 一番になりたかった。けれどそれだけじゃ満足できなくて 二番以下も誰にも譲りたくなかった。 このまま一緒に死んで今を永遠にできたらどんなに良いかと 一瞬過ぎった甘美な妄想に囚われ 彼の無防備な首筋に指が絡むより前に もっと強欲な自分が顔を出したから、何もしなかった。 俺しかいないから俺が唯一なんじゃなく 他にもいるのに俺を選ぶくらいじゃないと きっと俺は満足できそうにない、と。 ] (*17) yahiro 2022/05/24(Tue) 21:55:34 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ となりで身じろぐ気配で覚醒したふりをして むずがるような音で小さく唸って寝ぼけたふりをして 隣の彼に寄り添って、擦り寄った。 が、特に効果はなかった。 可愛いって言ったから自分なりに めいっぱい媚びてみたつもりなんだが? 満足するための方向性がわからない。 シーツを掛けられ離れて行くから 仕方なく離れて行く背を見送る。 綺麗なままの背中を見つめて 背中に爪あとでも付けてやれば良かったと思った。 ] ………どこいくの? [ そんな無防備な格好のままどこかに出かけやしないだろう。 けれどそのままシャワーを浴びて着替えた後なら? どこかへ行ってしまうのだろうか。俺を置いて。 俺の知らない時間にどこで誰と過ごすのかと 考えただけで頭がどうにかなりそうだ。 不安に駆られ咄嗟に飛び起き声をかければ 置いていかないでと嘆く子供みたいな怯えた声になった。 けれど、最中に散々騒いでいたおかげで 久々に発した声は少々ざらついてしまっていて 不自然さは、掠れた声に霞んでしまったかもしれない。* ] (*18) yahiro 2022/05/24(Tue) 21:59:58 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 彼が振り向いただけでほっとして 戻ってきてくれるだけで肩の力が抜ける。 そばに腰掛けた彼の手を勝手に取って自分の頬に寄せ 撫でろと言わんばかりに擦り寄った。 目の前にいてもこれだ。 今頃母は発狂してるだろうなって簡単に想像がついた。 ] なに、ここ病院ってマジなの? 誠丞さんの強めの幻覚で俺が監禁されてるんじゃなく? ……まぁそうだったとしても別に俺は構わないけどさ。 [ 帰らなきゃってこれっぽっちも思わないのが自分で笑えて ちょっと笑い声が溢れる。 死ぬつもりで捨てたからじゃない。 なんとなくわかった。 母が俺に依存していたように、俺も母に依存していた。 今は新しい依存先ができたから、もうどうでもいいだけ。 母も俺が居なくなれば新しい何かを見つけて そしてどうでもよくなるのかな。そうなればいいのに。 だって俺はこんなにも薄情だ。 それがすこしだけ申し訳ない。 母も俺も同じように互いに依存していたけれど 同じ強さじゃないことが申し訳なくて、 だから縛られていただけなんだと今ならわかる。 ] (*24) yahiro 2022/05/25(Wed) 2:16:48 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 彼の言い分が真実ならば、いや真実なわけはないと思うが 例えばの話。もしそうならば…… 医者としての経歴に傷が付かないのか?なんて 考えてみてもよくわからなくて。 頬に感じる彼の体温に懐きながらじっと彼の顔を覗き込む。 正気に見えるけど。俺よりは余程。] ん。多分……良く眠れたんじゃないかなぁ。 ひさしぶりに、そんなに頭も痛くないし 耳鳴りもしない。それに…… そこまで死にたいとも思わない。 ……あー……でも、多少は熱っぽいのかな。 誠丞さんの手、きもちいい。 [ 全然そんな気はしないけれど。 ただ甘えたいから心配を誘う。 誘っているのが『心配』だけにしては 最中にでも聞かせるような 甘ったるい「きもちいい」だったが この仏頂面はそのくらいで動じやしないだろうし 冗談だと伝える意味でちょうどいいだろうと すこしだけ、悪戯な気持ちで悪ふざけを。 ] (*25) yahiro 2022/05/25(Wed) 2:17:29 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 水を取りに行くだけのことを先延ばしにさせたくて 彼の肩にもたれ掛かったりしながら彼の言葉を反芻する。 医者が、患者を選んでいる。 どうして俺を選んでくれたの?なんて しおらしい気持ちはもうどこにも残ってなくて 心地よい充足感だけが胸にあった。 彼が俺を選んでくれた。 その事が嬉しくて。嬉しくて。 夢なんじゃないかと疑う気持ちはなくはないけれど 夢なら終わりにしたらいいだけだと極端な考えが浮かぶ。 だって彼が俺を選ばない現実なんて 必要ないのだから仕方あるまい。 どうせ捨てるつもりだった。 捨てることに改めて躊躇が生まれることもない。 ] (*26) yahiro 2022/05/25(Wed) 2:18:24 |
【赤】 入院中 阿出川 瑠威[ 引き止めるために言葉を探す。 どうせ水を取って戻るだけだ。 その言葉を疑っているわけじゃない。 それなのにそれだけのほんのわずかな間でも 連れて行ってくれないのなら行かせたくなくて。 けれど今までただの医者と患者の関係を貫いていたせいで 共通の話題なんてひとつしか思い浮かばなくて ] ……俺が入院してる理由は……一応『目』なんだっけ? 入院期間は……? ……────完治するまで? [ あれ?入院費どうなるんだろう? 本当に彼の言うとおりここが病院ならの話だけれど。 信じてはいないけれど嘘でもどうでもよかったから 話半分に受け取って、信じているていで尋ねた。 退院するつもりなんて、これっぽっちもないけれど。 彼の医者としての経歴に傷が付くのなら あの病院に返してやらなきゃとは思う。 思うのに、ここにいて欲しくて。 だからこそ、完治するまでかと尋ねた。 治らないと理解しているから。 実は治せるなんて夢みたいな言葉をもし今聴いても きっと悪夢にしか聞こえないんだろう。* ] (*27) yahiro 2022/05/25(Wed) 2:24:36 |
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