避けもせず、反撃もしない。


苛立ちが増し、噛む力を強めていく。
悦ばせる行為だと理解していてもこの感情を止められない。

――…けど、食い千切ることは無い。
暫くすれば口内からその手を追い出し君から視線を外す。

突然の大声に耳がキーンなった。キーン。
まぁきっとそれもすぐにおさまり。

「へぇ……？」

意外そうな顔。それからとてもイイ笑顔に。
何せこんな爛れた場所でそんなピュアッピュアな反応をみることになるとは思わなかったのだ。パンダを見る目付き。

「啼かせたい相手、いるの？いるんだ？
　大丈夫？？」

珍しい生き物過ぎて失礼な心配まで始める。

君の苛立ちに与えられる痛みを全てして、コレは笑う。

歯形のついた、ひょっとしたら血の滲んだかもしれない手を、己の口元へ持っていき、見せつけるように赤い舌で舐め。

それからまだ、じっと君を見ている。
濃い血色で、。まだ与えてものがあるなら受け取ろうと。

視線から逃れるように身体を仰け反らせ。視線が四方八方に泳ぎ。

「、なん、だよ……、？？？？？」

ピュアッピュアなのであなたの言葉の意味を何も理解していない。スペースポルクス再び。

「つか、……な……いないって、……た！！！！
　、から、ほんとに、ちがう……あ！！！！」

動揺しすぎて音量バランスがしっちゃかめっちゃかである。
恥ずかしさでじわ、と頬が染まってきた。

視線を逸らして尚体勢は変わらないからその行為は見えていた。

「」

与えるものなんてない。もうここに居たくない。
ｿﾞﾜｿﾞﾜとした気配を感じて、それから。

――…それから君から感じるを苦痛に感じた。

君の傍から逃げるためにソファから落ちることも構わないというように暴れ出す。
拘束は外れなくとも体を動かせるなら逃げることは出来るはずだ。

体を捻って、足を動かして、扉に視線を向けて。
早く、早く出なくては。

「わーぉ、見事な自白っぷりだ。」

しっちゃかめっちゃかしどろもどろの音量。
否定する程に色づく頬の色が肯定を伝えている。

「……ひょっとして、？
　女でも男でもいいけど、ことない？」

まだわからないようなら、■■■ピーーを■■ピーに■■■■ピーーーしたり……と補足説明が入るだろう。

ボソ、と慈愛に満ちた微笑みのまま呟く。勿論中身を見たところで解るとはあまり思ってないのだが。


激しく暴れる君の拘束を解いてやる。

本能のままに逃げようとする君を。

そのまま見逃すだろう。

「。」

――ところで、カンテラと鈴は忘れず持ったかい？

「さ、……っきからなんっなんだよぉ……！！」

年頃（？）の健全な男子にその話題は危ない危ない危なーい！！
実はそういうのとは無縁の生き方をしていた男である。
補足説明されれば目をきゅっと瞑り首をブンブン振って。

「う゛う゛ぅ゛！！！！」

泣きそうな顔で唸り、の後。

「も、」

台から立ち上がり勢い良く走って開きっぱの扉から逃げ出しました。
無知純粋ピュアマンには刺激が強すぎたかもしれん。

「おやおや。」

啼かせる話をする前に泣いてしまった。

脱兎の如く逃げ出した君を見送る。
背後から愉快そうな笑い声だけが君を追いかけたかもしれない。

「は？ …あ、あッ………？！」

君の小さな声にゾッとした。思わず振り返る。
…のだが、拘束が解けた際に勢いよくソファから落ちた。

痛みに悶え唸る。少ししてから口を開き、

「………き、みの……望むもの、は………無かった、だろ。
ボク、は……何も、何も何も……持ってない、から」

あの町は嫌い。自分を縛っていたから。
好きになんてなれない。

カンテラ(と鈴)には目がいかない。
ズキズキと痛む。傷を押さえて這うように扉へ向かう。

足がもつれて上手く、立てなかったから。

「確かに、お前は私の想定したものは持っていなかったが。
　お前はそれ以上に私が望むものを持っていた。」

満足そうな、称賛するような、そして羨望するような声。
痛みに悶えながら恐怖から逃避せんとする君を、どこまでも慈愛に満ちた瞳で、見送る。

「――君は、間違いなく“人”だった。」

君のいたソファに身を沈めるように腰掛け、治療装置を部屋の外まで呼んでおこうか。
カンテラと鈴は届けてあげようかな。



やがて君が逃げ仰せたなら、がらんどうの部屋に声をひとつ。

「…………は？ 」

意味が分からないと疑問符ひとつ。
でも、それ以上の追求はない。

君が嫌い。嫌いだ。

ここから逃げ出した後、カンテラの存在に気づくだろう。
でも声はかけたくないから、君が届ける日を待つだけだ。