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【秘】 わるいおとなの ラサルハグ → 世捨人 デボラとある空き教室。 子供達が使うはずだった部屋の空気には大人たちの欲と熱が色濃く残っている。 先程まで同僚たちが生徒に行っていた"治療"の残滓を、男は顔色ひとつ変える事なく黙々と片付けていく。分厚いコートは今は脱ぎ捨てられ、シンプルなシャツにズボンといったほっそりとした体のラインを描く身軽な格好をしていた。 私はカウンセラーなどではないし、ましてや「先生」と子供達に呼ばれる資格などない。都合のいい使い捨ての手駒だ。 男は同僚たちが子供を貪ることに疑問を一切感じていない。それもまた愛の一つだと信じているから。"治療"として子供達の為になるのだと信じているから。 ……ただし。 「それは駄目」 空き教室で煙草をくゆらせていた同僚を見つけるとすぐさま距離を詰める。 細く長い指で素早く取り上げて地に落とし、ぐしゃりと紫煙ごと嗜好品を踏み潰す。声を荒げない男の代わりにヒールが苛立たしげに甲高く鳴いた。 「煙草は流石に"治療"とは関係ないでしょう。子供達の教育に悪い。控えてほしい」 ぴしゃり。そう言い放てば言葉の代わりに不服そうな舌打ちが返ってきた。そのまま自分と同じ"悪い大人の仲間"は男を横切り部屋を後にする。 (-274) もちぱい 2021/06/01(Tue) 5:17:18 |
【秘】 わるいおとなの ラサルハグ → 世捨人 デボラ飛び散る体液を拭き、ひっくり返った物を直し、窓を開けて換気する。 「…………」 鬱蒼とした森を見下ろすように月が輝き星が瞬いている。部屋を満たしていた澱んだ空気とはまるで違う清々しい輝き。 男はしばしの間自分を見下ろす光を注視した。どことなく、胸の奥がざわめくのを感じながら。 ギムナジウムの空気が変わりつつある。 ブラキウムがとっておきの賭けに勝ち、自分よりも上の立場である大人をも動かした。 シェルタンが周りの視線に臆すことなく施設で大人達が行っていることを打ち明けた。 水面に生まれたさざなみは広がり、周囲を静かに飲み込んでいく。 搾取されるだけの非力な存在だと思っていた子供たちが。自分が守るべきだと思っていた子供達が。 果敢にも立ち向かい、大人たちに反旗を翻そうとしているではないか! 「此処は大きな変化が訪れるのかもしれないね。そう遠くないうちに」 開け放たれた窓から風が流れ込む。 煌々と燃える炎のような髪を梳くように通り抜け、大人たちの欲で熱された部屋の空気を鎮めていく。 愛の為だと信じて子供が嫌がることも行なってきた。悪い大人である自分は淘汰されるだろう。 だが、それよりも。 「ふふ……ふふふ。嗚呼、これを成長というんだね」 愛する子供たちの成長を感じ取れた事が何より嬉しくて仕方がない! (-277) もちぱい 2021/06/01(Tue) 5:19:58 |
【秘】 全てを失った男 ラサルハグ → 世捨人 デボラうっとりとした様子で男は微笑み、天を仰ぐ。 宙を見やる水色の瞳の表面に輝く星々が降り注ぐ。 「…………」 愛しているよ、子供達。 ……嗚呼、でも。 「私も……私も、己の子の成長を……見てあげたかったな」 (-278) もちぱい 2021/06/01(Tue) 5:21:18 |
【秘】 わるいおとなの ラサルハグ → 世捨人 デボラとある男の話をしよう。 その男はギムナジウムの元生徒だった。 病を抱えながらも多くを学び、そして無事に卒業してこの箱庭から巣立っていった。 "呼び出し"を受けたこともないし、生徒間で大きな問題があった事もない。箱庭の子供達の中では非常に運が良かった生徒だったといえるだろう。 その生徒は順調に育ち、やがて一人の女性と出会って愛を誓う。絵に描いたような幸福。ありふれた、けれどとびきり愛しいささやかな温もり。 そこまではよかった。そう、そこまでは。 「……望んだのが悪かったのだろうか。これは高望みというものなのかな」 男と女の間に子供が出来なかった。 否、産声をあげて親となった二人の元に姿を現すことがなかった。 男の子供は全て生まれてくる前に死んだ。 女も胎どころか胸を痛め、自分と愛する夫の為にと手を尽くそうとして……数度の流産、死産を繰り返してやがて衰弱して事切れた。 (-338) もちぱい 2021/06/01(Tue) 17:03:37 |
【秘】 わるいおとなの ラサルハグ → 世捨人 デボラ何がだめだったのだろう。何がいけなかったのだろう。 大切なものたちを喪った男は最早何かを考える余裕がなかった。死んだように生き続け、やがて"母校での仕事"の誘いを元クラスメイトから持ちかけられる。 救いだと思った。 病を克服し恵まれた学校生活を送る事ができた男にとって、ギムナジウムは大恩ある場所だった。 多くを喪った今、何処に行こうと何も怖くない。むしろ世話になった場所で、子供達の力になれるなんて自分には過ぎた幸福だとさえ思った。 だから、喜んで承諾した。 それが『自分』という最後の持ち物を壊すことになるとも知らずに。 (-339) もちぱい 2021/06/01(Tue) 17:04:17 |
【秘】 わるいおとなの ラサルハグ → 世捨人 デボラ実態を知ってしまった。 自分の学び舎の裏を知ってしまった。 子供達を守り、支え、愛する純然たる気持ちを抱えた男はすぐさま他の大人達に異議を唱えた。 けれどたかが地位の低いさして力のない大人ひとり、いったい何が出来るというのだろう。 男はすぐに上の立場の人間たちと同僚から『調整』を受けた。 利用するのに都合の悪い記憶は削ぎ落とし、価値観を自分たちの良い方向へと捻じ曲げる。 子供達のアフターケアの為に用意された巻き戻しさえも悪用し、徹底的に。 子供達と違って容赦することも情けをかける必要もない。 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。 一年かけて余すことなく骨の髄まで侵し尽くし、ラサルハグというギムナジウムにとって都合のいい駒が出来上がった。 でも、男はそれでも。 (-382) もちぱい 2021/06/01(Tue) 19:51:20 |
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