陽葉 シロマ(匿名)は、メモを貼った。 wazakideath 2022/07/10(Sun) 21:21:57 |
【秘】 陽炎 シロマ → 甚六 カナイ数度、瞬きをする。 そんなことは想像もしていなかったと言わんばかりに。 「……っはは!殺すなんてとんでもない!」 笑い飛ばす少女の瞳は誰も映さない。否、映せない。 過去の人間は、未来を見ることさえできない。 過去になった人間なら? 「ちゃあんと牧夫だって出席簿に載ってるよ。 誰一人仲間外れにするもんか。 」現実における生死の話をせず、自分の尺度でだけ話す。 標的は全員≠セと。 この死者は、生者の尺度を理解できなかった。 「……ねぇ、ずっと一緒にいようよ。 こんな生き辛い場所じゃなくてさ、もっと素敵な所で。 好きなことをして過ごそうよ。 そこでは男だからとか、女だからとか。 誰にも言われない───いや、言わせない」 手を重ねたまま、十七歳の少女は願う。 「ねえ、」 ほんの一瞬、目を伏せた。 だけど先生だから、貴方の目を真っ直ぐ見据えて──── ▽ (-5) wazakideath 2022/07/10(Sun) 21:36:20 |
【人】 陽葉 シロマ>>2:62 >>2:63 マユミ 「き……ら、き、ら、ひ、か、る……」 目を伏せ、うろ覚えの歌詞でオタマジャクシの後を追う。 演奏が終わり、ややあって目蓋を開けた。 「ありがと。 やっぱりきらきら星は弾ける人が多いんだねえ」 水筒を隣の椅子に置き、ゆっくりと立ち上がる。 壁に貼られたまま朽ちた掲示物を見ながら、美術館の中を回るように歩き出す。 「……あと、牧夫が見つかった時もありがとね。 私はああいうの、わからなかったから助かったよ」 知っていれば、現場の保存をしたのだろうが……白間は、指摘されるまで気付かなかったから。 暫く歩くと、ピアノ側に置かれていた専用の椅子に腰を下ろす。 「多分弓道部で色々あったから、知ってたんでしょ? 思い出したい記憶でも無いだろうにさ。 辛いこと、思い出させちゃったんじゃないかって……」 (1) wazakideath 2022/07/10(Sun) 21:58:06 |
【赤】 陽葉 シロマどこかの教室で、少女が教鞭を執っていた。 「 鳥飼 。」「 夢川 。」「…… 司馬 。」名前の増えた出席簿を満足気に読み上げ、閉じる。 前回との違いは、更に名前が増えたことと──窓から見える夜空が、白み始めてきたことだろうか。 「学校って感じ、出てきたな〜。良い調子!」 笑顔で頷けば、窓へ視線を向ける。 その横顔には僅かに哀愁が漂っていた。 「……急がないとね」 (*1) wazakideath 2022/07/10(Sun) 22:12:28 |
【秘】 陽炎 シロマ → 甚六 カナイ「……どうして?」 寂しそうな相貌が貴方を見下ろした。 何故殺したなんて、言うのだろう。 何故良くないなんて、言うのだろう。 「皆連れて 来れば 、皆一緒にいられるよ。卒業したって、ずっと一緒。 寂しくなんて、ならないよ? なのに、どうして」 連れて行く、ではなく。 連れて来る、と少女は言った。 貴方だって、もう此方側なのだから。 過去に留まれば、未来を見ることは叶わない。 将来を奪うことに他ならないことを、少女は理解しない。 「……誰か嫌いな子でもいるの?」 返ってきたのは、的外れな疑問。 皆と一緒に居たくない理由なんて、それしか思い浮かばない。 (-48) wazakideath 2022/07/11(Mon) 10:22:57 |
【人】 陽葉 シロマ>>2 マユミ 「私は……う〜ん……」 尋ねられれば、こちらも歯切れを悪くする。 どう言ったものかと、言葉を選んでいた。 「まだ実感が湧かない、って感じ? 自分より気が動転してる人がいると逆に冷静になれる、みたいなこともあるだろ?」 それにさ、と言い辛そうに口を開く。 貴方の横顔へ、伺うように視線を向ける。 「……外に出られないってことは、多分外からも入れないんじゃないかと思う。 ってことは、だよ。 犯人がこの中にいるってわけだから。 そっちの方が気掛かりでね」 嘆息と共に、鍵盤へ指を伸ばす。 ……偶然、鳴らない箇所だった。 「牧夫と誰かと揉めてるなんて、聞いたことも無いし。 あいついじめとか、家同士の諍いとか、そういうのとも無縁じゃないか。 揉め事なら私の方が有り得るよ」 (17) wazakideath 2022/07/11(Mon) 10:50:08 |
【神】 陽葉 シロマ『またか。……嫌になるね、ほんと』 親戚の少女が死んだと知って、狼狽はしなかった。 やはりどこか他人事で、死を実感できない。 『裏道にも何かあったのかと思った。 ひとまず怪我してないなら、それでいい。 あと栗栖も見当たらないんだね? 私の方でも探してみるよ』 新たな遺体の様子を文字で見ても、心は波風立たず凪いでいる。 『もう何があってもおかしくない。 歩き回る以上は、マユちゃんもいつ何があっても良いように身構えていて。 裏道回収したら、最初に集まった教室に戻ろう』 (G12) wazakideath 2022/07/11(Mon) 15:20:38 |
【赤】 陽葉 シロマ少女は真剣に、時折相槌を挟みながらその話を聞いていた。 生徒の悩みを解決しようと、真摯に努める教師の様に。 「……ふぅむ。同意の上でも、となれば。 原因は単純だ、只怖かったんだろうね。 人間は本能で死ぬのが怖いのさ。だって、死んだことが無いんだから」 最初に感じたのは冷たさにも近い熱さだった。 脚が燃えるように熱くて、次に喉を焼く痛みにのたうち回った。 焼けた肉の臭いがする。 「御国の為に命を捧げよう、なんて教わって。 そう思っていたけれど──実際死ぬ時は、本当に恐ろしかった。 理由なんて無いんだ、 とにかく苦しくて…… 熱 く て 「…………、……」 教卓が視界に入る。そこで自分が俯いていることに気が付いた。 嗚呼いけない。先生なのだから、前を、生徒を見ていなければ。 (*4) wazakideath 2022/07/11(Mon) 15:42:02 |
【赤】 陽葉 シロマ「…………苦しむ、時間が……長ければ、それだけ恐ろしく思う時間も長くなる。 即死とか、それに近い死に方ならきっと怖がらせないんじゃないかな」 ゆらり、顔を上げた。 額に汗が滲んだ気がして、手の甲で拭う。 当然、何も付かなかった。 「ただ、即死は見た目が酷くなりがちだ。 綺麗なままにしたいなら、足を縛っておくか、高い所から…… あ。 」自身の髪を指し示す。 「そのリボンで小指と小指繋いでみたらどうだろう、 それに……一緒なら、飛び降りても怖く無いかも」 きっと生者がいれば、そんなことはないと反論するであろう提案をした。 (*5) wazakideath 2022/07/11(Mon) 15:43:11 |
【秘】 陽葉 シロマ → 不知 ミナイぱき、ぱき。 校舎裏で、枝を折る音が続いていた。 明らかに木に登って折ってきた太さの枝を持ち、少女が細かい枝を取り除いている。 ぱき、ぱき。 暫くして、身の丈よりも長い木の棒が生まれた。 (-73) wazakideath 2022/07/11(Mon) 19:46:58 |
【秘】 陽葉 シロマ → 甚六 カナイ「だよねぇ、皆良い子だ。 だから深雪も“離れ離れは嫌だ”って思ったんだろうしね」 うんうん、と場違いな頷きを返す。 話が噛み合わない。 丁度、ラジオの波長がずれているかのように。 「……実を言うと、最初は生徒が一人いれば良いやって思ってた。一人でもいれば、先生はできるし。 でも──深雪が皆一緒が良いって言ったからさ。 多いに越したことはないかな、と思って」 全員を狙う理由はその程度。 その程度で、少女は青年を死に至らしめた。 いや。 殺した自覚さえ、未だ無い。 「初めてできた生徒の頼みだもの。 ──私、叶えてあげたいんだ!」 その笑顔は、普段の大人びた雰囲気など微塵もなく……年相応に無邪気だった。 (-95) wazakideath 2022/07/11(Mon) 22:46:37 |
【人】 陽葉 シロマ「あ、」 硝子の割れた音の方へ向かっていると、見覚えのある帽子が落ちていた。 硝子を踏み、拾おうとして──永瀬の言葉を思い出した。 そっと離れて、窓の方を見る。 破片で怪我をしないように気を付けつつ、窓から下も覗き込んだ。 「……ま、君はそんな死に方しないよね」 姿勢を戻し、スマートフォンを取り出す。 さて、どうしたものか。 少女は暫し考えていた。 (29) wazakideath 2022/07/12(Tue) 7:46:54 |
【秘】 陽葉 シロマ → 不知 ミナイ声に顔を上げる。 ああ、と表情を緩めて枝を示した。 「栗栖が見当たらないだろう? 探し回ったけど……後はもう、池くらいしかないと思ってね。 これで底をこう、つんつんする」 口振りからして、最早生存を諦めているのは確かだった。 人間は池の底で生きていけないのだから。 「木登りは 今も 得意さ。大人っぽさを売りにしたいから、内緒だけどね」 過去形であることを訂正するように、冗談めかして付け加える。 (-117) wazakideath 2022/07/12(Tue) 13:15:09 |
【秘】 陽炎 シロマ → 甚六 カナイ繰り返し、伝えた筈だ。 本心を、貴方に明かした筈だ。 なのに返ってくるのは、拒絶ばかり。 「……、伝わらないかぁ」 その笑顔に影が差す。 理解されないことは、誰だって寂しい。無論、それは死者も同じ。 だと言うのに、分かり合えない。 どうしてだろう。 「同じ人間でも、分かり合えないんだ。 直ぐに分かってもらうのは難しいよね。 もしそんなことができるなら、戦争だって起こらなくて……私だって焼けなかったんだから」 しかし。 「でも、大丈夫」 ここで諦めてはいけない。 何故なら────、 ▽ (-130) wazakideath 2022/07/12(Tue) 14:32:18 |
【秘】 陽葉 シロマ → 不知 ミナイ「私もそう思うよ? ただ、後はもう山の中と池の中くらいしか残ってる場所が無い。 この暗さで山に入るのは危ないし、消去法さ」 貴方の笑顔は、何だかいつも通りに見える。 こんなことがあった直後で、いまだ問題は解決していないというのに。 繕っているのか、それとも……いや、繕っているのは己も同じか。 「皆がそんな薄情な子じゃないって、わかってはいるけどね。 どちらかと言えば、そう意識することで己を保ってるみたいな感じなんだ。 でも……うん。そう言われると嬉しいよ」 ありがとう、と慣れた言葉を口にして。 「……確かに、体格や体質はどうしても大きいな。 格好良さって、そんなことだけで決まらないのにさ」 ふと、気弱な彼のことを思い出す。 皆は彼を意気地なしと呼んだけれど、私はそう思わなかった。 (-135) wazakideath 2022/07/12(Tue) 16:27:17 |
【人】 陽葉 シロマ>>31 マユミ 「まさか。マユちゃんの言ってたことを疑ってるわけじゃない。 でも、だったら幽霊がそうした理由っていうか動機?がわからないだろう」 普段感情を表に出さない貴方が、唇を震わせている。 ……友人が死んで、何も感じない人間などいるわけがないのだ。 珍しい姿を見つめた後、こちらも淡々と告げる。 「これまで、肝試しや廃墟探索でこの校舎を訪れた人達はいた筈だ。 だけど死者が出たって話は聞いたことがない」 しかも市の所有する敷地だ。もしそうなれば、市役所が動くだろう。 しかし、現実にはこうして容易く侵入できている。 「生きた人間への怨みとかがあるんなら、前の人達も死んでないとおかしいよ。 ……マユちゃんは何か思い当たる理由、ある?」 (32) wazakideath 2022/07/12(Tue) 18:51:12 |
【独】 陽葉 シロマこれ、エピローグで各位から蜂の巣にされんか? どうも〜〜〜!!!混沌/悪で〜〜〜〜〜す!!!!!!! (-146) wazakideath 2022/07/12(Tue) 19:02:25 |
【赤】 陽炎 シロマ気遣われなかったことに安堵しつつも、生徒に助けられたことには違いない。 先生の道は険しいな、なんて思いながらセーラー服の背中を見送った。 「ああ、……いってらっしゃい」 そうして、教室を再び静寂が支配する。 短いチョークを指で摘めば、黒板に大きく『自習』の二文字を書いた。 チョークを摘んだまま、思う。 「……、…………」 夢川と違って、自分は無理矢理連れて来たようなものだ。本音を言えば、やはり自ら此方側に来て欲しかった。 しかし結果的には、変わらない。 彼なら……匠介造なら、もっと上手くやれただろう。 彼に憧れて、彼のような人になりたくて、共に教師になろうと約束を交わしたのだ。 「……ま、時間だけなら気が遠くなる程あるからね」 これから、理解してもらえば良い。 自分は自分なりのやり方で、先生になれば良い。違う人間なのだから、全く同じようにできるわけがないのだ。 そう自分を納得させて、チョークを置いた。 永い刻は人を狂わせる。 それは、死者も同じこと。 (*8) wazakideath 2022/07/12(Tue) 19:33:41 |
【秘】 陽葉 シロマ → 不知 ミナイ「随分周りくどかったじゃないか。 いや、私も人のことは言えないか」 触れられた手を、そっと握る。 生者の温もりを感じ、なかった。 貴方に体温が無いというわけではなくて。 これは私が、……。 「そうだね、朝が来たらもう騙し続けるのは無理だろう。お天道様の下は、どうしても歩けなかったから」 陽光の温もりは、生者の特権。 死者がその温もりに包まれれば、たちまち焼けてしまう。 「私はね、自分が在りたくて格好付けてるんだよ。 ……しかし、まあ。 実を言うと、個人的にはもう満足してるんだ。 でも、可愛い生徒≠フお願いだから」 重なる掌は熱を持つ。まるで、この少女が焼かれているかのように。 ▽ (-187) wazakideath 2022/07/13(Wed) 11:25:39 |
【秘】 陽炎 シロマ → 不知 ミナイ「……教師になるという夢を、諦めたくないのさ。 でも、生徒がいないと先生はできないだろう?」 生徒≠ヘ、一人いれば事足りる。 だから最初の一人だけでも構わないと思っていた。 けれど。 「そんな中できた初めての生徒に、皆一緒がいい≠ニ言われたら──叶えたくなってしまうというものだ」 彼は、『全員』を願った。 だから、今もこうして姿を表している。 (-188) wazakideath 2022/07/13(Wed) 11:26:41 |
シロマは、内緒話を始めた。 (a78) wazakideath 2022/07/13(Wed) 17:29:27 |
【秘】 陽葉 シロマ → 傷弓之鳥 マユミ「──だったら、マユちゃんはどうする?」 しん、と風の音が止んだ。 潜めた声は、確かに貴方の鼓膜を揺らす。 「私は、皆の意思を尊重したい。 犯人を明かして、罰を与えようと。 たとえ犯人を突き止めない選択をしようともだ」 まるで、その口振りは犯人を知っているかのようだった。 しかし今は言えない、と。 まだ庇うという姿勢にも捉えることができる。 「……その幽霊についていく意思を見せようとも、ね」 (-214) wazakideath 2022/07/13(Wed) 17:31:51 |
【秘】 陽葉 シロマ → 奔放 クリス帽子を見つけ、幾つか見回った後。 少女の姿は、屋根の上にあった。 遠くにある夜明けの気配を見つめ、ふう、と息を吐く。 数え切れない程の夜明けを見た。 しかし、これ程充実した夜は無かっただろう。 「…………どうだい、栗栖。 探し物は見つかったかな」 何処へともなく、語りかける。 (-215) wazakideath 2022/07/13(Wed) 18:02:46 |
【秘】 陽炎 シロマ → 奔放 クリス「終わりなんて無いさ。 寧ろこれから始まるんだ」 響く声に、何ら疑うことなく答える。 自身が死者として在るが故に、驚くべきことというものは数少ない。 「満たされたら、成仏?するのかなぁ……」 口振りはどこか他人事のようだった。 僅かに明るくなり始めた夜空のお陰で、少女の表情は良く見える。 しかし、その足元に影は伸びない。 「でも予想は幾つかあるんじゃない? それとも、死者の気持ちは想像も付かないかな」 東の空へ、血潮の無い手を透かした。 (-217) wazakideath 2022/07/13(Wed) 18:45:45 |
【独】 陽葉 シロマ嫌だッ俺は成仏しない 除霊ならされたい シロマの遺志関係なく存在を否定されたい 成仏は嫌だッッッッッ (-221) wazakideath 2022/07/13(Wed) 20:17:39 |
【秘】 陽炎 シロマ → 奔放 クリス「正解。 手段に関しては、模範解答だ」 手を翳しているというのに、少女の眼孔へ薄明かりが差し込む。 眩しそうに目を細めた。笑ったようにも、見える。 「私だって、生きて教師になりたかったさ。 勿論、平和な世界でね。 でも時代がそうはさせてくれなかった」 その言葉は、この亡者の生きた時代を示していた。 少女にとっての最良の結末は、時を巻き戻しても実現できない。 戦争という数え切れない程の因果を持つ歴史を変えることなど、不可能だ。 ───何かを憎むこともまた、難しい。 原因が多岐に渡る大きな歴史の渦を、渦中から観測するようなものである。 「……足りない調査は妄想で補おう。妄想で構わないのさ、筆者の気持ちなど。 他に尋ねたいことがあれば答えよう。 流石に答えを尋ねられたら誤魔化すけれどね」 (-222) wazakideath 2022/07/13(Wed) 20:41:39 |
【秘】 陽炎 シロマ → 不知 ミナイ「……? まだ君は私の生徒じゃないと思うんだけど……なりたいなら、歓迎するよ」 握っていた手を離した。 どこからともなく、出席簿を取り出す。 そこには『鳥飼』『夢川』『司馬』、三名の生徒名が記入されている。 氏名が増えていないことを確認し、出席簿を閉じた。 「理想の先生は、こんなことしないさ。 でも、私はこうでもしないと約束を叶えられない。 夢の叶え方は誰しも同じじゃないだろう?」 折った細く短い枝を片手に持ち、ゆったりとした足取りで歩き始めた。 教師が教室を歩き回るように、静かな歩みで。 しかしその表情は、いつもより暗い。 ▽ (-226) wazakideath 2022/07/13(Wed) 21:24:58 |
【秘】 陽炎 シロマ → 不知 ミナイ「矢張り、……生者と死者が理解し合うのは難しいんだね」 枝の先端を貴方に向けて、下げる。 その梢には、開くことの叶わなかった新芽が付いていた。 「悲しいな、嘘だなんて。 そんなこと言わないでおくれよ」 悪い事であることは否定しない。 理解した上での行いだ。 しかし──事実とはいえ。 虚構として扱われれば、誰だって虚しくなるというものだ。 それは、死者でさえも同じこと。 (-227) wazakideath 2022/07/13(Wed) 21:25:18 |
【秘】 陽炎 シロマ → 奔放 クリス「悪いね、変化は生者の特権だ。 これ以上にもこれ以下にもなれないのさ」 死とは、停滞だ。 朽ちるのは生者の記憶であり、死者は歩き出すことなどできない。 だからこそ往々にして、彼らは生者と対立し、否定され除かれてきた。 「ふむ、なんだい。 君が何かに憧れるなんて、あまり想像もしていなかったけれど」 屋根の棟に上り、そこに腰を下ろす。 立てた両膝に肘を付き、顎に両手を添えて。 雑談でも聞くような姿勢になった。 「形があるということは。きっと理想や夢物語ではなく、実在していたのだろう」 (-230) wazakideath 2022/07/13(Wed) 21:44:54 |
【秘】 陽葉 シロマ → 傷弓之鳥 マユミ「どこにも無いさ。私の意思は、もうどこにも」 ぽつり、音が溢れる。 「でも、感情はある。 だから罰するつもりが無いと聞いて安心したよ」 鍵盤へ手を伸ばす。ゆっくりと、主旋律だけを奏でる。 それ先程演奏されていた、失われた校歌だった。 「できれば深雪にも聞いてくれるかい、その話。もう聞いていたらすまないね」 軍歌のような拍子で音色を刻んでいく。 その旋律を聞く横顔は、どこか虚しさを孕んでいた。 時折音が欠けるのは予定調和で、ご愛嬌。 ……弾き終えれば、だらんと腕を下げる。 「強いて言うなら、それが私の意思だ」 ▽ (-235) wazakideath 2022/07/13(Wed) 22:19:15 |
【秘】 陽葉 シロマ → 傷弓之鳥 マユミ「将来の夢はあるかい」 少女は教師を志していた。 今となっては、諦めた夢だ。 「叶えたい願いはあるかい」 さて、願いなどという崇高なものは抱いていただろうか。 少なくとも、今は、見当たらない。 「それはこの少年時代を捨ててでも、掴みたいものかい」 モラトリアム。青年期にだけ与えられる、停滞の時間。 尤もそれは、誰に対しても与えられるものではない。 否応なく大人にならざるを得ない子供もまた、存在する。 「正直な所、君は生き辛そうに見えるから。 君が彼についていくのなら、私は止めないよ」 (-236) wazakideath 2022/07/13(Wed) 22:19:49 |
【秘】 陽炎 シロマ → 不知 ミナイ「おや。そういえば 最近の 先生は違うのだっけ。……うん、まずは前提が違う。そこを正そう」 すう、と息を吸った。 ように、見えた。 『何のこれしき、戦地を思え』 『足らぬ足らぬは、工夫が足りぬ』 『 ────欲しがりません、勝つまでは! 』凛とした声が貴方の耳に届く。 それはかつて、戦時中に広められたスローガンだった。 時が変わり、今は教科書でしか見られないけれど。 「……さて。きっと聞いたことがあると思う。 私はそんな世の中で生きた人間だ。 君たちとはね、今日が初対面だよ」 ぱき。持っていた枝を折り、捨てる。 その瞬間、思い出せるかもしれない。 ──白間家に、子供などいないことを。 子宝に恵まれず捨てられた一人の女が、ギャンブルに溺れていったという世間話を。 「私にとって、教師とは理想を押し付けるものだ。……自分に対してもね」 ▽ (-238) wazakideath 2022/07/13(Wed) 22:50:59 |
【秘】 陽炎 シロマ → 不知 ミナイ一緒に遊んだって、夜が明けたら帰ってしまうだろう。 大人になったら、遊んでくれなくなってしまうだろう。 永い時の中で、そんな子供は何人かいた。 その度に、生者を留める難しさを知って。 結局、この手段しか無いと考え至った。 「自分の意思を殺して、日の本を支える子供を育てる。 個より全。己のことは後回し。 先生って、そういう存在だった」 始めから明かすことはできなかった。 最初から、死んでいたのだから。 「寂しい?そんなこと先生が思うものか」 生きた時代が違えば、精神構造というものも変わってくる。 勿論、現代的な思想を持つ人間もいただろうが──白間コズヱは違った。 彼女が寂しさを感じていなかったかと言えば、やや違う。 どちらかといえば、虚しさの方が強かった。 日々朽ちる校舎。教室を吹き抜ける隙間風。 生徒で賑わっていたあの光景は、もう二度と訪れない。 「でもね、そう思ってくれたことはすごく嬉しい。 これは本当だよ。 その気持ちは今のものだと、思うから」 (-239) wazakideath 2022/07/13(Wed) 22:52:58 |
シロマは、負けたから、欲しがることにした。 (a80) wazakideath 2022/07/13(Wed) 22:54:58 |
【秘】 陽炎 シロマ → 奔放 クリス「無茶を言うなあ。君らしくはあるけど」 冗談めかして溜息を吐き、呆れて見せた。 生者からすれば、彼女の放課後はまだ続いていると言えるだろう。それを想像できないわけではない。 「私と君、ひょっとして在り方は近いのかもしれないね。 私が目指すべきものは、もう時代によって失われてしまった。 愚かだとは思っているが、それでも私はこうするしかなくて──手段だって、ひとつしか無かった。 でもね、君」 朝日が滲みだした、東の空。目の前に、貴方がいるかのような気軽さで。 手を伸ばし、頬の輪郭をなぞる。 そんな、仕草だけをした。 「成り下がっている、なんて言い方はよしてくれ。 民主主義じゃ人間は平等なんだろう? その標がどれだけ高嶺に在ったかは知らないが、現人神よりは近かったに違いない」 彼女なりに冗句を含みながらも、言外に。 卑下するな≠ニ、そう告げる。 命が紙屑のような時代でも、人の個が否定され、戦車の歯車として生きることを強いられた時代でも。 人々は、理想の影で泣き続けた。……それは、少女も同じ。 「人が変わったらさ、変わる前のその人はどこに行くんだろう。 私は、消えてしまうと思う。 私が変わらないのは、そういうことだ」 変化してしまえば、『教師を志す白間コズヱ』は消えてしまう。 それは成仏でも何でもなく、不可逆な変化として。 幻になる、ということだ。少なくとも少女は、そう考えている。 (-240) wazakideath 2022/07/13(Wed) 23:22:08 |
【秘】 陽葉 シロマ → 傷弓之鳥 マユミ蚊帳の外。 これは正しい指摘だと、少女は思う。 「生きたまま、ずっと楽しい時間が過ごせれば最高だ。 だけど現実はままならない。 もしかすると、常世も似たようなものかもしれないよ」 少年時代から抜け出してしまったかは、わからない。客観的に見れば、きっと自分は未熟な小娘のままだ。 貴方の問いに答えることなく、光の失せた瞳を向ける。 何故『彼』と呼んだのか、その説明もしないまま。 「ただ…… 常世は、これ以上悪くはならない 」現実は、これから更に良くなる可能性がある。 しかし同じくらい、悪化する可能性もある。 卒業、就職、結婚。 人生には、数多くの分岐点が控えている。 「きっと世間はさ、何があっても生きていくことを美談とするのだろうけれど……私は、そうは思わない」 病気、事件、 事故 。加えて──数多くの予定外が、そこら中で息を潜めて狙いを定めている。 困難を乗り越えられるかは運次第。 私達は努力が報われないことくらい、もう知っている年頃だろう? 「君の未来に、何か希望があるのなら。 生きるべきだね」 「無いのなら、死んでしまっても構わないだろうよ。それを咎める資格は、誰にも無いのだから」 (-251) wazakideath 2022/07/14(Thu) 10:46:02 |
【秘】 陽炎 シロマ → 奔放 クリス「言うじゃないか。 ああ、幻かどうかを決めるのは私達じゃない。世間様さ」 頬をなぞる仕草をした後。 貴方の顎を軽く持ち上げるように、人差し指を動かした。 少女は静かに喉を鳴らし、笑う。 「いてもいなくても同じ。背景にさえならない滲みのひとつ。 そんなものだろうよ。私も、君達も」 鴉がどこかで鳴いた。 鳥が目を覚まし、陽の下を飛ぶのはあと数刻後。 どこかの家では誰かが起きて、どこかの家では誰かが眠る。 「さて、栗栖。 君の話を聞くに、君は私に変わってほしいのだと捉えたわけだが」 世界は今日も、いつも通り回っている。 「生徒ではない君の願いは叶えられない」 「大事な生徒を置いて消え失せることなど、もっての外」 「しかし。 聞いて、知り、検討することはできるよ」 (-253) wazakideath 2022/07/14(Thu) 12:36:12 |
【秘】 陽炎 シロマ → 奔放 クリス「予定調和だって尊いものさ。 予想外の事は正直、もう勘弁してもらいたいものだけど」 警報が解除された直後に空襲に見舞われ、優勢と聞かされていた戦争は負け、校舎から生徒は消えた。 社会の荒波は常に少女に厳しく、また虚しさを与え続ける。それはいつの時代にも存在する、『よくある話』だ。 「しかし期待に応えてくれると言うなら、もう少し話を聞いてみよう。 私の欲しいものが、その先にあるかもしれない」 実のところ、その答えが何であっても構わない。 こうして、自分について考えさせることが目的であったから。 勿論、期待に応えられれば嬉しいけれど──高望みはしない。 そう告げて、亡霊は貴方の言葉を待った。 (-262) wazakideath 2022/07/14(Thu) 15:48:31 |
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