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【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[元町の一角に佇む、古びたその店は 看板に達筆な文字で『伽藍堂』と銘打つくせに 店の軒先から、店の奥の方まで ずらりと物が並んでいる。 古い簪や帯留、古書や刀剣、食器に孫の手…… 店中を埋め尽くす古物の森の匂いに対抗すべく 俺は店の奥にあるカウンターの上で ひとりコーヒーを啜っている。 「うちは紅茶の店なのに」と文句を垂れつつ それでも上質な豆のコーヒーを用意してくれる 腐れ縁の店主は、いつも要らないのに ジンジャークッキーをおまけにつけてきて。 店の奥から眺める往来の風景も 店の匂いも何もかも変わり映えもせず 薄いバターみたいに引き伸ばされた日常が この先綿々も続いていくのだ、と。 数ヶ月前まで、そう思っていた。] (3) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 0:32:22 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[けど、最近の俺はこの変わり映えしない 日常の中、店先からひょっこり覗く顔を待ってる。 賑やかしい子は、一人いれば この店の中の空気ごと固まってしまった時間を すぐに解きほぐしてくれるだろう、と。 未だ手付かずのジンジャークッキーも 俺と一緒に、彼女の来店を 待ち望んでいるに違いない。]* (4) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 0:36:25 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介 ー あの日 ー [門の脇に生えている松の木の枝が 寸分違わず剪定されているのを見てから 正直少し、居心地が悪かった。 店の奥で縮こまっているだけが 古物商の仕事じゃない。 今日みたくお客の家まで出張して 買取・販売するのも俺の大事な仕事。 母屋の脇の土蔵の中のお片付けを……と お上品そうな老婦人に依頼を受けて 足を運んでみたものの、このぴしりと 湖に張った氷みたいな静謐さは どの家にいても息が詰まりそうになる。] (11) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 14:25:54 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[大きな居間に俺を案内すると 大島紬をしゃなりと着こなした老婦人は 『これは代々伝わるものなのですが…』と 蔵から出てきたという 花瓶やら掛軸やら茶碗やらを並べて笑う。 その洗練された所作は、きっとこの家の 伝統や格に裏付けされたものか。 その『代々伝わるもの』を何故手放すのか 俺は問い掛けたいのを堪えながら 広げられた古美術品たちに目を落とす。 やや印のズレた掛軸、 わざとらしい釉垂れの茶碗…… 俺は見るべきもの探すように 畳の目に視線を走らせて───── かた、と襖の奥からの音に顔を上げた。] (12) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 14:26:24 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[この家に似つかわしくない、 けれど『年頃の娘』という感じのお嬢さん。 古美術の色褪せたセピア色に馴染んだ目に ぱっきりとした赤い色が、眩しくて 俺は目をぱちくりさせる。 『挨拶なさい』と厳しく一喝する老婦人の声に そのお嬢さんは従っただろうか? 目が合うなら、一言「お邪魔してマス」と 片頬上げて会釈するくらいはしよう。 たった一瞬だけだったとしても 俺はあの家に咲いた、 花のような赤の鮮やかさを忘れられない。] (13) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 14:26:43 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[─────その後、羽二重餅みたいな 婉曲で包んだ言葉で評価額を尋ねてきた老婦人に 『額の付けられるモンはないので 大切に仕舞うより使っちまった方が よっぽどこの品モンには良いでしょうヤ』 と正直に答えて家を叩き出されるまで、 俺の瞼の裏に、赤い花は咲いたまま。] (14) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 14:27:26 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[金にはならない、時間だけ取られた仕事を終えて それから数週間は経ったろうか。 変わり映えのしない店の中で 唯一の常連客の猫の背を撫でながら ぼんやりと過ごしていた時、 ふと、また視界に花が咲く。] ─────あ、 [眠みに重たくなっていた瞼が 視線を混じえた瞬間、ふわ、と弧を描く。 記憶の糸をたぐって、このお嬢さんの 正体に合点がいけば、頷いて。] あー、西園寺さんとこの。 [アントキャトンダゴブレーヲ、と ひょい、と頭を下げてみた。 動いたせいで、膝の上の猫から苦情が飛んだ。] (15) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 14:27:50 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[覚えてるのか、と言われたら 「客商売だモンでね」と 軽く笑って答えるだろうが…… 多分、「その赤が目に焼き付いててね」なんて 歳若いお嬢さんには恥ずかしくて言えないさ。 友達との待ち合わせをしているのだと 言われたならば、何かの縁だ、と 茶の1杯くらいは出すだろう。 生憎、茶の専門店じゃない、ただの骨董屋には 映えない粗茶しか出せませんが。] (16) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 14:28:04 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[だから、また来てくれたなら] オウ、来たな冷やかし客め。 [当初よりも幾分砕けた口調で笑って 前と同じように粗茶を出すだろう。 小さな歓迎の印のジンジャークッキーを添えて。]* (17) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 14:30:00 |
【独】 『伽藍堂』 江戸川 颯介/* にゃー!残念なんかわくわくしながら「退勤決めたら読むぞ……!」って思ってたのだけれど……またどこかで泡沫くんの話が読めたらいいな。 (-5) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 16:51:58 |
【独】 『伽藍堂』 江戸川 颯介/* オウオウオウオウオウオウ オウオウオウオウオウオウオウオウオウオウ (ぷにぷにの間に挟まってもちもちしたい) (耐える)(でもかわいい)(悶絶する) (-9) シュレッダー 2021/05/17(Mon) 19:03:45 |
【独】 『伽藍堂』 江戸川 颯介/* このおふたり(?)の隙間に埋まって気が済むまでぷにぷにしてたい……とかずっと思ってる……むちむちしたい…… (-12) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 15:49:44 |
【独】 『伽藍堂』 江戸川 颯介 (-13) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 21:51:32 |
【独】 『伽藍堂』 江戸川 颯介/* この村でもちもち選手権したら俺は最下位だと思うので(???)もう四方八方をもちもちするんだ。もう決めた。ケツイした。 (-14) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 21:52:53 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介そういうのを、冷やかしってェんだよッ。 [にっこり笑う彼女につい、 つられて笑いながら突っ込みをいれる。 赤い花、と形容したお嬢さんは 思ってたよりエキセントリックな人で、 初めて会った時の人見知りみたいな 印象は何処へやら。] 俺ァ甘ェのは食わねンだ。 [そう応えて粗茶を啜る茶器の向こう、 お嬢さんはそれでもニッコリ笑って クッキーをぱくり。 その上品な所作は、どれだけはすっぱにしても 消しようのない令嬢の証だと思う。] (54) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 22:27:16 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[で、と話を切り替えられて 俺はそっと目線をそばの掛軸へ逸らせた。 掛軸の中、恵比寿天が呑気に笑っている。] いつ来ても、返事は同じだよ。 「俺じゃねェ方がいい」って。 [この店に彼女が来た時の、 青天の霹靂たる一言のせいで 噴き出した茶の飛沫が 恵比寿天の余白にシミを残している。 視線をお嬢さんに戻したら、ため息ひとつ。] 来週来ても、再来週来ても同じだッつの。 [赤いリップの似合う彼女には もっと歳の近しい、育ちのいいやつがいい。 こんな古びた道具に囲まれてるやつよりは、絶対。 ふつりと切り揃えられた前髪をくしあげ、 そのおでこにぺしん、としっぺをひとつ。] (55) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 22:28:09 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介いいかァ。よく聞けェ、あのな…… [難しい顔を作って、キッ、と睨んでみたものの あどけない顔に言葉が見つからなくて 俺はそっと目線をそばの古い花瓶に落とす。] ほら、ひび、入ってるだろ、ここ。 [白磁の肌を切り裂くように入ったクラック。 前の持ち主が何とかしようとしてつけた 接着剤が黄ばみを残して 膿の出た傷跡のようにも見えた。] 傷がつけば、跡が残る。 生き物も、花瓶も、人生も。 ……こんなオッサンにかまけてるのが アンタの人生ニャ傷になっちまうよ。 [もっとキラキラした恋愛を経験してもいい。 それとも、たったひとつ、本当に好きな人間と 好きあって、結ばれて、幸せになっても。 でもそれは、きっと俺とじゃない。] (56) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 22:37:42 |
【秘】 『伽藍堂』 江戸川 颯介 → 西園寺 飛鳥[そう思っているくせに 押し付けられたクッキーを 捨てずに残してしまう。 多分、次も、その次も 俺はきっとクッキーを取っておいてしまう。] (-16) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 22:41:57 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介分かったら、ホイ、デートでも行きな。 それかガラクタのひとつでも買ってってくんなァ。 [そう言って、しっしっ、と手を振るが それ以上の言葉や態度で 彼女を諌めることもせず。 結局、こうして会いに来てくれる彼女を 嬉しく思ってしまう俺自身 大人にとして割りきれていないのだ。]* (57) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 22:46:04 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介 ー 腐れ縁の紅茶屋店主 ー [コーヒーを飲みに訪れた店で からん、とドアベルを鳴らした時に 「おや?」と思った。 別に閑古鳥が鳴いているような店でもないのに 店主が目をキラキラさせながら此方を向いて 目が合った瞬間、その輝きは 掌に載った雪粒みたいに消え失せる。 女の子と見りゃすぐ相貌崩すような 軟派なやつではない。 一度酷い女に騙され、しょぼくれていた親友殿にも そろそろ春の訪れだろうか。 (時期はもう栗のうまい季節だというのに) 言わずとも俺の考えが透けていたのか 俺を見る店主の瞼は、 眼鏡の奥で、すぅ、と細まった。] (58) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 22:47:28 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介なァに?気になる女の子でもできたんか。 [そう問えば「なんでもないったら」と言う。 一歩踏み込めば後ずさる。 俺はつい楽しくなって、ずいずい店の中へ 入っていくとカウンターに腰を下ろして 目的のコーヒーを注文してやるのだ。 逃げ場のない親友殿は、もう厨房くらいしか 行く場所もなく、しぶしぶケトルを火にかける。] 「別に、そんなんじゃないよ。 名前も知らないしね」 [ビンテージのティーカップを磨きながら 店主は口を尖らせた。 ということは、客か、俺の同業か。 何となく、客にベットしておこう。 アンティークの食器の並ぶ店内には 焼き菓子と紅茶の匂いが満ちていて 中庭を臨む窓からは、冬の気配の近付く 色彩を抑えたハーブガーデンが覗いている。] (59) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 22:48:19 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[今度は、今度こそは、 この朴訥な親友殿と結ばれる女性は こんな店が似合うような、いい人であって欲しい。 かつての出来事を知る俺は そう願わずにいられないのだった。] また、変なの掴むなよ。 [コーヒー入りのマグを出された時に そうひとこと釘を刺すと 「本当に、そんなんじゃないから」と 店主は口をへの字に曲げてしまう。] じゃあ今お前は誰を待っていたんだよ。 悪い奴で自分からそう名乗るやつはいないぞ。 心の中で付け加えると、店主は まるで心の中を読んだかのように まだ幼さの残る頬をぷっと膨らませて] 「江戸川は、ちょっとお節介なんだよね。 時々母さんみたいって思う」 [と減らず口を叩く。 俺はくすくす笑いながら 「腹を痛めて産んでやったのによォ」と わざとらしく泣き真似なんぞをしてやって。] (60) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 22:50:17 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[─────お節介。 何度かこの親友殿から そう評価されることはあった。 でも、ほっとけないじゃねェの。 せいぜい両手を拡げたくらいの範囲の人間しか 手を差し伸べてやることは出来ないんだ。 掌からこぼれ落ちた砂粒は もう二度と掌には返らないんだ。 黙って気にされててくれよ。 頼むからさ。]* (61) シュレッダー 2021/05/18(Tue) 22:50:48 |
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