食べかけに執着する性質を発揮して、三度目、貴方の元へ戻ってくる。
今度は邪魔が入らなさそうだから、のんびり味わえる！
床にぺたんと座り込んで、膝枕でもするかのように太腿の上に貴方の頭部を乗せて、がっちりと丸い骨に爪を食い込ませるように掴んで。

｢｣

律儀に左側頭部の食痕から口をつける。
バリバリ、硬い骨を噛み砕く。
じゅる、じゅる、脳漿と血を啜る。
くちゃくちゃ、肉を咀嚼する。

耳元で奏でるには随分と賑やかな演奏だけど、どうせもう聞こえてないのだろう。

こりこり、舌は弾力があってたのしい。
ぷちり、目玉は噛むと弾ける。
ふわふわの脳は掬って食べて。

やがて、反対の耳まで、ぜーんぶ無くなった。


……あと、頭に巻いていた、アイアンメイデンの残り半分も。

蘇生装置に回収される少し前。シャトの食事が終えた後。

そっと手を伸ばし、その身に触れる。


「」
目を背けていたものが渦巻いている。






渇いた笑いが、小さく零された。

「なんだ〜理想高いのかよ？
……ン？でもレヴァティのやったのが悪いんだったらアイツラの中だとオレも悪いってことになんじゃね？アレだし、共犯！
オレなしじゃレヴァティの復讐は成功しなかったんだぜ！バレねぇようにさらってくる係だからな！」
なんか誇らしげ。誰に言われても自分は正しいことだと信じているからだ。
あと楽しいと言われたこともちょっと誇らしさを底上げしている。

「おっけー！じゃ約束な！」
ドロド廊下騒動くらいにね。

「そんなに褒めんなよ〜！
ま、1回だけだったらオレ手伝うからいいことわるいこと気にすんなよ！
殺すの初心者じゃねえから！」
すごく不可思議で不穏な発言が残った。
あんまり悪いことしてない人ではないかもしれない。

「理想が高い自覚はあるよ、だって失望して姉さんに悪口を言われるのなんて嫌だから。
んで『レヴァティ』は復讐かぁ……大変だろうね、復讐は。そんで共犯なんだお前は。なんかよくわからないけど……じゃあ悪いのかも。でも勿体ないとは思うね、どうせ逃げれるんだろうに」

あなたが何をしてたとかはよくわからないが、共犯と言われたら早とちりだったかもしれないと思った。

「……ぎゅってばんって……はー、じゃあお前も監獄にいるべきだな、うん、まあ安心か……。」

なんだどういう殺し方かあんまり想像つかないけどめちゃくちゃやってるじゃん！だけはわかった。でもまあ、それでいっかってぐらいにはもう勝手に絆されたりしたのだ。

「じゃ、いいタイミングの時に部屋に呼んでよ。そうだ、お前の名前は？レヴァティじゃないんだろ」

宴会には能力を使う側のタイミングがあるだろうと、この場はいったん去るのだろう。ついでに名前を聞いておきたくなって、問うた。

「へ〜……でも大丈夫だったんだろ？イイじゃん！
タイヘンだったけどよ〜全然バッチリ終わったぜ！」
全然バッチリやらかした。
とはいえ「いるべき」と言われるとエーと不満な顔をするのだが……不名誉な納得につき。

「おー呼び行きゃいいんだな？まーすぐ呼ぶぜ！
あ〜名前……適当に呼べばいいぞ！レヴァティも適当におーいとか呼んでるしヴェルクも適当につけてるし」
去り際なのに謎を生むし、なんとこの無礼講で既に二人にバレている。というか言っちゃった。看守じゃないし……

　

これは一旦部屋に帰って、ほぼ直後の行動だ。


その辺りを歩いているヴェルクの後ろへ、距離をあけてついて歩いている。
話しかけないでいる……というよりは、様子をうかがっているような。
一応隠れてはいるが、まあまあ

後ろに誰かの気配は感じていた。
もっと言うなら、こんなことをするのは1人だろうと。

ただ、最初はツッコミもせずスタスタと歩き続ける。

時折歩く速度をあげたり。急に止まったり。
ゆっくりになったり。角を曲がったり。

そんな遊びを少しの間行って──突然、振り返る。

「…………なんだよ」
僅かにぶっきらぼうさを含ませた声色で問いかけながら。

小走りになって、慌てて引き返して隠れて、足音が小さくなって、また少し急ぎ足になってーー
と、ヴェルクの歩調に合わせて単純な変化を見せたあと。

こちらを向いた視線に少し飛び上がって、通路の向こうに身を隠す。
表情や仕草に依然として他人ヴェルクへの恐怖心が滲んでいることに、あなたは気づいてしまうだろうか。


声は小さい。距離だけの問題でなく、聞き取りづらいだろう。

君との距離を縮める様子はない。
立ち止まったまま、ただじっとそちらを見ている。



「………ふぅん、」
小さな声に、僅かに目を細め。一歩、後ろへ下がる。
…また一歩。そちらに視線を向けたまま、距離をとるように。



小さく息を吐き出し、視線を逸らす。




乾いた笑いが、零された。

遠退くような動きを感じたから、少しだけ顔を出して様子を見る。
それから、今度は隠れずに。目も合わなかったし。


複数人が集まってるところは、ちょっと行けないし。



一人でいるのも全く落ち着かないから出てきてしまった。
そこまで話すと、あとは何を話そう、と言い淀んでいる。

君が隠れずに姿を顕にしたとしても、男と視線は合わない。
目を伏せ、一点をじっと見つめている。

「何が大丈夫なんだよ……」
分からない。何をもってそのように思えるのか。

半歩、また下がり。手で口元を覆う。


「……あんたは、どうしたいんだ」
分からない。こういう時、どうするのが正しいのか。



視線が──ゆっくりと、そちらへ向かおうとしている。

あなたの意図しないところで勝手に心を許しているから。
自分が怖くないと思えるんじゃないかと期待して。
少しだけ身を乗り出す。


今の所、そうするのを目標にしているので。