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【人】 水の魔騎士 ユスターシュ長い触れ合いの時を終えて。 彼女はまだ、ユスターシュの腕の中にいる。 「姫ーー…」 彼女に注いだのはまさに愛情の証でしかない。 封印されていた記憶がまだ全て戻ったわけではないが、強い気持ちは、断片にも然りと存在していたから。 ユスターシュの胸は今想いに溢れている。 愛しく、護りたい。 傍にいたく、触れたい。 それは全てチアキローズへ一身に注がれていた。 汲めど尽きぬ泉のように。 だからこそ、二人で居られる時間が限られようとも良いと思えた。 ユスターシュに与えられるであろう罰も享受出来ると。 彼女にはそんな事を悟らせずいたかった。 しかしーー聡明な彼女は、ユスターシュの言葉からそれを読み取ってしまったのだろう。 姫という立場であらば当然かもしれない。 立場を棄てていいとは、国に叛くという意味である。 (4) CDlemon 2023/10/25(Wed) 12:00:16 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ確かに彼女が姫ではなくーーそれこそ姫宮千秋のような平民と化すならば、ユスターシュは罰からも逃れるであろうし、イーリスを探すという過酷な使命からも解放されるだろう。 ーーただその道は幸せであろうか、彼女にとって。 ユスターシュは呻吟する。 そして彼女に誓いを立てた。 「我が剣、我が命を賭けて誓おう。 貴女と運命を共にすると。」 どちらの道にも不幸があるならば。 その不幸を出来る限り取り払い、生きればいい。 罰を受け入れる前に赦しを乞うことも出来るはずだ。諦めるのは早い。 彼女に地位を棄てさせなくとも、きっと活路はーー。 (5) CDlemon 2023/10/25(Wed) 12:00:48 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ『ユスターシュ様、大変デスッ』 突然ウンディーネの結界が解かれる。何事かとユスターシュが顔をあげると、水の乙女は空中に漂いながら此方を見下ろしていた。 その表情は険しい。 ウンディーネが片手を掲げると水の泡が発生し、ユスターシュとチアキローズの身体を包む。それは優しく二人の身体の汚れを清めた。 綺麗になってもチアキローズは裸である。ユスターシュはマントを脱いで彼女の細身をくるみ、姫抱きにする。 『大変デス、仲間タチガ暴動ヲ開始シマシタ。 人間ニハモウ従イタクナイト。』 「なんだと?どういう事だッ」 『サラマンダーハ人間ヲ乗っ取りマシタ。 ドローイグニ居タ仲間タチモ主デアッタ 精霊使いヲ乗っ取るナリ倒すナリシテ、 此方ノ世界デ暴レテイマス!』 (6) CDlemon 2023/10/25(Wed) 12:06:21 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ余りの出来事に言葉を失う。まさか、今まで大人しかった精霊が? ウンディーネだけは反逆に従っていないようだが。 ユスターシュは姫と視線を合わせる。 「チアキローズ姫。貴女はまず 身体を休めて欲しい。 安全な場所まで送るから、そこで 待っていてくれ。 俺は精霊たちを止めねばならない。」 ユスターシュの願いは、彼女を戦わせたくない、である。 しかし、選択するのは彼女だ。* (7) CDlemon 2023/10/25(Wed) 12:07:10 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ本来ならばこんな初夜になるはずではなかった。 華かな婚儀の後、王宮の寝室で。 きっと二人は結ばれたであろうに。 初めての行為は女性に負担が大きい。だから、ユスターシュはチアキローズを闘わせたくないと考えた。 事が急を要していようとも、だ。 しかし彼女はーーユスターシュの提案には首を横に振った。 待っているなど嫌だと。 「……知っている。思い出した。 洞窟で熊と対峙した時も、 貴女は俺に援護や防御の魔法をくれたから。 だが、貴女の身体はーー。」 (25) CDlemon 2023/10/25(Wed) 22:47:15 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ傷つけたのは己である。ユスターシュは唇を強く噛む。 彼女の決意を変える言葉を持っていない。 「……どうやら俺が恋をしたのは 戦乙女(ヴァルキュリア)であったようだな。 姫よ、貴女に従おう。 俺はどうすればいい?」 ウンディーネは黙ってやり取りを見守っている。彼女が考えるように、ユスターシュに対する強い想いから味方をしているのだろうか。* (26) CDlemon 2023/10/25(Wed) 22:47:36 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ精霊たちは暴れ狂っていた。 海は荒れ船を転覆させた。 山では地鳴りが起きて土砂崩れに多数の人が巻き込まれた。 暴風が看板や木々をなぎ倒し、怪我人が多数ーー ありとあらゆる自然の災害が人々を襲う。 人間にはなす術もない。 彼女は何をするつもりなのか。 素肌にマントを纏った戦乙女は凛とした御姿にて立つ。 リズムが刻まれた。 魔力を放つ楽器が輝きを放つ。 「姫ーー危ないッ」 すぐに敵と化した精霊が襲い来る。屋上に降ってきたのは無数の雹だ。それはまさに弾丸のようなスピードで、チアキローズを狙っている。 (39) CDlemon 2023/10/26(Thu) 7:50:47 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ 「ウンディーネ、ウォーターバリアをッ」 ユスターシュの叫びにウンディーネは応える。水の膜がチアキローズとユスターシュを包む。 しかし雹はいくつかバリアを突き抜け、二人を傷つける。 それでも彼女は演奏を止めない。 「くっ…!」 ユスターシュの剣技はこのような敵には全く役に立たない。 (40) CDlemon 2023/10/26(Thu) 7:51:10 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ 「……雹が止んだ。あの虹はーー。」 ユスターシュとチアキローズは屋上にいる。頭上には抜けるような青空、そして覆い被さるような虹があった。 ただ、呆然とする。 ウンディーネがポツリと呟いた。 『イーリスの力デ、精霊たちは 治マリマシタ。デモ… キット、良クナイ事が起キル。』* (42) CDlemon 2023/10/26(Thu) 7:53:55 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ虹は七大精霊の象徴、イーリスそのものだ。ただ目を奪われて言葉を失っていたユスターシュであったが、すぐチアキローズに駆け寄り、抱き締める。 「姫よ、ご無事ですかッ」 その時にユスターシュは気付いた。彼女の髪色が変わっていることに。 それは魔力を失ったからなのか、違うのか。ユスターシュにはわからない。 「チアキローズ姫…! 貴女が生きていてくれることが、 俺は何より嬉しい。 貴女は俺の全てだ。」* (46) CDlemon 2023/10/26(Thu) 16:31:06 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュユスターシュの腕の中にチアキローズは居る。 素肌にマントを纏っただけの格好だが、怪我もなかったし、ユスターシュは胸を撫で下ろした。 ウンディーネの話では精霊は落ち着いたようである。 これで差し迫った危機は回避できた。 しかし、ユスターシュはまだ警戒を解いてはいなかった。何故ならドローイグの焔の魔術師ベアトリスという敵がいるからだ。 ユスターシュはチアキローズへの愛を思い出し、彼女に忠誠を誓った。つまりドローイグとは敵対することになる。 ベアトリスはきっとユスターシュの裏切りを知れば怒り狂うに違いない…。 まだ闘いは終わらないのだ。 イーリスという大きすぎる力がある限りは。 ベアトリス側に起こった変化を知らぬユスターシュはこう考えていた。 (57) CDlemon 2023/10/26(Thu) 22:45:47 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ思いに耽っていたせいだろう。 チアキローズが、いや、姫宮千秋の姿に戻った彼女が"先生"と呼んだ事に違和感を感じるのが遅れたのは。 「姫?ーー何を言って…」 目線があう。ユスターシュはチアキローズを姫抱きにしていたが、彼女を包むマントがはらり、とはだけ。白い肌が露出。 「?!?!」 響き渡る絶叫にユスターシュは肩を竦めて面食らう。多分今までの戦闘より一番効いた。 「なッ…落ち着いて。どうしたのだ、姫? まさか…俺を覚えていないのか? 精霊の暴走も、その前に俺が貴女をーー…。」 言いかけて口をつぐんだ。明らかに彼女には記憶がない様子だから。 ならば、ユスターシュも譲の姿になるべきだろう。 (58) CDlemon 2023/10/26(Thu) 22:46:09 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ「兎に角、衣服を着た方がいいですね。 貴女を家まで送ります。」 彼女の家は昨日送っていったし把握している。 他の魔法少女たちや、ベアトリスのことも気がかりではあるが。 彼女が了承するのなら、そのまま車を止めてある駐車場に向かうだろう。* (59) CDlemon 2023/10/26(Thu) 22:46:28 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ彼女は激しく混乱している様子だ。この記憶喪失は一時的なものか、そうでないのか。 どちらにしろ真実を説明しても混乱させるだけだ。 「落ち着いて、チアキロ…姫宮さん。 色々トラブルもありましたが、 今は安全だと思いますし。」 本当はまだ、いつベアトリスが襲ってくるかもしれないと譲はかている。 その場合、魔法を使えないであろう千秋を守りながら闘うしかない。 車を走らせているうちにいつの間にか空は夕暮れに。虹も姿を消していた。 彼女の家に到着すると、当たり前のように一緒に家に上がり込む。 今独りにするわけにはいかない。 「……説明は、しますから。 まずシャワーを浴びて着替えを。」 時間を稼いで考えよう。と、ーー (68) CDlemon 2023/10/27(Fri) 10:15:56 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ目の前に現れたのは、二人の人物。一人は生徒の橋本彩綾。もう一人はーー。 「……ベアトリスッ!」 譲はすぐに臨戦態勢を取る。また変身を千秋に見せることになるが仕方ない。 「俺は思い出した。俺は、 生まれこそドローイグではあるが、 ミュジークの騎士だッ! 姫に手出しはさせん。」 千秋の前に立ちはだかりかばうような姿勢を取る。が、華夜は変身もしないし、ただーー悲しそうな瞳をした。 『もう私に闘う意志はないわ、 ユスターシュ。 どうか剣を抜かないで。 私には、イーリスはもう必要ない。 ーーエスポワ。彼と二人で話をさせて。 その間に貴女は姫様を。』 奇妙な態度だ。罠だろうか。 しかし、エスポワと呼ばれた橋本彩綾はチアキローズの仲間だ。 ユスターシュは頷いた。 (69) CDlemon 2023/10/27(Fri) 10:16:27 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ華夜とユスターシュは別室にて話をする。 『……貴方はドローイグにいた家族を覚えている?』 「姉がいたが、焔に包まれ亡くなった。」 すると華夜は長い睫毛を伏せた。 『そう。お気の毒に。 でも貴方は護るべき大切な人を 思い出したのね。 ならば、その人と共に生きるといいーー。』 「言われなくとも。 ベアトリス、お前はもう姫に 危害を加えないのだな?」 『ええ…闘いは終わったのよ。』 (70) CDlemon 2023/10/27(Fri) 10:17:16 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ華夜は淋しげに微笑んでいる。 ユスターシュにはその表情の意味がわからなかった。 『大事なのは過去ではなく、 今と未来よ。 私も未来をこれから生きる。 貴方もそうして。』 「……姫の所へ戻る。」 ユスターシュは譲の姿に戻り、千秋の所へ。エスポワはまだ傍にいるだろうか。 彼女はエスポワと何を話しただろうか。* (71) CDlemon 2023/10/27(Fri) 10:17:24 |
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