81 【身内】三途病院連続殺人事件【R18G】
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| きつい消毒液の臭いを纏った男が、重い足取りで歩いている。 目指す先は己が寝泊りをしている宿直室だった。
老いとは恐ろしい。 できる事は増えているはずなのに、 できない事はそれを上回る速さで増えていく。
未だやるべき事は残っている。 しかし一度、身体を休めたかった。 (0) 2021/07/04(Sun) 21:17:20 |
| 宿直室で一眠りした後のこと。 男は、調理室にいた。 調理台には 干し肉が並んでいる。 一夜干しのようだ。 弱火でじっくりと焼いていく。 塩と胡椒と、何かの焼かれる匂いが漂った。 /* (3) 2021/07/05(Mon) 11:29:50 |
| (a0) 2021/07/05(Mon) 11:40:52 |
| >>5 【肉】 「ああ、丁度良かった。洪水で猿が流されて来てましてね。 この状況ですから、みなさんで食べようと思うんです」 三途村近辺の山に猿はいない。 この村に詳しいなら、違和感を抱けるだろう。 尤も、言うとおり遠くから流されて来たのかもしれないが……、 運良く病院周辺に辿り着く確率は低いはずだ。 → (6) 2021/07/05(Mon) 13:24:00 |
| >>6「 ──味見、します? 」 その上この天気の中、いつ外に出たというのか。 少なくとも男が雨に濡れた姿は、貯水槽の時以来目撃されていない。 冷静に考える余裕があるなら、直ぐに気付けるだろう。 (7) 2021/07/05(Mon) 13:27:00 |
| >>8 【肉】 焼けたばかりの肉を一切れ、菜箸で掴む。 小皿に載せると、手掴みで口に放り込んだ。 「……ん、 こんな具合だったかな 」 硬いらしく、何度も咀嚼している。 焼き終えた肉を皿に並べていった。 「窓辺にいたら見かけましてね、遠くに流される前にと 一人で取りに向かったんですよ。 傷む前に調理してしまいたかったので、 その後直ぐ僕だけで刻んでしまったんです」 綺麗に薄く切られた物もあれば、歪に切られた物もある。 部位ごとに切り方を別けているのかもしれないし、 切った人間が二人いるのかもしれない。 (10) 2021/07/05(Mon) 14:27:27 |
心拍数を示す線が動かなくなった。
計測を止め、手術台の上部にある照明を点ける。
ブリキのバケツを幾つか持って来ると、台の下に置く。
「……まずは手足から外していきましょうか。
関節にメスを入れると、すんなり切れます。
包丁や普通の刃物では上手く切れないので、
必ずメスを使ってください」
鈍く光る銀色が、まだ温もりの残る肌に触れる。
──が、ふと気付いたのか、
「…………」
白い三角巾を遺体の顔にかけた。
人間だったものを小さくしていく姿は、やはり手馴れている。
切り口を下にしてバケツに入れていく。
血が吹き出るというよりは、滲み出るといった表現が近いだろうか。
死んだ生き物は激しく出血しない。
薄暗い手術室の中で、照らされる照明が嫌に眩しい。
メイジは泣き腫らした目を細めた。
かつて"友達"と呼んだ──本当にそう思っていた。
それを目の前にして、息を呑む。
もう、動くことはない、声を聞くこともできない。
「……これ、本当に死んでるんだ………」
布がかけられた顔を一瞥して、ぽつりと零れる言葉。
そう思うと、夏だというのに悪寒がした。
死体を見ると恐怖を感じる。
自分の死を連想させるから──
やっぱり、自分は死にたくないんだ。
説明を聞きながら、刃物が肌に食い込むのを顔を顰めて見た。
思わず目を逸らしそうになったのを堪える。
ちゃんと見ていなければ、覚えられない。
「……っ……」
血の臭いが鼻孔を刺激する。
一度口元を押さえたが、震える手を押し殺してメスを握る。
「……オレだって……やってやる……」
そうして、ふいに触れた手は、まだあたたかくて苦しくなる。
照明に反射し、きらめく刃物を意を消して見つめ
そして、肌に当てる──見様見真似だった。
「……、……ごめん」
メイジは思い出す。刃物が人に食い込む時の感触を。
メイジは、覚える。人を切る時の感触を。
「ねえ、これって、どの部分を食べるの……」
バラバラになっていくのを見つめながら尋ねる。
以前やった時は、もう食肉としか見えなかったし
どの部分かも聞く余裕もなかった。
「概ね食べられます。
しかし内臓は傷みやすいので今回は避けます。
……申し訳ないですけれど」
手足を切り終えれば、後は胴体を残すのみとなる。
胸にメスを入れようとして、ぴたりと手を止める。
特に吐く人間が多い段階であることを、思い出したからだった。
「ここから先は他の動物と似てますね。
骨を折るようにして広げて、臓器を取り出して、」
どうせ吐いた所で、胃は空だろう。
……むしろ、そうしてほしかった。
そしてここから逃げ出してほしいと、未だに思っている。
胸の皮膚を切ると、血だらけの手で包丁に持ち替えた。
包丁で狙いを定め、肋骨を折るように切っていく。
……たとえ貴方が吐いたとしても、泣いたとしても、
手を休めることはないだろう。
「……っ、」
両開き戸を開けるように、力を込めて肋骨を開いた。
内臓を取り出し、バケツに落としていく。
暫くすれば、以前貴方が見たような──食肉の姿になる。
「…………………」
肉が引き裂かれ、骨が砕かれる音。怖い。
取り出される真っ赤な内臓。気持ち悪い。
そこにあるのはもうただの肉塊。変わり果てた姿。
罪悪感よりもなによりも、本能的な恐怖が襲う。
頭から血の気が引いていく。足元がふらついた。
「………………うっ……」
最後まで黙って見ていたが
悲鳴を上げるみたいに、がしゃんと金属音がした。
メイジがぶつかって、器具か何かを落とした音だ。
「………うぐ……ぇ………げほっ、げほ………」
ついに胃から込み上げてくるのを押さえきれず、吐いた。
出てくるのはほとんど胃液だけだった。
金属音に一瞬手を止めるが──、直ぐに再開する。
作業が残っていれば、無理にでも手伝おうとするだろう。
そう考えて後の作業を急いだ。
「……慣れちゃだめですからね、こんなものに」
皮を剥ぐ。骨を外す。脂を削ぐ。
「今の気持ちを忘れないでください。
でもこの景色は忘れるように、努めてください」
白衣は袖口を中心に、真っ赤に染まっている。
なるべく何も考えないように、無心で手を動かした。
粗方終えてしまうと、大きなブリキのバケツを取り出した。
蓋を開けて、骨や内臓を中に入れていく。
「…………ごめんなさい、」
生首の耳元で、小さく呟いた。
それを白いシーツでそっと包み、
名残惜しそうに、バケツの中へゆっくりと置く。
蓋をしてしまえば、贄川涼という子供だと判断できる物はもう見えなくなってしまった。
……残す作業は、
隠蔽
掃除ぐらいだろう。
「……っ……
くそ……
」
メイジは何かを振り払うように、一度大きく息を吐く。
青白い顔をぶんぶんと振って、立ち上がると
自分で落とした器具や、床を片付け始めた。
こんな悪夢のような光景、忘れられそうもないと思った。
「セナさんは……馴れちゃったの……?」
生首がシーツで包まれていくのを、
名残惜しそうなその横顔を、ただ無表情で見つめる。
前の誰かも、こうして隠されているのだろうか。
「馴れたというよりは、馴らしたというか。
その為に医者を目指しました」
それはあの客人に問われたものの、答えられなかった“理由”だ。
簡素な戸棚、その一番下を開ける。
同じような作りのバケツが、もうひとつあった。
「僕は忘れられなかったので、
この光景を日常にしようと思ったんです。
そうすれば、悪夢ではなくなるでしょうから」
眠る赤子を起こしてしまわないように。
そんな手付きで、優しく、隣に新たなバケツを置いた。
ゆっくりと戸を閉めれば、手術台の血や脂を丁寧に拭き取っていく。
「……今日の所はこれくらいにしましょう。
ここから先は先日もやりましたから、
見なくてもわかるでしょうし。切って糸を通すだけです」
| >>+7 男は霊的な存在を知覚できない。 貴方がいることも知らず、“贄川涼”のカルテを眺めていた。 生きてさえいれば、可能性はあった筈だ。 その可能性を手折ったのは、自分だ。 共犯者を唆したのも、自分だ。 (15) 2021/07/06(Tue) 10:34:59 |
| (a4) 2021/07/06(Tue) 10:37:30 |
| セナハラは、麻酔と縫合道具が見当たらないことに気付いた。 (a5) 2021/07/06(Tue) 10:38:04 |
| (a6) 2021/07/06(Tue) 10:40:34 |
「うん、わかった」
淡々と頷く。──メイジは、逃げ出したかった。
逃げ出したかったけれど、足は動かなかった。
──死んでしまったほうが楽なのではないか。
ニエカワが死ぬのを見て、過った。
彼は嘘つきの自分を恨んでるだろうか。
けれど本能は──赤く脈打つ鼓動は生きたいと叫んでいる。
辛いことばかりだというのに
まだ生きたいと思う自分がわからなかった。
「……、……ありがとう、セナさん」
あなたが医者になった理由を聞いた。
何かを言いかけた口をつぐんだ。
メイジはふいに、少し眉を下げて笑う。
「忘れられなくて医者になったのに
こんなことになったのに……
オレたちのこと、助けてくれようとしてくれて」
メイジは、ひそかに拳を握る。
「こんな状況で言うのはおかしいかもしれない。
でも……オレさ、嬉しかったよ。優しくしてくれて」
| >>+8誰かが触れた気がして、振り返る。 ……誰もいない。 風かとも思ったが、窓は閉め切っている筈だ。 「……」 不自然に消えた道具を確認すれば、宿直室へ向かった。 (16) 2021/07/06(Tue) 12:17:17 |
「……、……感謝されるような事ではないですよ。
何て物を食わせたんだ、と怒る人もいるでしょう」
吊るされていた干し肉を下ろし、糸を外していく。
先日作った彼女の肉が、白い皿に盛られていった。
そして新たな肉を薄く切り、糸を通し、塩と胡椒を塗し、吊るしていく。
「優しい大人はこんな事を──……いや、」
自分に生きる術を教えた父は、優しかった。
優しい大人だと、今でも思っている。
「……うん。ありがとう、ございます」
貴方がそんなつもりで言ったのではないとわかっているが、
それでも、自身の父親を認められたような気がした。
「メイジくん。きみはきっと、優しい父親になれます」
「宿直室に、手紙を置いておきます。
……封は開けちゃだめですよ。
それをここから出たとき、外の大人に渡してください」
手術台の照明を消した。
赤黒い肉が乗る皿を持ち、扉へ向かう。
「……いいよ。周りにどんな目で見られても
オレは絶対、セナさんが優しいって言い続けるから」
あなたが死んでもメイジに賛同し続けると言ってくれたように。
人を殺し、今日も肉を切り刻んだ、全て自分の為にやった。
責められるのも、恨まれるのも、蔑まれるのも慣れてる。
「あはは……オレが父親か。なれたらいいね」
そんな、来るかもわからない遠い未来の話に
すこしだけ思いを馳せた。まだなにも見えない。
「手紙? ……うん、わかった」
なんの手紙だろう。少しひっかかるが
言及することはせず、素直に頷いた。
あなたの背を見送る。
| >>+9宿直室の扉を開き、乱雑に靴を脱いで畳に上がった。 紙と封筒、そして古い万年筆を取り出し、卓袱台に置く。 「……ふぅ」 長く息を吐いた。 久々に使う為か、それとも古いからか。 ペン先は少し錆びていた。 『此手紙を讀んだ方へ』 慣れない万年筆で綴っていく。 (18) 2021/07/06(Tue) 18:06:13 |
| >>18……文末に自身の名前を書き加えた。 親から貰ったものはこの名前と、この身体だけだ。 封筒に入れ、蓋を糊で閉じる。 その封筒を卓袱台の中央に置き、宿直室を後にした。 ──囁かれた言葉も知らぬまま。 (19) 2021/07/06(Tue) 19:58:01 |
メイジは、誰もいなくなった手術室で
大きなため息を吐き、どさりと椅子に座り込んだ。
吐いたせいで体力を消耗したのか、立っているのも怠かった。
ふと、懐から取り出したのは、お茶の缶のようなモノ。
"どんな痛み"でも"一時的"に取ってくれる薬。
「…………オレは、まだ大丈夫」
メイジはすぐにそれをしまった。
| >>20 >>21 【肉】 「ハルミさんとメイジくんもどうですか? 少し硬いので、よく噛んでくださいね」 薄い肉と、大きな肉。 両方を皿に載せて、調理台の上に置く。丁度、ロクの手前だ。 「 猿肉なので 、少し癖が強いですよ。 水は用意しておいたので、辛かったらこれで流し込んでください」 新たに二つの皿を取り出し、焼いた肉を置いていく。 この村周辺に猿がいないことは、村人なら誰もが知っている。 しかし。 人間は流されやすい生き物であることを、男は知っている。 (24) 2021/07/06(Tue) 21:16:21 |