そうして現代――
　　再び世界は崩壊の危機に晒されるのでした


　

　

[　――　昨日のパーティーの余韻の残る洋館。
　その朝に、その男は戻ってきた。　]

　

　

　

　
[　俄に洋館は騒がしくなっただろう。
　 「証持ち」を許容する洋館の職員や、世話係であっても、
　 この未曾有の事態に、平然としていられる人間は、
　 多くはなかった。
　 それでも、表向き冷静を装える幾人かによって、
　「証持ち」たちに声が掛かる。

　 「証持ちたちを此処へと集めてほしい」
　 そう、『世界』の彼が言ったからだ。

　 そして証持ちたちは今、
　 洋館の玄関ホールへと集められていた。　]
　

　
[　7年前までの彼を知る者なら分かるだろう、
　 彼が『世界』の証持ちその人であることを。

　 彼を知らない者にとっては、
　 それは初めて見る顔であるはずだ。　]
　

　



　

　
[　しかし――その一言であなたたちは理解するでしょう。



　 と。　]
　

　
[　そんなことは有り得ないはずなのに、
　 強い感情に支配されて、
　 それは真実で現実であるのだと、
　 理解してしまうでしょう。
　
　]
　

　
[　その強い感情に、喜怒哀楽、
　 何が混じっているかは、人証それぞれでしょうが。　]






[　あなたたちがどんな状態であろうと、
　 神は嬉しそうに語りかけてくるでしょう。

　 神は本当に『箱庭の子ら』を愛しているのです
　 神は本当は『箱庭の子ら』を愛していたのです。　]
　

　







[　事も無げに、神は言いました。

　 誰のことも咎めることも出来ず、戒めることも出来ず、
　 崩壊してしまった箱庭を、
　 神はずっとずっと、愛していました。

　 そして『箱庭の子ら』が揃った今この時、
　 神は箱庭の再生と、今の世界の崩壊を願うのでした。　]
　

　





[　神にとって、
　 世界はふたつも要りませんし、
　 愛する子らを痛め付けるこんな世界など、
　 崩壊させるに値するものなのですが。

　 それでも神は、あなたたちに道を与えました。　]
　

　





[　神の示した期限は――明日。
　 それは人間にとっては、あまりに短いものでした。

　 しかしあなたたちは
　 一蹴することは出来なかったでしょう。
　 少なくともあなたたちは、
　 考えざるを得なくなってしまったでしょう。
　 ――あなたたちの意思とは、関係なく。　]
　

　
[　自らの伝えたいことを伝えると、
　 『世界』の姿をした神は、
　 外へと去っていきます。

　 洋館のあちこちで、
　 彼の姿を見掛けることは出来るでしょう。
　 言葉を交わすことはできるかもしれません。
　 しかし神が聞きたいのは選択だけです。
　 何も言葉をくれないかもしれません。

]
　

　
[　やがて洋館へも聞こえてくるだろう。
　 世界各地で起こる、天変地異の報が。

　 今、本当に、世界は崩壊しようとしているのだ。　]
　

　
　
　　


[ その日、シトラから渡されたのは
　クロへの贈り物だった。

　皆それぞれに事情があって
　皆それぞれに大なり小なり思う所もある

　だから彼女が「渡してほしい」と頼むなら
　最初、見つめるだけだった彼女が口に出して願うのなら
　断るような事は無いけれど>>0:641 ]


　　……一筆、何か書いてみる？


[ かわいらしい形に紙を切って
　ノートに貼って渡してみるのとか、どう？
　そんな事を提案したのを覚えている ]
　
　

　
[ 答えがどうであれ、
　シトラからの贈り物と
　自分からの贈り物も持って ]


　　じゃー、行こっか。シトラ


[ 本日の主役へ渡しに行こうか ] *
　

　
[ それはそれとして。
　運営を手伝ってくれるシトラには
　働いた分の報酬を望む形で渡そうね ] *
　

[――そんな日に、いつかのことを思い出したのは。
　これが彼女のはじめての誕生日だからか。]
　

[決まってユグの誕生日に、顔を見せない悪魔ゼロ。
　日頃から距離があるけれど、その日はいつもそれ以上。
　朝から晩まで、留守にしているのが毎年のこと。

　はじめて顔を合わせた瞬間に、殴られかけ。
　それからも、いくつも嫌味を投げかけられ。
　顔を合わせれば喧嘩腰、居合わせただけで回れ右。>>0:545
　そうしてゼロから離れていくから、距離が縮まることはなく。

　けれど離れれば離れるほど、ユグはゼロを気にしていた。]

[はじめて迎えた誕生日。それが何をどうする日かも、他の証持ちの様子を見つつでぼんやりとしかわからなかった頃。
　洋館にいた証持ちたちから次々に祝われ、贈り物をもらい。
　腕にいっぱいになったところで、ひとり足りないことに気がついた>>0:684。

　本当は、いないほうがいいのだろう。
　祝いの場に嫌味は似合わぬと、もしかしたら窘められるのはゼロの方かもしれない。
　それはゼロにも好ましくなく、顔を見せないのは正しい判断なのかもしれない。]