「パン」

「さて、今日も処刑か。
　役目だからな。みんな、頑張ろうな！」

「今日も……最初に行っていいかな」

誰に聞かせるわけでもなく、ポツリと。

「……俺は別に止めねえよ」

シトゥラにはぽつりと返す。

――時間だ。
今日もまたこの時がやって来る。

「向かおう。」

静かに、それでも迷いなく処刑室の方へ。

処刑室。

一人、佇んでいる。瞳も口元も、笑みの形に整えられていた。
ぞっとするほどに綺麗な姿勢でただ静かに佇んでいる。

全てを観察するように、ひたすらに口を噤んで成り行きを見届けている。

>>a6　カストル
「……行こう」

自分の恐怖を悟られぬように手を差し伸べる。

「……」

「無理は、するな」

ポツリと呟かれた言葉にそれだけ告げて。
皆と同じく処刑室へ向かった。

「……さ。行きましょ」

ムルイジはいつも通り。いつもと変わらない。
シトゥラの手を握りはしたがその行動を止めはしない。

歩き出せないカストルの背を軽く叩いて促す。

そのくらいだ。

重い足取りで処刑室に向かう。
先行く者に置いて行かれないように、後ろにつこうとする者に追い抜かされないように。

「行きたくねえとか、やりたくねえとか……そんなこと、言ってらんねえもんな……」

>>6シトゥラ
「……う、ん」
ぎゅ、と両手でその手を掴む。
それからムルイジの顔を見て、一度深呼吸をして、ようやく歩き出せた。

処刑室に立つ。

“昨日”優しくしてくれた人に、できるだけ苦しくないように。
規律に反してでもその優しさに応えたかったから。

「……シェルタンはどう殺したらいいんだ？」

希望を確かめるというよりはどうすれば早く終わらせてやれるかを確認する。

前の方に出たがる者が居れば、彼らを優先的にしつつ。
バーナードの言葉への返答 >>12 を、静かに待つ。

視線はシェルタンの方に、じっと向けられている。

恭しくシェルタンの手を取り、いつもそうするように血管の位置を探る。
違うのは薬だけだ。

「これは……体の力が抜ける薬。痛む感覚がなくなるから」

優しいあなたに。
大きく息を吐き、針を刺すとプランジャを押し込んだ。

「っ……はぁっ」

口元を押さえてシェルタンから離れる。
自分は精いっぱいのことをした。

シトゥラの行いと用意されているものを眺め、合点が言ったように吐息を漏らす。
逆に言うと用意されたものを眺めるような余裕もなかったことにはなるけれど。

「あー理解。薬でやれってこと。じゃあ俺も……」

随分と色んな薬が用意されているものだ。自分は全く詳しくないので、せめて綺麗な色をした薬品の入った注射器を手に取った。
シェルタンのそばに寄り腕を掬い上げ。血管の位置を最低限確認してから突き刺して、液体を体内に送り込む。

鮮やかな色のそれが、あなたを苦しめないといいのだけれど。

「……血管、探しといてやっから。刺すやつは注射器持って来いよ」

カプセルや錠剤の類もあるし、劇薬をかけることだって考えられるだろう。
自分にとばっちりが来ない程度に協力するつもりだ。

手始めを打つシトゥラを見届ける。
手伝いまで率先するバーナードを見る。

「……生きてるうちにやれって言うなら、アタシ先にやるけど。そうじゃないなら、また最後貰っちゃうわよ」

明確には。昨日のは自分は、死体を壊したに過ぎないだろう。
それを見咎められるなら、死ぬより先に。
そうでないなら、また誰もが逃げられないように最後にと。

いずれにせよ。ムルイジはいつも通りの様子で処刑室全てを視界に収めている。