人狼物語 三日月国


45 【R18】雲を泳ぐラッコ

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二年生 小林 友は、メモを貼った。
(a2) 2020/09/27(Sun) 6:55:01

【人】 二年生 早乙女 菜月

 ──断髪式──


「ナツキ、本当に良いの? チア部は前髪厳禁でしょ?」


 うん、大丈夫、もう辞めたから。
 おもくそバッサリいっちゃってー


 [「それなら……」友人は眉毛を下げた割に遠慮なくハサミを入れていく。髪の毛がバラバラと降ってきて、慌てて目を閉じる。「ねぇ雑! 目! 目に刺さる!」「ハイハイ」ジョキジョキ。細かい髪がマスクの中にまで入り込んで、「待ってめっちゃえげつないヒゲなってる!」「ハイハイ」ザクザク。

 これでいいんだ、と思う。

 だって、どれだけ練習したって、結局イベントは消えちゃうし。
 だったら短い青春は、もっと賢く使いたいじゃない?

 換気の為に開けっ放しの窓から風が吹き込んで、できたての前髪が揺れる。「あ、ごめ」「ねえ待ってなんで謝るの、どうなってんの乙女の命の前髪」「大丈夫だよ今までデコ全開だったんだから」「これからの花のJK生活ズタズタやぞ」「大丈夫だよそれも美味しいから」「……確かに」それに合わせて、校舎の横断幕もはためいている。]
(22) 2020/09/27(Sun) 6:57:53

【人】 二年生 早乙女 菜月

[こちらは教室の中だから裏面だけど、表の文字は知っている。

 チアリーディング部 2019年度全国大会 銅賞』


 私立桐皇学院高等学校チアリーディング部、「SEA OTTERS」はチア界の強豪だ。
 横断幕が少し小さいのは、銅賞が恥だから。金賞を取って当たり前、なのだ。
 それだけ本格的な部活だから、入部すれば青春は全てチアに捧げる。練習は週七、日の出とともに筋トレし、昼休みはミーティング、暇さえあれば倒立の練習、柔軟と共に眠りにつく。
 今だって、グラウンドの方から練習の声が聞こえてくる。「せーの、」『あ、い、う、え、お!』「せーの、」『か、き、く、け、こ!』と、はたからは遊びか怪しげな宗教にしか聞こえないが、いたって真面目な練習メニューの一つ。全力で目玉をむき出し大口を開けて表情筋をグリグリ動かすことで、チアに欠かせない笑顔を身に着ける。
 やっぱり怪しげな宗教かもしれない。
 そしてお年頃だろうが何だろうが、容赦なくデコ全開です。チアは表現力が大事なの、デコも出せずに己出せるか。

 まあ、もう辞めちゃったから、作るけど。]
(23) 2020/09/27(Sun) 6:59:39

【人】 二年生 早乙女 菜月

[断髪式を終えると、「あれ」と友人が声を上げた。視線の先には、私の鞄が横倒しになっていて、一冊の本がはみ出ている。「童話集? ナツキが本なんて珍し。そういうの好きだったっけ?」


 うん、


[さりげなくしまい込みながら、言葉短に答えた。]
(24) 2020/09/27(Sun) 7:00:36

【人】 二年生 早乙女 菜月

[例えば、劇場に潜む怪人とか。
 空に浮かぶ宝島とか。
 雲を泳ぐラッコとか。
 そういった空想話とは無縁な人生を送ってきた。
 カサカサな紙をパラパラするより、
 自分の体を使って、生の声で話す方がよっぽど楽しい。
 あの時までは、そう思っていたんだ。]*
(25) 2020/09/27(Sun) 7:02:51
元チアリーダー 早乙女 菜月は、メモを貼った。
(a3) 2020/09/27(Sun) 7:08:41

到着: アクスル

【人】 アクスル

 
[新たな価値を、生命を、
 誰かが与えてくれると思っていなかった。
 それは僕にとって夢のような出来事。*]
 
(26) 2020/09/27(Sun) 9:28:55
到着: 在原 治人

在原 治人は、メモを貼った。
(a4) 2020/09/27(Sun) 9:53:55

【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月


 鞄の中にしまい込んだ文庫本。
 古い童話の短編集は、
 挟み込んだ紙一枚分だけ、本来より重い。

 
(27) 2020/09/27(Sun) 11:56:49

【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月

[図書室はちょっと苦手だ。みんな息をひそめていて、なんとなく苦しい。友達と宿題を広げながら、やっぱり教室の方が良かったなって、ちょっと後悔してた。斜め向かいの友達が、なんだか遠く、希薄に感じる。
 パラパラと紙をめくる音、シャーペンのこすれる音、カーテンのはためく音、放課後の部活の掛け声、咳払い。図書室は、無音のようで色んな音がある。まっさらなシャツに落ちた一滴のカレーみたいに、静かな場所だからこそちょっとした音が目立つのかもしれない。ここを使う人たちはみんな、本か床か窓の外を見ていて、誰も人を見ない。それなのに、音だけ大きく切り出されてしまって、耳をそばだてられているみたいで、やっぱり嫌いだ。
 図書室にいると、自分がほどけていく。薄く黒くなって、ペラペラの紙に焼き付けられていく気がする。]


 ……あれ?


[沈黙に耐えかねて、質問にかこつけて話しかけようとして、初めて向かいに座る友人が消えていることに気づいた。
 友人だけじゃない。その他の利用者も、友達が広げていた宿題も消えている。開け放した窓から夕方の風が侵入して、クリーム色のカーテンがシフォンスカートのように膨れていた。]
(28) 2020/09/27(Sun) 12:00:22

【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月

[オレンジ色に染まった空間で、一人困惑して視線を落とす。私の宿題も、無い。]


ここ……どこ?


[いや学校の図書室なんだけども。
 気が付けば、窓から入ってくるのも無言の風で、カリカリとノートを引っ掻く音も消えていて、人の気配は完全に消えている。世界から私だけが切り出されてしまったみたいだ。
 誰もいないっていうだけで、知らない場所に迷い込んでしまったみたいで、急に不安になる。
 夢じゃない、と思う。こんなに心臓がドキドキしてるんだし。]


 ねえ! からかわないでよ!


[声は空しく広がって、だれにも拾われずに消えた。
 しんとした空間の中で、自分の息遣いがやけに大きい。視界の中で動いているのは、私と、揺れるカーテンだけ。]
(29) 2020/09/27(Sun) 12:01:12

【人】 元チアリーダー  早乙女 菜月

[いや。
 ひとつだけ、人影が目の前を横切った。]


 ……え?


[私の声に気づくそぶりもなく、その人は本棚に影を映しながら歩き去る。
 男子だと思う。スカートを履いていないから。

 確信できないのは、人影『だけ』だったから。
 何もない空間から、するすると黒い影が伸びて、本棚に映っている。そうすると、次は窓からピーターパンでも飛び込んでくるのかな。子供のころ見たアニメを思い出したけど、窓からは誰も入ってこない。身動きもできずに見つめていると、実体を持たないその人は、足音も忘れて、図書室の奥へと歩いていく。]


 あ……ねぇ、待って!


[だけど、影は振り返らない。というより、私の声が聞こえてないのかもしれない。歩く速度は全く変わらず、本棚の向こうに消えた。
 思いっきり話しかけたくせに、少し怖くなった。関わらないほうが良いのかもしれない。異世界? ぽい場所で影についていくのって、なんか碌な目に合わない気がする。けど、このままだと確実に見失う。
 ちょっと迷った末に、結局その影を追いかけた。]*
(30) 2020/09/27(Sun) 12:03:17

【人】 元チアリーダー  早乙女 菜月

[その影からは、私はどういう風に見えていたんだろう。
 普通に見えていたのか、全く見えていないのか、それとも同じように影だけが見えていたのか。

 私も影だけじゃないかねって予想して、私は本棚から伸びる四角い影に隠れながら、忍者みたいにこそこそ『彼』を追いかける。
 実体が見えてたら、まぬけなぐらい丸見えだけど。

 彼は一番奥、壁際をびっちり埋める本棚の前で考え込んでいるみたいだった。
 だけど私が本棚の影に隠れたままじゃ、何の本を見ているのか分からない。

 彼の視界に私の影が入らないように気を付けながら、こそこそと背後から近づく。
 私は背が高いから、どうしたって壁際の本棚に影が映りこみそうになる。彼にばれないようにと思うと、自然と這いつくばる形になる。
 それぐらいなら羞恥心とかないです余裕。下にハーパン履いてるし。]
(31) 2020/09/27(Sun) 12:08:37

【人】 元チアリーダー  早乙女 菜月

[猫みたいな四つん這いで、風下ならぬ光下から近づく。斜め下からその影を見上げていると、彼はすっと手を伸ばして、一冊の本の背表紙に手をかけた。
 たしかに一冊の本に手をかけていたけれど、抜き取ったのも影だけだった。透明な本が光をさえぎって、まぶしくてしかめていた私の顔に、影を落とす。]


 あ……あの!


[チアで鍛えた脚力を存分に発揮して、一気に伸びあがった。高い背よりもさらに長く私の影が本棚に伸びる。彼にもしも私の影が見えていたなら、いきなり現れたように感じただろう。
 彼が抜き取った本は、そのまま本棚の中に納まっていた。私が背表紙に指をかけると、影と一緒に実体もついてくる。軽くて、セピア色に変色した本を彼に見せながら、]


 私も! これ、借りてもいいですか!


[コミュニケーションを試みた。
 これで何事も無かったように本を変えられたら爆笑だなって思いながら。]**
(32) 2020/09/27(Sun) 12:09:31
到着: 志隈

志隈は、メモを貼った。
(a5) 2020/09/27(Sun) 12:14:54

  リフルは、メモを貼った。
(a6) 2020/09/27(Sun) 13:10:19

【人】 元チアリーダー  早乙女 菜月


「ナツキ!」

 と、肩を叩かれて、はっと我に返った。とっさに本を背中に隠す。
 図書室の中に、さざ波のような雑音が戻っていた。最終下校を告げる放送は、図書室も例外なく流される。
「こんなところで何してんの。帰るよ……なになに? エロいのでも見てたの?」のぞき込まれそうになるのを、「やめーやプライバシーの侵害やぞ」
 笑いながら頑なに背中に隠す。いつもの癖でつい声が大きくなりかけたところを、様子を見に来た司書が止めた。「図書室でじゃれないの。早乙女さん、貸出なら処理するから早く」「はーい」しっしっと友達を追い払いながらカウンターについて行く。

 先生が赤いレーザーで読み取ったところで、「あれ?」と首を傾げた。エラーを起こしたらしい。「貸し出し中? もっかいやらせて……ああ、読み込めた。はい、返却日は二週間後です、破るなよ早乙女」「ゴリラ扱いやめてくれません?」確かに破りやすそうな厚みではあるけども。]
(33) 2020/09/27(Sun) 14:53:11

【人】 元チアリーダー  早乙女 菜月

[数人で連れだって校舎を出る。うちの高校は、校門を抜ける前に、体育館の横を通る構造になっている。体育館には明かりがついたまま。開け放した扉の奥で、オデコ丸出しの集団が私に気づかず練習を続けていた。「いくよー! ワン、ツー、スリー、ハイ!」という掛け声が聞こえてくる。チア部はいつも延長練習をしている。
「やってるねー。どうすんのナツキ、辞めたら暇じゃん。帰って何してんの」「え、筋トレとランニング」「え、なんで……」「え、やることないし……」「え、恋とか……」「え、恋……?」
 帰ったころには忘れてそうなくだらない話をしながら、長く伸びた影を眺める。太陽はもう落ちかけていて、ずいぶん周りと同化してしまった。
「ていうかマジで彼氏作ればいいじゃん。別に恋愛アレルギーじゃないでしょ? 前彼氏いたし。なんで別れたんだっけ?」


 彼氏ねえ……


[そういやいたな、そんなんも。告白されて、断る理由も無いから付き合ったのが。
 霞んだ記憶の中から、去年の人を思い出した。]
(34) 2020/09/27(Sun) 14:54:10

【人】 元チアリーダー  早乙女 菜月

── 回想 元彼との蜜月 ──


[私は最近彼氏ができた女子高生。正直私、幸せです♡ 彼を応援するためにも、恋もチアも頑張るぞ〜♡
 さーて学校ついた柔軟すっか、と鞄を下ろしたところで、ぶぶっとスマホが震えた。
『なっちゃんおはよう 今何してるの〜?』
『練習だよ』と返してスマホを置く。
 さーて柔軟終わった倒立すっか、と立ち上がったところで、再びぶぶっとスマホが鳴る。
『今何してる〜?』
『れんしゅう』
 さーて倒立終わったタンブリングと思ったところでぶぶっ『今何してる〜』『練習!』ぶぶっ『練習!!』ぶぶっ]


 練習ゥ────ッ!!!!


[マットにボスっとスマホをぶん投げながら、思わず叫ぶ。]


 どんだけ聞いてくるんだよ! こちとら年中練習しとるんじゃい!
 あぁあれか!? 芸能人の公式LINEみたいに何が来ても自動返信で「練習」って返すシステム構築すりゃいいんか!?
 
 
[なんだなんだどうしたどうした、と部員たちが寄ってくる。]
(35) 2020/09/27(Sun) 14:56:49

【人】 元チアリーダー  早乙女 菜月

[そして数日後の週末。

 午前練終わった弁当食うか、と鞄を持ち上げたところで、てろれろれろん、とスマホが鳴った。通話だ。
「なになに彼氏?」「かれぴ?」「ぴっぴ?」と寄ってくる部員たちをはために「えーやだもうこんなときまで〜」とくねくねしながら通話に出ると、『あーもしもしなっちん? おつかれー』愛しいぴっぴの声が聞こえてくる。
 甲高い(ただし発声練習で枯れてる)声で「もしもしおつかれー♡ どしたの?」応じると、『あのさーこれからご飯とかいかない?』「あーごめーん夜までチアだから今日はちょっと……もしもーし?」

 しばらくの沈黙の後に、『……ハァ……』とため息が聞こえてくる。えなんで。]
(36) 2020/09/27(Sun) 14:59:26

【人】 元チアリーダー  早乙女 菜月

『なっちんってさ、いっつもチアばっかだよね。
 俺とチアどっちが大事なの? 俺は、なっちんが一番大事だよ?
 俺は、バイトとなっちんだったら、なっちんを優先するのにな……』

「は?」「は?」「は?」『はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜???』

[聞き耳立ててた部員たちと声がハモる。

 え、なぜ私のチアとあなたのバイトへの熱量が同じ立ち位置に置かれているのでしょうか?
 そらもちろんバイトにものすごい熱量を注ぐ人はいる、それはそれで素晴らしいことだし、価値観は人それぞれだけど、少なくともあなたに限りましては? 遊ぶ金欲しさにバイトしてるそうですし? 
『『『それと一緒にすんなァ───ッ!』』』



 ……別れよ!


[〜蜜月編、完〜]
(37) 2020/09/27(Sun) 15:00:16

【人】 元チアリーダー  早乙女 菜月

[というわけで彼氏がいない。
 その後もちょいちょいチア部の看板に惹かれて寄ってきたのと付き合ってみたものの、練習の邪魔してくるわ乳触ろうとしてくるわムキムキの肩に引くわで長続きしなかった。]


 んで、何乳触ろうとしてんだ、乳触る前に鍛え上げた肩を褒めろ。まずは肩からでしょうが! って言ったら振られた。


[「そら振られるわ」「女にはモテそうだけどね、この肩」力こぶを作って見せると、両サイドから一人ずつぶら下がってきたので、ぐるぐると回転してやる。「きゃー!」「きゃー!」「ワハハハハ───ッ!」ぐるぐるぐる。
 ひとしきり目を回してやったところで解放すると、「そら振られるわ」「うん、振られるわ」追撃された。「吐くまで回すぞ」]
(38) 2020/09/27(Sun) 15:03:11

【人】 元チアリーダー  早乙女 菜月

[「ナツキはさー。勇ましすぎるんだって! もうちょっと女思い出しなよ。オデコ隠すとか……」「言葉遣いとか……」「あの運動部特有の、私、じゃなくて自分、って言うやつとかね」]


 うえぇ〜……


[だってなんか先輩やOG相手に「私」って言うのって生意気な感じするし。
 まだ後輩意識抜けないんだもん。

 四月から入ってきた一年生。私の後輩たち。
 だけど、新型感染症の影響で、練習が再開されたのはつい最近。それまではリモート授業。新入生歓迎会の発表も、なくなっちゃったし。
 自分たちはあれだけ先輩にお世話になったのに、私たちの代は、一年生にほとんど何も教える機会が無い。

 だけど、そういえば。
 さっきは「私」って使えてたから、ちょっとは女子っぽかったんじゃない?
 ま、聞こえてなかったっぽいけどさ。
]*
(39) 2020/09/27(Sun) 15:03:50

【人】 二年生 小林 友




  「柔軟体操はじめるぞ、二人組を作れ」



[体育教師の号令は、俺にとっての死刑宣告。

 クラスの中に、気のおける友人なんか
 一人もいやしないんだから。
 ……友人じゃなくても、初対面じゃないから
 声掛けても変じゃない、って?陰キャ舐めんな。

 目の前で次々と組を作っていく
 クラスメイト達を後目に、俺はため息をついた。
 腹が痛い、と言い張って帰りたい。
 二日目なんです、とか言って。
 あー、空の青さが、ひたすらに憎い。

 俺が体操着の裾を握りしめて
 ただじっと立ち尽くしていると……
 クラスメイトの青柳がそっと俺の肩を叩く。]
(40) 2020/09/27(Sun) 15:09:21

【人】 二年生 小林 友



  「トモちんもひとり?
   したらオレと組んでくんね?」


[頼むよぅ、なんて声を出す青柳は
 男の俺から見ても背は高いし、バスケ部だし
 髪も染めてて……如何にも陽キャって感じ。

 白く眩しい歯を覗かせて笑う青柳に
 結局俺も断り文句が浮かばなくって
 運動靴の先を睨みながら頷く他なくって。

 いっその事、虐められてるとか、
 ……靴隠されたり、教科書燃やされたり
 今みたいに、ぼっち丸出しなことを
 指を指して笑われたりとか、
 ─────俺が被害者なら、
 多分この心持ちはよりマシだった、と思う。

 優しい人達の間で上手く立ち回れない自分が
 ただただ、惨めで。
 けど死ぬとかそういうつもりもなくって。

 屈託の無い青柳の笑みに消えたくなりながら
 俺は体を二つに折って、地べたへ手を着いた。]
(41) 2020/09/27(Sun) 15:10:06

【人】 二年生 小林 友

[望んでこの世界に生まれたわけじゃない。

 望んでこんな生き方を選んだわけじゃない。

 だから、全部、仕方の無いこと。



 結局その日、体育が終わった瞬間
 俺は全速力で更衣室に駆け込んで
 着替えを済ませるやいなや
 教室へと駆け出した。

 ─────青柳に感謝も謝罪も、
 する勇気なんか、無かった。]
(42) 2020/09/27(Sun) 15:10:38
(a7) 2020/09/27(Sun) 15:10:43

【人】 二年生 小林 友

[だけれど、最近になってこんな学校生活に
 少し楽しみが出来た。

 図書館の片隅に見つけた、古い童話集>>24

 子ども向けにしては仄暗い香りのする物語は
 俺の心にぽっかり空いた穴ぼこを
 つかの間、やさしく埋めてくれるきがして。

 重苦しい授業が終わったら、
 部活に向かう同級生の隙間を縫って
 誰もいない図書館の片隅に行っては本を開く。
 古本特有の甘い匂いに鼻先を寄せると
 ざわつく心が静まるよう。]
(43) 2020/09/27(Sun) 15:10:57

【人】 二年生 小林 友

[それと、もうひとつ。
 ネットの青空文庫でも読めるこの本を
 わざわざ学校で読む理由。

 俺は、書架の陰になった机に荷物を置いて
 本棚から慣れたように
 『赤いろうそくと人魚』を取り出すと……

 間に挟まっているだろう便箋を探して
 ぱらぱらと頁を捲るのだ。]
(44) 2020/09/27(Sun) 15:11:17

【人】 二年生 小林 友

[窓の外ではバットがボールを打った
 カッコーン、と軽い音が響いている。
 図書館の前の廊下を、軽音部らしき数人が
 楽器ケースを背負って駆けていく。

 そんな学校の風景から逃げるように
 俺は古びた本の世界へ埋没していった。]
(45) 2020/09/27(Sun) 15:12:12

【人】 二年生 小林 友

   人間は、この世界の中で
   いちばんやさしいものだと聞いている。
   そして、かわいそうなものや頼りないものは、
   けっしていじめたり、
   苦しめたりすることはないと聞いている。
   いったん手づけたなら、けっして、
   それを捨てないとも聞いている。
(中略)
   せめて、自分の子供だけは、
   にぎやかな、明るい町で育てて
   大きくしたいという情けから、
   女の人魚は、子供を陸の上に
   産み落とそうとしたのであります。
   そうすれば、自分は、再び我が子の顔を
   見ることはできぬかもしれないが、
   子供は人間の仲間入りをして、
   幸福に生活することができるであろうと
   思ったのです。

─────『赤いろうそくと人魚』
               小川 未明*
(46) 2020/09/27(Sun) 15:18:41

【人】 アクスル

 
[蒼く幻想的なチャペル。
 24時間は絶対に開かぬという防火扉に
 閉じ込められた男が二人。

 一人は、優れた腕を持つ
 インセクトブリーダーで、標本作製家だ。

 彼のつくった世界に二つとない
 突然変異の稀少蝶の作品に魅入られ
 数週間前に盗み出していた
 愚かな異邦人が、もう一人。

 男は最前列に寝かされ四肢を拘束され
 金の髪を乱しながら
 その身に罪の証を刻まれていた。]
 
(47) 2020/09/27(Sun) 17:02:37

【人】 アクスル

 
[大切にされていたその至高の品を
 盗んだことこそが罪だと認識している。
 けれど、本当の罪は────…**]
 
(48) 2020/09/27(Sun) 17:02:54