人狼物語 三日月国


90 【身内】ifかもわからん!【R18G】

情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:


ぷは、と息継ぎのために空いた隙間はたちまち塞がれる。
熱に溶かされた体が交わって、
こんなにも至近距離にあるのにまだ遠い。
まだひとつじゃない。


快楽に貪欲でまとまりのない頭は、
最後に残されたひとかけらの理性だけが
『あなた』を指向しつづけた。
どうすれば埋められるかと酸素の足りない頭で思考する。


幾度目かの息継ぎのとき、
とびっきりの甘い
をこめて囁いた。


「ぜんぶ……見て…………」
求めて。暴いて。貪って。

「とよひに……見られるの……好き……から……」
ひだまりみたいなやさしさも。ぴりと刺激を感じる強さも。
呑みこまれそうな出処のわからない不可思議さも。


誘惑と呼ぶには拙い、感情を言葉にしただけの。
他者の心などわからないから、
独りよがりの内面を知ることはない。

しかしあなたも似た気持ち
[欲]
を抱いていると
確信に似たものを抱いている。
だからこの欲望であなたの欲を肯定して、
最後の歯止めすらこわれてしまえと
まほうのことばを唱えるのだ。

目前で囁かれるのは心から欲しい言葉ばかりだった。
意識がくらくらとして心地よい。

この理由の分からない許容をさいごまで呷ってしまいたい。
底のない執着を残らず押し付けてしまいたい。


でもそれは、


「……ッ」

とどめのような甘い誘いに、刹那、夢うつつの表情が崩れた。
口を合わせるのをやめて、首筋に顔を埋める。

違う、違う、それで何度大事にできずに失敗して

「ごめん、なんで……こんな、」


近付きすぎたことを詫びているのに、恐怖に駆られた体は他でもないあなたに縋りついていた。

楊梅が離れて、蜂蜜はぐにゃりと崩れて滲む。

『おんなじ』は錯誤していたに過ぎなかった。
それをつきつけられてさっと熱が引く。
湯船に浸かっているのに指先までしんと冷たい。

というのに体の中心に燻りつづけた熱は未だ引かず、
首筋に触れられた刺激で淫らな声を漏らした。
はしたない。



縋りつく背をやさしく撫でる。

「大丈夫だよ」

平静の声を取り繕えただろうか。

「とよひー」
「すべて俺のせいにして。悪いのは俺だから」
「怖がらせてごめん」

安心させたくて似たような言葉を何度も繰り返す。

共感した不安に襲われて、
あなたの反応の予期できぬことがひどく恐ろしかった。

それでも縋りつく先が今ここに自分しかいなかったことだけが
唯一の慰めだ。

「ちゃう、キヨくん、それは俺が」
「……」

掻き抱く腕の力を緩める。

呼吸が整っても、あなたの肌へ触れていることに幸せを感じている。
穏やかに背中をさすられるたび、安心感と一緒にもどかしい疼きが蟠る。
姿が、声が、感触が、頭を離れない。

何かがおかしい。
おかしいのに、ずっと前から望んでいた気がして、
分かっているのに、このまま壊れるまで暴いてしまいたくて、

「大事にしたいのに、こんな……」


感情が小さく溢れた。


「……出よ……か」
「のぼせたら、良くないし」


言葉に反して、両腕はまだ名残惜しそうにあなたをつかまえていて。
言わなければならないことを言うために口だけを動かす。

これ以上優しさに溺れれば止まれない気がした。

さながらシーソーみたいに、
腕の力が緩んだ分だけ代わりに力を入れる。
口ぶりに反して、そこだけは聞き分けの悪い子供だ。

「大事にされているよ」

これまでも、
口内をまさぐる指も舌も大事に愛おしんでくれて

ダメだ。猥雑な思考が抑えられない。

「とよひーが思っているよりたくさんもらっている」

内心を否定するように重ねた言葉は無垢な本心そのものなのに、
『たくさん』の内訳を考えれば
今日この日のやましさがあふれかえる。


吐息が熱い。
あなたに効かなかったまほうはこの身に跳ね返り、
自家製生する毒がじくじくと身を苛んだ。

「うん…………」


最後に背中をひとなでして緩慢な動作で離れた。

それでも離すことを望まれるまでは、
手をぎゅうと握り続けたのは自身の意思だった。

それから気分を落ち着けようと売店を物色したりして、
部屋に着いたのはだいぶ後のことだった。
浮足だった気持ちに変化はなかった

扉を開いたとき、アロマでも焚いているのか、
ほのかに甘い香りが鼻についた。

「遅くなってごめ〜〜〜……えっ!?」

部屋の中央に設置された大きなベッドに釘付けになり固まる。
男二人やすやすと受け止めてくれそうだがひとつしかない。
二人一部屋なのに。

「あー……。俺、ソファで寝るよ……?」

備え付けのソファを差す。
あんなことがなければ、
床をともにすることに抵抗なかったろう。

「……あ」
ベッド端に腰掛けて何をするでもなくほうけていた。
扉が開く音で入口に目を向け、あなたの様子に苦笑する。

「せやねんな。俺もびっくりした。
 けど、キヨくんソファで寝かすぐらいやったら俺がソファで寝るわ。俺やったらどうせ3時間もいらへんし」

「えっ。ダメ!
 とよひーをソファに寝かせるなんてやだよ。
 睡眠時間とか関係なしに!」

「そう言うてもな〜……俺が完徹するっちゅうのは?」

寝なけりゃいいんじゃね?!という意味。
アホ。

「もっとよくない」
近づいて、ずいと顔を寄せて、言い聞かせるみたいに言う。

「それならも〜、一緒に寝よう。
 冬馬くんとか深瀬くんみたいに」
すぐに誰かの布団へ潜り込む後輩たちよ。

「んっ、」
びくりと肩が跳ねる。

「……ええの? や、俺はええねんけど……」
「その、……キヨくん怖ないん、あんなんされた後で」

蒸し返すのは気が引けたが、無理させるよりはいいと思った。