人狼物語 三日月国


159 【身内RP】旧三途国民学校の怪【R18G】

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出席を取ります

 

どこかの教室で、少女が教鞭を執っていた。

鳥飼
。」

「……
夢川
。」

名前の増えた出席簿を満足気に読み上げ、閉じる。
前回との違いは、名前が増えたことと──鳥飼の麦わら帽子が無くなり、首元に無数の引っ掻き傷ができたことだろうか。

「わざわざ死体の喉から引っ張り出す子もいないだろうし……正に一石二鳥だったね」

うんうん、と頷いている。


どこかの教室。
並べられた机。
ひとり。机に突っ伏す青年と違い、ただ普通に座っている。

「はあい」

教師が生徒の名前を読み上げ、生徒が返事をする。
何の変哲も無い朝の光景の模倣。
青年の様子と、ここが既に廃れた場所である事を除けば。

「一石二鳥。
 喉から……中に何か隠したの?」

鳥飼だけに?

そんなしょうもない言及はしないでおくとして。
別れる前に言っていた言葉から、何かを隠した、と推測した。

「……ああ、そうだ。これ、稔から借りて来たんだけど…
 骨と一緒にあの缶に入ってたんだ。
 先生、何か知らない?」

連想ののち、取り出したのは誰かの名前らしきものが書かれた布。
あなたと最年少の少年が掘り返した缶に入っていたものだ。

貴方の疑問へ頷きを一つ返す。

「名簿に私の名前書かれてたからさ、そこだけ破り取ったんだけど……。
 暗いから燃やすと見つかりそうだし、破いたり埋めたりするのも、やっぱり見つかりそうだったから」

「牧夫に手伝ってもらったんだ」

何の悪びれもなく、少女は語った。
死んだことは結果論であり、自分にそんな意図は無かったとでも言う様に。

貴方の席へ近付き、取り出された布を見つめる。
そっと手に取れば、名前を見て「ああ、」と小さな声を漏らす。

「匠さんのだね。今も住んでるかは知らないが、神社の横に住んでた宮大工の三男坊」

懐かしそうに布の名前を読む。
敬称が付いているあたり、歳上なのだろう。恐らく、数歳以上離れている。


「本人は赤紙が来て行ったきりだから、その前……んー…………」

灯りのない天井を見上げ、暫し考え込む。

「……あ、思い出したぞ。
 それ、空襲で焼けた子達の骨だ。
 部落民だったり、引き取り手がいなかったりしてさ。
 でも匠さんはそういう差別が好きじゃなくてね……」

曰く、彼はそのまま棄てられそうになった友人達の遺骨を一部ずつ盗んで来たという。
帰還してから、しっかりとした供養をするつもりだったのだろう。
それとも、せめてもの供養のつもりであったのか。

「すっかり忘れてよ。
 隠した場所を聞く前に出征してしまったからなぁ……」


「名簿。ずっと持って歩くのもだしね」

もはや机に体重を預けるばかりとなった青年を横目に見遣る。
その動作の中にあるのは、何らかの感慨と言うよりかは納得だ。
あなたが彼を死に至らしめた事そのものは、
やはりこの場に於いて、非難するような事ではないらしかった。

怪異が人に危害を加える事を躊躇うだろうか。
怪異が人を殺める事を躊躇うだろうか。
個々の性質的なものを除けば、きっとそんなことはない。
これはたったそれだけの事。


「………神社の横、あそこかな。ふうん…」

そうして、ぽつりと声が降れば視線はあなたの方へと戻る。
あなたの知る神社は今も健在なまま在って、子供達も知っている。
となればそれと結び付きの深い職業である宮大工の一家も
きっと絶える事無く、健在で居ることだろう。

「じゃあ、ちゃんと埋め直してあげないとだ。
 色々やらなきゃだから、すぐにはできないかもしれないけど。
 ……あと、埋め直す理由も考えておかなきゃね
 あの骨、稔には違うものに見えてたみたいだから」

埋めた誰かが取りに戻って来るかもだとか、そんなのでいいかな。
持ち出されてしまった幾つかも、戻せたらいいんだろうけど。


「……なんでここに埋めたんだろうね?」

そういえば、と。
付け足すようにそんな疑問をふと零した。

その由縁を聞いても、その理由は未だ想像が及ばなくて。
埋めた人や、埋められた人々に何かゆかりがあっただとか
寂しくないようにかな、なんて推測くらいしかできない。

ただ掘り起こされないようにするだけなら、
学校の敷地内より、もう少し外れの方が良いはずなのにね。

「あ、場所については簡単だ。
 昔はこんなに校庭が広くなくてね、あれくらいの場所が敷地の外れだったのさ。
 後は私に託すつもりだったのかもしれない。
 だからわかりやすい場所に埋めたのかも」

戦後の一時期、増えた生徒数に対応して広げたのだ。
まさか未来であんなに賑やかになるとは思わなかったものだから。
時間も無かったし、きっと急いで埋めたのだろう。

「まあ、どうして地表近くに出て来たのかは知らないけど……。
 賑やかだから、起きちゃったのかもね」

その口振りからは、あまり追求する意思は感じられない。
理由が何であれ、こうして顕になったことは事実だ。
解明することへの利益があるとは思えなかった。

「……そういえばさ、全員って話したけど。
 夏彦も含んじゃって良いのかい?
 準別れ話してる、みたいな話聞いたよ」

準、と付けたのはきっと曖昧な空気であろうことを察してのことだ。

「別に夏彦のこと、嫌いになったわけじゃないんだろうに。
 優しいね、深雪は」

そうじゃなきゃ、一緒にいたいなんて思わない筈だから。
矛盾する貴方の言動を、思い返した。


「そっか。頼りにされてたんだ、昔から」

あっさりと返った答えには、素直に納得したようだった。
こうして山地が大きく切り拓かれたのは後の事だろうし、
あなたを頼りにした、というのも有り得そうな話だと思って。

「誰かに見付けてほしかったのかも」

長い間待って、それでも誰も迎えに来なかったから。
それぞれの思いでもってこのような形で留まり続け、
こうして皆の前に姿を現すに至った自分達のように。
そんな事もあるだろうと結論付けた。骨は何も語らないから。


「………夏彦も入れて、全員だよ」

続く問いには目を伏せて、それでもはっきりと言い切った。

「嫌いになれるわけない。
 叶うならずっと一緒に居たかったけど、簡単には言えなくて。
 夏彦の気持ちもわからなかったから、余計に、何も。
 ……俺は、最期のあの日をやり直したくて」

ただ互いにすれ違ってしまっただけなら、やり直せるはずで。
離れ離れになるにしたって、もっと良い形があったはずで。
わからなかった事が、聞きたかった事があって。

せめて、綻びが修正不可能なものになってしまう前に。
やり直そうとしたはずなのに、その前に全てが終わってしまった。
願わくば、そんな最期の日をもう一度だけ。


何れにしたって、自分はもう答えを変えられないのだろうけど。

「だから……夏彦の事は、俺が迎えに行ってもいい?」

本当に好きなら、一緒に来てくれるでしょ?
それとも、もうどうでもよくなっちゃった?
そうだとしたら──それでも、俺はずっと一緒に居たいよ。

「勿論だとも。
 最初からそう言うと思ってたさ」

大切な生徒の意思を尊重しない教師がどこにいようか。
いたとしても、それは教師に相応しくない。
少女は、自分の思い描く『理想の先生』である。

「……私は、想いを伝えられなかったから」

戦時中の恋となれば、その結末は想像に難くない。
窓の外、夜空を見つめぽつりと呟いた。

「助言はあんまりできないけれど、上手くいってほしいと思ってる。
 私にできることがあれば、何でも言ってくれ」

現に少女はこうして少女のまま数十年の時を過ごし、留まっているのだから。


「……ありがとう」

ゆっくりと、やや俯いていた顔を上げて。
確かな安堵と喜びを表情に浮かべ、眉尻を下げて笑んだ。
あなたはきっと否定はしないと思っていたけれど。
それでもやっぱり、嬉しいものは嬉しくて。

もう既に、盲目的とすら言えるほどにあなたに信頼を寄せている。
あなたがあなたの思い描く『理想の先生』で在る限り、
同じ子どもである『生徒』にとっても、それは理想そのものだから。
そんな存在から受ける後押しは、きっと何よりも心強くて。


「…伝えられなかった、そっか、うん……
 大丈夫、きっと上手くいくよ。
 先生が俺にやり直す機会をくれたんだから、きっと」

夜空を遥かに見る横顔は、少し寂しく感じて。
自分があなたに返せるものはそう多くはないけれど。
あなたが『先生』であるの為の『学校』が、
少しでも明るく良いものになれば。きっとそれが一番で。

これは、やり直す為の機会だ。

自分が、あなたが、
ある時からずっと立ち止まってしまっている場所から。
再び歩き出して、叶わなかった夢を繋ぎ、やり直す為の機会だ。
少なくとも、夢川はそうなのだと信じている。


「そういえば……
 先生は、自分で迎えに行きたいなって人は居る?」

言い知れない物寂しさを感じる内に、ふと思い至る。
自分とまったく同じようなそれではないとしても、
あなたとごく親しい──或いはそのように認識している。
もしもそういった誰かが居るなら、
任せてしまった方が理に適ってもいるはずだから。

「もし居るなら俺、
 その人にはあんまりちょっかいを掛けないようにしておくよ。
 もちろん話すくらいはするだろうけど…」

「ん〜……そうだな、是非とも招きたい子はいるね。
 マユちゃんとか、カナ姉とか。
 何だか生きにくそうに見えちゃってさ……」

個人的な思い入れのある子供、というのは今のところ無いようだ。
それは平等に生徒達と接する、『先生』としての立場を踏まえた姿勢でもある。

しかし。
見えない圧力を受けている同性に対しての同情は、やはり拭えない。

「絶対自分の手で迎えに行きたい、ってわけじゃなくてね。
 こっち側に引き込みさえできれば良いんだ」

だから自由に過ごしてほしいな、と。
少女は笑っていた。

 




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