（どうか…………私にあたたかな眠りを）

　　　　　　　（　今なら解る。苦しみとは痛みでなく、
　　　　　　　　　傍に立つ者が盤上から降り
　　　　　　　　　二度と戻らないという喪失感だと。　）

（　一つ、また一つと燃え落ちる様にして消え。
　　　其れでも未だ“大切なもの”として此処に在るのは、　）

[鉤爪で傷つけぬように包み込んだ、案外弱々しい背中は
傷だらけの冷たい身体を抱き寄せた時と重なってしまう。

　　　　トロイメライを振り返っただけ。
　　　　ただの自分のエゴイズム。
　　　　だけれど、彼はそれを拒みもしなかったから、
　　　　……血濡れた手を、縋るように伸ばしたのだ。]

（よく切れる刃物など、復讐では都合の良い獲物なのに。
　遂にそれを使わずにしまっておいたのは、
　……を果たす最後まで
　絶対に他者の血で汚したくなかったからなのか。）

　　　有象無象に興味がなければ
　　　己のことだってどうだって良かったのだ…今までは。

（自分の道を決めた、たったひとつの人間性が
　今度こそ手放しはせぬと握りしめた──唯一無二。）