148 霧の夜、惑え酒場のタランテラ
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[命もない、魔法も使えない一人の子供が、
目的を果たすためには、ここに居る他なかった。
あれから5年ほど経つ、時が経てば経つほど、
運命的な再会を果たす可能性は低くなる。
正直、焦っている。
でも僕はこの店に運よく相手が来ることを願い、
待ち続ける以外に出来ることはない。
会いたいだけなら、探しに行けばいい。
世界中を探すのは簡単な事ではないけれど、
ただここで待っているよりは、まだ希望がある。
でも厳密に言うと、会う事が目的ではない。
僕が本当に果たしたいのは―――――……。]
[僕だって気付いている。
一寸先は闇。未来はどう転ぶか分からない。
問題の先延ばしをしているだけかもしれない。
運命を変えたはいいが、より悲惨な末路を辿るかもしれない。
知ってしまったからこそ、悲劇が生まれるかもしれない。
占い自体は当たっているのに、
それを伝えることで未来の展開にずれが生じて、
占いが外れてしまったような形になるかもしれない。]
―
回想:僕たちの船が沈んだ理由
―
[ウルティマ・トゥーレへと向かう途中に、
僕たちは救援信号を出している船を発見した。
近づいて双眼鏡を覗けば、
船の甲板にがりがりに瘦せ細って、
最早服とは言えないぼろぼろの布を纏った青年が、
膝を抱えているのが見えた。
勿論、僕たちは救助に向かった。
父さんをはじめとした乗組員たちが船を移り、
青年に気をとられている隙に、
僕たちの船に待機していた賊が侵入した。]
[初めに人質に取られたのは、僕より幼い乗客の少女。
そして少女を盾にして、人質は増えていった。
当然、僕もその中に含まれた。
「私たちはどうなってもいい。
どうか乗客の命だけは助けて欲しい」
最後まで懇願する父を無視して、
下卑た笑みを浮かべながら、父の首を撥ねる光景を、
僕の瞳はしっかりと映した。
それを皮切りに、大人の男性は乗組員・乗客を問わず、
一人残らず命を刈られた。
僕はもうこの時点で、
後生だからいっそ今すぐ僕も殺して欲しいと思ったよ。
けれど、地獄の宴は終わらなかった。]
[次に狙われたのは女性。
「クルーの皆さんが噂しているのを聞いたの。
貴方がとってもお料理上手だって。
プロのお料理も良いけれど、
貴方の作った料理も食べてみたいわ」
どこかで僕の境遇を知って、
優しく接してくれた乗客の奥さんが……。
「私は途中で下船して、恋人の元へ行くの。
二人暮らしが安定したら、結婚するわ。
ハネムーンで、再会できると良いわね」
幸せを約束されていた筈の、乗客のお姉さんが……。]
[他にも船に乗っていた花は一輪残らず、
海賊どもに踏み荒らされた。
奴らが何をしたのか、子供には分からない。
彼女たちが何をされたのか、子供には分からない。
でも、死んだ方がマシな事をされているだろうことは、
分かってしまった……。]
[こんな所に最高にイイ女など居ようものなら、
どんな酷い目に遭ったことか、子供の僕にも知れたこと。
既にこの世に存在しないものを盗むことは出来ない。
だから僕は心の底から、
母さんが生きていなくて良かったなどと、
罰当たりなこと思ったんだ。]
[希望と愛を乗せていた船から、
幸福は残らず奪われた。
最後に僕たちの船は油を撒かれて火をつけられ、
夕日みたいに沈んでいった。
僕たち女子供は、そのまま海賊のアジトへ拉致された。
最早暴れて抵抗する元気を持つ者も、
泣き叫ぶ元気のある者もいなかった。
アジトには他にも何処かで僕たちのように
拉致されてきたのであろう、
女性や子供たちが沢山いた。]
[そして今度は、僕たちを奴隷として売るために、
船で奴隷市場のある場所へと移動する。
不衛生な船室には、絶望に塗れた子供たちが、
ぎゅうぎゅうに犇めき合っていた。
一日に一度、魚に餌をやるように、
パンくずが僕たちの押し込められた
船室にばら撒かれる。
それをわれ先にと、奪い合いながら貪った。
最早、人としてまともに生きているとは、
到底言えない有様だった。]
[いつしか狭い船室内で、しきりに咳をする子供が出てきた。
人数はどんどん増えていき、死者も出始める。
海賊は子供がこと切れているのを確認すると、
面倒くさそうに船室の外へ運んでいった。
まともに葬ってくれるような連中じゃない。
船外へと子供たちの屍は投げ捨てられていたのだろう。
当然医者が診ることなどありえないから、
これは僕の推測だけれど、
あれは恐らく肺結核だったのだと思う。
生きているだけで満身創痍な子供たちに、
病は翼を開く様に軽やかに蔓延した。
当然僕も、同じ病気を患った。]
[高熱に、止まらない咳、血痰……。
最初はすし詰めだった船室内に、
ぽつりぽつりと穴が開いていく。
「助けて」と、声にならない叫びをあげた時、
僕の瞳が捉えたのは、幸せだったころの幻。
助けて欲しいのは、皆の方だったと思う。
僕は今の今まで、のうのうと生きてしまった。]
[高熱で痛む節々に無理をさせ伸ばした手は、
何も掴むことなく沈んでいった。
を叶えることもできず、
を守ることもできず、
に一矢報いることもできなかった。
悪寒で震える体に、熱に浮かされ燃える憎悪。]
[その最期は、さながら沈んでいった僕達の船の様だった。**]
| 「いつまでも子供でいられないと思えるのは 立派だと、私は思います。 >>0 ……叶うなら、いつまでも子供でいたい。 そう思う人は、少なくないから。 責任なんて、捨ててしまいたいと。」 (86) 2022/05/28(Sat) 23:38:26 |
| 見ないふりをしてもいい。 >>1 そんな風に、言ってもらえるとは 思ってもみなかったから ぱちり、と瞬きをして。 現実のきつさの説得力は、それはもう。 言葉の重みが違う。だからこそ、響く。 (87) 2022/05/28(Sat) 23:38:51 |
私が行動を起こして、もし未来が変わっていたならば
セシリーが、生きている未来があるならば。
一つの国が混乱に陥っていたかもしれない。
二人が幸せになる未来
が招くのは
大勢が不幸になる未来
。
私は、選んでしまったの。
未来を変えないことを。
| 「……っ、そうね。 私の運命は…… 他人の運命を背負うことだと。 ずっと、そう思っていたし、 今も、少し。」
持って生まれた力からは、逃れようがないから。 でも、決断した本人の責任、という言葉に 救われてしまうのも、事実で。 (89) 2022/05/28(Sat) 23:40:57 |
|
「ありがとう。 そうだったらいいな、と思う。」
私がセシリーに話していたならば 背負わなくていいと、言ってくれていたのか。 それは、わからないことだけれど。
(90) 2022/05/28(Sat) 23:42:08 |
| 一瞬、曇った表情に、 >>5 もしかして、 前向きな願いではなかったのか、 と。 思わなくはないけれど、それでも私は 彼の願いが叶うように祈ろうと思う。 「祈ることしかできないけれど… 応援しています。 会って、成したいことを、成して。」 (91) 2022/05/28(Sat) 23:43:15 |
| だからこそ。 私はたとえ彼の願いがどんなものであろうと 応援したい、と思うの。*
(92) 2022/05/28(Sat) 23:46:26 |
| 「……まるで自分が 殺 されたみたいな。 そんな言い方をするんですね。 それとも、ただの例え話?」 首を微かに傾げて。 私の気の所為だとしても、そう聞こえたから。 知っている人に見つけて欲しい 忘れないでいて欲しい。 それは、この人の願いにも聞こえて。 もし、そうならば。 叶えたいと思うのに、 きっとそれは私じゃない誰かの役目で (150) 2022/05/29(Sun) 19:41:23 |
| 誰も冥福を祈ってくれる人が居なかったと そういう声はどこか寂し気に響いた気がして ゆらり、と瞳が揺らめく。 貴方の大切な人も…… 祈ってくれなかったのか、と言いかけて、 私の声は酒場の賑やかさにかき消された。 届いたとしても、聞こえなかったと 誤魔化せそうなくらいの、声だったから。 「縁のある人しか……出来ない……。」 (151) 2022/05/29(Sun) 19:42:18 |
| 今からでもまだ、届くのなら。
―――――願いたい。
「……!やっぱ、り……。 願いって何処に向かって投げるの…? 空、とか……?」 一人のゴーストさんの意見を聞いて 私は悩みながらも。 最後に付け加えられた一言に ムッとした顔をしてしまったはず。 (152) 2022/05/29(Sun) 19:43:11 |
| (153) 2022/05/29(Sun) 19:43:31 |
| 頼んだピザは一人で……食べられなくはないけれど 分けるつもりでいたから。 ハバネロなんて入っていたとしたら 激辛ピザを食べることになったのは 私だけではないはずだけれど。 「……優しいですよ。 ハバネロまみれになってても。」 (154) 2022/05/29(Sun) 19:44:07 |
セシリーが殺されたと聞かされた時
私は涙を
流さなかった。
流せなかった。
絶望に心が麻痺したから、とかならよかったのに。
どこか、受け入れてしまった私のせいで
私は泣けなかったの。
セシリーはもういない。
何処にも、いない。
目をそむけたくなるほどの
残酷な現実。
涙ひとつ見せず。
その時、教えてくれた兵士に向かって
微かに
笑
いさえした私は、
間違っても妹になんて見えなかっただろう。
泣いたのは夢の中でだけ。
|
だから―――――。 ハバネロまみれのピザが来たとして。 私は彼を優しいと、思ってしまう。
辛い辛い、って何の躊躇いもなく泣けるでしょう?
(155) 2022/05/29(Sun) 19:45:31 |
| *** 夜が明ける。霧夜の終わり、 私は席を立って外を見た。 うっすら明るくなっていて、今なら帰れそうで。 結局自分が飲み食いした分のお金は 席に置いて、立ち上がった。 ……夜が終わりを告げたからかな。 私にはすでに、ゴーストが見えなくなっていたから。 「ごちそうさまでした。 ……お料理、どれも美味しかった。」 シーフードピザも、分けてもらった船盛も 唐揚げも、海の色みたいなカクテルも。 ありがとう、と小さく呟いて。 (156) 2022/05/29(Sun) 19:46:06 |
| それから、懐の中から一枚、 タロットカードを取り出す。 無造作に取り出した一枚は、なんでだろう。 未来を見たわけでもないのに予想がついていた。 「決めました。 逃げてきたあるべき場所へと 一度戻ることにします。 残してもらった物の意味を考えるために 他にもないか、探すために ……後悔を、忘れないために。」 (157) 2022/05/29(Sun) 19:46:43 |
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