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【人】 店主 うつぎ───いらっしゃいませ。 まあ、ご遠慮なさらず、入ってください。 珈琲と紅茶しかない小さな店ですが、 本ならいくらでもありますから、どうぞ。 (1) 2021/05/16(Sun) 23:03:44 |
天のお告げ(村建て人)は、メモを貼った。 2021/05/16(Sun) 23:11:27 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[元町の一角に佇む、古びたその店は 看板に達筆な文字で『伽藍堂』と銘打つくせに 店の軒先から、店の奥の方まで ずらりと物が並んでいる。 古い簪や帯留、古書や刀剣、食器に孫の手…… 店中を埋め尽くす古物の森の匂いに対抗すべく 俺は店の奥にあるカウンターの上で ひとりコーヒーを啜っている。 「うちは紅茶の店なのに」と文句を垂れつつ それでも上質な豆のコーヒーを用意してくれる 腐れ縁の店主は、いつも要らないのに ジンジャークッキーをおまけにつけてきて。 店の奥から眺める往来の風景も 店の匂いも何もかも変わり映えもせず 薄いバターみたいに引き伸ばされた日常が この先綿々も続いていくのだ、と。 数ヶ月前まで、そう思っていた。] (3) 2021/05/17(Mon) 0:32:22 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[けど、最近の俺はこの変わり映えしない 日常の中、店先からひょっこり覗く顔を待ってる。 賑やかしい子は、一人いれば この店の中の空気ごと固まってしまった時間を すぐに解きほぐしてくれるだろう、と。 未だ手付かずのジンジャークッキーも 俺と一緒に、彼女の来店を 待ち望んでいるに違いない。]* (4) 2021/05/17(Mon) 0:36:25 |
【人】 アスペイジア[家のことに別段興味はなかった。 「飛鳥さん、そんな格好ははしたないわ」 「飛鳥さん、付き合うお友達はきちんと 選んでいただかないと」 「飛鳥さん、夜はもっと早く帰ってきてください」 「飛鳥さん」「飛鳥さん」「飛鳥さん」 それで?わたしに何が残るの? 今楽しいことをして何が悪いの? 好きな服を着て、好きな人と付き合って 好きなものを食べて、好きな場所に行く。 幼い頃は許されなかったこと。 だけど、今は、「はい、おばあ様」としか 言えなかった小さな子供じゃないから。 「わかりましたー」って言いながら、 今日も好きな服を着て出ていくの。] (5) 2021/05/17(Mon) 9:10:09 |
【人】 西園寺 飛鳥[W西園寺Wの家は、所謂名家というやつで 幼い頃からお茶やお花、書道、ピアノ、ヴァイオリン クラシックバレエにテニス、日本舞踊と、 まあありとあらゆるお稽古ごとにいかされて 『正しく』育てられてきた………らしい。 幼い頃はなんでもきちんということを聞いた。 おばあ様のことは怖かったし、そうしなければ ならないと教えられていたから。 ───ただ、わたしにも個性があった。] (7) 2021/05/17(Mon) 9:12:03 |
【人】 西園寺 飛鳥[所謂Wお嬢様Wみたいなふんわりしたワンピースや フレアスカート、ピンクや白を基調としたものより ピッタリとタイトな黒のものが好き。 丸く切りそろえられた爪よりも、派手なネイル。 主張しすぎないナチュラルメイクよりも 強く美しく、かっこいいしっかりしたメイク。 ぽってりとした甘い桃色の唇よりも キリリと顔面を引き締める真っ赤なリップ。 洗練されたクラシックよりも、体の底から 響いて跳ねるような爆音のEDM。 そういう自我に目覚めたのは高校生の時で その頃からだんだんと付き合う人も変わり、 友達も増えていった。 家のことが嫌いなわけではない。 隠しているつもりもない。 長く付き合いのある友人にはうちに来たことが ある子もいる。ただ、その子に言われた。 「いいとこの子ってわかったらなんかトラブルに 巻き込まれかねないから、なるべく隠しな」と。 彼女のおかげもあってか、今も私は毎日楽しく 平穏に暮らしているわけ、ですが。] (8) 2021/05/17(Mon) 9:12:26 |
【人】 西園寺 飛鳥[最近、出会った人がいる。 古物商というお仕事をする年上のひと。 おばあさまが物置の整理をするのに、 鑑定を依頼した、らしい。 我が家へとやってきたその人を 一目見た時に、私はビビビッと何か 電流みたいなものが体を巡るのがわかった。 恋というものはしてきたつもりだったけれど 今までの比じゃない衝撃だった。 これは絶対恋。 そうじゃなかったら名前なんてつけられない。 ───とはいえ。 鑑定後、その結果におばあさまが激怒して 彼を追いかけていくとかそれどころでは なくなってしまったのは残念だったのだけど。] (9) 2021/05/17(Mon) 9:12:42 |
【人】 西園寺 飛鳥[あの日、たまたま見つけた。 待ち合わせに遅刻するという連絡が 友達から入ったわたしは、普段なら覗かない、 W映えないWお店を覗いたのだ。 そこにその人がいた時、運命だと思った。 また電流が体を駆け巡って───] お兄さん、この前うちに来てた人だ [と扉を開いて声をかけたのだ。 この人はどんな声で話すんだろう。 どんな瞳をこちらに向けてくれるんだろう。 逸る心臓をおさえながら、にっこり微笑んだ。]* (10) 2021/05/17(Mon) 9:13:00 |
泡沫の約束 “ ”は、メモを貼った。 (a0) 2021/05/17(Mon) 11:33:40 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介 ー あの日 ー [門の脇に生えている松の木の枝が 寸分違わず剪定されているのを見てから 正直少し、居心地が悪かった。 店の奥で縮こまっているだけが 古物商の仕事じゃない。 今日みたくお客の家まで出張して 買取・販売するのも俺の大事な仕事。 母屋の脇の土蔵の中のお片付けを……と お上品そうな老婦人に依頼を受けて 足を運んでみたものの、このぴしりと 湖に張った氷みたいな静謐さは どの家にいても息が詰まりそうになる。] (11) 2021/05/17(Mon) 14:25:54 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[大きな居間に俺を案内すると 大島紬をしゃなりと着こなした老婦人は 『これは代々伝わるものなのですが…』と 蔵から出てきたという 花瓶やら掛軸やら茶碗やらを並べて笑う。 その洗練された所作は、きっとこの家の 伝統や格に裏付けされたものか。 その『代々伝わるもの』を何故手放すのか 俺は問い掛けたいのを堪えながら 広げられた古美術品たちに目を落とす。 やや印のズレた掛軸、 わざとらしい釉垂れの茶碗…… 俺は見るべきもの探すように 畳の目に視線を走らせて───── かた、と襖の奥からの音に顔を上げた。] (12) 2021/05/17(Mon) 14:26:24 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[この家に似つかわしくない、 けれど『年頃の娘』という感じのお嬢さん。 古美術の色褪せたセピア色に馴染んだ目に ぱっきりとした赤い色が、眩しくて 俺は目をぱちくりさせる。 『挨拶なさい』と厳しく一喝する老婦人の声に そのお嬢さんは従っただろうか? 目が合うなら、一言「お邪魔してマス」と 片頬上げて会釈するくらいはしよう。 たった一瞬だけだったとしても 俺はあの家に咲いた、 花のような赤の鮮やかさを忘れられない。] (13) 2021/05/17(Mon) 14:26:43 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[─────その後、羽二重餅みたいな 婉曲で包んだ言葉で評価額を尋ねてきた老婦人に 『額の付けられるモンはないので 大切に仕舞うより使っちまった方が よっぽどこの品モンには良いでしょうヤ』 と正直に答えて家を叩き出されるまで、 俺の瞼の裏に、赤い花は咲いたまま。] (14) 2021/05/17(Mon) 14:27:26 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[金にはならない、時間だけ取られた仕事を終えて それから数週間は経ったろうか。 変わり映えのしない店の中で 唯一の常連客の猫の背を撫でながら ぼんやりと過ごしていた時、 ふと、また視界に花が咲く。] ─────あ、 [眠みに重たくなっていた瞼が 視線を混じえた瞬間、ふわ、と弧を描く。 記憶の糸をたぐって、このお嬢さんの 正体に合点がいけば、頷いて。] あー、西園寺さんとこの。 [アントキャトンダゴブレーヲ、と ひょい、と頭を下げてみた。 動いたせいで、膝の上の猫から苦情が飛んだ。] (15) 2021/05/17(Mon) 14:27:50 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[覚えてるのか、と言われたら 「客商売だモンでね」と 軽く笑って答えるだろうが…… 多分、「その赤が目に焼き付いててね」なんて 歳若いお嬢さんには恥ずかしくて言えないさ。 友達との待ち合わせをしているのだと 言われたならば、何かの縁だ、と 茶の1杯くらいは出すだろう。 生憎、茶の専門店じゃない、ただの骨董屋には 映えない粗茶しか出せませんが。] (16) 2021/05/17(Mon) 14:28:04 |
【人】 『伽藍堂』 江戸川 颯介[だから、また来てくれたなら] オウ、来たな冷やかし客め。 [当初よりも幾分砕けた口調で笑って 前と同じように粗茶を出すだろう。 小さな歓迎の印のジンジャークッキーを添えて。]* (17) 2021/05/17(Mon) 14:30:00 |
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