98 【身内】狂花監獄BarreNwort【R18G】
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「……私はね。傷であることを知られたくなかった。私はそれを気にしていると言いたくなかった。過去に何があるのかも、それが自分にどう影響していたのかも……言いたくなかった。『役割を果たせない』ということを指さされれば、きっと魂ごと死んでしまうと思っていた。傷を自ら切り開くような痛みがあった。傷は弱点だ。辛いことは傷だ」
端末を叩いていた指で、自分のこめかみを叩いた。
少し前のこと。今は少しだけ置いてきた景色。未だ痛みは鮮やかで、振り返るたびに膿んで崩れていくようだった。
「包帯に血が滲む他者の傷を、君は手を出して握ったりはしないだろう。心も、同じだ。傷つけたいのでなければ、不意に突いてはいけない。『その傷を知りたい』と思った時、真っ先に傷を持つ当人に問うことは、それに近い」
ゆるやかにね、と、トラヴィスは囁いた。
ゆるやかに、隣人の治癒を願うことだ。
「……待つことだよ。そして進むことだ。学び、歩み、お前たちの傷が癒えたら。傷を振り撒くような生き方のほかを、選べるようになる。我々はその日を待っている。チャンドラも、私も」
「……私は結局、まだ。まだ、あれ以降チャンドラと話せてはいないよ。避けているわけではなく、先に話に行くべき相手がいたからというのもあるし……
ジャック以降に死に過ぎている
」
一日一死ペースで死んでいるのだ、恐らく蘇生室で眠っている時間のほうが長い。会議でほんの少し言葉を交わした程度で、本当にそれだけで。……故に少しばかり目を伏せて。
「君がチャンドラの味方でいてくれたことを嬉しく思っている。これは本当だ。私も……少し合流は遅れるかもしれないが、まだ『ペットちゃん』の任を解かれたわけではない。彼の都合のいい時にでも、話に行きたいと思っているよ」
静かに、咀嚼する。
他人の傷を、今までどうしただろう?
―――考えるまでもない。
全部に触れた。全部を包んだ。そうしてそっと前を向かせ続けて。
結果が、今だ。
ゆるやかに、見守る事。願う事。祈る事。
それだけなら、ずっとキンウがし続けてきた事だ。
……癒える事なく腐れ落ちてしまったらどうするのだろう?
キンウはまだわからない。
もしかすれば、確実な事は未だ傷の残る男にも。
学び続ければ、見えないものも見えてくるのだろうか。
【きっと、長くお待たせしてしまうでしょう】
償いの時間はまだ多く残ったまま。
【けれど、期待は裏切らないよう尽力いたします】
待っていてくれるほどには期待してもらっているのだと、解釈した。
並べるようになる頃には……今の言葉をもっと理解できるようになっているはずだ。
【何故そんなに死んでいらっしゃるのですか?】
毒殺の経緯は聞いたけれど、なんで?
短期間で死にすぎではないかと流石に不安になる。
あとで羽セラピーにでも行った方がいいでしょうか。
【傍にいると、キンウは約束をしましたから】
【……ちゃんとお話をされてくださいね】
【きっと、アマノ様とお話できないままであればチャンドラ様も寂しいと、キンウは思います】
アマノ様自身も。
呟きが空気を震わせることはなく、ただ唇だけが動いた。
……どんな思惑があったのだとしても、キンウは互いに悔いが残らなければいいと、思うのだ。
「……ちょっとナフとトレーニングルームでやりあって負けて殺されたり……メサの襲撃に行ったら15tが飛んできて衝撃で吹き飛んだり……」
ちょっとどころじゃない死に方をしている。毒殺から爆散までなんて本当に蘇生の時間と蘇生後の移動時間とあとちょっとくらいしかなかったんじゃないか。死のRTAである。
ただでさえ大丈夫じゃない男の精神がそりゃあもう大変なことになっているので、羽セラピーは素直に嬉しいだろう。実際に手はもう今虚空をもふ……になっている。
癒しがほしい。
「……ああ、そうだな。ありがとうキンウ。……全く、いつの間に寂しがり屋になったのやら」
彼も私も。唇の動きだけで呟いて笑った。
【殺されるところまでいくのはちょっとどころでは、ありませんよ】
【もっとお身体を大事にしてください】
端末の向こうでふえーん。羽もしょんもり。
この後、羽セラピーしに行った(確定ロール)
【ずっと前からですよ】
【ただ隠してしまえていた、だけで】
自分にも他人にも。
……気付いてしまった人達が、寂しくないようにと。
キンウはそっと、祈った。
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