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【人】 旅人 J[突然に愛する家族を奪われて 傷つき方も癒し方もわからずに 幽鬼のように日々を食い潰しながら 出口のわからぬ闇夜を直進む女にとって 恋とは、涙の跡を乾かし 顔を上げさせてくれる そよ風のようなものだった。 燃え上がるようなものではないけれど ずっと止まっていた気のする時計の針を 僅か進めてくれた。 逃避に、他ならないとしても、 それは確かにW生きる希望Wだった。] (56) 2022/03/15(Tue) 10:25:14 |
【人】 旅人 J……。 [甘く疼くような感覚に戸惑い 声を漏らすこともなく 顔を赤くし困ったように眉を下げ彼を見つめていた。 抗議したいのではなく、 単純にどうしたら良いかわからなかった。] あ、ありがとう……貴方のは私がするわね [傷口を覆って貰ったことに感謝し、 破かれたハンカチの残りを取り彼の指に巻きつけた。 服も他人に着せて貰っていたような人間だから 彼のように器用にはいかず、二度ほどやり直して。 血を吸う、なんて大それたことは、できなかった。 したくない、わけでは……断じてなく。] (59) 2022/03/15(Tue) 10:26:50 |
【人】 旅人 J……お仕事は、同時に何人にも 頼まないようにしているの そうされているのを知ったら 余り気分が良くないのではなくて? 私のようなものがそんなことをしたら このように簡単にわかってしまうのでしょう 本当に、この街のことでわからないことはないのね [接触の都合で並行依頼がなかったとは言わないが 愚直さと効率の悪さを露呈する。] ジュダス様に任せると決めたから 貴方が投げるまで他は当たらないわ 貴方は必要なことを全てして下さるから 私は自分の手で探すのをお休みして時間が得られたの [移動して。餌を撒いて。交渉して。また餌を撒いて。 哀しむ時間を奪ってくれるから多忙は悪くない。 だけどゆとりのできた今は、より悪くないものだった。 逃避の道があるからこそ、であるけれど。] (61) 2022/03/15(Tue) 10:28:11 |
【人】 旅人 J恥ずかしいけれど 働いたことがなかったの お仕事って、大変なのね 貴方のお仕事は、特に大変そうだわ [彼の稼業をすべて知りもしない癖に、女は。] 私を見つけてくださったこと お仕事を受けてくださったこと 感謝しているわ [商品≠フ物色中に目をつけられたことも 勿論知らない女は、呑気に感謝の気持ちを伝えるのだ。] (62) 2022/03/15(Tue) 10:28:38 |
【人】 旅人 J── 翌日 ── [朝のうちにアルバイトの休みの連絡を入れた。 元々、期間不定の日雇いのようなものだ。 行かなくなったところで、騒がれたりしない。 故郷へ連絡を入れてもいないのは、 闇商人の彼には簡単に掌握できることだろう。 女が消えたところで、探そうとするものはいない。] (64) 2022/03/15(Tue) 11:04:15 |
【人】 旅人 J[昨日作りすぎたクロック・ムッシュ。 冷めてかたくなったそれを朝餉にして。 エプロンと三角巾ではなく 鎧と剣と眼帯、旅の装いで彼を待った。 何でもない私は、何にも知らずに。] (65) 2022/03/15(Tue) 11:05:45 |
【人】 旅人 J[男と共に歩く外は。外の世界は。 少しだけ違って見えた。 渡したものは召し上がってくれたかしら。 お口に、あったかしら。 そんなはしたないことは聞けない。 焦げた失敗作を自分で食べて 成功した一つを彼に渡せた事が嬉しい。 それで満足。 ブローチに手が届く前に私は 嬉しいをひとつ取り戻せたの。] (72) 2022/03/15(Tue) 14:56:21 |
【人】 旅人 J……。 [そっと俯いた。 また駄目だったという徒労感には慣れない。 だけどまだ探せるということでもある。 見つけた時自分の次の目標は何になるのだろう。] (75) 2022/03/15(Tue) 14:58:49 |
【人】 旅人 J[屋敷を後にした。 謝罪には、首を振る。>>70] 仕方ないわ。良く似ていたし ずっと空振り続きだから 気にしなくて大丈夫よ [だからどうか肩など落とさないで欲しい。] 今日は他にすることもないから 貴方さえ良ければ、同行させて頂くわ ただ私は余り名乗りたくないし 今のように後ろで控えているつもりだけれど 大丈夫かしら? お仕事の足を引っ張ってはいないかしら…… [ブルーノが全身を舐めるように見てきたのは 自分が商談の場に不要な存在だからだと思っている。 自分が領主を継がずに嫁ごうとしていたように男社会だ。 居るだけで、女は邪魔なのだ。 そんな認識の下、男を案じて見せた。] (76) 2022/03/15(Tue) 15:03:15 |
【人】 旅人 J[その話の後か、他の屋敷と屋敷の間にか。] 契約を纏める時に訊ねなくて御免なさい もしブローチが見つかった時 お支払いはいつ迄待って頂けるかしら 踏み倒す気はないのよ ただ万が一、手元の資金が不足した時に備えて 今の内に故郷に 文を飛ばしておかないといけないかと…… [何色にも染まる真白な髪を揺らし歩きながら訊ねた。 即金以外あり得ないのか、 一時建て替えてくれる仕組みなどないのか。 女はそんなことも知らず。 助けてくれるかも知れぬ存在を散らつかせた。*] (77) 2022/03/15(Tue) 15:05:21 |
【人】 旅人 J[彼には、女の身を守る義務はない。 なのにどうして、そう言ってくれるのか。 回らぬ頭では解決しようもない。 男の温かく優しい言葉が染み渡っていく。 その反面、手のひらがやけに冷たいのは 自分の頬が熱い所為、だけだろうか。 温もりを分け与えようと 右手を左手で包むように触れた。] ……はい。……ジュダス様を、信じてますから 疲れてもいません。私は、大丈夫 [羽根が糸にかかり宙に浮く羽虫。 捕われたことにも気づかない。] (85) 2022/03/15(Tue) 21:39:13 |
【人】 旅人 Jええ。 [その後連れられるまま4人の商人と会ったが 願いの品は見つけられず。 その間、女は人形のように大人しく 時に行儀良く挨拶をして過ごし。 存分に品を定められたのだろう。] (87) 2022/03/15(Tue) 21:41:08 |
【人】 旅人 J……そう簡単には見つからないわよね 契約書には、見つからなかった場合 すべての費用を返還するとありましたが もしそうなっても、 お気持ち分の日当はお支払いするわ…… ああいえ、見つかるとは、思っているのよ? [書類の仕込みにはもちろん気付いていない。 男のフォローのようなこともする。 お人好しの馬鹿な娘だ。 歩くのは旅で強制的に慣れた。 だけど、人と会うのはそうでもない。 顔には多少の疲労が浮かんでいた。*] (88) 2022/03/15(Tue) 21:44:28 |
【人】 旅人 J[元婚約者の名は、ロジェ・ド・メーストル。 祖国の大半の土地は、その男の手中にあった。 一人で持つには余りに広大な領地。 ボードゲームを楽しむかのように 領主の一人娘と七度の結婚を経て支配地を広げ 妻は皆、20半ばを迎える前に亡くなっている。 欲の尽きぬ男。 大領主であり、魔術師であった。 国は、彼の毒に冒されている。] (93) 2022/03/16(Wed) 13:57:12 |
【人】 旅人 J[狙われた領主達は、気付いていない。 男児を得ると皆流れるか 幼くして亡くなってしまうことの奇妙さに。 そうして漸く得た娘を妻の変死が続く男へ 嫁がせることに、抵抗を覚えることもない。 どちらも出来ないのだ。男の術がそうさせる。 ともすれば、 年齢すら人としての常識を超えている筈だが 大領主には疑問を抱くことも土地のものには出来ない。 外部の者が調べようとしても、 ヴェールがかかったように 大領主の周りだけが不鮮明であろう。 魔術に長けた者が見たなら、或いは……。] (94) 2022/03/16(Wed) 13:57:40 |
【人】 旅人 J[娘は魔術師ではないが、ある種特別だった。 鉛色の瞳は、無垢で、魔術の類を通さない。 隻眼となり半減しているものの それは、ギフトである。 誰もが受け入れている虚構ではなく ただ一人真実を、事実だけを見ていた。 だが、愚かであった。 悪魔のような男に嫁がせると言った 両親の言葉をそのまま受け入れた。 娘は、親の言いなりだ。 互いの景色が異なっていることに気づかない。 効果はそれだけではないが……、 旅の中、何度ギフトによって 助けられたかも理解していない。] (95) 2022/03/16(Wed) 13:59:07 |
【人】 旅人 J[事件の日。 大領主はほんの気まぐれにアンペールの屋敷を訪れた。 成人を待つという約束も男には意味がないものだ。 花を摘むより容易く婚約者の寝室へ忍び込んだ男は、 そこで漸く取るに足らぬ女の特異性に気が付いた。 それから────……] (96) 2022/03/16(Wed) 13:59:38 |
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