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【人】 軍医 ルーク――… ット、 “ ルークの声は、絶対に聞き逃さないから。” シュゼット!!! [ 残されたすべての力を振り絞り、叫ぶように、 ―― その名を、呼んだ。]** (85) 2020/05/28(Thu) 1:57:37 |
【人】 軍医 ルーク[ 蛇型が開いた口の中に、赤い光がぎらりと輝く。 それは煮え立つように煌々と光を集め、放ち、 その光は徐々に、赤色から白色に変わってゆく。 ひどく異様な色をした光だ。 その威力は分からずとも、本能的な恐怖が全身を貫き、 瞬間が凍り付く。 瓦礫に挟まれた足が動かない。 もし今この足が抜け出せたとしても、 あの砲撃から逃げ出すことは敵わないだろう。 そのとき――…、 聞こえてきた“ 声 ”に、目を見開いた。それは、一瞬のこと。 触れれば直ぐに飛び去ってしまうほどの、ほんの刹那。 ずっとずっと聞きたかったその声が呼んでくれた、 自分のほんとうの名前。 その音が心臓を強く揺さぶり、 鼓動がひとつ、全身を貫くように強く脈打つ。 身を起こし、その声の聞こえた方角を、真っ直ぐに見た。] (128) 2020/05/28(Thu) 23:10:01 |
【人】 軍医 ルーク[ 離れているはずの距離が、ひどく間近に感じられて、 遠くにある赤い目が、直ぐ目の前にあるようで。 いつかの医務室で、互いの鼓動が聞こえる距離で、 その目を見つめていたときのことを、思い出した。] [ 彼の義手の右腕が、 機獣へと真っ直ぐに、突き出される。] その唇が、“ごめん”と紡ぐ。] [ その瞬間、理解した。 だめ、と、青ざめた唇が震える ] (129) 2020/05/28(Thu) 23:11:13 |
【人】 軍医 ルーク[ 幾つもの記憶が過る。 それは、この戦いが始まるとき、 外壁にいる自分に向けて、ここに居ると教えてくれるように、 大剣を掲げてくれた、姿だとか。>>31 医務室で、通信機を探しに行く道行きで、 幾度となく感じているようだった、 記憶の予兆の頭痛。 義手を使えば、どうなってしまうか分からない。 それなのに、彼は最後まで、 『使わない』と言おうとはしなかったんだ。] 駄目…!!!!! [ 喉を引き裂くほどに強く、強く叫ぶ。 その叫びすらかき消すように、飲み込むように、 義手へと収束した光が膨れ上がり、 視界を白く染め上げてゆく。 そして、開かれた機獣の顎から光が放たれる、その寸前、 義手から放たれた一撃は、 過たずそのコアを一閃に穿った。] (130) 2020/05/28(Thu) 23:11:56 |
【人】 軍医 ルーク[ ぺんぎんを抱え込み、身を伏せた背の上を、 爆風が吹き抜けてゆく。 目は白い光に眩み、何も見えない。 爆風に吹き飛ばされた瓦礫が、 先程の攻撃で崩れかけていた建物の外壁を打ち、 がらがらと破片が崩れ落ちる音がする。 けれど、それは耐えられない衝撃ではなくて、 なにひとつ、自分の周囲に、落ちてくることはなかった。 顔を上げる。 眩んだ視界の中、影絵のように蠢く大蛇の姿がある。 それはゆらり、と大きく左右に揺れて、 コアを貫かれた機獣はのたうつことすらせずに、 その鎌首を建物の一つに預けるようにして、傾いてゆく。 ズ ン…、と、ひどく重いものが斃れる音が、聞こえた 最早動くことのない残骸となったそれの行方を 目で追うことすらせず、 辺りを見回し、必死で赤い姿を探す。] (131) 2020/05/28(Thu) 23:13:19 |
【人】 軍医 ルーク――…! [ 此処からは遠く離れた場所に、倒れ伏す赤い姿を見つける。 ぴくりとも動く様子はない。 どきり、と、また一つ鼓動が跳ねる。] 嘘……、 [ 茫然と、音を吐き出して。 這うように、両腕に思い切り力を籠める。 一つだけ幸いしたのは、 今の衝撃で足を挟んでいた瓦礫が再び動いたことだ。 挟まれていた義足を引き抜けば、 折れて捻じれたそれは足としての体を為さず、 動かそうとしても、棒切れのように動かない。 残った片足で歩こうとしても、 直ぐに足を取られてぐしゃりと土に転んだ。 この調子で歩いていくよりは――、と、 両腕と片足で、這うように前に進む。 基地の喧騒が遠くに聞こえる、 まだ遠くに響く戦闘の破壊音も、何もかも。] (133) 2020/05/28(Thu) 23:15:05 |
【人】 軍医 ルーク[ 飛び散った硝子の破片が、砕けた瓦礫が、 ずるずると這う両腕を裂いていくつもの傷をつけてゆく。 痛みも、何一つ気にならなかった。 この手足の歩みの遅さが、 これほどまでに歯痒かったことはない。 心臓を鷲掴みにされたような恐怖の底で、 懸命に這って近づく。] シュゼット!! [ 漸く近くに辿り着き、肩に手をかける。 消された日記の内容を知ることはない。 けれど、ひどく不吉な予感が黒雲のように心に広がる。] (136) 2020/05/28(Thu) 23:17:21 |
【人】 軍医 ルーク[ 彼は最初の襲撃で、義手を使って機獣を葬った。 そのことは、話してくれた通りだ。 そうだ、そして、 “そのあと記憶を失った状態で発見された”。 その後も義手を使った反動は、 その都度大きなダメージとなっていたはずだ。 過去の記憶を運んでくる頭痛は、今もその身を蝕んでいる。 そのような状態で、あれほどの威力の一撃を放ったなら? かたり、震える手。 白く色を失った唇が、声を失う。 言うことを聞かない全身が、崩れ落ちそうになる。] (137) 2020/05/28(Thu) 23:17:34 |
【人】 軍医 ルーク嫌…、やだ、 [ いなくならないで。 置いていかないで、お願いだから、 泣き出して、縋りつきたくなる。 恐怖は別離の姿をしている、 それは、ひと一人の亡骸にしてはあまりにも小さく軽い 遺体袋の傍にあった、一枚だけの家族写真のかたち。 赤く染まった小さな手のかたち。 赤く、赤く、広がってゆく血の沼の底に手足を絡めとられ、 叫び出しそうになる。 ――それでも、] (138) 2020/05/28(Thu) 23:19:23 |
【人】 軍医 ルーク――、 君は、医務室から救急キットを持ってきて! 前線に従軍する連中が持ってる奴だ、 三番の棚にある! [ ぺんぎんにそう頼み、全身の力で彼の身体を仰向けにして、 口元に耳を寄せ、呼吸を確かめる。 此処まで手当一つすらせず駆け抜けてきたのだろうか、 全身が傷だらけで、血まみれで、>>103 今は吹き飛ばされた衝撃で打ち付けた傷もあるだろう。 呼吸は問題なし、 続いて直ぐに止血が必要な傷の有無を見てゆく。 ぺんぎんが戻ってくるまでは当座の応急処置で問題ないだろう ――体のほうは。 フードを、ローブを脱ぎ捨て、引き裂き、 手早く止血をしてゆく。] (139) 2020/05/28(Thu) 23:19:32 |
【人】 軍医 ルーク ……、 約束した、そのときは、手を握ってるって。 起きて。 [ 震える手を励まして、動かない左手を取る。 この両手で、包むように。 ――… どうしようもない恐怖に、飲み込まれそうで。 出来るなら、自分のすべてで、 繋ぎ止めることが出来たならと、そう思うほどだ。 ごめん、と、悲しそうに笑った笑顔が瞼に蘇る。 これまでにくれた、幾つもの笑顔だとか、 医務室で過去を告げてくれた日の泣き顔、 手を握ってくれた、穏やかな笑顔、 いつもの医務室で自分が脅かしたときの、 何をされるのかと震える耳だとか――… 通信機を探しに行ったあのとき、 飴をくれたときのこと。 そのような、ひとつひとつの瞬間まで。 この身体を、伽藍洞だった心の中を、 いつの間にかこんなにも、君が満たしていた。] (140) 2020/05/28(Thu) 23:21:08 |
【人】 軍医 ルーク[ その一つ一つの瞬間が、かけがえがなく、 失うことなんてもうとっくに考えられなくなっていて―― 心にも命があるのなら、 途切れて失いかけた心に灯されたそれはきっと、 わたしの命だったことだろう。 一緒にいたいと望んだ心に名前なんて付けられないと、 いつかのわたしは日記に書いた。 自分のすべてのように心を満たし、溢れ、 あたたかく、時に失う恐怖に慄き血を流す感情に、 名前なんて付けられずにいた。 けれど。 ――… その“名前”が何だったか、 “気付いた”いま、 もう遅かったなんて、絶対に絶対に、認めない。 途切れた心が、糸を結ぶ。] (142) 2020/05/28(Thu) 23:22:06 |
【人】 軍医 ルーク起きないと、苦いもの、飲ませるって言った。 ぺんぎんの持ってきてくれる 救急キットに入ってるかな。 それか、甘いシロップの方がいいのだっけ? 残念、いま、ここにはなくて。 ……この感情に名前なんて付けられないって、 わたしは言った。 でも――… いまは、そうじゃない。 [ かみさま、という存在は知らない。 祈りをささげるものはいない。 けれど、いま、願うことはひとつだけ。 眠る頬に、片手を当て、そっと屈みこむ。 ――さあ、ほら、早く起きないと、 酷いことをしてやる。] (143) 2020/05/28(Thu) 23:22:53 |
【人】 軍医 ルーク[ 義手を使ったのだ、今までのことを思うなら、 身体もろくに動かないに違いない。 頬に当てていた片手を今度は背に添えて、 身体を支え、地面にそっと寝かせる。 そうして、自分もすっと体を落とし、 胸の上――心臓の辺りに、白い耳を寄せた。] ……よかった、本当に。 [ その鼓動の音ひとつ一つを、大切に、確かめるように。 白い尻尾が嬉しそうにゆらり、と大きく揺れる。 そうしているうちに――こう、 自分が何をやらかしたのか、不意に、実感が。 ] (198) 2020/05/29(Fri) 21:26:01 |
【人】 軍医 ルーク[ あまりにも必死だったし、 あまりにも、こう、 好きでどうしようもないというのが溢れたというか。] ――… ! 顔、絶対、今見ちゃだめだ [ 心臓が早鐘を打つようにどきどきと走り始めて、 頬に血が上り、かっと赤くなる。 顔を隠すように、その胸に顔をさっと埋めたけれど、 尻尾は大きく忙しなく振れて、 ぴたんぴたんと左右の地面を打っている。 自身の鼓動の音も、 これ外に聞こえてしまっているのでは――? というありさまだから、 自分がどんな状態であるかなんて、 きっと、筒抜けだったことだろう。] (199) 2020/05/29(Fri) 21:27:34 |
【人】 軍医 ルーク[ 暫くぴたんぴたん言っていた尻尾がようやく落ち着いたころ、 顔を上げ、辺りを見渡した。 中庭まで侵入を果たした蛇型が撃退された今、 防衛部隊は外壁の防衛に総員で当たっているようだった。 前線の戦いもまだ、終わってはいないだろう。 崩れかけた建物からわらわらと出てきたぺんぎんたちが、 互いの無事を確認するように、 駆けまわっては鳴き交わし、 中の何羽かが、崩れた外壁の隙間から、 鈴なりになってひょこっと外を覗く。 やがて中に振り返り、ぐっ、と片方の羽根を上に突き出した。 中にいたぺんぎんたちが、歓声を上げて跳ねる。] 状況は、悪くないみたいだな。 良かった。 [ 外にいた虫型がここまで入って来ることがあったなら、 足が動かなかろうと、例え千切れようと、 彼を引っ張って、 一緒に安全な場所まで動こうと思っていたけれど。 あの様子なら、その心配はなさそうだ。] (200) 2020/05/29(Fri) 21:29:19 |
【人】 軍医 ルーク医務室まで運べればいいんだけど、 わたしも足が動かないんだ。 いま、ぺんぎんに 救急キットを持ってきてもらってるから、 それが届いたら、ちゃんと手当てする。 [ そうして、ぺんぎんの一羽を呼び寄せる。] 頼まれてほしいことがあるんだ。 倉庫の方に詳しいぺんぎんがいたら、 直ぐに使えそうな義足を調達してもらえないかな? いまだけ使えればいい、どれだけ旧式でも、 兎に角歩ければ。 [ 医務室でちゃんと彼の手当てをしたい。 それに、戦闘が終わったなら、そこからが自分の仕事だ。 これだけの規模の戦闘だ、 被害を楽観するわけにはいかない。 基地内の損害も相当なもののはず。] (201) 2020/05/29(Fri) 21:31:24 |
【人】 軍医 ルーク前線の方もあの様子なら大丈夫そうだ。 もし君の部下にケガなんかあったとしても、 そのときは、治すから。 まあ、葬儀屋に担当されたら 悲鳴上げる奴も多いかもしれないけれど、 この格好なら、誰かも分からないだろうな。 [ いつものローブは脱ぎ捨てて、耳と尻尾を露にして、 長い豊かな、赤みがかった金の髪が 背中にゆったり流れている。 医務室の“葬儀屋”とは簡単には結びつかないだろう。] (202) 2020/05/29(Fri) 21:33:00 |
【人】 軍医 ルーク……覚えていてくれて、 ほんとうに、良かった。 信じてた。 [ 帰ってきてくれるのだと、そう信じていた。 けれど、それでも、義手砲を使った彼の、 ごめんと告げた表情は、動かなかったその姿は、 凍り付くような、耐えられないほどの恐怖だった。] 一緒にいられることが、 わたしの幸せだから。 [ もし万一、彼の記憶が失われていたとしても、 自分はきっと、変わらずにずっと傍にいて 支えたいと願っただろう。 それが、自分の心まで一緒に、 砕けてしまうほどの悲しみだったとしても。 静かな水の底で、呼吸が出来ずとも、寄り添うように。 いま失われずに傍にいてくれる幸福を、 かみしめるようにつぶやく。] (203) 2020/05/29(Fri) 21:35:00 |
【人】 軍医 ルークでも、それだけじゃなくて。 君がここで手に入れた大切な記憶を、 無くさずに、持っていられたことが。 良かった…… もう、二度と寂しい思いなんて、 してほしくなかったから。 [ ひとりきりで、人が死に絶えた世界を歩き、 大切なひとたちを守っていた兎の写真を宝物にして、 何処かに、生きているひとたちが暮らしている、 そんな場所を夢見ながら、 辿り着いたこの場所で、皆を守り続けた、そんな君が。 その大切な思い出を、今もその両手に持っていることが。 またひとりきりになってしまうことなく、 なにひとつ手放すことなく帰ってきてくれたことが、 泣きたくなるほどに、嬉しくてたまらない。] (204) 2020/05/29(Fri) 21:35:53 |
【人】 軍医 ルーク[ 医務室の、いつも一緒にいるぺんぎんが、 救急キットを持って駆けてくる。 飛べないぺんぎんは、いつも基地を走り回るうちに、 いつの間にか足が随分強くなっていたらしい。 瓦礫や尖った破片を器用に避けながら、 ぴょんぴょん跳ねてこちらにやって来る。 救急キットを受け取り、わしゃりと頭を撫でた。 自分の傷は、不衛生にならないように 血や埃をぬぐって止血を施して。 手早く彼の手当てに取り掛かる。 先程は当座の止血を施した傷を、ひとつひとつ、 消毒してガーゼで覆って包帯を巻いて。 そうして治療を終えたなら、ようやくほっと息をついた。] あとは、戦闘が終わるまで… [ ここで待つしかない。 外壁の向こうから聞こえてくる音は、 徐々に戦況の変化を告げている。 機獣の攻撃と思しき破壊音が、減っていた。] (205) 2020/05/29(Fri) 21:37:14 |
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