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【人】 終焉の獣 リヴァイ[…………最悪な目覚めであった。] [砦の中だということを忘れかけていたのかもしれない。 扉の向こうの他人の声に乙女には程遠い野太い悲鳴ですっぽり布団を被って震えていた。 昨夜の乱れ具合が嘘のように生まれたままの姿を隠し、朝の寒さに震え続ける。 随分昔の頃のように寝ぼけ、平然とした相手を恨めしそうに睨め付けた儘、差し出された服を震えた手つきで引っ掴む。もぞもぞとシーツの芋虫の如く蠢いた後、いつもよりも長い袖に不満を零しながら這い出てきた頃合い。 自分が窓を叩くまで彼が何をしていたのか。 知る機会がなければ、白紙の紙の内容さえも察せる筈もなく、 ……掛けられた言の葉に頬を染め、き、と睨みつけた。] (2) 2020/12/10(Thu) 21:42:11 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ(これほどまでに昨夜の不貞を呪ったことはない。 もう間違いは重ねないでおこうと誓ったのは 彼の言葉を本気で捉えたせいであろうか。) お前、本当に殺してやるからな……! [わなわなと振動する拳を振るうよりも先、昨夜散らばった衣服の残骸から見つけ出した短剣を引っ掴み、懐に放り込む。眼帯を探して拾い上げればしゅる、と傷跡が目立つ右目に括り付けた。 思い出したように、転がっていた真鍮製の注射器を取り上げる。 ぶかぶかとした服の袖をたくし上げれば、狂ったように注射痕の乱れ咲いた腕が曝け出された。 いつか見た事があったであろう真紅に染まった液体を、唇を噛みしめ血管の中に注ぎ込む。 …………決心の現れを、身に刻み込むように。 殆ど手ぶら同然の彼女の支度はこれにて閉幕。] [その後浴びる視線と独り歩きする噂話は、かつての学び舎を彷彿とさせる。ポーカーフェイスの仮面を被りながら、化け物の噂は立っていないかと神経を張り巡らせていたのは内緒の話。 ────そんな余計な心配も、彼が帰路の途中で寄る場所の正体を察してからは消えてなくなるのだろうが]* (3) 2020/12/10(Thu) 21:42:14 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 僅かな配下を引き連れ、馬上から降りる。 帰還途中で足を運んだのは城下より間もない宿場町。 その広場に建つ古びた教会だった。 騎士団長を務めた勇士はこの街一番の名家の出で、 歴代の当主と共に緑豊かな敷地の墓所に眠っていた。 最も新しい墓標の前に自ら花を手向ける。 ] ( 戦は終わった。俺もまた終わる。 だが、彼方で逢うべきではないだろう。 おまえはもう自由なのだから。 それに…… ) [ 墓前にて語り掛ける言葉が無いのは、 既に別れは済ませてあるから。 主従であり、幼馴染であり、戦士同士であれば 乱世の運命など互いに分かり切っているというもの。 ] (4) 2020/12/11(Fri) 2:38:29 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 凱旋は箍が外れる兵も多いもので、 “客人”は常に自分か侍女の目の届く範囲で連れ歩いていた。 他国の法に一切従わないとは言え、 懸賞金が掛かれば秘密裏に報酬を求める者も居る。 ] [ 帰り際、馬上で隣の彼女に語ったのは 騎士アルベルタが最後に出陣した戦場の話だった。 ] 彼奴は二千の兵と共に俺が死なせた。 空挺部隊はそうでも無ければ下せなかっただろう。 敵将を取る為に多くの駒を失い、 而して俺は独りでに斃れる最期の一騎となる。 [ 感傷に浸っていた事は言うまでもない。 従者や護衛に聞かれぬ様に声を潜めて、 この二人以外の誰の命も懸けさせる心算はないと 暗に示すような表現を用いた。 最期に手をかける獲物は一人だけ。 ] (5) 2020/12/11(Fri) 2:39:08 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム( 必要な犠牲。 其の言葉を拡大解釈していけば──── いずれ己もそうだと納得出来るのか? ……何もかも滅ぼした後ではもう遅い。 ) [ 帝王学部の特別学科に参謀役として入学した彼女を、 かの賓客は顔見知り程度としか知り得ないだろう。 其れでも話そうと思ったのは、踏ん切りを付ける為。 ■きたかった。たった一つの夢を諦める為に。 二人だけの物語に、もう他の犠牲者は不要であるから。 ] [ 誰かを死に至らしめる前に幕を引くのだ。 ]* (6) 2020/12/11(Fri) 2:39:31 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[かの皇帝が信仰の熱い人物だと言う話は今まで聞いたことがなかった。 故に、教会などという場で足を止める理由が追悼以外に見つからない。無関係であるのは百も承知であるが、一歩退いた場所でその様を俯きがちに見つめていた。 刺さる視線が酷く痛い。王族に擦り寄る女にしては、随分と場違いな噂が尾鰭を付いて回っている。それが大きくなればなるほど自身の首の値など信じられぬ値段になる故──彼の判断は妥当、といったところか。 帝王学部に難癖を付けておちょくってきた学生時代、彼女のことを聞いたことも無ければ直接話したこともない。 が、時折彼の傍らにいた事実のみを思い出し───「そうか」と相槌を打った。] (とっくのとうに捨て去った筈の陽だまりが、 少しずつ確実に崩れ落ちていることを改めて理解する。 その選択を、尊い犠牲を、 自分が口を出す資格なんてあるはずがなく。) (7) 2020/12/11(Fri) 9:56:45 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ(学友のみでなく、守りたかった本心とは裏腹に、 踏み台にして国家焼却炉の燃え滓にしてしまった 嘗ての同胞たちのことが頭によぎっていた。 人権さえ奪われていた彼等が 国の土の下に眠る権利を与えられるはずもない。 殺した事実を国へ公表した手前、 満足に墓も作ってやらなかったことを思い出す。 ……彼等に罵られて当然の結果だろう。) ……お前がそう決めたのであればそうなのだろう。 特に何も言いやしないさ。 争いとは生と死によって成り立っているのだから。 お前と私も。 ……そうだろう? [声を潜めた密談に肯定とも否定とも取れぬ言葉を返したのは、 どちらの立場にも立つことができない内心があってこそ。 物憂げに睫毛を馳せて───再び上げた隻眼は、真っ直ぐな意思を持っていた。] (8) 2020/12/11(Fri) 9:57:46 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ……頽れる前に私が喰ってやるから安心しろ。 苦しませはしないさ。 (懐の中で握りしめた約束が、やけに熱かった。) [悪魔の脚本通りのつまらぬ芝居などごめんであった。 チェス盤に並べるには些か駒数が少なすぎるかもしれないが、2騎もあれば勝負はできよう。 犠牲に必要か否かを問うには既に罪を重ねすぎた思考回路を無理やり望む向きに正そうとしていた。 ……未だ彼の本心にも、託した毒が使われるのかも 気付ける予兆も感じないまま。]* (9) 2020/12/11(Fri) 9:57:51 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 数万と続く人の群れは帝都に近付くにつれ数を減らし、 最後には千人程度が主君に続く様にして残った。 王宮務めの騎士達を中心とした軍勢は 昼過ぎには隔壁の麓まで辿り着き。 堆い門をくぐれば、直ぐ様視界に赤い吹雪が舞った。 使い鳥の報せを受けて待っていた民衆達が終戦を祝う。 そして二百年前の皇族に因んだ薔薇の花弁を投げるのだ。 再びの力と栄光を祝して “Gewinnen Sie Macht und Ruhm zurück!” ] ( ────こんな光景を待ち望んでいた訳じゃない。 ) [ 飽くまで戦争に携わらなかった賓客に出る幕は無いが、 この国の頭目のすぐ後ろを馬で着いていけば 散々、赤薔薇に塗れる羽目になるだろう。 民家が立ち並ぶ狭い路地を抜けて大通りに出れば 視界を覆う程の花吹雪も少しは収まるが。 見慣れぬ女の姿を民衆が気に止める事はなく、 手を振り返す君主の立ち振る舞いに誰もが夢中だ。 ] (10) 2020/12/11(Fri) 10:06:49 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 結局は、全て殺めた所で満たされはしなかった。 正しくは、解放される事に安らぎを見出したのだ。 ……最期を看取る者が既に在る安心感を。 ] [ 薄い笑顔の下、死を恐れぬ戦士の殺伐とした希望 ] (11) 2020/12/11(Fri) 10:07:10 |
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