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224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】
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「狙われてるのは俺だ。
その上次の執行対象にも上がってるらしくて中々笑えん。
主催の方は他の候補者もいる、後回しの可能性はあるが……
しばらく顔を合わせん方がいいよなあ?」
貴方を一人にさせてしまうことにひどい罪悪感があった。
本当は今日までのように会話は少なくとも顔を確認したくあるのだ。
それでも、仕方ないことだってある。
だからかその言葉はこれまでで一番静かに、
わかりやすく哀愁を帯びて落とされた。男は存外正直者だ。
「んあ、いやルチアーノだよ。愛称。
猫か酒場ねえ……ま、間違いではないわな」
「俺達が向こうの立場でもそうしただろ。
念には念を入れて損は無いってね
どうしても後手に回らざるを得ないのもままならん所だ」
カクテルがテーブルに置かれれば、
遠慮なく一口、グラスを傾けて。
「有能だと思われれば単純に仕事が増えるしな。
そう思われて良い事なんて少ねえよ」
少なくとも、周囲の信頼は得られるのだろうが。
それと同時に厄介事も舞い込む事になるだろう。
それをこの男は厭っている。
![](./img/discordia/009.png) | 「──お待たせしました、ビーフシチューですっ」 #バー:アマラント は今夜もいつも通り。 雨時々曇り、生憎の空模様ではあるけれど。 実はマスターの得意料理はシチューだったり、 なんて耳打ちする店員もいつもと変わりない。 「空いたお皿、お下げしますねっ」 #バー:アマラント (26) 2023/09/19(Tue) 21:44:07 |
空気の緊迫を感じ、息を呑む。
あなたの伝えた内容のほぼ大半は、きっと存外にすんなりと呑み込めた。
目を伏せる。
嫌な想像ばかり過るのは仕方のないことだ。
そうでなくとも、女はこの日、
…それでも。
「――残念です、ねえ。」
笑顔だ。感じた寂寥は声音に乗らない。
女はあなたと違って嘘つきだ。
いつもそうやって何かを誤魔化して生きている。
「とても優秀さんでしたから、助かっていたんですけどお」
結局泣き腫らしたままの赤い目だけれど関係はない。
今はただ、あなたの心残りにならないように。
少しでもあなたが、自分のことに集中できるように。
泣きじゃくる子どもが、いつだって心の中にいる。
行かないでって。ひとりにしないでって。
だけどそれを隠して笑ってきた。
今日だって、今だって、同じだ。
子どもの頃からずっと繰り返していることを、今も、ただ繰り返すだけ。
「……行ってくださあい。」
「ホテルは自分で、何とでもできますからあ。」
「あたしもここを、すぐ離れます。」
「…ふふ、何の備えもしていないわけじゃありませんから、大丈夫ですよお。」
「守られるだけのお姫様じゃ、ありませんしい」
それこそ顔のケアだとかは後回しだ。
デスク上に置いていた大切なものたちだけは確かに回収し、着々とここを離れる支度も済ませていく。
「落ち着いたら、また、連絡をくださいねえ」
「――お兄さん」
へらりと笑う。大丈夫。…きっと、また会える。
「置いたって俺の心を動かすものは、
そうそうあるわけじゃないですから……」
「寝心地の良いベッド、
座り心地の良いソファ、
あとは多少の趣味さえあれば、それで」
大窓の外、バルコニーの方を見遣れば、
花壇と秋の花が幾つか覗いている。
それしかこの部屋の色どりに寄与していないのである。
「そっちは落ち着かなくて衝動買い、ですか?
何となく納得しますね、あんたが女々しい真似してると」
ローテーブルへと視線を向ける。
拡げたければ拡げてやればいい。
「……いやだねえ、ここで泣かれてもそんな振る舞いされてもちっとも安心できやしない」
「貰った前金は返さんがもう報酬はいらん。
その分ネイルや服に使ってくれ。あと豪華な食事。
散財するほどにはならんかっただろうが、十分あの出費は痛手になっただろ」
ああ金はどこからかとかも気になる事はまだ残ってるな。
だが女は謎が残ってる方が輝くかだとか、また余計なことが頭をよぎった。
やはり中々に自分は疲れているし誰かの為に動くなど性に合っていない。
しかしここが一番踏ん張らなければいけない時間である。
「俺は早い所自分のものを片付けに行くとする」
これ以上自分のせいで誰かを巻き込みたくなどないから。
「勿論? また連絡する、平気な顔してな」
せめて貴方だけでも無事で居て欲しい。
余計な約束をしてでも、甘ったれはそう願わずには居られなかった。
「そう、なの。困ったら彼を当たってみるといいって聞いていたんだけど……」
部隊から名前の挙がっている一人だ。検挙されるのもそう時間はかからないと思うと、どこか陰鬱な気分になって俯いてしまう。
「そうなんだけど、ボロを出さないで良くできるなって感心するわ。私ならコードネーム、呼び間違えちゃいそう。
優秀な子が揃ってるって事なのよね。強敵だなぁ……」
こちらも合わせてグラスを一口、飲んで。
「有能扱いも無能扱いも何かしらのデメリットがあるのね。
中庸にみられるのが一番平穏な生活は送れそう」
ネイルや靴や、豪華な食事。
女はただそれについては、曖昧な笑みを返すだけに済んだ。
そんな用途にこのお金を使ったことは1度もない。
使わなかった分は使わなかっただけ貯め込まれ、此度ようやく日の目を見たというわけだ。
つまり何ら痛手でもなかったという話だが、やっぱりそのことも結局あなたは知る由もない。
「はあい。じゃあ」
「…ご連絡、楽しみにしてますねえ」
このホテルを離れる準備を進めながら。
笑って女は、あなたを見送ったことだろう。
そうしてきちんとこのホテルも離れ。
次のアジトは、またあなたの知らない別のホテルなのだった。
「あいつ、顔が広いからな。人気者の宿命ってやつかね」
盗み見た話では耳聡い者から順番に、と。
名前と長所が知れ渡っているという事は弱点にもなり得る。
凡庸である事のメリットもまた、そこにあるのだろう。
「あんたにとって敵でいいのか?穏健派だしまあいいのか。
ま、強引且つ唐突に施行された法案とはいえ
流石に優秀な奴が集められてるだろうしな」
「まあ実働部隊ともなれば色々恨みも買うだろう。
そのうち尻尾は出てくるだろうさ」
「言葉の綾で、つい……
実際にどう集められたかはわからないから、
味方か敵かはわからないけれど……
でも打倒したい法案なのは事実だから……敵?」
「命じられていたりするなら恨みは私はないんだけどね…
いずれにせよ、もう少し待つしかないのが辛いわ……」
「あとは置くなら私くらい?」
当然、冗談。話しながら、ローテーブルにチーズとろけるパニーニやサラダ。ローストポークにチーズや生ハムの切り落とし。デザートにはカットフルーツのパックを並べている。
それぞれ、食べきれるよう量は抑えられているようで。ワインも多くて1人2杯くらいといったところ。
ワイングラス、ある?なんて聞きながら。
「まあ、私の部屋も同じくらいね。殆ど使ってないし……
あとは貰ったものが置かれてるくらいで」
視線を追って、秋の花が目に入ると。ふふ、と小さく笑う。
家でも育ててるんだなあ。
「……兄弟同然で育ったひとがね、捕まったんですって」
「弟の方はあなたも知ってる顔かもしれないわ、警察の子だから」
だから、どうしてもね。と、一つだけ小さな紙袋をソファにのこして。
眉を下げて笑う。
「法案に賛同したか、単に仕事としてやっているか、
何らかの取引、弱みを握られたか……思惑はそれぞれだろうな」
「間違いないのは例の法案が街を荒らしてるって事だ。
マフィア、警察、一般市民を問わずな」
誰彼構わず向けられる矛先は街の日常を壊していく。
それは誰にとっても本意ではなかったはずだ。
少なくとも、件の法案に賛同した者以外にとっては。
「この夢も予知夢までは見せちゃくれないらしいな。
ま……急いても事は動かない。次を待とうじゃねえの」
夢の景色は移り変わっては薄れ、消えていく。
そして、そのうちにまた、目が覚める。
『
見つけたぞ
』『今日のそいつも
当たり
だな?』
『そして俺の観測範囲では此奴が
最後の
一人だ』
あなたの留守電に一件。
メッセージがあった。
『
アリーチェ・チェステ
』
『武運をお嬢さん』
たった十秒ほどでその声は消えた。
賭け直せど無情にも使われていない電話番号を示す電子音が受話器からは流れる。
だがきっと、その男は変わらず貴方の味方で居続けている。
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