100 【身内RP】待宵館で月を待つ2【R18G】
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「君に許されなくたって僕が僕を許すんだから其れで良いんだよ。人間は本当に身勝手だなァ…君達の都合に僕を付き合わせないでほしいね」
キエは胎の底から聞こえる声を聞き流していた。其れは自分が得意とする
夢の世界にいるからこその余裕であり慢心でもあった。
“人格を喰らうのは僕も初めてでねェ。
咀嚼に時間がかかってしまうだろうがそこは許してほしいな”
此の言葉に嘘偽りなくキエが胎に人格を収めたのは初めての事である。意思を持つ食べ物など初めて口にしたが故に胎の中から抗われた事も初めてだ。
だからこそ、此の展開をちっとも考えていなかった。
未だ“ゲイザー”に此処まで意思が残っているだなんて思っていなかった。
「
」
キエは初めて吐き気を催す。
キエは嘘吐きであるし数え切れない程の嘘を吐いてきたが幾つか本当の事がある。其の内ひとつが食の細さだ。
大食らいでないからこそ此の在り方に馴染んでいる。
性でもなく感情でもない力が胎で溢れれば直ぐに許容量の限界は訪れてしまう。
「ちょ、
ちょっと
」
「待って、本当に待って………此の儘だと
。君以外の感情も全部を撒き散らしてしまうよ、其れは望む処じゃあないだろ…」
此の小さな箱庭で禍根を全て零してしまえば結果は目に見えている。此れまで散々見せて来た高圧的な態度は今や見る影もない。
あのキエが、心底から焦燥している。……効いている!
「ええっ!?」
だが思わずゲイザーはその足を止める。
それが嘘じゃないのはわかった。胎動している。
このおどろおどろしい、感情のひとつひとつが。
その中にはきっとリソースとなったトラヴィスや、
ほかゲイザーも知らぬ契約を交わした
ゲストたちの記憶が混ざっている。
「そ、それは困ります……。けど、そうは言われたって!
……どうすればいいんですか!」
胎の底から1匹の鰐が浮かび上がると其の背中はゲイザーの足場になった。
「はいはい、出してあげるから大人しくしてなさい。…で、何処に出るの君」
鰐が発する声はキエのものだ。此の鰐が“キエ”だと夢を見ているゲイザーならば判るだろう。
鰐はゲイザーを乗せてゆっくりと感情と記憶の沼を泳いでいく。
………そう、沼だ。ゲイザーは人格であるから直ぐに混ざらなかったというだけで、本来胎の中は泥濘のように混ざっている。此処から特定の何かを掬い上げる事など砂浜から一粒の砂を探し当てる事に等しい。
何処かから赤ん坊の泣き声が聞こえる。
「君達が勝手に持ち込んだ魔力とやらを使わせて貰うからね。君も出られるんなら文句無いだろ?」
キエの行動は酷くあっさりとしていた。此処から出る為の試練も無ければ課題も無いが其れが“キエ”だからだ。
定義がキエを形作るとするならば、
この鰐もまた、キエの一部分なのだろうか。
ゲイザーは悍ましいアトラクションのような景色を進む。
「ま、魔力……? あたしっ、魔法使いじゃありませんし。
よくわからないですけど……。
わ、悪いことしないならいいですよっ!」
きっとあなたは、
”悪いことなんて滅相もない”なんて返してしまうのだろう、
そも善悪基準が人間とは違うのだから。
拍子抜けするほど簡単な脱出に、
”もっと早く声をあげればよかった”なんて思いながら。
⇒
| ゲイザーは、胎の中で夢を見ていた。頭の中にお友達がいた頃の夢。生きづらいけれど幸福で、安寧のあった日々。 (a54) 2021/10/23(Sat) 19:51:37 |
「…ん、見えた」
目的地を意識に捉えると迷う事なく速度を上げた。
キエは人を導かないし救いもしないし愛していない。されど人を大切にせざるを得ない曖昧模糊な存在だ。
人によってキエは善にも悪にも成ってしまうし、キエ自身も自ら其の在り方を選んだ。其れはキエの嫌う面倒が多く在る筈なのに選んだ道だ。
赤ん坊の泣き声が遠くなっていく。
「相も変わらずおかしな事を言うねェ君は」
| (67) 2021/10/23(Sat) 20:17:59 |
| ゲイザーは、虎視眈々と息をひそめている。その時が来るまで。 (a60) 2021/10/23(Sat) 20:18:41 |
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