147 【ペアソロRP】万緑のみぎり【R18G】
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[…それは少し、心外だわ。
もし、彼の心がわかったならば
わたくしはそう口にしたでしょう。
…美しい物語?
ありがとう、そう言って貰えるならばとても嬉しいわ。
もしも彼女の言葉を聞けたなら、そういって微笑んでみせたでしょう。
でもね、アウローラさん。
貴女は少し勘違いしているわ。
この世界で紡がれるあらゆる物語は
貴女が思うほど美しいことばかりではないの。
この世界は、何の犠牲も無しに
わたくしたちに幸福の果実を与えはしない。
わたくしは、覚えている。
この世界の成り立ちそのものが、
たったひとつの『命』を犠牲にして成り立っていることを。]
――…そう、アルカードと名乗っているのね、貴方。
[記憶を辿っても、その名前に聞き覚えはない。
だが、彼の『設定』のなかに、そういう名前があったとしても不思議ではない。
何れにせよ言えるのは]
その名前は彼女につけてもらったの?
それともご自分で名乗っていらっしゃるの?
貴方の、他のたくさんの呼び名と同じように。
……哀れね。
もう、自分の名前も、本当の姿も思い出せないのでしょう?
[柔く微笑みながら挑発半分に言葉を投げる。
その名も、姿も声も、話し方もその意志や思考でさえ。
誰かに望まれた、
或いはかつて望まれたものを継ぎ接ぎした
召喚者にとって都合の良いものに過ぎない。
それが彼の、この怪物の『設定』。]
『本当はわたくし、貴方たちともお友達になりたいのですよ?
これは、本当にそう』
『これから先の展開を考えればなおさら、そう思いますわ』
[わたくしにとっては偽りのない本心からの言葉。
わたくしが皆と共に生きていけるようにするには、
もっと多くの力やものが必要になる。
もし、彼や彼女を味方に引き入れられたなら
とてもその能力はとても心強いものになるはずですけれど。
……流石にそれは、リスクが高くつきそうね。]*
…は。
よくもそんな戯言を抜かせるものだ。
[柔く微笑む姿は他人の目からは美しいのだろう。
悪意などないようにみえるのだろう。
そこにある『害意』に気づけるのは、
その意志が自分自身に向けられたときで。
それに気づいたときには、既に手遅れになっている。
この女から感じられるものは、まさにそれだ。
少なくとも、我のハラワタを掻き回すような、
ずけずけと心の内側に土足で入り込むような
女の言葉と眼差しは、ただ、ひたすらに不快でしかない。]
貴様がその名を呼ぶな、女。
その名を呼ぶのを許されるのは、この娘だけだ。
[娘とマティルダのあいだに立ち塞がるように位置取ると
娘に背を向けたまま、マティルダを強く睨みつける。
…そうでなければ、立ち続けることも難しかった。
今は、娘に直接触れている訳ではない。
それでも、先程、娘を抱き寄せた腕から痛みが消えることはない。
それだけではなく、娘を守るため周囲に張り巡らせた触手が
ちりちりと縮れ、灰になって砕けていく。
内心、焦りと共に砕けた影の上から新たな触手を生やそうにも、
再生の速さを崩壊が僅かに上回っている状態だ。]
……ぐ。
[直に触れるどころか、近くに在るだけで
娘の光に自身が灼かれているのがわかる。
彼女を守るため招き寄せた、この闇の……我が身の内側から
彼女自身の放つ強い光に中てられている。
そして女の手の内がわからない以上、娘から迂闊に離れることも難しい。
そして恐らく女もそれを見越しているのだろう。
自身のほうからは全く動きをみせることなく、
ただにこやかに我らの様子を伺っている]
『義姉上!!』
『此処に居たか!無事でよかった!!』
……鼠共か。
[更に厄介なことに先程図書館で遭遇した者たちも
我らの騒ぎを聞きつけてやってきたようだった]
『すまないな。
最初に闇の精霊がいると言われたときは疑ったが
まさか真実だったとは……』
『人払いは既に済ませてあります』
『よしよし、それじゃあ手っ取り早く
世界を救っちゃいますかね』
『さっき逃げられた奴が何を言っているんだ』
[いっそ、呑気ともいえる奴らの応酬に内心腹を立てる。
が、それを口に出せる余裕が今はない。
理由はわからないが、
娘の特性を利用して此方に不利な状況を作り出したことといい、
彼方は我と、娘のことを知り尽くしているようにみえる。
そう呻いている間に、女を中心に
男たちによって戦いの火蓋が切って落とされた]
『すまないな。
最初に闇の精霊がいると言われたときは疑ったが
まさか真実だったとは……』
『人払いは既に済ませてあります』
『よしよし、それじゃあ手っ取り早く
世界を救っちゃいますかね』
『さっき逃げられた奴が何を言っているんだ』
[いっそ、呑気ともいえる奴らの応酬に内心腹を立てる。
が、それを口に出せる余裕が今はない。
理由はわからないが、
娘の特性を利用して此方に不利な状況を作り出したことといい、
彼方は我と、娘のことを知り尽くしているようにみえる。
そう呻いている間に、女を中心に
男たちによって戦いの火蓋が切って落とされた]
―――…。
[前衛の騎士と思われる者たちから繰り出される剣戟には触手によって応戦し、
大地から生み出される土人形や風による斬撃、打ちだされる水や氷、炎の矢には、それぞれ魔獣を召喚して戦わせる。
純粋な戦況は、今のところ互角に持ちこめている。
現状、己の身に一番ダメージを入れられているのが、
我が身に抱えた娘自身というのが、気に入らないが]**
(ジリ貧とはこのことですね、アルカード)
[ 祈りを捧げるように両手を重ねて。
わたくしにとって大切な彼らを支援しつつ、
闇の精霊へと思念を通じて語りかける。 ]
(どうしても、彼女を手離すつもりはありませんか)
(ずいぶんと、彼女にはご執心のようですが)
……貴様になど、わかるものか。
[直接脳内へ語りかけてくる女にそう返す。
理解される気もしないし、
それ以前に理解してほしいとも思わないが。]
はじめての、ニンゲンだったのだ。
我に、世界の破滅を望まなかった。
我を、友と呼んだ。
我にこの世界は美しいものだと知ってほしいと。
我に、これからも傍にいてほしいと言ってくれた。
……そう、望まれた。
[永い永い時を生きた。
そのあいだに、数多の人の子と関わりを持った。
あの暗闇の中、我を喚んだ誰もが、この世界の破滅を――滅亡を願った。
いつだって、我に届く声は世界を、他者を呪うもの。
悲しみと憎悪と寂しさと苦しみに満ちた声だけが
我を此の地へ喚び寄せる道標。
―――…そのなかで、たったひとり。
風変わりで、弱々しくちっぽけで、今にも消えてしまいそうで。
だが、我が手の中で決して消えることなく、あたたかな輝きを放ち続けた、たったひとつの星。
この命を手離さないことに、
離れがたいと願いを持つことに、理由が必要だというのなら。
……それで、十分だろう?]
(願い、ですか)
(此れは随分異なことをおっしゃるのですね)
[ふふ、と知らず微笑が浮かんでしまう。
「願いを叶える」ために存在する
舞台装置が
随分、人間じみたことを考えるものだと。]
(それも、彼女の影響ですか?)
[どうやらわたくしの知らないあいだに
既に、シナリオは大きく書き換わっていたのかもしれない。
…いいえ、それは今更ね。
既に彼に自我が発生していること自体が、
ゲームのシナリオから逸脱しているのだから。
――でも、ええ、そうね。
悪役令嬢ではない、
『光の魔力』を持つ本物の"主人公"なら、できるかもしれないわ。
尤も、その不確定さに、頼るつもりはないけど。
彼女には、光の魔力の本質を知らないままでいてもらったほうがいい。
そのために、幾度となく無力感を味合わせてきたのだから。
]
―――…今度こそ終わりにしましょう。
[ 仲間たちに声をかける。
最初の頃こそ互角に持ちこめていた戦いも、
少しずつ変化し、今ではほぼ此方が有利になってきている。
ここぞと畳みかけるために、仲間たちに目配せをする。
彼等がひとつ頷くのを確認すると、
闇を封じるため、光の女神への祝歌を紡ぐ。 ]
[ 空に、光に満ちていく。
そうしてその光が霧散した後、空に浮かぶのは
さながら天に開けられた真円の穴。
闇たる彼を封じるため、女神の理の外――世界の果てへと
続く"門"が開かれていく。
門の向こう側にある其処は、世界の外側。
闇に満ちた虚無の海。
闇の精霊たる彼が、本来棲まう場所。 ]
―――…闇の精霊よ、在るべき処へ還れ!!
[わたくしの声と共に、皆が手にした武器を一斉に掲げた。
そうして轟音と共に大気が震え、周囲に満ちた闇が霧散し、
空の穴に吸い込まれるように消えていく。]*
―――…。
[ああ、此れで終いか。
天に開いた"門"を見て思ったことは、そんなことで。]
……、すまないな。娘。
[また、召喚者の願いを叶えてやれなかった。
今回ばかりは……たとえ、我自身迷いこそあれど、叶えてやりたかったのだが。
いつだって、人の子の、より多くが願う想いには叶わない。]
[闇が、消えていく。
我の、人の姿を形作ることも、ままならなくなっていく。
今、我の身体は、あとどのくらい残っている?
どれほど人からかけ離れた姿になっているか、
今の我には、わからないが]
……。
[どうにかカタチを保っている左手で娘の頬に触れる。
灼けるような痛みと、白い手袋を濡らす、果敢無い雫。]
泣くな、……アウローラ。
泣かないでくれ。頼む。
[名前を呼んだのは、これが初めて、だったか。
今まで散々、名前を呼べという
娘の願いを叶えてやれなかったのに。
随分と勝手なことを言っていると。
わかってはいるが。 …それでも。]
……幸せになれ。
お前は、こんなにもあたたかな生き物なのだから。
お前が求める愛を与えてくれる者は
……きっと、この世界にも存在している。
[我には叶えられない温もりを、
与えられるニンゲンは、きっといる。
この世界は、娘にとって、美しい世界なのだから。
そう娘が信じられる限り、いつか、娘の願いは叶う]
[ほろり、ほろり、と。
身体が崩れていくのがわかる。
懐かしく、そして慣れない感覚に、
自然、苦笑いが浮かんで。
頬に触れていた手を、そっと額に移す。
炭化し、崩れてつつあるその手の形をどうにか保つと。
その額に、掌越しに口づけを落とした。]
―――…さらばだ。
短いあいだだったが、心地良くあたたかい旅路だった。
[唇を離すのと同時、いつかのように
安心させようと微笑んだところで。
…その身体は灰になって、やがて、空の向こうへと消えた]*
―――…アルカード!!
[ 彼の掌がわたしの額に触れて
ひやりと痺れるような、身体の熱が奪われるような
そんな感覚に襲われる。
けど、それ以上に。
彼の身体が灰になって、空に開かれた穴のような門へと
それが吸い込まれていく光景に、背筋が凍りつく想いがした ]
いや!!
いやだ、いやですアルカード……!!
ああ……!!
[ 消えていく。
彼の、何もかもが。
さっきまで笑っていたはずの顔は何処にもいない。
さっきまでわたしに触れていた左手は、あの冷たい手は
いったい、何処に行ってしまったの? ]
……っ。
[ 空の門へ、舞い上がっていく彼の灰へ
必死に縋ろうと手を伸ばす。
けど、その手は届かない。
震える脚は、わたしに立っていることすら
許しては、くれなくて。
そのまま、地面に膝をつく。 ]
どう、して……?
[ゲーム本編と違って彼は何もしていない。
悪い事なんて何もしていない。
ただ、わたしの傍にいてくれただけ。
ひとりぼっちが寂しくて、
涙を零さずにいられなかった
ちっぽけなわたしの願いを、叶えてくれただけ、なのに。 ]
『アウローラさん』
……!
[聞こえてきた声と、
遠巻きに自分を見つめてくる視線に振り向く。]
『さ、帰りましょう』
『みんな、貴女の帰りを待っています』
『貴女は、ひとりじゃないわ』
……。
[確かに、そうかもしれない。
皆に愛され、大切にされるマティルダ。
彼女と一緒にいれば、彼女が仲介になってくれれば。
わたしは、今までみたいに
一人ぼっちではなくなるのかもしれない。
……愛してくれる人も、見つけられるかもしれない。
消える直前、彼がわたしにそう言ったように]
[ だけど。 ]
……アルカードは、どうなるの?
[ 小さな頃、御伽噺に書いてあった話。
この世界でたったひとり、
他のどの精霊とも異なる生まれ方をした
ひとりぼっちの、強くて、優しくて、
少しだけ狡いところのある、不器用な精霊。
あのひとだけを、物語の
犠牲にして。
それで皆、ハッピーエンドだと笑いあう。
……そんなものに、わたしはなりたいの?
]
……。
[ 嫌だ、と思った。
今まで誰からも見向きもされなかったのに、
急に輪の中に入って、仲間だとか、友達だとか言われて。
それまで一緒にいてくれたひとの犠牲に目を瞑って
ハッピーエンドだと、笑いあうなんて。
そんなことになるくらいなら、いっそ。 ]
―――…。
[ 立ち上がって、空を見上げた。
その先にあるのは、未だ開かれたままの門。 ]
『アウローラさん?』
『行きましょう。もう、悪い夢は終わったの』
―――終わってなんかいない!!
[ マティルダの言葉を遮って、吠えるように叫ぶ。
目の奥が熱い。雫が頬を伝うたび、
そこから灼けるように熱いものがほたり、ほたりと
地面を濡らしていく。 ]
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