人狼物語 三日月国


45 【R18】雲を泳ぐラッコ

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    僕を、手元に置いて欲しい……
       叶うことなら、ずっと……


[声は怯えを孕んで震えていた。
 僕は、貴方なしに生きられないだろう。
 もし叶わぬのなら、今すぐ命を摘み取って欲しい。
 ……そんな想いで。**]
 

[行きますよって彼女は堂々と出て行き、途中微妙に頼りなさ気な足取りになりながら、辿り着いたのは公園だった。

よく喋ったのは彼女の方で、
言葉をたくさん飲み込んだのも彼女の方だった。

彼女よりずっとシンプルで身軽な己は、
答えももうこの手に持っていて、
彼女に差し出しさえした。

それでこれ以上泣かせる事はないと踏んだ通り、彼女は落ち着いた顔をしていた。
彼女が仮面を被っているとは、まぁ気付いていたけれど、
それでも大泣きとかされずに済んだ事に、
身勝手ながら安心していた。
飲みに誘ったけれど、
断られたって「そっか」となるだけだと思った。
でも、何か言いたげながらも頷いてくれて
嬉しい自分がいる事に驚いた]


  お願いするのはこっちだなぁ
 

[少し照れくさそうな顔を傾け、
結んだ髪がかかる首をかいかいと掻いた後、
今度はまた、自分が道案内をした]

[屋敷に仕えているものだから流石に店は選んでいるけれど、たまに足を運ぶ。彼女を連れてやって来たのは、奥まった立地のせいで少し暗い、そんな店。
何かいつ行ってもやっていて、そこが楽しい様などこか不安になる様な気もする。
おめかしした彼女を連れて行くと、ある人は不躾にジロジロ見て来るし、ある人はちらちらと気付かれない様に視線を寄越して来た。
あー流石にお嬢様嫌かなと思って引き返そうとしたが、
人懐こい女性店員が席を用意してくれて、
半ば強引に席につく事になった。
彼女へ向けられる視線が大半の中、己に向けられる視線があった事には気付けないまま。

彼女の方はこっちの気もしらないでか、
まぁ浮いているのに態度は毅然としたものだった。
店員もまわりの客も絡んで来ないし、まぁいいかと、レモンの酒を頼んで一息ついた。

彼女の酒の好みは把握して……いるという事はなかった。
お出しする機会がなかったものだから。
果物の味の強い酒がふたつ並んだのが、何だか面白かった]


  え?
  ここじゃ話せない様な事、
  話しちゃう?


[さっき迄はよく出来た大人だったのに、
今こちらへ向ける顔も視線も、アウェイの少女だ。
おどけて返してみたが、彼女の反応がどうであれ、調子に乗り過ぎたなとこっそり反省して、運ばれて来たグラスに手を伸ばした。

……こういう場所は昔の匂いがする。
呑まれない様に気を付けないと]



  えーと、何から話そうかな……
  そうそう、この手だけど。

  あんたが思ってるほど、オレはこの手が好きじゃねぇよ。
  悪い事をしてきたからな。


[「こういう」と続けて、
隣に座る彼女のほっぺを左手でムニとつまんだ。
こんな可愛い悪戯じゃない、と示す様に、少し力を込めた。
抵抗したって唇が開くくらいに。

……さっき気を付けないとと思ったばかりなのに。
今一度反省したという訳ではないが、するりと手を離した]


  あると便利だ、普通の奴みたいに生活出来るし。
  でも、駄目になったら駄目になったで、オレは構わない。
  きっとすぐに諦めがつく。

  もともと、あの時駄目になってる筈だったんだ。
  だから、こいつの事は気にしないで良いんだ。


[片手でも真っ当な仕事もあればそうでないものもあるだろう。
それは両手でも同じ事で、
とどのつまり、手はそう重要ではない]



  これからは……まぁ、どこに行こうかな。


[出て行くのは屋敷をなのか、国をなのか。
アテも含めて決めてないが、この場で「屋敷」とか言えないので濁す。
とりあえず、先の手の話から、技師を求めて国を出ると迄決めている訳ではない事は伝わるだろうか。ただ、結局国をも出る事になる様な気はする。

「あ、それ美味いよ」と、運ばれて来た串焼きに話を移したりしつつ、]


  ……オレがあんたに何をして
  そんなに気に掛けてくれてんのか、
  やっぱりよくわかってねぇんだけど、

  でも、この手で出来る事を求められた訳でもなく、
  女みたいな顔だから服を脱げって言われるでもなく、
  気に入ってくれんのは嬉しかったよ。


[ふ、と笑って串からひとつ肉を食い千切って。
もむもむと、使用人顔で上品に咀嚼して飲み込んでから、また笑みを向けた。ちょっと複雑に眉を下げていたが、哀しみや苦悩を含んだ笑みではなかった]


  でも、オレがあんたの傍に居る事を
  疎む奴も居るだろうし、
  オレ自身も、あんたを悩ませるタネでありたくない。

 



  例の場所でオレが倒れ…寝転がってたのだって、
  オレが今迄悪い事をして来たからだ。

  またあんな事、嫌だろ。


  ……オレも……いやだよ………


[血に染まった庭を見て、当時彼女はどんな顔をしていたんだろうか。どれだけ胸を痛めたんだろうか。
想像してしまえば、
最後の言葉は彼女でなく、
薄いレモン色のグラスに向けられた]

[恩返し、と言って屋敷に居ついたし、その気持ちも本当。
いつ迄、とか考えてなかったけれど、
永遠に居る事は良くないだろう。
彼女の結婚と、彼女の想いで考えさせられた。

盗賊団に見付かって屋敷や彼女に迷惑がかかると迄考えた訳ではないが、己の過去が暴かれて何か取り返しのつかない事になる可能性は大いにあるんじゃないか、とは思い至ってしまった。
例えば彼女が結婚を断ったとして、身辺を調べられて、
彼女に危害が加えられなくとも、原因になったオレが見せしめの様に殺されるとか。
別に死んでも構わないけれど、
彼女に死体を見せ付ける様な過激な奴だったら?

それなら、オレがおとなしくどっかに去った方が、
色々と問題が回避出来るのではないか。


そんな事迄すぐに思い浮かぶほど、
オレはオレの過去を煩わしく、又、重く見ている。


出会ってすぐ聞いた替え玉の話は記憶に薄い。
盗賊の仕業と考えている訳ではないが、
少なくともオレ達は、攫った人間は返した事も逃がした事もないから……。**]

[剣呑でお互いを刺し合う話でもなく、
泣いてばかりでなにも話せない訳でもなく。
ふと柔らかい表情を見せてくれるのがありがたい。

一緒にドアをくぐったお店では
いくつもの視線を浴びることになった。
注目されることに慣れてしまったシャーリエでは
視線を探り当てて笑みを返してしまうのだけど、
今日はそういうの必要じゃないから、
ふうって目をそらした。

「席はこちらで」って
高い声でやってくる店員と彼の間に挟まって、
他にこっちに向かう視線がないか偵察をしている最中。
1つ彼に向けられた視線を見つけた。
込められていたのは、ミーハーな女性の視線っぽくなく、
なんだか、こう……]

[席に座ってもう一度そっちを見れば、
もう視線は切れてしまっていた]


 話せない話って…… もぅ、からかってる?
 ……悪い子。


[真面目な話かと隣のリフルを見つめたのに、
抑揚つけておどけた語尾に冗談だと気がついた。
こういう話し方で私に接する人なんていないので、
どうしても気がつくのが遅れてしまう。

顔をテーブルに戻す前に「悪いこと」までされて、
しかめっ面をして義手を捕まえようとした。
ひらりと翻されて触れることもできなかった私の手は、
お酒混じりの空気をわたわたかき回して、
テーブルに落ちた。]


 私は、その手、すきですよ
 きっと片手をなくして困っている人の夢になる


[リフルの手、なら二文字言えるんだ]

[冷たい手に触られたのに赤くなる頬を抑える。
どうやって動いてるのか知らないけど、
器用にクッキーを二つに割った手は、
彼にとって嫌な思い出なのだろうか。

たしかに片手になっても仕事はあるだろう。
街を見てもらう今の仕事だって、手が2つは条件ではない]

[どこへ行ったってなんとか生きていくのだろう、彼は。
屋敷を出たら迷うだけの私と違って、どこかへ行ける。]


 …… ……。

[美味いよと串焼きを掴む彼の手と、
嬉しかったと語る彼の唇を順に見る。

リフルの壮絶な過去が見えた気がする
けど、きっとその顔の下に隠れてるのがまだまだある]


 どうして、あなたが疎まれるの。
 疎まれたら止めちゃうの。

 それを阻むのは私の仕事です、
 街の秩序を作るのが私です。
 人々から罰を預かっているのが私です。
 ルールを破る私刑はそれ自体が罪です。

 ……守るから。言ってよ
 悪い子には罰をあげるから、それで許すから……


[彼のグラスの隣に黄色いお酒のグラスが並んでいる。
シードルのグラスを手にして覗けば、
揺れている私の顔が悲しそうに揺らいでいた。

そうか。そういうことなんだ。
私、リフルに言って欲しいと思ってるんだ。
これからも一緒にいるって、
すき
だって。]

[グラスを口に運び、
息を吸い込んでから上下をひっくり返した。
弱いお酒とはいえ、流れ込んでくる勢いは垂直だ。
味とか香りとか関係なく喉を動かして飲み、
なだれてくるリンゴ酒を全部お腹に納めてから。

隣の彼へ、すっきりした笑顔を向けた]


 リフル。わかっちゃった。
 ……私、あなたのこと引き止めたいんだ。

 諦めるには遅いの、もう私の思い出だもの


[ふふふ、って、
難しいことを削ぎ落とした私《メグ》が笑う。
難しいことはシャーリエの担当だから、
私は正直でいなくちゃいけなかったんだ。
やる気がでればシャーリエも動きやすいんだから、
私は私と喧嘩してる場合じゃなかった。]

[  ばちん と大きな音を立てて、店の灯りが落ちた。 ]



    リフル、 リフル?
      どこっ…… !!

[驚いて離してしまった彼の手が見当たらない。
暗闇であちこち手探りしてみるけど、
リフルの手なんて間違えようがないものにかすりもしない]


   リフル!  っ!

[暗くなった店内でグラスの倒れる音がした。
どこにいるの、彼になにかあった……?
お酒で熱くなった体が冷えていく中、
誰のか分からない大きな手で口を塞がれた。
身動きとれないほどに強く引き寄せられ、
誰かに捕まった、とどこか冷静なシャーリエがはじき出す。

命の危険を感じたのは初めてのことだった**]

【置】 二年生 早乙女 菜月


 太郎は、外に出ましたけれど、往来にはちょうど、
 だれも友だちが遊んでいませんでした。
 みんな天気がよいので、遠くの方まで
 遊びに行ったものとみえます。
 もし、この近所であったら、
 自分もいってみようと思って、
 耳を澄ましてみましたけれど、
 それらしい声などは聞こえてこなかったのであります。

 一人しょんぼりして、
 太郎は家の前に立っていましたが──

── 「金の輪」      
(L0) 2020/10/03(Sat) 19:51:00
公開: 2020/10/03(Sat) 19:55:00
…俺は俺ですが、
上にいる存在とは違いますので、
言った事が真実かは別としておきます。

俺は全ての記憶を持っていますし、

[色の無い声で紡ぐと、球体をまた手入れし始めた。]*

[彼女がこの店を嫌じゃないかな、とだけ考えて座った席で、「悪い子」と言われると不思議な気持ちになる。
(おそらく)年下だけど目上で大人っぽい彼女がそんな事を言う様は、どこか色っぽいとでも言おうか。
まぁそれ以上は考えない様にしたから、くっくと笑い返して、
それから左手で悪さも出来たんだろう。

彼女の顔が不機嫌に歪んだが、
そう、そうやって嫌悪してくれれば良い、と思った。
彼女の手は己の手を退ける為に伸ばされたと思ったが、避けるつもりもなかったけどタイミングが重なり、結果として避ける形になった。
空を切った手が可笑しく踊る。
馬鹿にした訳ではないが、
小さく笑ってしまうのは許してほしい]


  夢、ねぇ……


[彼女の発想は、否定もしなかったが頷く事も出来なかった。
そういう一面もあるんだろうが、
そういう綺麗な物語があるのなら、オレの関係のないところでやってほしい、と冷めた喉奥で思う。

夢の方に気を取られて、彼女の中で大事な言葉を聞き捨てた]

[掴んだ頬が赤く見えて、やり過ぎたかなと思った。
もし腫れでもしたらオレがやりましたと彼女の御父上に自首して強制的に辞めさせてもらおうとか考えた。そのくらいにもう腹が決まっていた。

だから、この場がどこかも忘れてお嬢様の話し振りになって、「守る」と、「許す」と言ってくれる彼女に、]


  ありがと。


[短く言って笑った。
この笑みは「受け入れない」と拒む笑み。
彼女が言葉を尽くしてくれても、
グラスに視線を落として胸の痛む様な顔をしていても]

[……と思えば、彼女は酒を煽った。
ヤケ酒ですか、お上品じゃないですね。
と心の内でからかってみている内に、
彼女の顔つきが変わった]


  ……酔っ払いの話は聞きません。


[引き止めたいなんて、それはこっちは先にわかってたぞ。
はぁーと彼女から顔を背けてため息を隠す。
後の話はよくわからない。
いやな気はしないけれど、
まともに取り合うと後で後悔しそうな気がして。
何か可愛く笑ってる彼女から、身体は隣にあるままでも、心は格好悪く逃げ出す]



  ───!?


[突然視界が真っ暗になり、けれどこれが消灯だと瞬時に理解する。同時に大きな音が鳴ったから。
驚いた彼女の声に、]


  落ち着いて、大丈夫ですから。


[と、あくまで冷静に声を掛けたが、
おかしな事に、彼女のどこにも触れられない。
すぐ傍に居る筈なのに。
手の感触が無くなったのは、驚いて離れたのだとはわかるけれど。
お互い動き過ぎて奇跡的な確率ですれ違ってるのか?なんて過ったから、もう身体ごと抱き締める様に近付こうとした己も、相当酔っていたのかもしれない。

けれど、椅子から身を乗り出し、足を踏み出した時、
ガシャン、とどこかで何かが割れる音が聞こえて、一瞬気を取られる。

……踏み出した足が止まる。
目の前には何もない、と、わかってしまった]


  ……お嬢様……?


[呼び掛けてみても、返事はない]



  お嬢様、お嬢様ッ!


[ざわざわした店内では、この声も埋もれた。
それをいい事に、
見えないのにキョロキョロと狂った様にあたりを見回し、
何度も呼び掛けた。

嫌な予感に冷や汗が浮かんで、吐きそうな呼吸を飲み込む]


  早く! 灯りを点けろよクソッタレ!!


[そう時間は経っていないだろうにいやに焦り怒る己に、周囲から視線が集まるのも気にせず、どこに居るかわからない店員に聞こえる様に声を張った。いや、八つ当たりの方が正しかっただろうが。

灯りは復旧しただろうか。
そこに彼女の姿はなかっただろうか。
誰か事情を知っている人か、犯人の手掛かりはあっただろうか……。*]

花の名 リフルは、メモを貼った。
(a7) 2020/10/03(Sat) 21:30:51

──淡色の球体3──

[どんな職業にも向き不向きと言うのはあるものだ。
無愛想な少年は命令される事に疑問を持たず、
明確な理由があるなら人を傷付ける事が出来、
兵士には比較的向いてる方だったろうか。

同じ頃に兵士になった少年達の中には、
向かないものもいた。
人の怨みに怯えて、足が竦んで動けなくなるもの。
夢に見ては憔悴し、上官の圧にも精神を削られ。

無愛想な少年は彼に、
最初、軍を辞める事を勧めたが、
逃げ出す事すら彼は無理だと泣いた。

訓練と戦場を繰り返した。
飲み会や少年達だけで話もした。

だが、友情を育んでも、
出兵する度、彼はどんどん追い詰められていった。
このままでは遠くない未来に狂ってしまう。]

『殺す事が怖い』『上官はどうして酷い事をするのか』
『憎しみの目が忘れられない』

[その1つ1つを月の出る夜に撫でて、ぼやかした。
放ってはおけなかった。
苦しみを封じて、少しずつやり直せば、
彼は勇敢な軍人となり、認められて、
前線から離れて暮らす事が出来るようになった。

2度目の自己存在と過去の廃棄。
それで友を救えたのならと言うのは烏滸がましい事だが。
]*

【置】 二年生 小林 友


   太郎はかなたの往来を見ますと、
   少年が二つの輪をまわして、走ってきました。
   その輪は金色に輝いて見えました。
   少年はその往来を過ぎるときに、
   こちらを向いて、昨日よりも
   いっそう懐かしげに、微笑んだのであります。
   そして、なにかいいたげたようすをして
   ちょっとくびをかしげましたが、
   ついそのままいってしまいました。

   ─────『金の輪』
           小川 未明
(L1) 2020/10/03(Sat) 23:04:24
公開: 2020/10/03(Sat) 23:05:00
──淡色の球体4──

[
この球体にあるのは、
唯アジダルの背中を見つめ続けている無愛想な男のみ。

初めてそれを知ったのは子供の頃のような気がした。
誰だったかなどは全く覚えていない。
年下で自分が可愛いと自覚している方が、
恐らく好みだと言うのも忘れた。

それから他にあったとしても、
捨て去ったものの中であれば覚えていない。
次に自覚があるのは向こうから言われた時。
少し年上の人。
戦地に向かうのを心配されるまでならまだ良かった。
だが、目元のそれに気付いたらもう駄目だった。
ついぞ、本気を向ける事も出来なかった相手。

そうして、朧気に分かる中では3人目。
大切だと思っている。
その背中に触れたくなると同時に
胸が潰れそうになった時もある。
救ってくれた相手、
出会った事で自分に変化を齎した、幸せになって欲しい人。]

 
[名前が呼ばれた。
 普段、呼ばれることのない下の名に
 妙にどきりとして、足元に集中していた目線を上げると
 切実な響きを伴って、願いが
 唇から吐き出されるところだった。


 涙を滲ませた表情が物語っているのは、
 望まぬ行為への苦渋…か。
 だとしたら、
 早く逃れたくて
 仕上げろと言っているのかもしれない。

 完成すれば気が済むと思っているのだろうが、
 残念だが俺は
 警備員に取り押さえられでもしない限り、
 貴方を離してやれそうにない。]
 

 
[本音を言い淀むように
 動く口元を
 じっと見つめながら苦さを噛み潰していると
 思い掛けない言葉が聴こえた。



   っ…、  今、なん…て ?



[にわかには信じ難くて、聞き返す。]
 


[あまりにも
 自分に都合が良すぎて
 幻聴や白昼夢の可能性が脳裏を過ぎった。

 いや…、

 やはりそうやって
 俺の気を緩ませておいて
 隙を見て助けを求めに行くのかもしれない。

 だって、ほら…
 こんなにも声は怯えをはらみ
 瞳から辛さが零れ落ちそうになっている。
 

 
[虫の魅力に
 取り憑かれてきた男にとって彼は
 初めて興味を持ち、惹かれた人間だ。

 まだ複雑な内面を推し量るのは難しくて
 喉から手が出るほど望む言葉が
 本音であると
 信じることができなかった。


 それでも、 
 聞いてしまった
 聞こえてしまった
 その前の心境に戻ることの方が
 もっと、難しくて。]
 

 
[は……と、ひとつ息を吐き
 無理矢理に笑みの形を作ると、
 切なさを押し隠し
 できる限り、穏やかな声音になるよう
 意識しながら語りかける。]



   ああ、いいよ。

   さっきから、俺も思っていたんだ。  
   教会みたいなこの部屋ごと
   貴方を持ち帰れたらどんなに良いだろうか、って。

   連れ帰って
   部屋に閉じ込めて
   この手で愛でてあげような。

   ずっと、ずっと…



[今だけでも仮初の幸せに酔わせて欲しい、と
 音にすれば、
 どれだけ手放したく無いのかを
 より深く自覚する羽目に陥った。

 
叶わぬ未来だと分かっているのに────…
]*
 

 




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