124 【身内P村】二十四節気の灯守り【R15RP村】
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不幸せを 幸せに
――そうして 先代の灯りは消えました。
結果は 最悪の結末でした
私は先代を殺しただけじゃない
枯草の心も 深く ………深く傷つけた
何もしない方が余程幸せな終わりだったと
誰がどう見ても 明らかなほどに。
どうしてあんな事をしたのか
あんな事さえしなければ少なくとも
少なくとも 枯草を追い詰めることはなかった
[ 彼女は口にした。
本当は今が 辛かったのだと。
普通に過ごしたい
枯草と 私と 家族のように生きたい
枯草と同じように老いながら共に生きて 逝きたいと
その願いを叶える為に
彼女の不幸を 幸せに変えた。
――違ったのだ。
何もかも。
冬至の能力なんて使わずともわかった
彼女の灯りが消えた時 聡明な只人は私より早く気付いた
或いは彼女さえ 最期まで気付かなかった本当の願いに ]
[ ――ただ、死にたかったのだ。
私達との未来よりもこの生から解放されたかった
生きている事自体が不幸だった
だからそうなった。
だから 誰よりも傍に居て
誰よりも彼女の幸せを願った彼は
愚かな私が愚かな力を使うのをやめさせた
自分との未来ではなく
死こそを希望と見出していた
そんな現実を突きつけられて尚
彼は、私が犯そうとした罪を止めた そんな人だった ]
……どうすれば良かったのか
使わなければ良かった。
そうすれば枯草を二重に苦しめなかった
大切な人を殺した存在を
ずっと、文句も言わずに支え続けて
どんな想いで、仇と過ごしていたのか
私はあの二人を 不幸にしただけだった
[ 気付けば 手が震えていた
握りしめた拳を反対の手で抑えて
――目立たぬよう 細い 長い息を吐いた ]
……。
何をすれば 償えるのか
そんなことを 今も、考えることがあります
――…なんて。
やっぱりこれ お礼にはなりませんね?
[ 暫くぶりに見上げた彼に
「すみません」と微笑む事は 容易かった。 ]
[ 苦言――ただの願い。
あの時 もっと話していたら
途中ではぐらかさずに、
蛍の最期までを きちんと話せば
ひょっとして何かが変わったのだろうか
否。
変わることはない
彼は優しすぎた。
身を滅ぼすと解っていても
其処に心があれば 優しく在る人だ ]
[ あの時とて理解していた
理解して、それ以上を願うだけに留めた
ただ 頭にともる あたたかな優しさを受け入れて ]
……夕来、訊いてもいいでしょうか
[ 穏やかで のどかな夕景に
湿っぽい懺悔の結びなど似合わないから ]
あなたにとって
" 灯守り "とはなんですか?
[ 雑談の如き気軽さを伴って
終わりの近い彼とのこの今に 花を咲かせよう ]
[ ――近付く夜の風は 未だ其処に ] *
―― 過去/雪の中に答えを探して ――
…………どうしよう、道に迷っちゃった。
[寒空の下にいて、わたしは正直参っていた。
左右を見渡せば木々が並んでいて、誰かが住んでそうな家は見当たらない。
わたしに吹き付けている風はとても冷たく、
空からはひっきりなしに重たそうな雪が降っている。
わたしは冬至域にいた。
それも、もっとも冬の寒さが厳しい時季に]
[冬が長く昼は短い冬至域において、
“鬼節”と呼ばれる厳しい時季があることを、
わたしは旅に出る前から知っていた。
近隣の統治域に関する書物も読んでいたからだ。
とはいえ、文面で把握するのと、実際に体感するのとでは、
あまりにも差がありすぎる。
そう、わたしは実際“鬼節”をナメていたのだ。
寒さに強いひとの多い小雪域に生まれたとはいえ、
わたしの灯りは、秋めいたうつろいを見せていたのに]
だれかー、だれかいませんかー。
わたしは今とっても困っていますよー。
[声を張り上げた、けれど、風の音の方が強いよねえ……
今すぐあったかい部屋の中に行きたい。
火の粉が爆ぜる暖炉の前でのんびりしたい。
そんな願いもかなえられるかどうか……]
[ポケットの中に入れた手が、自然と丸いものに触れる。
これは……わたしの灯りが入っているいれものだ。
器の見た目は完全に羅針盤なのだけれど、
針はなく、決して未来を示すことなく、
わたしの灯りがただ限られた範囲をふわふわと漂っているだけ。
その灯りも今は、わたしと同じように、
震えてどこかひとつにとどまっているのだろう。
もしも、わたしが誰にも見つけられず凍え死んでしまったら、
ほんの半日前までは縁もゆかりもなかったこの地で、
わたしの灯りはどうなってしまうのか。
もちろんそんなことは知りたくなかった。
だから、懸命に足を前に動かせって自分に言い聞かせた。
道には雪が積もってて、わたしの足も雪に埋もれてたから、
歩くだけでも体力が削られていく感じがするけど、動かないとそれこそ命にかかわる]
だれかー…… いませんかー……
[ゆっくり歩きながら振り絞った声はなかなかにかすれていた。
わたしはもう祈るしかできない気持ちでいた。
その時だ。
わたしの声が届いたというのか、
なにものかが駆け寄ってきたのだ。ぽてぽてと。
…………ぽてぽて?]
------------------------
[“わたしは冬至域で遭難しかけた時、
雪兎らしきいきものに道案内されてどうにか助かった”
こんな話、今でこそ笑い話にできるけど、
『慈雨』のお客さま方にする話じゃあないし、小満さまや蛍のお二方にもすることはなかった。
とはいえタイミングよくお店を訪れていれば知っていてもいい話だ。
いつだったか『慈雨』に訪れた冬至さまには、
その話をしたことを。
会合でその姿を見かけてから、もしかして、という予感がしていた。
その予感を口にするまでにはちょっと時間がかかったけれど]
……死にそうな人間には何か変わったものが見えるんだとか。
だから、あの時助けてくれた雪兎は幻かもしれない、
そう思ってたんです。
なにぶん、どこかの道を彷徨ってて、雪兎に会って、
気がついたらあたたかい部屋に寝かされていた、という有り様でしたし。
ですが……冬至さまに会って考えが変わりつつあります。
もしも冬至さまがかつてのわたしの恩人であるのでしたら。
ただ一言お礼を言わせて欲しいのです。“ありがとう”と。
[小満域に厳冬の影はない。
開いた窓からあたたかい陽光の降り注ぐ『慈雨』の窓辺の席で、
(わたしの一番お気に入りの席でもある)
わたしは冬至さまにぺこぺこと頭を下げた。
それから思い出す。わたしが命からがら辿り着いた村の人々も、
わたしに優しかったなあ、と。
助け合う、ということが身に深くしみついてるのかな、と、
彼らの動きを見て思ったんだった。
雪深く埋まっていた不思議は解けた。
これはつまりそういう話でもあった**]
―いつかのこと―
[やりたいようにやっただけ。
けれど、助けられる側にとっては動機は別に関係ないのだ。救われた、癒やされたという事実が全てなのだから。
……なんて、小満の言い分を知ったら立秋は言うだろうが、それすらもわかった上で好き放題と主張するんだろうな、という想像もすることであろう。]
うわーいいの!?ありがとう!
小満のお料理だ!
って、ボクがいい目にあってるだけじゃないかー!
[もー、何かしたいのに!と笑って。
けれど大変嬉しいお願いだ、断れるわけがない。
今度は良いお酒でも探してお土産にしてやろう、と企みながら、友人との食卓にお呼ばれしたのだった。**]
[いつからかほとんど姿の変わらないお姉ちゃんに
なんの疑問も抱いていなかった。
早くお姉ちゃんみたいに大きくなりたい、
大人になってお姉ちゃんを支えられるようになりたい。
そんなことばかり考えていた。
もしお姉ちゃんが、
この先もずっと変わらなくて
私だけが変わっていってしまったら?
私はお姉ちゃんより先に老いて、よぼよぼになって
お姉ちゃんより先に命のともしびが消えて……
それでもお姉ちゃんは、
私のお姉ちゃんで居てくれるのかな。]
[──師匠に初めて出逢ったのは
ある初夏の夕方のことだった。
雨上がりの芒種域の空には虹が掛かっていて
通い慣れたあぜ道はぬかるんで滑りやすくなっていた。
私は学校の帰り道で、とにかく早く帰りたくて
いつものように家に向かって走っていた。
調理実習で作ったロールケーキが上手に出来たから
お姉ちゃんにも早く食べて欲しかったんだ。
あともう数十メートルで家に着く、というところで
滅多に聴くことのない馬の嘶きが鼓膜を裂く。
どん、と身体に衝撃が走って
気付いたら青空に放り出されていた。]
[『あぶないからはしってはだめよ』と
あんなに何度も言い聞かせてくれていたのに。
お姉ちゃんの言いつけをちゃんと守っていれば、
ごめんなさい、お姉ちゃん。
ごめん、なさい…………、
…………
……]
[──次に目を醒ました時、私はベッドの上に居た。
男の人か女の人かわからないけれど
初めて見る綺麗な人が私の手を握って、
パパとママと一緒に私の顔を心配そうに覗き込んでいた。
身体はどこも痛くなかった。
私と一緒に飛ばされてぐちゃぐちゃに崩れてしまった
ロールケーキを見て事の次第を聞かされるまで、
自分の身に何が起きたのか思い出せないくらいに。
ただ、頭は靄がかかったみたいにぼんやりしていて
腕と足は上げるのも辛いほどに重たかった。
その綺麗な人曰く、私は馬車に轢かれて
その人の能力で一命を取り留めたらしい。
お忍びか、視察か、親睦を深める為にか
たまたま芒種域を訪れていたその人こそ先代立春。
それが、師匠との出逢いだった。
『綺麗な淡い、オレンジ色の灯りだね。
早春の陽だまりみたいだ。
僕の灯りの色に少し似ている。
……良かったら君、僕の弟子にならないかい?』
今にも消えてしまいそうな灯火に師匠の手が触れると
輝きを取り戻したように燃え上がって、すごく綺麗で
何故だか涙が零れ落ちたのを憶えている。]
[故郷から遠く離れた見知らぬ土地で
弟子として暮らすことを最初は多少躊躇った。
師匠がなぜ私を弟子に欲しがったのかも、
娘を心配してくれるパパとママを
師匠がどんな風に説得したのかも私は知らない。
大好きなお姉ちゃんや両親から
離れて暮らさねばならないことに抵抗はあったし、
実際移住して数年間は度々ホームシックに陥っていた。
けれど、師匠の弟子になれば、
蛍としてお仕事を学ばせてもらえれば。
何かお姉ちゃんの役にも立てる日が来るんじゃないか。
何より、喪うはずだった命を救われたから
誰かの為に役立てられるなら役立てたいと思ったんだ。
今は師匠の眠るこの土地から、離れることは出来ない。
私が灯守りの役目を務め果たすのが先か、
私の灯りが尽きるのが先かは私にもわからない。
どちらにしても、いつか私が
灯宮に還る日が来たときには──……
……お姉ちゃんに見送ってもらいたいな。
なんて、
いちばんのわがままはまだ言えずにいる。]
『 わたしも、世界が嫌いだわ 』
[ それが、彼女の答えだった。
私に、世界が好きかと問うということは、質問者は世界に対して何かを抱いているのではないか、と。
返ってきた答えは予想通り、と言えばそうなのだけど、驚いた気持ちを覚えたのも現実だった。
魂の管理者、人を守るために存在する“灯守り”。
私は、“灯守り”というものは、基本的には人間を慈しんでいるものであると思っていた。
しかし大寒の灯守りは、世界を嫌いだと言う。
私と同じ想い。世界を嫌いなまま、この地位に居る。
だからこそ、興味を持った。そして……共感も。 ]
[ ――灯守りになった当初、無気力な私に対し、職員は「灯守りを務めるつもりがないのならば、さっさと灯りを他に譲ればいい」という事を口にしていた。
私はそれに応じるどころか、返答をする事もしなかったのだけど、
そうすると、「先代はどうしてあれを後継に選んだのか」という話が聞こえてくるようになった。
彼は、立派な統治者であり、灯守りであった。それは未来永劫語られる事だろう。
……が、私の存在によって、彼の尊厳が危ぶまれている。それは、あってはならない事だと思った。
彼の願い、彼の尊厳、それを守るために、きちんと継がなくてはという思いはあった。
――けれど、私には出来なかった。
向いていないというのもあるけれど、どうしても、この世界を愛そうとすると吐き気を覚えてしまう心地がした。
それならば、他の人間に灯守りの位を譲るべきだった。
けれど、私はそれも出来なかった。
彼が私に託したものを、他の人に渡したくなかった。
彼が残してくれた想いを、中途半端に、自分に都合の良いように解釈しながら、私は今も、この地位にいる。
最初から、私はずっと彼のことばかりで、民の事など何も考えていなかった。
]
[ 『処暑の灯守り』が代々継ぐ能力『風星』。
先々代の処暑様は、人前での演説等以外では、一般市民の前に姿を見せる人ではなかった。
けれどその代わり、この能力で、人々を近いところで見守っていた、らしい。
先代の彼は、自らが人々の近い所へ行く人だったため、この能力は、先々代程は使ってはいなかったらしい。
とはいえ、彼の足が及ばないところや、目の届かないところまでも気遣うために、風を“目”としていたようだ。
……私はというと、灯守りになった当初は、領域の外へ出る事が出来なかった。
彼へと悪意を向けた世界。そんな悪意に私も殺されるのではないか、と怖かったからだ。
故に、人の手の入ったものも、長く口に出来なかった。
そのため『風星』で“外”を見て回るのが常だった訳だけれど。
彼の愛した処暑域。けれど、そんな彼を裏切った世界。
見れば見る程に、分からなくなってしまう。
この地は、この人間達は、守る価値があるのだろうか、と。
彼が命を賭してまで守るものであったのかと。
]
[ 降り募っていく不信感。
全他者に対しての嫌悪感。
故に私は、部下になった行政職員に対しても心を開くことが出来なかった。
それでも右も左も分からない状態であった頃は、職員の助けがなくてはならず、領域へ入る事は許可していた。
しかしあの事件――私の個人的な日記を勝手に持ち出されて以来、私は領域へも人を入れなくなった。
――やはり人間はどうしようもないのだと、私はその時点で心を閉ざしてしまったから。
蛍は当然置こうと思わなかった。
『処暑号の蛍』そのものを私は憎んでいて、到底受け入れられなかった。
だから私の領域へは、灯守り以外誰も入れないままに、
今日も私は世界との関わりを絶って、領域へと引きこもっている。 ]
ーー先代の記憶ーー
「ねー、ゆきちゃん。」
[旅に出て冬至の温泉に入っていた頃だっか、
またしばらく経って寄った時だったか。
何かを思いついたような、悪戯っ子のような顔で
一緒に入っている冬至の君へと顔を向けた。]
「月が綺麗だねー。」
[珍しいほどの満面の笑みで、彼女を見ながらそう宣う。
一瞬たりとも月なんか見ちゃいないくせに!]
[それがどういう意味だったのか、誰に訪ねても。
ーーもう、誰にも語れない。*]
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