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【人】 きっと教育係 キネレト[いつも仕立ての良い服を着ている。 暮らしぶりから見ても、お金に困ってはいないだろう。 親族の類には会ったことがない。 けれど家族仲が悪いという訳ではなさそうなのは 譲り受けたダイヤのネックレスが物語っている。 それでも君は悪夢に魘されていたらしい。 身体の具合がどこか悪いか、もしくは潜在的な不安があるか でなければ眠れなくはならないと思う。 だってほとんどの人類はお布団の虜だろう? 今は、少しはよく眠れるようになっただろうか。 まだ人知れず不安に襲われているんだろうか。 僕に抱えきれない程の愛情を注いでおきながら 受け取り方がわからない、なんてもし言われても 多分僕は驚かない。むしろ、 色々なことを納得してしまうような気がする。] (49) 2021/01/10(Sun) 0:11:43 |
【人】 きっと教育係 キネレト[物心付いた頃には教会で育てられていた僕は、 父の顔も母の顔も憶えていない。 普通の人間には有るまじき胸元の鱗のみが 僕の出自を物語っている。 決して裕福な暮らしとは言えなかったけれど、 神父様を始めとして教会の人々は 厳しくも温かいまなざしで僕の成長を見守ってくれた。 幼い頃は特に過保護に大切にされていたように思う。 頭は頻繁に撫で回されていたし それ以外の部分もよく撫で回されていた。 撫でるとご利益があるとか言い出したのは誰だったか。 次第に違和感を覚えて不快だと感じても、 それを口にしてしまえば大抵は罵倒や叱責を受けた。 心地良さそうに、無邪気に心から嬉しそうに 喜んで見せるのが『正解』なのだろう。 そう思って笑顔を作って見せた。 とても高価な品物を幾つも贈ろうとしてくれる人も、 毎日熱心に会いに来てくれる人も居た。 そんな人達でも僕が何の力もないただの子供と知れば 汚い言葉を吐いて僕の前から去っていった。 僕の力を欲しても、僕自身を欲する人は居ないのだと 悟ってしまえば悲しくなるから思考に蓋をした。] (50) 2021/01/10(Sun) 0:11:59 |
【人】 きっと教育係 キネレト[教育係になろうと思ったのは 元々は居場所を失わないでいる為だった。 酷く利己的で身勝手な理由が始まりだったけれど、 一人でも生きていけるまでに育ててくれた教会への恩返しと 僕より幼い孤児たちを護り育てることで 幼い頃の自分を救いたかった面もあったのかもしれない。 子供は弱くて脆くて危うい。 大人に護られるべき存在だ。 僕はもう大人だ。甘えるのではなくて、 甘やかす側の立場になりたい。 ただでさえ大人を信用出来なくなっている 小さな天使たちが、ここで安心して 自分たちの生き方を見つけていけるように。 『良いこと』と『悪いこと』の区別は付けさせても、 『正解』や『不正解』は気にしなくても良いように。 好ましいものは進んで望み、 好ましくないものははっきり断れるように。 それぞれが個性を伸ばして世界を広げられるように。 僕を撫でようとしてくれる心優しい子達も居る。 そういう子達からは、 ありがとう、と受け取ることにしている。 無垢な彼らの想いを否定したくはないからだ。 けれど自分が本当に子供のように扱われるとなると別だった。] (51) 2021/01/10(Sun) 0:12:27 |
【人】 きっと教育係 キネレト[撫でられたくないわけじゃない。 頭という人体の中で最も重要なパーツを 手放しに差し出せるような人には傍に居て欲しいし、 ここには君を殴る大人は居ないよ、と安心させようとして 教会ではせがまれるまま頻繁に頭を撫でている。 故に頭を撫でるという行為には どうしても子供扱いのイメージが付き纏う。 あのとき既に僕はきっと君に、子供ではなくて 対等な人間として接して欲しかった。 だから正解とか不正解とかの問題ではなくて、 気恥ずかしがったあれは単に心の底からの正直な欲求だ。 正解と思しき答えを選ぶならば 与えようとしてくれる君の厚意を 素直にただ喜んで受け取ることこそが、 きっと正解だったのだろうから。 どうして優しくしてもらえるのか、わからなかった。 見返りを求めての厚意なら何らか返したいと思って、 けれど何も自分に返せるものが思い付かなくて 無力感に打ちひしがれてしまった。 ──そんなときに、 貰うばかりで何も返せないことを嘆いた僕に そんな僕でも構わないのだと教えてくれたのは君だった。] (52) 2021/01/10(Sun) 0:13:13 |
【人】 きっと教育係 キネレト[僕が必死に貯めたお金で何か高価な品を買って 君に贈ったとしても、きっとそれは 君なら簡単に手に入れられてしまうようなものだ。 やたらと君は僕に宝石を贈りたがるが 素直に嬉しいと受け取った方が良いのかもしれないと時々思う。 断られるとさみしい。自分の立場ならそうだ。 宝石が欲しくて君を好きになったんじゃない、なんて 抗議したくなるのは僕の我儘なんだろう。 僕が好きで勝手に贈りたがるものに、 君は何かを返そうとなんてしなくていい。 見返りを求めて行動を起こすわけじゃないし、 ただ傍に居てくれるだけで僕は幸せに思っている。 自分はそう思うのに、貰う側の立場になると 君に何も返せていない自分が 不甲斐なく感じられてしまうから不思議な話だ。 どうやら君もそんな感じらしいと 最近になって漸く少しずつ理解し始めた。 本当に君はちょっと驚くくらい派手に取り零すが たぶん僕もちょっと引くくらい派手に取り零している。 君から貰った温かい気持ちを必死に返そうとして 返しきれずに押し潰されている気分なんだが、 まだまだ返したりないと僕は思っているのに 君にとっては多すぎたりするらしい。解せない。] (53) 2021/01/10(Sun) 0:13:51 |
【人】 きっと教育係 キネレト[ただ、君が喜ぶ顔が見たい。 君が与えてくれた想いに報いたい。 君は僕に何の見返りも求めないのだろうし 強いて言えば喜ぶ顔が見たいと思ってくれてるんだろう。 それでも何か、返したい。 一方通行なんてさみしいじゃないかそんなの。 どうして自分が好かれているのか 未だに解らないから猶更だ。 僕が君に惹かれて君を愛しているから、ならば 僕は何も無くとも君を想い続けるからご愁傷様だ。 誰よりも一番君を好きで居続ける自信だけはある。 それ以外に思い付くものが本当に何もない。 どうして僕が君を好きなのか、と尋ねられたなら 十秒くらいごとに「はいそこ!今のここ!すき」とか そんな感じで延々話が先に進まないことになるだろう。 最早理屈を超えてパッションで好きだから説明が難しい。] おや。君にそんな風に言われるとは光栄だなぁ。 憶えている単語を組み合わせたら たまたまそうなった、というだけで、 もっと上手い易しい表現があるのだろうけれどね。 言葉は世界を無限に広げられるものだから…… 彼らの視野も読書を通して広がると良いな、とは いつも思っているよ。 (54) 2021/01/10(Sun) 0:14:04 |
【人】 きっと教育係 キネレト……なんて語ると少しは教育係らしいかな? 実際は単に僕が言葉遊び好きなだけさ。 [知は力ともなるから、と言えば聞こえも良いが 図書館は一番身近でお金のかからない娯楽施設だ。 幅広く満遍なく揃えられた豊富な蔵書が、 余すことなく彼らの知識欲を満たしてくれる。 強いられるのではなく学ぶ楽しさを覚えた彼らが 自分から興味を持って通い詰めているだけで、 僕は文字を教える以外特に何もしていない。 教育係を自称しておきながら未だ未熟な僕は、 君と言葉や想いを交わすことで 沢山のことを学ばせてもらっている。 人を想う楽しさも難しさも、 君を愛さなければきっと知らないままだった。 ……少しずつではあるし上手くもないけれど 受け取れるようにもなってきたと思う。 元々、君のプライドを傷付けたいわけではないし 君の気持ちを否定したいわけでもない。 自分が君の愛を受けるに足る人間であるのか それだけが懸念だったが、 自己肯定感のなさは君が真摯に愛情を注いでくれることで 徐々に解消され始めている。] (55) 2021/01/10(Sun) 0:14:54 |
【人】 きっと教育係 キネレト[だから、そろそろ。 今日は。今日こそは。 こうして無防備な姿を見せられるくらいに僕は 君に心を許して好きで居るんだと伝われと…… 貞操観念ゆるゆるみたいに思われるならば心外だが 必要以上に警戒するのは違うだろう、もう夫婦なのだし。 そう思っての行動も、ただ単に 無防備なだけだと思われていそうな気はする。 お風呂に入れる子供たちの前で素っ裸で居るのも、 君の反応を見て反省してから止めた。 水着を着る分自分を洗う時間が無いので シャワーが活躍するというわけだ。] …………? 君こそ自分の魅力をもっと自覚した方がいいよ。 僕に魅力があるとすれば、 それは君だけが知っていてくれたらいい。 [なんだかまだ娘のように見られている気がする。 父親的な慈愛のまなざしを感じる。 そんな視線を向けさせてしまう原因は自分にあるのだろう。 もう少し嫁もしくは妻もしくは伴侶として見て欲しい、 そう訴えれば益々子供っぽく見える気がして口を噤んだ。] (56) 2021/01/10(Sun) 0:15:14 |
【人】 きっと教育係 キネレト[あひるちゃん雪だるま化計画が彼の頭の中で 密かに計画されていたことには少しも気付いていない。 そうそのとおり。君の作ったものを僕は壊せない。 けれどもあひるちゃんはあひるちゃんで大切なので 救出したい衝動との狭間で揺れるかもしれない。 君は気付いていないのかもしれないが、 僕は本来依存心が高い。 あひるちゃんや虎ちゃんぬいぐるみを愛でることで 君一人に圧し掛からせてしまいそうな 面倒くさい感情を分散しているのだ。 かかり湯は今度子供たちにもちゃんと教えよう。 案外僕よりも彼らの方が、 きちんと意味を理解しているかもしれないね。] 君となら、雪かきも楽しいと思うけれどね。 後で時間があったら作ってみようか。雪だるま。 [ きっとそんな時間の余裕はないのだけれど 雪だるまを作るよりはかまくらを作って、 中で君とゆっくり寛いでみたいなんて夢を見る。 ああ、でも完成する頃には二人して力尽きてそうだな。 中に入った瞬間爆睡してしまって 起きたら雪に埋もれていた、なんてことになりかねない。] (57) 2021/01/10(Sun) 0:16:05 |
【人】 きっと教育係 キネレト[この場に子供たちが居たらそうは行かない。 やれ雪合戦やれ雪だるまと連れ回されながら 滑って怪我をしてしまわないように、 知らぬ間に体を冷やしすぎてしまわないように 目を配りながら全力で相手をせねばならない。 ……もしそんな場にも君が来てくれたなら。 僕だけでは見落としてしまう場面まで、 君なら見守っていてくれるんだろう。] (58) 2021/01/10(Sun) 0:16:15 |
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