人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:

全て表示


【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>103

頬骨に堅いフレームが擦り合わされる感覚があった。
既に大分張られて腫れた頬に、今までの痛みを再生するように神経が痛んだ。
軽く咳き込んで血塊を吐き出す。喘鳴は荒れたものの、悲鳴はあげなかった。
衝撃に流される前に向こうを向いて金属製の扉に叩きつけられた頭は、
まず視線を貴方へと向けて、それを追うように頭そのものが前を向く。

「他人行儀に呼ばれる方が、お前はよっぽど好みじゃないだろう」

立ち上がろうともしなければ、反撃の姿勢も見せない。
ただ、大混乱のさなかにある町工場の中の景色を背景に見上げて、
叩きつけられた言葉と態度を映画のスクリーンのように眺めているだけだ。
それで満足するのなら、それで構わないだろう。
けれどもそれで腹の虫が治まらないのなら、それはきっと不満だ、そうだろう。

「一方的に殴りつけて気が済むんだったらこのまま付き合ってやる。
 で? それでお前は構わないのか?」

#BlackAndWhiteMovie
(104) 2023/10/01(Sun) 0:02:08
丁度よかったな〜に、うん〜と返して笑う声は陽気なものだ、訪れた平和を享受するみたいに。
飲み物についてはミルクがあればそれをねだり、横並びになれると分かればソファにぽすんと座る。
そうしてマリトッツォにはまだ指先を伸ばさず、返答を待って、待って。

「……そっか」

内容は予期していたものだから驚きはなく、答え合わせが済んだだけに違いない。
でも貴方の口から直接伝えてもらえたことに何よりもの意味がある。

「そりゃ〜中々言えないだろ、オレが同じ立場でもそうだよ。
 怖いの気にしてくれてありがとう、隠さず言ってくれたのも」

ふっと目を細めると其方へと少し身体を傾けた。
クッションとソファでは高低差があるだろうからバランスには気を付けつつ、とはいえ身長差を考えれば丁度いいぐらいなのかもしれない。
頬に当たるのはあの日とおんなじ、柔らかなひだまり色。

「……大丈夫、怖くなんかない。
 だから安心してね、変わらないから」

……で。
結局それだけじゃ足りなかったから、両腕を伸ばした。
貴方の頭を抱え込んで、それから左手でやさしく髪を撫でる。
抱いているこの思いがちゃんと真っ直ぐ届くよう。

「きれいじゃなくても、ろーにいがだいすき」

違法頼んだのオレだしな、とも、笑声を傍で揺らしながら。

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>105
上体さえ浮き上がらせられたなら、それに追従しないわけでもなかった。
何もかもに無気力であるのとは異なる、他から見て違いはわからずとも。
打撲程度の損耗はあるものの無事な方の腕で体を支えて立ち上がる。
片足は引きずり気味ではあるものの、体重を支えられないわけではない。

点々と血が尾を引く足跡を残しながら、助手席の方へと歩いていく。
時間が無いのは確かだ。そして目の前の相手を見れば、互いにそうなのも確かだった。
皮肉るような物言いはされど相手の提案を蹴って立ち止まったりするものではない。
そればっかりが事実であって、心中の内を饒舌に語ったりはしない。

「話くらいは聞いていけよ。何も聞きたくないわけじゃあないだろ。
 もしそれくらい呆れてるなら、お前は此処にわざわざ来ない」

決めつけるような物言いのどれだけが真を得ているのだろう。
長い月日の中で互いがどういう人間か霞んだか、或いは。
少なくとも、聞けと言うほど自分から話したりというのも、男はやはりしなかった。

「……お前の運転する車に乗るのは、そういや初めてだったかな」

#BlackAndWhiteMovie
(106) 2023/10/01(Sun) 0:26:40

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>107

その日の空は晴れていた。
緞帳を割るように光は破砕された開口部を割って差し込む。
パレードが幕を開けた頃に比べれば随分と光は色を帯びていて、
道向こうの目的地であるように主張する夕の色がやけに視界に眩しかった。
僅かな隙間を縫って吹き抜ける風が傷をひりひりと傷ませる。

「お前をパトロールカーに乗せてやることはしょっちゅうだったけれどな。
 性懲りも無い暴れ方ばかりするもんだから、ガソリン代を請求してやりたかったくらいだ」

まだお互いが若く未熟で、ちょうど今の夕焼けのように昼と夜の交わりとの関わり合いを、
どんなふうに図るべきなのか探るようにしていた頃の話だ。
今、或いはこうなる直前よりもずっと上手く切り抜ける方法なんざ知らなくて、
どちらも自分の上、社会だとかそういうものに叱られため息を吐かれていた、
あの頃の夕日が一番眩しかった。

「お前は引き継ぎは終えてきたのか。どうせろくに話もしてないんだろう。
 口を開かないことばかり得意になっちまったもんだな」

#BlackAndWhiteMovie
(108) 2023/10/01(Sun) 0:59:55

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>109

ゆっくりとカーブを曲がり、建物の間から遠くに海が見える。夕暮れの色に照らされた美しい海。
いつもだったらそれを楽しむ余裕があったかもしれないし、
その向こうにあるのだろう本土の岸辺を想像することもあるのかもしれない。
街の景色が遠ざかっていき、見えるものの色数ばかりが少なくなっていく。
そう遠くもないうちに、この車は港へと着くのだろう。

「俺の部下に引き継ぎなんざ必要ないさ。普段からなんでも教えてやっている。
 お前と違って上に立つものも一人きりてなわけじゃない……うまくやるだろうさ」

果たして当人らにとって適切な引き継ぎがあったかなんて想像はしない。
少なくとも今から間に合わせることなんてのはお互いに出来やしないのだから、
彼らの身になって考えるなんてことに意味があるわけではない。

痛んでいない右腕を動かす。ポケットから抜き取られたのは一本の葉巻だ。
湿気の管理もされていなければ剥き身のままほっとかれてラッパーに皺が寄っている。
あの日、餞別として貴方から強奪したものだ。
それが見えるように片手で掲げてから口に咥える。

「……火貸してくれ。シガーライターくらいあるだろ、この車」

#BlackAndWhiteMovie
(110) 2023/10/01(Sun) 1:29:23

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>111

「っ、はははは。
 物知らずが店一つ任されるくらいだ、それくらい教えられてりゃ問題ないだろうよ」

空笑いが返る。くるくると葉巻を回してポケットへとしまいこんだ。
張り合って上げる大げさな声も、突き放すような物言いも、やけに満足そうに耳を傾ける。
背中の向こう、振り返らなければわからない街の様子などわからない。
残された彼らがどうしているかなど知る術もなく、知らせる者もいない。
それでよかった。

スピードを上げる車とは裏腹に、悠揚と構えて眼の前を見ていた。
話す相手に目を向けるのでもなく、ただ紫色を帯びていくオレンジを見ていた。
たかだかの干渉に集約してしまうには、男のほうは、今にすっかり満足していた。

車が停まれば扉を開けて助手席から外へ逃れ出る。
景色を見に来た、だなんて。そんなことは欠片も思っちゃいない。
それでも求めるものを提示されるまでは、開け放った扉に手を掛けて、
沈みゆく夕日が海を照らしているのばかりを見ていた。

体重を他に預けて構える、その片目は失われていた。
全身打撲の状態であちこちに殴打の痕があり、片足は半ば引きずっていた。
外套の内側からは血が流れ出す。左肩は粉砕され、脇腹はじんわりと血を吹いていた。
一番顕著であるのは右胸の傷で、すっかり黒くなった血の跡を染めるように新たな血が流れる。
今は空にされた助手席のシートが、凄惨さを物語っていた。

#BlackAndWhiteMovie
(112) 2023/10/01(Sun) 2:16:30
「お前の事こっちのゴタゴタに巻き込みたくないし」
「どうせだったら
マトモ
な部分だけ見て欲しくて……」

貴方をそういう世界に触れさせたくはなかった。
無かったけれど、貴方がそうやって許すから、
正直に言おうと思えたのだ。
それでもこれは言い辛そうにしていたけれど。

「え」

──伸ばされる両腕に、ぽんと抱き寄せられる。
抱えられた頭を、自分よりも小さな手が撫でている。

「あ」「…………」「フ、フレッド」
「オレ、」

これは途端に驚いた顔をして、何回も瞬きをし。
ふと弱弱しく名前を呼んで、貴方の胸に頭を押し付ける。
弟に甘えるなんて思っても無かったけれど。

「……きらわれなくてよかった」「安心した……」
「…………あは。オレもお前の事は好きだよ」

今は抱き締め返すよりも、この時間を享受していたかった。
穏やかに目を閉じて、ぽつりと「よかった」とまた言って。

「お前……これからどーすんの」
「他に手伝う事無いの。オレやるから……」

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>113

懐からナイフの一本を取り出す。手入れはされているが汚れているそれは、
おそらく手癖も悪く先の町工場内部から拾ってきたものなんだろう。
ひしゃげた葉巻を乱暴にカットすると、煙草のボタンを押して起動させる。
幸いシガーソケットに歪みは無かった。ライターを取り出して赤熱面に押し当てるも、
直火でないから火がついて炙られるまでにはさんざ苦労をした。

「……初めはお前は随分大人びちまったから、裏切られたと知ったら切り捨てて、
 あとはそれきり、自分の部下かなにかにでも始末を任せるものかと思っていたよ」

保管状況も火付けも何もかも悪い葉巻は、パルタガスの良さを台無しにしている。
しばし車に体重を預けながら、夕日が沈んでいくのを見ていた。
こんなところまで追ってくるのがいたとして、アジトやあちこちが散々な今、
痕跡を追ってやってくるとしたって日が昇ってからだろう――唯唯彼を追うふたりは別として。

「何かに付けて突っかかってくるようなガキの時分じゃなきゃ、
 自分の手でケリつけようなんざしないだろうと思っていた」

「けれど、お前は追ってきた」

喉の奥から喘鳴混じりの笑い声を吐く。
車を挟んで並ぶ男の顔を見て、目を細めて笑っていた。
遠いものになってしまった景色を眺めるような、懐かしむような目。
ころりと首を傾げて、可笑しそうに、いつかのように頬を緩める。

自分を殺す凶器を選べるなら、お前がいいとずっと思っていたよ


#BlackAndWhiteMovie
(114) 2023/10/01(Sun) 9:11:51

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>115

「俺は変わっちゃいねえよ。周りが自分よりガキばっかりになっただけだ。
 だから面倒を見てやらなきゃいけない数が増えた、それだけの違いしかない」

自分が、自分たちが若い頃も、自分より年少の人間は面倒を見てやった筈だ。
その数が増えただけ。目下のように振る舞う機会なぞありはしない。
それでも、根底にあるものは変わらないままだ。

哄笑を聞いて、ひとたび眉を顰めて。それから、また仕方なさそうに口角を吊り上げた。
次第にそれは同じような高笑いに変わって、港にどうしようもない馬鹿笑いが響いた。
笑えば傷がずきりと痛む。体の震えに伴って新しく血が吹き出した。
そんな無粋の一つ一つが、奇妙な高揚の後ろに押し流されていく。
頭の中が晴れていくような清々しい興奮が、片方だけの瞳を爛々と輝かせた。

「――葉巻はゆっくり吸うもんだろ、小僧。
 ……だから此れはお前が台無しにしたことにしてやる」

親指が下から葉巻の胴を弾いた。燻った珈琲やナッツのような香りが舞う。
手元から離れた一本がくるくると回転しながら地面に落ちていき――

トッ、と小さな音を立てて路面にぶつかる。
それを合図とするように、車に体重を殆ど預けて予備動作を消して、
右足を大きく振り上げて蹴り上げた。距離が足りれば体の中央、
そうでなくとも当たれば顎は刈れる。

#BlackAndWhiteMovie
(116) 2023/10/01(Sun) 10:14:07

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>117

躱された脚を引く力に任せて上体を引く。
大仰な動きは、それが本命でないのも相俟って適切な間合いで避けられた。
問題はその次だ。

「っ、」

片目を庇うように瞑る。視界は一時的に制限されはしたものの、恒久的にそうなるよりはいい。
避けようもない攻撃は顔面に降り注ぎ、交通事故にでもあったように傷に金属片が食い込んだ。
見えないものを、やり過ごしきったと判断するのは難しい。
目を開くことが出来るのはもう一手先だ、故に。
見えずとも当たることが予測できるものを狙わなければならない。

流れるように殴りつけにかかったのは足刀、過ぎ去った右足の膝裏だ。
勢い、空中から地面に引きずり下ろすようにしながら自身も背中を丸め、
頭上からの奇襲が追撃されることを防いだ。
握り込めるならばそのまま膝裏の布を引っ掴めたならいい。
そうしたなら落下する体の支点は言いようもなくめちゃくちゃになる。

#BlackAndWhiteMovie
(118) 2023/10/01(Sun) 10:39:48

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>119

引っ掴んで頭を地面に叩きつけさせてやるには至らず、指はぱっと離される。
その代わり、指が潰れるほどではなかったのが幸いだ。
相手の不利を狙って畳み掛けるのが承知の人間が着地を見守っているか。
そんな筈はない。地面に落ちた雁を狙わない銃口は無い。

追う脚が一歩を大きく切り詰める。
互いに考えることは同じらしかった。
息をする間も与えまいと、両拳を使って顎下から肩、肋の合わせ、
そうでなければそれこそ向かってくる拳に平然と合わせて殴打を叩き込む。
それでもどうしたって肩の潰れた左腕は動きも鈍く痛みも走る。
右拳のように、相手の卑怯をお構い無しに血を上げながら迎え打つなんてのは出来ない。
そうしている間にも相手の左拳に挟んだ鈍い刃は己の拳や顔面を裂いていた。
新しく出来た傷口にまで、先に降り注がれたアルミ片が皮膚から剥がれ落ちて潜り込む。
いずれは勢いを失わざるを得ないのは必至だった。

だからそれを補うものが必要だ。
シガーカッター代わりのナイフはまだ左手にぶら下げられている。
勢いの無い左拳は代わりに、右拳に紛れて相手の上体を裂きに掛かる。
別段手段を選ばないのはそちらばかりでもない。

そして連撃の迫間、左手が引きに入った瞬間を見計らうと、
点対称の右足は視界の外より、相手の左足の肘を踏み付けにするように蹴り込んだ。
次に何が来るか予測するように、僅かに長身の背が曲がる。

#BlackAndWhiteMovie
(120) 2023/10/01(Sun) 11:23:16
貴方が見せたいものがあるのならそれだけを見続けているのも良かっただろうか。
だけれどだいすきだと思うからこそ、全部知っていたいとも思ってしまう。
何かあったときも足元を揺らがせることなく、同じ言葉を紡げるように。

弱弱しく名を呼ぶ声に戸惑っているなと感じながら。
それでも嫌がられているわけではないから、抱きしめたままだ。

「……うれし」

貴方を甘やかしたいし、こうすることで自分だって甘えている。
柔らかな髪を幾度も撫でてはここに在る愛情を伝えるように。

「他はぁ……ええっとさ、街出ようと思ってて。
 オレ、ニーノって子の代わりしてただけなんだけど、死んだことになったから。
 死人歩いてちゃだめでしょ、だからそう……出るんだけど……」

「……それまでの家がないです。
 野宿でもしようと思ったんだけど」

お金はたくさんあるとはいえ有限だ。
節約するべきところは節約しようかと考えていたが。
抱きしめていた腕を少し緩めて、そぅと貴方の瞳を見つめた。

「街出る準備できるまで……ろーにいの家に泊まっちゃダメ?」

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>121

眼前を血しぶきが舞う。鈍くえぐれた傷口は鮮やかな肉を垣間見せ、直に赤を滲ませた。
段々と温む拳と襟首がその凄惨さと、負ったダメージを物語っていた。
休みの一つも挟まない連打は徐々に勢いは鈍っていく、故に仕切り直しの蹴りを放ったのだ。
持っていけなかったのなら足は弾むように引き戻されて地面を叩く。
その勢いのままに体は沈み込み、肩より下まで降りた。
幸いであったか不幸であったか、予測による行動が拳の当たる先を決めた。

「ぐ、」

ジャブは傷ついた右目の端を掠めた――正確には掠めただけで十分だった。
瞼の横手を叩いた拳は元よりあった傷を広げ、こめかみまで薄い肉を切開した。
潰れて瞼の中に溜まっていた、眼球だったのだろうものがどろりと頬を落ちる。

沈んだ体はナイフを握った左手を回すように後方まで引き絞らせる。
胴を狙うか、脚を狙うか。選んだのはそれ以外だった。
顎下を見上げられるくらいまで沈み込んだ姿勢から焦点を合わせる。
アッパーカットの要領で、逆手に構えたナイフを腹部から頭部まで駆け上がるように振り上げた。
深く当たれば骨に当たって止まる。浅ければ傷は広がる。
逆手に持ったのは射程を腕の長さより外へと伸ばすためだ。

今の状況において表情を緩めていられるほど余裕があるわけではない、というのは、
筋肉を緊張させておく必要があるからだ。そうでなきゃ、笑っていた。
これが楽しくない筈がない。

#BlackAndWhiteMovie
(122) 2023/10/01(Sun) 12:10:40

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>123

ぎ、と歯ぎしりをする音が鳴る。肩を砕かれている左腕を固められれば、
どうしたって押し引きに依る力の均衡は負傷した部位に集められる。
呼吸が乱されれば攻防のリズムも自然と崩れる。

掴まれた腕を引いて振りほどこうとして、軸足に体重を掛けた、
その瞬間に破裂音じみたものが響いた。
体重の乗った一撃は頬を殴りつけ、ぐらりと首から上を揺らした。
まともに食らえば隙を生じる。ふ、と体から力が一瞬抜けた。
それしきで降参なんてつもりはないが、一手分の空隙を晒すには十分だった。

密着した体の間で、からんとナイフが地面に落ちる。
一瞬吹き飛んだ頭の中身を引き戻して攻め手を考えるにしたって、
どうしたところで相手の次撃が先になる。

#BlackAndWhiteMovie
(124) 2023/10/01(Sun) 12:43:24

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>125

数度に渡り拳が頭部を殴りつける。頭を上げはしない。
上げられないのは顎を打たれるのを厭んで、頭蓋の丸みで受けているからだ。
それだって苦し紛れのやり過ごしであって、ガードしたほうが良いのは確かだ。
顎を引き、狭い視界で相手の拳の動きを潜り込むように見遣る。
それでもまだ尚眼光は諦念を宿しては居なかった。
いつも日常を過ごし、他人と過ごしている時よりもよほど活き活きと殺意に燃えていた。

「っ、づきは」

攻め手を変えた動きを、見ていた。
ふらつく頭をどうにか押し戻し、屈めた姿勢は蹴り"に"立ち向かった。
傷ついた左手が脛を掌底で受け、浮き上がらせた膝の下に肩を半ば差し込む。
重心を上にずらさせながらに踏み込んだ体は右肘を前に出して滑空し、
全体重を肩から肘の上腕筋に乗せて鳩尾めがけて倒れ込むような、
頭上まで持ち上げない形のパワーボムだ。

「地獄か、――」

日の頂点の沈みつつある、海の音が近かった。
踏みとどまることが叶わなければ互いの体は、海の中へと落ちる。

#BlackAndWhiteMovie
(126) 2023/10/01(Sun) 18:47:05
「え。街出んの? 近場?
 てか今そんな事になってんの? 難儀だな……。
 遠かったらやだな……会いに行けなくなる」

街を離れる事については、素直に寂しそうな顔をした。
きっとパン屋で会える事も今よりずっと少なくなるかもしれない。
死人が歩いていちゃあいけない理屈は分かっているけれど。

腕が緩まれば距離は少しだけ離れる。
何を言うつもりなのだろうかと見上げればきっと目が合って。

「………………」
「なんだ。オレが断ると思ってんの?」

にま、と笑った。
そういう事ならお安い御用だ。むしろ嬉しくもある。
いつか話していたお泊り会が、
ちょっと長めに開催されるようなもの。
ロメオはそのまま身体を起こして、今度は貴方に手を伸ばす。
叶うならそのまま、むぎゅっと抱きしめて。

「いいよ。泊まりなよ、オレの家は自由に使いな。
 鍵も渡しとくかな……あ、落とすなよ。色んな意味で危ない」
「あと夜帰り遅かったりとか……他の人が来ても良いタイプ?
 多分たまに来たりすると思うから……」

そうやって撫でくりまわしながら、注意事項の確認。

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>127

血の絡んだ髪が引きちぎられて頭皮が飛び、切れた瞼の下からは白い骨が見える。
鼻骨は折れて元の面影を残す面は少しずつ削られて尚、スカイブルーが貴方を見ていた。
しっかり組み付き切った膝は肩でホールドしたまま。
脚が地面を蹴る。二人分の重さが急に重力を失ったようにふっと軽くなって、
きらきらと海面の光る水の上へと投げ出された。

それでも尚視界に迫る膝を見て咄嗟に出来たことと言ったら。
勢いをつけた殴打は手段としては取れない。
基点となっている肘をぐるりと回して、指が伸べられたのは、
包帯で塞がれた、傷ついた眼窩の内側だった。

どっちが有効打であったのかが判明するよりも早くに、
スローモーションで動く秋の海の冷たさが迫ってきていた。

#BlackAndWhiteMovie

(128) 2023/10/01(Sun) 19:11:27

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>127

――続きは。

「海の底で、やるか」

これで決着がついたとは思わない。相打ちだとも思わない。
だったらこれから先の予定なんてのも決まっている。
それを未だ楽しみだと思えることにか、まだ互いを付き合わせていけることにか。
着水の瞬間、ようやく頬を緩めた。

果ては地獄の底でさえあっても。

#BlackAndWhiteMovie
(129) 2023/10/01(Sun) 19:11:38




    
「――ねえ。
     三日月島の夕日が見たいんだ。
     連れて行ってよ。

     …珈琲の恩が、あるでしょう?」




#AlisonWaterston






「悪い。
 一人で見に行ってくれ」



#AlisonWaterston





くそヴィト・・・・・に、
 もう一発くれてやる」



#AlisonWaterston


「近場……かなあ。
 まだ決めてない、とりあえず知り合いあんまりいないところ〜って……」

貴方があんまりにも素直に寂しそうな顔をしたので。
寂しくさせるのが自分だってわかってるのに、なんだか笑ってしまった。
嬉しかったのだ、そうやって求めてもらえることが。
なのでもう一度、いや二度ぐらい、やさしく髪を撫でてから。
にま、向けられた笑みに更にこちらも笑みを深めていれば……むぎゅっと。

「ゎ」

貴方に抱きしめられると本当にいつもすっぽり収まってしまう。
あの牢の内に居たときからそうしてほしかったと、
望む心が満たされていくのを感じて、しあわせだ、と思った。

「へへ……
 ろーにいならいいよって言ってくれると思ってた」
「はぁい、鍵は失くしません、大事にするし」
「帰り遅くなってもいいよ。
 オレ寝てておかえり言えないかもだけど……」
「誰か来るのも大丈夫、だめなときは外に居るし。
 そうじゃなかったら家の中で大人しくもできます」

注意事項にはきちんと全てに返事を返す。
だって大事なことなんだろう、そして全部大丈夫。
ぎゅっと抱きしめながらも顔だけは上げて、貴方を見上げて。

「……だから、しばらくよろしくね?ろーにい」

無職なので家事はしまーす、と。最後に付け足して笑っていた。

「……そっか。そっかあ、ならいいや。
 オレが会いに行ける所ならどこでも……
 あ。治安いい所にしろよ」

オレマフィアが言う事じゃねえけど!なんて付け足した。
髪を撫でられている間は、やっぱり目を閉じて嬉しそうに。
せっかく兄弟が出来たってのに、すぐにお別れなんて嫌だったのだ。会いに行けるなら、顔を見に行けるなら、それならいいかな。

包むようなハグはちょっと力が強くて、
それでも苦しくはないくらい。温かい体温は変わらないまま。

「言うよ。相手がお前なら猶更」
「帰ったら猫とお前が居るのか……嬉しいな。
 ホントに家族みたいだな。アハハ……」

想像をしたらどうしようもなく嬉しくなった。
貴方が旅立つ時に離れ難くなっていたらどうしようか。
『フレッド』としての新たな再出発を、
自分は笑顔で見送っていたいのだ。

「……うん。こちらこそよろしく、フレッド」

頼みまーす、と笑って返して、背に回した腕を離す。
こうして一緒に居る時間が限られているのなら、
それまではこうやって家族らしくしていよう。
本当の家族じゃないけれど、本当の家族みたいに。


「……マリトッツォ溶けるわ」

食おうぜ、と促して朝食と称した甘味を手に取る。
まずはゆっくりお互い休もう。
これから文字通りきっと、新しい一日が始まるんだから。

ちょっと力の強いハグは苦しさを教えるものではなくて、
貴方からの愛情を教えてくれるものだ。
兄弟としてのこれからは始まったばっかりだったのに、
すぐに遠くなってしまうことはこちらも寂しいけれども。

「そうだよ、ろーにいが帰ってきたらにゃんことオレがいる。
 へへ……競おうかな、この子たちと。
 どっちが早く玄関までろーにいを出迎えられるか……」

それでも、それまでの少しの間だけでも。
貴方に家族の温もりを与えられるのなら。
"オレでいいの"、と。
零された小さな声を未だ、覚えているから。


「…………────」

そうして腕が離れた頃。
そっと伝えられる感謝には目を瞠り。
呆けている間にマリトッツォを手に取った貴方を見て、眦を下げる。
すこしだけ、視界が滲むのを感じながら。

「…………それなら、オレだって」


[1/3]

さて、翌日。
正式な手続きを踏まず脱獄した女にどれほどの時間があるだろう。
少なくとも今ここで、自宅のアパルトメントへと立ち寄るような女ではなかった。

「…ただいまあ」

だから、最後に立ち寄ったのはそのホテルだった。
…変わらず、照明はついたまま。誰もいない室内に声をかける。
そうして真っ先にデスクへと向かい。
そこにある『大切なもの』たちを見つめ、ひとつひとつを回収してく。
冷蔵庫から、チョコレートも取り出した。

片腕にそれら『大切なもの』たちを抱いて。
そのまま振り返り、部屋の隅を向く。
ちょこんと最後にひとつ残されたスーツケース。
片腕で、よいしょ。これもそこそこ重いから、怪我した腕ではひと苦労。

…この中身は、どうしようか。
それだけは、まだ決められそうにない。
自分ひとりの問題ではないからかもしれない。
でも、いづれは決める心算ではあった。


「……溶けるのは、困る〜」

そうしてぐしと少し乱暴に目元を拭ってから、
己もまた同じように甘味を手に取る。
食べ終わったら何をしようか。
夜になっても貴方の隣に居られるのを思いながら。
久々に口に入れた甘味は幸福と呼ぶのが相応しい味がした。

──『ねえ、戸籍ってろーにいのと同じにできないのかなあ』
そうして食べている最中、そんなことを零していただろう。
難しかったら大丈夫、あんまりよくわかってないから、と添えてもいたが。

──『そうしたら、ほんとの家族になれるでしょ』
すれば離れたとして、貴方の寂しさも少しは紛れるかなって。
子どものような発想を声に載せて。

──『そうじゃなくても、ほんとの家族だって思ってるけどね』
貴方の弟は甘えただから、変わらずぎゅっと肩を寄せて笑っていた。


[3/3]

「常連さんには、結局なれませんでしたしねえ」

そうひとりでに、からころ笑う。
喜ぶべきか悲しむべきか微妙なところだ。
女はそもそもコーヒーという飲み物の味が好きではなかった。
今まで一度も、誰にも、そのことを口にしなかっただけで。

荷物に両腕を抱えて、女はホテルを後にする。
もうここを訪れることもないだろう。そうやって初めて照明を消した。