人狼物語 三日月国


147 【ペアソロRP】万緑のみぎり【R18G】

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[これで好きになってもらうって
まだまだ青い自分で、果たしてどこまで食い付けるか。道は長いと考え、滝に打たれ修行する事を真剣に悩むほど、冷水に浸り。それから、冷えた身体では彼女を心配させるかも。と気づき、慌てて温水で洗えば、戻った頃に食事の準備は出来ているか。

――服、向こうにおきっぱなしだった。と
彼女と同様バスタオルで現れることになったのは、お茶目。というより、うっかりで]


 すみません、ナナミさん。
 服そっちに置き忘れちゃって


[見苦しい姿を見せました。と
反省の顏で現れただろう*]

[ 「満たされた」って性欲以外の何が。
 思ったけど声に出さなかったのは
 何となくその感覚がわかる気がしたからだ。
 「何が」と逆に尋ねられても答えられないけれど
 何かが漸く満たされた気がして
 満たされた気がすることで足りなかったことを知る。
 何かが。いやわかんないけど。

 普段なら終わった後は暫くもう放っておいて欲しくなるのに
 わけのわからない多幸感に満ちていて
 アナルセックスがすごいのか
 好きな人との結ばれることがすごいのか
 後者だったら美談なんだろうと思うから
 後者と思っておくのがよさそうだ。

 この充足感が新たな性癖の扉を開いた所為じゃ
 ないと思いたいなんて考えて、ふと
 もしそうだったとしても許すのは彼だけなのだから
 結局美談と思っておいても大差はないと気付、

 ……いたあたりでアナルセックスに思いを馳せていた
 なかなかに酷い思考を引き戻される。
 いやいや尻のことばっか考えても仕方ないじゃん?
 そのくらいの衝撃だったわけですし。 ]

[ 先に名前で呼んだのは自分のくせに
 俺が呼ぶのは引っかかるらしい。
 なんとなく浮かんだ不満のまま
 なんでだよって突っかかろうとした出鼻は
 噛み締めるみたいに名を呼ぶ声にへし折られた。

 そんな声で呼ばれてしまえば
 些細なことはどうでも良くなってしまった。 ]


 やだったら……、せんせぇって呼び続けるけど。
 けど……でも、……いいじゃんべつに
 ふたりきりのときくらいは、誠丞さんて呼んでも。

 ずっと、『先生』以外の関係になって欲しかったんだ。
 こんなことまでしたんだし、
 なってくれるんでしょ?せぇーんせ。


[ 見返りを寄越せだなんてなかなか性格の悪い台詞を
 どうせ叶えてくれるだろうと信じきった甘えた態度で吐く。

 何に、とははっきりと名言しなかった。
 何になって欲しいのか自分でもよくわからなくて。 ]

[ 途中で一度手洗いに起きた。
 その時に彼をベッドに縛り付けてやろうかと思った。

 転院させられたとは聞いたが
 現状どういう状況なのかわからないなりに
 彼をあの病院に戻れるよう何か手伝えないかと
 思っていた気持ちに嘘はない。
 けれど。それ以上に。

 気付いてしまった。自分の気持ちに。
 彼をここから一歩たりとも外に出したくない。
 一番になりたかった。けれどそれだけじゃ満足できなくて
 二番以下も誰にも譲りたくなかった。

 このまま一緒に死んで今を永遠にできたらどんなに良いかと
 一瞬過ぎった甘美な妄想に囚われ
 彼の無防備な首筋に指が絡むより前に
 もっと強欲な自分が顔を出したから、何もしなかった。

 俺しかいないから俺が唯一なんじゃなく
 他にもいるのに俺を選ぶくらいじゃないと
 きっと俺は満足できそうにない、と。 ]

[ となりで身じろぐ気配で覚醒したふりをして
 むずがるような音で小さく唸って寝ぼけたふりをして
 隣の彼に寄り添って、擦り寄った。

 が、特に効果はなかった。
 可愛いって言ったから自分なりに
 めいっぱい媚びてみたつもりなんだが?
 満足するための方向性がわからない。

 シーツを掛けられ離れて行くから
 仕方なく離れて行く背を見送る。
 綺麗なままの背中を見つめて
 背中に爪あとでも付けてやれば良かったと思った。 ]


 ………どこいくの?


[ そんな無防備な格好のままどこかに出かけやしないだろう。
 けれどそのままシャワーを浴びて着替えた後なら?
 どこかへ行ってしまうのだろうか。俺を置いて。
 俺の知らない時間にどこで誰と過ごすのかと
 考えただけで頭がどうにかなりそうだ。

 不安に駆られ咄嗟に飛び起き声をかければ
 置いていかないでと嘆く子供みたいな怯えた声になった。
 けれど、最中に散々騒いでいたおかげで
 久々に発した声は少々ざらついてしまっていて
 不自然さは、掠れた声に霞んでしまったかもしれない。* ]

 綺麗に落としてくれてありがとね。


[彼が洗ったシーツ渡してくれたので、それを受け取って。
バスタオル一枚の自分を気遣ったのか、彼の目が自分を避けていく。
 そのまま彼を浴室に見送れば、今度は髪を軽くドライヤーで乾かし、バスタオルから女性らしくも清楚なワンピースに着替え、エプロンを上に着ける。
フルメイクする余裕も時間もないから、軽く目元と唇だけメイクして。
 急いで身支度を済ませたから、まだ彼はシャワーを浴びているようだ。

 サンドイッチ用のパンをホットサンドメーカーに挟んで焼いている間に、ビーフシチューを温めなおす。
タルタルステーキにはサワークリームを添えて配膳し、二人分のカトラリーを置いておいて。
アップルパイは後でアイスクリームをのせてもってこようか。
結構すんなりと用意が済んでほっとした。

 ついでに洗濯機に彼が洗ってくれたシーツを放り込んだり、新しいシーツを敷いたりしてして、情事の痕跡が部屋に残らないようにもできただろう。

彼が持ってきてくれたワインの栓をもう開けようかどうか悩んでいたら、彼が風呂から出てきたのに気づいた]


 おかえ……ふぁっ!?


[思わず漏れる奇声。
バスタオル一枚に濡れ髪の彼が出てきたのに行き会ってしまった。
腰の周りだけをタオルで隠し、その肉体美を顕わにして。

 思わず見とれてしまった。
 こんなの眼福でしかない。
 肉体労働に近いことをしているせいか、彼の躰はやはりたくましくて鍛えられてて。
 肩に盛り上がった筋肉とか、しっかりとした脛などを見ないようでいながらばっちりしっかり見てしまった。
 これではまるで痴女である。

 自分はあの躰に抱かれたんだ―――。

そう思うと、ぶわっと顔から火をふいてしまう]


 は、はやく食べましょっ
 服、そこだから。


[先頬部屋の片づけと一緒に彼の服もたたんでおいたのを指さして。
声が上ずってしまっているが、変に思われてないだろうか。
そう思うが、言い訳もできない。
彼に椅子をすすめ、それから今日のメインのワインの栓を開けようか]

[ワインの栓を開けるのは少し手間取ったかもしれないけれど、無事、二人のグラスに注ぐことはできて]


 お口に合えば嬉しいな。


[もちろん、料理のことである。
もう一つ食べられたものの方は、彼の口に合っていてほしかった。
 思わず自分の唇に触る。
 この唇でキスをして、舐めてしゃぶって飲んだもの……。
 それはこの自分の口に合っていたのだから。

 よく、男を落とすには胃袋と玉袋を握ればいいというが、まさか玉袋の方で彼を落とすことになるなんて思ってもみなかった。
 胃袋の方はどうだろう。

 なんとなく不安になって、彼の方をじっと見ていた*]

[彼が口にする、少し舌足らずで甘ったるい響きの「先生」も嫌いじゃない。むしろ好きだった。同意を求めるような言い回しに、時間差で返事をする。私の願望を彼から提案されると思っていなかったので]


 ……、……もちろん。私も同じことを考えてた。

 君に先生と呼ばれるのも好きだけど。
 名前だと、特別になった心地がして嬉しいよ。

 ただ慣れないというか、擽ったいのかもな。


[別にふたりきりの時以外も、名前で呼んでくれても良い。付け加えようとした言葉を飲み込んで、緩く微笑むだけに留める。私以外の第三者が存在する時は、此処を出た時だろう。泥濘のような疲労を言い訳にし、想像するのを止める。

先生以外の関係と聞いて、恋人しか思い浮かばない程度には気持ちが浮ついていた。好意的な台詞の応酬が、リップサービスではないと思っていたからこそ。だから関係性について明言しなかった]

[──彼の言葉を真に受けてはいけない。
病院で「夜風に当たっている」姿を見て、彼から目を離してはいけないと思った。本人にその気はなかったとしても、自然と自死に引き寄せられるなら自分が止めなければ。
その行動が正しいとか、間違ってるとか関係無く。

……そう思い詰めていた癖に、彼の隣でまんまと惰眠を貪っていた。呑気に夢を見ていたのは気が緩んでいたからかもしれない。

狸寝入りとは気が付かず、擦り寄る寝顔を見つめて表情筋を緩ませた。もう一眠りしたい欲に駆られるが、世話役としての仕事があるので思い留まる。隣を抜け出して背を向けたが]


 ……、起こしたか?悪いな。


[掠れた声色に手繰られ、振り返って「おはよう」と挨拶をする。床に捨て置かれた冷たいバスタオルが視界に入り、全裸よりはまだ良いかと腰に巻いておく。此処に来てから、自分の中の許容範囲がどんどん広がっている気がする]

[掠れてざらついた奥の色までは気取れないけれど。寝坊助が振り返ったら起き上がっている、その些細な違和感が無意識下で引っかかり、近くまで戻ってベッドの端に座る]


 水を取りに行こうと思って。
 この部屋か、……無ければ給湯室か自販機に行くよ。
 まあこの格好のままじゃ外には行けないが。
 
 ……──そういえば、説明してなかったと思うけど。
 この病院の形態はちょっと特殊で、……

 専門的なことは勿論、患者の世話も担当医の仕事だ。
 例えば食事や、風呂の準備もね。
 

 
 まあ、……表向きは公的な施設ではあるけれど、
 実際は私達医者が、患者を選んでいる。

 
[この病室には、私以外の医師も看護師も来ない。
当然外部の人間も面会は許されていない。

まるで非現実的な業態だけれど、軽い説明をする]

[彼の言う通り大人しく眠ったおかげで、それなりに頭がすっきりしている。「ひっどいかお」はある程度解消されている筈だけれど、彼はどうだろう。顔色を見て、観察に近い眼差しを向け]


 ……よく眠れた? 
 喉使い過ぎて、声枯れてるな。


[手を伸ばし、ぺたりと彼の頬に触れる*]

[ 彼が振り向いただけでほっとして
 戻ってきてくれるだけで肩の力が抜ける。

 そばに腰掛けた彼の手を勝手に取って自分の頬に寄せ
 撫でろと言わんばかりに擦り寄った。

 目の前にいてもこれだ。
 今頃母は発狂してるだろうなって簡単に想像がついた。 ]


 なに、ここ病院ってマジなの?
 誠丞さんの強めの幻覚で俺が監禁されてるんじゃなく?
 ……まぁそうだったとしても別に俺は構わないけどさ。


[ 帰らなきゃってこれっぽっちも思わないのが自分で笑えて
 ちょっと笑い声が溢れる。
 
 死ぬ逃げ出すつもりで捨てたからじゃない。
 なんとなくわかった。
 母が俺に依存していたように、俺も母に依存していた。
 今は新しい依存先ができたから、もうどうでもいいだけ。

 母も俺が居なくなれば新しい何かを見つけて
 そしてどうでもよくなるのかな。そうなればいいのに。
 だって俺はこんなにも薄情だ。
 それがすこしだけ申し訳ない。
 母も俺も同じように互いに依存していたけれど
 同じ強さじゃないことが申し訳なくて、
 だから縛られていただけなんだと今ならわかる。 ]

[ 彼の言い分が真実ならば、いや真実なわけはないと思うが
 例えばの話。もしそうならば……
 医者としての経歴に傷が付かないのか?なんて
 考えてみてもよくわからなくて。

 頬に感じる彼の体温に懐きながらじっと彼の顔を覗き込む。
 正気に見えるけど。俺よりは余程。]


 ん。多分……良く眠れたんじゃないかなぁ。

 ひさしぶりに、そんなに頭も痛くないし
 耳鳴りもしない。それに……
 そこまで死にたいとも思わない。

 ……あー……でも、多少は熱っぽいのかな。
 誠丞さんの手、きもちいい。


[ 全然そんな気はしないけれど。
 ただ甘えたいから心配を誘う。
 
 誘っているのが『心配』だけにしては
 最中にでも聞かせるような
 甘ったるい「きもちいい」だったが
 この仏頂面はそのくらいで動じやしないだろうし
 冗談だと伝える意味でちょうどいいだろうと
 すこしだけ、悪戯な気持ちで悪ふざけを。 ]


[ 水を取りに行くだけのことを先延ばしにさせたくて
 彼の肩にもたれ掛かったりしながら彼の言葉を反芻する。

 医者が、患者を選んでいる。

 どうして俺を選んでくれたの?なんて
 しおらしい気持ちはもうどこにも残ってなくて
 心地よい充足感だけが胸にあった。

 彼が俺を選んでくれた。

 その事が嬉しくて。嬉しくて。
 夢なんじゃないかと疑う気持ちはなくはないけれど
 夢なら終わりにしたら死ねばいいだけだと極端な考えが浮かぶ。

 だって彼が俺を選ばない現実なんて
 必要ないのだから仕方あるまい。
 どうせ捨てる死ぬつもりだった。
 捨てることに改めて躊躇が生まれることもない。 ]

[ 引き止めるために言葉を探す。
 どうせ水を取って戻るだけだ。
 その言葉を疑っているわけじゃない。
 それなのにそれだけのほんのわずかな間でも
 連れて行ってくれないのなら行かせたくなくて。

 けれど今までただの医者と患者の関係を貫いていたせいで
 共通の話題なんてひとつしか思い浮かばなくて ]


 ……俺が入院してる理由は……一応『目』なんだっけ?

 入院期間は……?
 ……​────完治するまで?


[ あれ?入院費どうなるんだろう?
 本当に彼の言うとおりここが病院ならの話だけれど。
 信じてはいないけれど嘘でもどうでもよかったから
 話半分に受け取って、信じているていで尋ねた。
 退院するつもりなんて、これっぽっちもないけれど。

 彼の医者としての経歴に傷が付くのなら
 あの病院に返してやらなきゃとは思う。
 思うのに、ここにいて欲しくて。

 だからこそ、完治するまでかと尋ねた。
 治らないと理解しているから。
 実は治せるなんて夢みたいな言葉をもし今聴いても
 きっと悪夢にしか聞こえないんだろう。* ]



「インタリオ様、ゲヘナにはこの館以外何もないんですか?」

「何故貴方はここに縛られているのですか?」

[肌がすっかりと彼の色に馴染み、変色した髪も見慣れた頃。
呼ばれたのだったか、それとも此処で学びを受けていたのだったか。

最初より伸びた背丈で、やはりこの椅子に腰掛けて
窓の向こうを一瞥した後、少しの躊躇いと共にそう聞いた記憶。
此の地が地獄の最下層に位置するとは知らされても、
それについては語られたことは、問いかける時までは無かった筈。

無限じみた拡がりを見せる神話の真実の全てを掴もうとするよりは、
細やかな存在たる下僕の頭でも理解出来る可能性があることだと

……此方は思っていたけれど、主はどう感じたか。]



「かつてはあったとも言えるけれど、
今もある、と答えるほうが正しいだろうね?」

[ 白肌の下僕が傍らに馴染んだ頃、
  魔術の教育の合間、悪魔は問いを投げられた。

  含む躊躇い、どれ程前から疑問を抱きそして期を伺っていたのか。
  少し意外そうに片眉を上げ、
  笑って返すまでにはそう時間は掛からなかった。]

「ゲヘナが今の状態になったのは、争いによるもの
君が満足に視認し、立ち歩けるのは確かにこの館の範囲だけさ」

[ 語りながらも立ち上がり窓へ近寄る。
  振り返り少年に目を向けるが、来なければそれでもいい。 ]



「オレと同じように沢山の名前を人類に与えられた強力な悪魔が
かつて、地獄にはいたんだよ。
彼女は誰よりも美しい姿をしていたけれど、とても凶暴で
暴れ始めると化け物になり、手がつけられる者は他にいなかった」

[ 何しろ共に生まれた弟すらも殺してしまったくらいだと、
  愉快そうに、同胞たる姉弟の結末を語る。

  人の仔には見えぬ何かを見出すように、
  窓の向こう、館の外まで遠くを見つめた黒黄は細まった。 ]

「死んでいないよ。あれは、今もゲヘナの更に奥底で眠っている
それを抑え込む為にオレは動けないんだ」

[ 人間によって、共に
悪魔の王Satan
とされた彼女
  その者を封印する鍵となって以降遥かなる時が過ぎる間、
  悪魔は現在までゲヘナから移動したことはない。
 
  信仰という定義で
  魂により生み出された装身具と自己を繋ぎ、媒介とし。
  一時の体現をかつてよりは自由に成しているのみである。 ]



「だから、魂が沢山必要なんだ
特に不幸な魂は一層に力となる……分かるね?」

[ 広がる永劫の暗黒から視線を外し、悪魔は翠の瞳を見つめた。

  そう、芸術品として貯め込まれる魂はただの道楽ではない。
  人間の言葉で表現するならばそれは非常食とでもいうだろうか。

  拘りを持って選ばれ、加工されているのは事実だが
  その美しさはいずれ必要とする時にどれ程力になるかを示す。
  向かう先は、剪定外となり装身具にもならなかった魂と同じ。]

「君がオレの期待に応え続け、契約を結ぶ時がいつか来ますように」

[ 大きな掌で、色褪せた緑を優しく撫で付け微笑んだ。

  彼が数多の魂を悪魔に捧げる未来を願い、
  最期には己自身を主の糧とする結末を思いながら。 ]*



「それは……?」

[ゲヘナに堕ちてからの少年の行動は
悪魔に教えられたこと、許しを得たこと、その二つが殆どだ。
幾つもの言葉や感情を押し潰し、言葉にせず留めて過ごした。

故に、それなりの勇気を持って聞いたつもりであった。
しかし、どうやら許されたらしいが返ったのは笑みと謎掛けめいた答え。
重なる疑問と共に惹き付けられ、自然と緊張が解かれる。

誘われるままに立ち上がり、窓に向き合うように彼の隣へ立つ。
自分には視認出来ないという何かは、やはり闇に包まれ見えぬまま。
そこには人ならざるもの達の争いの痕跡があるのだろうか?]



「私にはとても、壮大に感じる話です」
「貴方に相応する存在が他にいる……など」

[多大な功績を残した英雄王が、幾多の名で呼ばれるように。
神話に記される悪魔の名が人類による身勝手だとしても、
強大さをきっと示しているのだろう。

同胞殺しを、兄弟殺しを罪とも思わない様子の
あの地獄を村に齎した悪魔と渡り合い、不自由を永い間強いて、
殺されきることもなく今も眠り続けている
ゲヘナを荒廃させた化け物の女悪魔は、
どれ程の存在なのか、拾われ仔には想像もつかない。]

「奥底というのは、やはりあそこなのですか」

[夜に潜む獣の如く細まる瞳孔を横目に、
弱き生き物は真剣な面持ちと声で問い、裂け目のほうを指差した。

肯定が返れば思わずそこから目を逸らした。
何も知らぬまま門を挟む形で近くまで寄り、眺めたかつてを想って。]


[逸れた目は上を向き、主と視線を交じらせる。
少しの間まじまじと見つめた後、はっと翠が見開かれた。
彼が語った言葉の意味に気づいた。

悪魔が少年の私に施した教育には、彼の同胞との接触方法も含む。
その契約の対価は総じて────魂である。

芸術の悪魔などと謳う、変わり者であり更に強者たる主も
彼らと根本は同じなのだ。]

「はい、……インタリオ様」

[大きな掌を受け入れ、少し俯きながら微笑んだ。
今するべきことは、きっとそれなのだと分かったから。

未来を変える機会は二度は訪れないのならば私に出来るのは、
人間達の魂を捧げ続け自らの結末を出来る限り遠くに置くことだけ。

まるで家畜のようだと感じた。
**]

[幻覚ではなく現実で事実だと、冷静な頭で理解しているが。「違う」とは即答出来なかった。どこか愉快げに見える彼を前に、冗談の軽さで笑い返せずに仏頂面のまま見つめる。手のひらに懐いた頬を慈しむように撫でながら。

さらりと暴露してから気付いたが、監禁と変わりない入院生活だと告げたようなものだ。飄々とした様子には少し面食らってしまう。

脱衣所で話した時、外に残してきた両親を気にしていた様子だったが。気掛かりな所はあれど、彼が構わないと言うならそれでいい。結局ここに留まる選択肢しか許可出来ないのに、あえて蒸し返して「駄目だ」と拒絶するのは……、避けたいことだった]


 ……私もこの話を知った時は、冗談だと思ったさ。


[彼にとっては此処が病院だろうが、そうでなかろうが、大差ないかもしれない。とはいえ彼の生活を制限する以上は、説明しておくべきだとも考える。

会員性SNSの存在を伝える代わりに、どうするか……]

[彼の体調が心配で様子を窺ったが、近い距離で見つめ合うと少し心臓に悪い。私を映す瞳に惹きつけられる。「きもちいい」の甘やかな響きが情事の彼を連想させ、恋慕の色眼鏡が彼をそう見せるのか、それとも熱っぽさのせいなのか判断に困る]


 ……、……調子が良くてなにより。
 でも熱っぽいのは心配だな。
 
 平熱は低い方?
 そんなに昨日と変わりない気もするが、
 あとで体温を測った方がいいね。


[「やけに可愛く言うんだな」という感想を零すよりも動揺が勝り、するりと視線が泳いだ。分かりにくい照れ方。
前髪を片手で引き浚うと、手のひらで額の温度を確かめる。正確性には欠けるので後で測りはするのだけど]

[はじめは転院した体を貫く気でいたから、左眼のためだと話したが。入院理由の話をされ、ふと思い付く。

頬のまろみを辿っていた手指を解き、凭れ掛かる重みをベッドボードに託して、徐に立ち上がる。何か聞かれたら「見せたいものがある」だけで、部屋から出ないと答えるだろう。病室の隅に寄せ、布を掛けられた置物のひとつに近寄る。

背景に溶け込んでいたそのカバーを外して、]


 ……個人的な監禁で、ここまで用意するのは
 なかなか金が掛かり過ぎる話だと思わないか?
 これ一台で数百万はする。


[露出した検査機器を指し示す。何度も眼科に掛った彼なら見覚えがあるかもしれないが、興味が無ければ記憶にも残り難い置物だ。手続きの書類は手元にないので、幻覚を否定し得るものとして代わりに見せる]

 
 この病院のスポンサーは相当の金持ちらしい。
 文面だけのやりとりで直接会ったことはないが……、
 私と似た目的の為に病院を設立した、と聞いた。

 入院費の請求を私達が受けることはないし、
 医者にも給料が支払われる契約……のはずだ。

 …………まあ、信じ難い話だとは思う。
 私ですら夢なんじゃないかと、時々過ぎるくらいだ。

 いくら担保すると言われても初日じゃ判断出来ない。


[患者側にとっては監禁と変わらないだろうから、幻覚という認識でも構わないのだが。どこからか内情が漏れてしまい業務禁止処分……だとか。ある日唐突に終わる可能性があるなら、ほとんど幻のようなものだとも思い始める]

 
 だから──……質問に話を戻すと、だ。

 手続き的な転院理由は左眼だったとしても、
 実際の入院期間は、担当医の匙加減で決まる。

 もしくは、…………此処が閉院する時か?


[彼の判断はどうであれ、説明材料に使えそうな物証は現状これくらいしかない。検査を始める訳じゃないので元通りに整えたら、彼の隣に戻るつもりだ*]