人狼物語 三日月国


45 【R18】雲を泳ぐラッコ

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  ん、グッ……


[それはナイフで受け切る事が出来ない強い力で、
吹っ飛ばされるかと思った。
地面から足が離れなかったのは、刃物が義手の隙間に入り込んだから。
そこに痛みはないが、
受けた振動と、義手が壊れる感覚にぶわっと汗が浮かぶ。
男は腕の硬さに不思議そうにしながらも、ギリギリと義手の中で刃物を動かしている。
男の動きが止まっている今が好機なのに、
ナイフを振るえなかったのは、義手へのダメージを考えたからではない]


  、はぁッ、はぁっ……


[人を、斬った事がない。
こんなロクでもない奴相手でも………怖かった]

[バキン、と音がして、男の刃物が抜けた。
ばらりと部品が落ちるのがわかったけれど、
左手がうまく動かせない事もわかったけれど、
今はそんな事どうでもいい。

男は御者の他に仲間はいただろうか。
最低でも一人の仲間が増えれば、とうとう覚悟を決めなければいけないと思った。

シャーリエの方を振り返ってはいられない。
彼女の顔を見たら、決意が揺らぎそうだ]


  お嬢様、


[だから、
己の後ろにいてくれるだろう彼女に声だけ掛けた]

[すぅ、と息を吸った]


  ………お前を殺す。


[小さく呟いた。
彼女へ優しい声で願った己は一旦黙ってもらう]


  お前を殺す。


[もう一度、さっきよりはっきりと口にする。
言霊というものを信じている訳ではないが、
言葉にすると力が湧いてくる様な錯覚を手にした。
足に芯が出来て、簡単には吹っ飛ばされないと思える。
震えが隠せなかったナイフを持つ手は、今はぎゅうと握り込まれている。
ナイフで人を斬る自分の未来を見る。


人を斬った事がない弱い己は、
彼女を守る為に、少しだけ強くならなければいけなかった]



  オレが、殺す。

  お前を殺す。


  殺す………


  殺して やる !!!


 

[殺さずに撃退できるなら良かった。
でもそうするには、己は弱過ぎた。

何度も「殺す」と声にして、時に叫んで、
同じ命と肉体を持つ人間を斬った。
弱い心が恐ろしさを感じそうになれば、
自らを洗脳する様にまた「殺す」と言葉にした。
そうすれば、何度でもナイフを振るえた。
二人でも三人でも立ち向かって、
斬り返される痛みにも、肉の感触にも決して怯む事なく、
道を赤に染めた。

今怖い事は、
斬られる事より、死ぬ事より、
彼女が傷付く事だった。

だから一人残らず殺すしかない。

一人が怯んで命乞いをしかけたが、
聞き入れずに喉を裂いた。

崩れゆく男の手の刃物が己の右手を滑って、お返しの様に深く裂いた。思わず呻いたが、連中を一人残らず始末する迄、この手は動いてくれた]



  ───ぶじ、ですか

  お嬢様……


[斬った男たちの安否は……わからない。
多分殺したと思うけれど、しっかり確認できた訳ではない。

立っている人間が自分だけになって、
ようやく血に染まった顔で彼女を振り向いた。
怖い思いはさせたくなかったが、
無事を確認しないと倒れられない。

彼女がそこにいてくれたなら、
その場に崩れ落ちるだろう。

彼女が恐ろしいものを見る目でこちらを見ていても、
軽蔑のまなざしを向けていても、
気にしなかった。

生きていればそれで。
それだけでいいんだ。

流石におおごとになって周辺から人が集まって来ただろうか。
薄れゆく意識の中で、そんな喧騒を聞いたかもしれない。**]

 
[つい先刻まで彼にとって僕は
 ただの盗人だった。

 彼の態度が豹変したのは
 僕の見てくれを
 好いてくれたからだと思う。

 母と、同じように。]
 

 
[彼には言うなと言われたけれど
 WこんなW僕には
 親から貰った容姿しかないのだ。

 スポーツは怪我や日焼けをするからと
 最初からさせて貰えなかったし
 母の仕事を手伝うために
 薬剤師の資格の取得を目指しても
 特段喜んでは貰えなかった。

 いつだって誉めて貰えるのは見た目だけ。]
 

 
[その唯一の見目が損なわれることは
 死より辛いことだった。

 けれど、いまの僕の容姿でも彼は
 美しいと言ってくれるから
 すべてを許された気になってしまう。

 アクスル・パームは一度死んだ。
 新たに命を与えたのは貴方。
 無責任に投げ出すことを許したくない。]
 

  
[捨てられた時を想起してしまうから
 胸が苦しくなる。

 見つめる先の顔が、
 ぎこちなく笑みの形を作った。
 拒まれることを予期して
 一瞬だけ、哀しげに眉が寄る。]


   ……え、……


[けれど返されたのは、是だった。
 眉を戻し、瞬きをゆっくりと繰り返す。
 その間にも、穏やかな声は続いた。]
 

 
[彼の方も僕をW連れて帰りたいWと――、
 そう思ってくれていたと言う。

 嗚呼、これこそ夢のような話。]



   
…………はぁ




[その手に愛でられる想像で
 頭の奥から甘い痺れが拡がり
 小さく吐息をこぼした。

 もう、身体が覚えてしまった。
 貴方に手掛けられるのは
 大変に気持ちが良いことだと。]
 

 
[……ただ、互いの想いが
 真にひとつだと言うならば

 もっと自然に笑ってくれても、いいと思う。

 どこか表情は硬く、違和感がある。
 訊ねるべきだろうか。]
 

 
[しかし、時差ボケと
 負傷による体力の磨耗で
 色々と限界だった。

 彼のこと
 僕を傷つけるだけの存在ではないと
 認識したから、気が抜けたのもあり]



   ……、……うん、……ずっと、だよ……



[重たくなった目蓋を必死に持ち上げながら
 釘を刺すことで、今は精一杯だった。
 言質はとった。
 やっぱりずっとはダメなんて、言わせない――…]
 

 
[知っている。
 貴方の家、綺麗な子、たっくさんいるんだ。

 余所見は、出来たらしないで欲しいよ。

 だから、貴方の家じゃなくて
 僕の家に来て欲しい……こととか

 貴方のこと
 貴方がどんな風に生きてきたのか
 知りたい……ってこととか

 話したいこと、山程あるんだけれど]
 

 


   ……、ごめん、……眠くて……
    ちょっとだけ、……眠らせて……



[断りを入れてから目を閉じようとする。

 許可が得られたなら間もなく、
 ……得られなければ少し抗った末に、
 金の睫毛に縁取られた目蓋が
 蒼い瞳を隠してしまう。

 無防備な姿を晒して、
 小さな寝息を立て始めるだろう。]
 

 
[起きたら醒める夢ではないことを祈って。**]
 

[がたがた揺れる馬車の中でがたがた震えながら、
リフルが探してくれてると疑いもしなかった。
見つけてくれるかはわからないし、
間に合うかもわからないけど、私の希望は彼だった。

屋敷に救援を出してくれる。
そしたらお父様がどうにかしてくれる。
馬車から落ちて奴らと離れられたんだから、
見つからないように池に隠れていればいい。

寒さで震えた頭はマトモなことを吐き出さない
]

[池の底は苔に覆われていて
立とうとしたら頭まで水に沈んだ。
片方しかない靴よりも、裸足の方が石の凹凸を掴めるか、と
水の底に靴を捨てた。

素足で触れる苔はぬるぬる滑って安定させてくれない。
水面をばしゃばしゃさせてなんとか岩影の水から抜け出せば、
「お嬢様」と聞き慣れた呼び名を叫ばれた]


 リフルっ !

[そっちを向いた私の目に映ったのは、知らない男の顔だった。
すごい速度で嫌悪感が肌を伝わっていく。
顔なんて見ていなかったけど分かってしまった。
私を捕らえたのと同じむっちりした手。
すぐ後ろで感じた、私を包んでしまう体格。
怒りと好色で目をギラつかせて、にたにた笑う髭の顔。
首に当てられたざらついた皮膚が、あの髭だったに違いない。
嫌悪があふれて喉が開かない。叫ぶこともできなくなってしまう。
その場にへたりこんでしまって、
なにがなんだか分からない涙が、濡れている頬に混じっていった。]

[私が後ろに向かって叫んだことで男は振り返る。
なにをされそうになったか思い出した体が逃げ出そうとするが、
男の目線の先に居るのは彼なんだ。
ようやく距離が詰まってなびく髪が見えて、
彼は何かをこっちに投げる。
男の頭に吸い込まれるように当たったのは……くつ?

音で聞くよりダメージがあったらしい男が怯んでいる間に、
私の目の前に頼もしい背中が現れた。]

[リフルだ。  来てくれたんだ。
もうそれだけで安心して泣いているのに、
事態は収まってはくれない。
彼に向かって横に薙がれる拳に悲鳴をあげてしまう。
リフルはしゃがんでかわしながらジャケットを掛けてくれて
隠れてて、ってどこかからナイフを取り出して構えた。]

[こわい。 こわい、こわい。
リフルが傷つくのが怖い、なにもできないのが怖い、
泣いたって後悔が消えないのが怖い。
ジャケットごと自分を落ち着けるように抱いて、
リフル!って叫んだのは彼の左腕に凶刃が食い込んだシーンだった

恵まれた体格から繰り出された奴の刃物は、
常人より遙かに丈夫なリフルの腕にぶつかって止まる。
奴と私の間にリフルがいたおかげで、私の視界からは奴の後ろが見えている。]


リフル…… リフルっ、 二人来てるっ!

[ひょろ長いのと小さいの、そしてリフルと組み合って離れた太いの。
馬車に乗れるのはこれだけだろう、とは思ったが、
ここは公共の場ではない。
この街で公共の場に麦は植えていない。
ここは誰かの庭で、呼ばないと助けは訪れないんだ。

三人に増えた奴らに圧倒されてしまいそうになる。
なのにリフルは私を庇ってくれる。
震えて縮こまっている私に、場違いに優しい声をかけてくれる]


 なんで、今いうの……
 どうしていつも、私の思い出になっちゃうの……


[泣いているだけではなにも役に立てない。
ジャケットを握った手を無理矢理開き、
転がっている片方の靴を掴んだ。
リフルの低い声が聞こえる
目の前で殺意を見たのは初めてだ。
こんな命のやりとりがあるなんて、知ってはいたけど解っていなかった。]

[ごめんね、リフル。
いやな役目させてるね。
でも離れたいと思えないの。
ごめんね。]

[三人の間を風になってリフルが走り抜ける
細いのは腿を、長いのは喉を、太いのは腹を。
鬼神のようになったリフルの前にあったのは三つの人だったものだけだった。
細いのは虫の息、太いのは叫び声も枯れてきた。
長いのはリフルに太刀を食らわせたところからぴくりとも動かない。
どれも残り短い命だろう。増援を考えなければいけない今、かまっている時間はない。]


[私は「衛兵を呼んで!」って腹から声を出して、持っていた靴をできるだけ遠くに投げた。
それから赤にまみれたリフルと向き合った。]

 りふる……
 ごめんね、ごめん……

[泣きはらしてうまくしゃべれない。
芝生の上に倒れていた彼と、麦の上に崩れた彼が重なって、
焦りと後悔が積み重なっていく。
隣に座って血を浴びた腕を指先で拭っていく。
そのうちに傷口に気づけば、そこから沸く血に涙を流した。

今日お酒飲みたいって言わなければこうならなかったかな。
胸元にあったリボンをほどいて、彼の右腕にまきつけるけれど、止血の役に立つのかは頼りなさすぎる。]


 痛いよね、ごめんね……

[麦畑の向こうで悲鳴が上がる。誰かが事態に気がついたらしい。
奴らの増援では出さない悲鳴に、山場を越えたことを感じて、また泣けてきた。]


[人混みをなだめながら寄ってきた衛兵の中には
シャーリエを見たことのある者もいるだろう。
結わいたお下げをほどき、ひとまとまりの長い髪にすれば、
シャーリエに近づけるだろうか。]

 さらわれそうになったところを彼が助けてくれました。
 輩の身元の確認と馬車の確保を。
 ……いえ、
彼の救護を!はやく!



[事件の大きさに驚いた衛兵が馬車ごと詰め所に連れて行ってくれて、衛生班に驚かれる。二人とも、処置の後に屋敷に戻された。
あまりに泣いたせいか、お小言は後回しに捜査がはじまったらしい。]

[そして今。
私は貴方と逢ったときと同じ部屋で
貴方と逢ったときと同じように、
寝かされた貴方を見ている。

濡れ鼠のまま看病するのは止められたので、
簡単なドレス姿に戻ってしまった。

前にリフルを見ていたときよりもずっと怖い。
リフルと過ごした時間がぜんぶ無くなってしまうようで、怖い。

ごめんね、と時々口にしてはリフルを見て、頬にふれる。
暖かいのを確認して、生きているって感じて、イスに戻る。

医療的なことは全て終わっているから、
看病とはいえないのだろうけど。
イスでうつらうつらしても、リフルが目を覚ますまで離れないつもりで部屋にこもっている*]

──鈍色の球体3──

[“故郷に帰った方がいいだろう。”
憔悴した女に施されたのはチケット1枚。 
厄介者であり、当人の希望もあって、チケットがもう1枚。

元より貧困が進み、
10年以上経てば小競り合いで地域の変動、
そこは女にとって知らない一面を見せていた。

怒鳴られ蔑まれる事が無くなったのは救いだが、
病弱な女が一人生きていくには過酷な環境。

付いてきた子供は、
食べ物を探し求めて一日中歩き回ったり、
少しずつ動作で言葉の代わりが出来れば、
彼女に力を貸して貰えるようにと周りを手伝い。
夜は泣き続ける女を見守り、寝てる時には撫で触れ。

簡単な言葉がわかるようになった頃、
女が『あの国の事を忘れたい』と嘆いてるのを初めて知った。

より細くなっていく身体、
泣き濡れた頬、何時限界を迎えてもおかしくない細い糸。
平和な国よりもっと大きく丸い月を見た時に気付いた自分の能力。]

[辛い事は忘れてしまえばいい。
向こうで暮らした事、嫁いだ事、
出会った事さえ苦しみでしかないのなら、
見なくていい。

あなたの望んだ事、唯一叶えられる事。]


──だから……笑って…ください、お母さん



[彼女をそう呼ぶのは、この夜が最後だと決めて。
十六夜かけて祈り続ける。]

[月の晩が終わり、朝日が昇る。

酷い頭の痛みに少年は固い床に頭を押し付け。
代わりに顔色がよく見えるあの人が目を覚ます。]

『…あら、あなたはだれ?』

[自分を映す目から翳りが消えていた。
成功を知るが、その先を考えておらず、
問いかけに咄嗟に口をついたのは名前。]

シグマ。…シグマだ。

[彼女は向こうの国の言語に不慣れだった。
夫が最初に名乗った苗字を、婚姻しても愛しげに呼んでいた。
──忘れて欲しくなかったのは、家でも自分でもなく、
彼女が男を愛した証。

弱い子供の顔をしたら思い出してしまうかもと、
言葉を変えて素っ気のない色を出す。
一番最初だけはこの名を示す相手の模倣。

貴女は具合の悪い所を助けてくれた恩人だと、
日常生活の協力を申し出ながら、
少年は青年へと変わっていき、離れていった。]*

[ごめんねを山ほど聞かせて落ち着いてからも、
ベッドに寝かされている彼に話しかけている。]

 リフルに勲章を贈ることになったんですよ。
 騎士さま。

[名誉称号なので騎士になれというものではないし、
領主から贈られる感謝状のようなもの。]

 この国はあなたに感謝します。
 いつでも歓迎しますよ、
 私の騎士さま

 ……起きてよ