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【人】 会社員 雷恩……へえ。 この町は出なかったのか。 [実家を出られて良かったなという言葉は飲み込んだ。 彼女にとって実家は毒だったというのは 自分の推測に過ぎない。 ただ、実家を出られる「力」は得られたのだなと 何となく安堵の溜息を吐いた。] (60) 2024/05/06(Mon) 19:53:01 |
【人】 会社員 雷恩[マンションまでの道では、会話を途切れさせないように。 もし人とすれ違っても、このおんぶは双方合意の元と わかるようにのリスク回避。 ただ、愚かな男は、背負った軽い身体の中にある リスクには気づかずに、既に彼女が知っている 自分の個人情報を明かしていく。 好きなビールの銘柄、1歳の甥がいること、 実家に買っていくプリンは最寄り駅近くのケーキ屋。 そして着いた場所は、あの頃一人でいた少女の身なりを 思えば意外な程家賃が高そうな。 「カフェ」とはそんなに高給なのか、或いは] (61) 2024/05/06(Mon) 19:53:45 |
【人】 会社員 雷恩……誰かと住んでたりするんじゃないの? シングル向け物件じゃなさそう。 一人暮らしなら一人暮らしで、 昔の顔なじみだからって簡単に男を部屋に呼ぶのは 危ないよ。 俺が「その気」になったらどうすんの。 [彼女にとって自分はまだ10歳かもしれないが、 自分にとって今の彼女は、背中に当たる柔らかさを持つ「女性」だ。 無理矢理襲ったりはしないと誓って言えるが、 こんなに好意的な態度で来られると、 下心を持たないと言い切れない。] (62) 2024/05/06(Mon) 19:53:57 |
【人】 会社員 雷恩カフェで働いてるって言ってたよな? 今度、そこに客として行くよ。 どこにある何て店? [この機を据え膳としないだけの理性を見せて、 10歳の頃よりも上手くなった手つきで頭を撫でた。*] (63) 2024/05/06(Mon) 19:54:26 |
【人】 従業員 ルミえ、 [ 幼い頃の自分は、随分と話下手だったと思う。 家にいてもどこにいても誰かと会話することもなく、 常に下を向いて生きていたから。 だから最初に話しかけられた時も、目を瞬かせて 視線を落ち着きなくうろつかせた記憶がある。 差し出されたアイスの片割れ。 もう二度と元の形には戻れない、分かたれた半分。 ] ……あ、あり、がとう。 ぇと…… る、ルミはね、名前、ルミっていうの……! …………これで、しらないひとじゃなくなるかな……? [ 知らない人に、と彼が呟いたのを聞けば 殆ど反射で自分の名前を口にした。 ] (64) 2024/05/06(Mon) 21:18:21 |
【人】 従業員 ルミ[ 初めて口にしたアイスは冷たくて、甘くって。 頭がすこし痛む感覚に目を瞠り、 自分より大きなお兄さんが教えてくれた 新しい世界に胸を弾ませた。 それがどんな切欠で生まれたものでも。 そこにどんな理由があったとしても。 わたしが優しいと思えば、それが正しい。 わたしが愛だと思いこめば、それが、 。 ] ( ともだち、 ) [ 家に帰れと言わない彼が好きだった。 びしょ濡れの子どもなんて厄介物件を連れ帰られても、 温かいお風呂と飲み物を用意してくれる彼の母が どうしようもなく羨ましくて、あたたかくて。 ] (65) 2024/05/06(Mon) 21:18:25 |
【人】 従業員 ルミ……ありがとう、雷恩お兄さん! ともだちって言ってもらえたの、初めて。 あと、お兄さんのお母さんも…ありがとうございます。 めいわくかけて、ごめんなさい……。 [ けれど自分だって、幼いながらに理解していた。 いかにも訳アリと言った風情の子どもとはいえ、 よその家に甘え続けられはしないこと。 笑顔の下が、本当に笑顔とは限らないことも。 もっと、早く大きくなりたいな。 お兄さんの隣に立ってもおかしくないくらいに。 ひとりで自分の面倒をみられるように。 そうすれば、迷惑かけずに一緒にいられるよね? そうなれば、胸を張って好きって言えるかな。 ] (66) 2024/05/06(Mon) 21:18:30 |
【人】 従業員 ルミねえ、お兄さん。 大きくなったら、もっといっしょにいてくれる? [ きっとそれは、ありふれた子どもの夢見事。 彼の優しさという薬を飲み 彼の温もりという蜜を呑み これが愛だと信じ込んだ幼い子どものよくある話。 ──現実はおとぎ話のように優しくないのに。 ] (67) 2024/05/06(Mon) 21:18:33 |
【人】 従業員 ルミ[ 年を重ねるごとに二人は大人に近付いて、 日を追うごとにわたしたちの距離は離れていった。 制服を着るお兄さんに「かっこいいね!」と言っても、 公園で話そうとしても、逃げるように去ってしまう。 分かってた。 子どもを家に上げ続けることは出来ないって。 勝手に傷を癒して、勝手に消えていくひどいひと。 どうしてわたしから距離を置くのかすら教えてくれず、 厄介者みたいに話すら切り上げて。 ずっとずっと待ってたよ。 あの公園で、お兄さんが来てくれるのを。 わたし、そんなに簡単に消えてしまえる存在だった? ] (68) 2024/05/06(Mon) 21:18:37 |
【人】 従業員 ルミそうかなぁ。恥ずかしい? じゃあ、雷恩さんって呼ぼうか? ……わたしが呼び慣れないかもだけど。 [ ああほら、また。 お兄さんだけがわたしとの日々を過去にしてる。 わたしが口にするまで、呼び方すら忘れてたの? 何もかもに心がささくれ立って血を流す。 恥ずかしそうに緩んだ頬すらわたしを刺激して、 声が震えないよう抑え込むのに必死だった。 顔が強張った理由は察せないけれど、 今この場で聞き出そうという気にはならない。 ] (69) 2024/05/06(Mon) 21:18:42 |
【人】 従業員 ルミあはは。うん、そうだね。 悪いことを考える人もいるんだろうなぁ。 ……ほんと、会えて良かった。 [ だって、悪い人はわたしだから。 ] (70) 2024/05/06(Mon) 21:18:47 |
【人】 従業員 ルミ[ 社会人が受けるような研修を受けていない女には、 セクハラ案件がどうこうといったことには無知だ。 彼の口から出る言葉たちが、 そういった配慮の元成り立っているのを知らない。 しっかり掴まってろ、という言葉に従って 彼の背中へ身体を預けた。 ] ……ふふ、あったかいね。 [ あの頃と変わらない温もりに頬を緩める。 それから、「町を出なかったのか」と呟く彼に 短く「うん」とだけ答えて。 吐かれた溜息に、ぴく、と肩が揺れた。 ──それがどんな色を孕んでいるか分からなくて。 ] (71) 2024/05/06(Mon) 21:18:54 |
【人】 従業員 ルミ[ 道中の会話は全て、もう既に知っていることだったけれど 真新しいものを見聞きするように話を聞いた。 自分の話はあまり口にしない。 ひとつの話題を深堀するように聞き役に回り、 SNS越しに握った情報を固めていく。 彼の好きなビールは、既に今、家にある。 ] 住んでないよ。一人暮らし。 ……でも、お兄さんならそんなことしないでしょ? [ ああ、いっそ「その気」になってくれれば早いのに。 彼の歴代の恋人たちと自分、一体何が違うのか。 頭を撫でる手付きの上手さすら気に入らない。 他の女に同じことをしてきたと分かるから。 ] (72) 2024/05/06(Mon) 21:18:57 |
【人】 従業員 ルミ…………うーん、でも……。 休日以外は夜営業しかやってなくって。 普通のカフェとはまた違うというか…… [ 店に客として、なんて起こってしまえば 彼が他のキャストに目移りする可能性だってある。 それに、ただ可愛い服のカフェというわけではない。 売れるために、稼ぐために色々な営業がある。 ────見られて幻滅されてしまうのがオチだ。 ] (73) 2024/05/06(Mon) 21:19:01 |
【人】 従業員 ルミどうしても、だめ? このままひとりで家にいるのも心細いし…… ……他に頼れる人もいなくて……。 [ 何より、なりたいのはそんな関係ではない。 客と店員。顔なじみ。──そんなものじゃない。 もっと特別で、唯一の、なにか。 そんな狙いを孕んで、わたしは彼の手を掴んだ。* ] (74) 2024/05/06(Mon) 21:21:52 |
【人】 会社員 雷恩[唐突に話しかけた相手に上手く言葉を返せないのは 女の子がまだ小さいからだと解釈する。 自分は「弟」で、自分よりも小さい子をあまり知らないが、 幼稚園児くらいだろうか? 女の子が喋れないなら自分が喋れば良いと思う程度には 純粋に育った少年だった。] ルミな。うん、覚えた。 [それだけは10年以上経っても記憶にあり] 俺はー、うーん、みんなは「ライ」って呼ぶよ。 「雷恩」って名前だとみんなあの動物のことだと思うだろ。 遠足で揶揄われたからヤなんだよねー…… [最初に名前呼びを渋ったのは自分だという記憶はなく。] (75) 2024/05/06(Mon) 22:41:23 |
【人】 会社員 雷恩[初めに買ったのはただの間違い。 次は、ルミという名前の年下の友達にあげる為に買った。 バニラ味も、コーヒー味も、ソーダ味も、 ルミと分け合った。 冬になるとおやつはアイスではなくなったから、 屋台から買った焼き芋を半分こにした。 雨の日に傘を持っていなかった子は 冬には寒そうな恰好のことがあったから、 母に甘えて家に連れて行く日も増えた。 自分が大人になってから思うのは、 みんなができる行動ではないということ。 ルミが帰る時には母はいつも付き添っていた。 その「親」がどういう人物なのか、あんなに小さい子を 公園に放置する人間に対しての悪口を 子には決して聞かせなかった。] (76) 2024/05/06(Mon) 22:42:15 |
【人】 会社員 雷恩大きく……? そーだな、この辺に住んでるなら 同じ学校に通えるだろきっと! [歳の差が幾つなのかも気にせず、何歳差まで同じ学校に 通えるかの知識もなく。 「大きく」で想像する姿はルミのランドセル姿くらいのもので。 「もっといっしょ」が意味するのは、公園に行かなくても 校内で会える、程度の感覚。 多くの少年がそうであるように、 少女と出会った当時の少年は恋を知らなかった。] (77) 2024/05/06(Mon) 22:42:51 |
【人】 会社員 雷恩[思春期の訪れでよそよそしくなっても、 女の子を家に連れ帰ることで噂になることを恐れても、 何か明確なきっかけがあって彼女を拒否した訳ではない。 ただ、習慣というものは途切れれば再開は難しく、 反芻しない記憶は薄れて行く。 「大きくなったら」――過ごす時間は短くなった。 クラスが変わった友達とあまり遊ばなくなるのと同じ感覚で 公園に行かないならルミと遊ぶことはないという日々。 それでも高校くらいまでは何となく気になった時に 何度か公園を覗いたことがある。 授業を何となくサボった時、部活が急に休みになった時、 ルミだってその頃には学校に通う年齢だっただろうに、 相変わらず一人でいた。 酔っ払いのおじさんが近寄ろうとするのを牽制するように ベンチの近くに座ってみる。 高校生になって増えた小遣いは、もう分け合うアイスではなく ほかほかのコンビニの肉まんも買えるようになっていた。] (78) 2024/05/06(Mon) 22:43:29 |
【人】 会社員 雷恩んーいや、どっちでも。 名前自体そんな呼ばれないしな、 どっちでも恥ずいならルミの呼びたい方でいいよ。 [喋り方はこんな感じだったか? どうにも男心を擽るようなトーンに聞こえてそわそわする。] ストーカーもいるんだろ、 危機感持ってくれよ……。 [流石に数日後に彼女がストーカーにどうにかされたなんて ニュースを見たら立ち直れない。 どこかの誰かが殺されるニュースにいちいち感情は揺れないが それが知り合いなら話は別だ。 ストーカーは今どこかで彼女を見ているのだろうか。 自分が触れていることで、逆上しないと良いのだけれど。] (79) 2024/05/06(Mon) 22:44:33 |
【人】 会社員 雷恩[ルミはもう小さな子ではなく、扱える言葉も沢山あるだろうに、 接客業の癖なのか、道中は殆ど此方が喋っていた。 振り返ってみれば、ルミのことを殆ど知らないままだ。 好きな食べ物も知らない。 公園で縁日があった時に自分は甘くて食べられなかった りんご飴の残りを美味しそうに食べていたのは覚えているが、 りんご好きなのだろうか。] 俺ももう小学生じゃないからな? そこまで無条件に信頼すんなよ〜頼むから。 [苦笑する。 レイプ魔扱いは御免被るが、人畜無害と思われるのは 男のプライドが廃るというやつだ。 ――そういえば、思い出した。 ]食べかけのりんご飴を渡した後になって、 「間接キス」と気づいて内心狼狽えたことを。 意識した過去があるなら、自分はやはり 彼女にとって人畜無害ではないだろう。 (80) 2024/05/06(Mon) 22:48:47 |
【人】 従業員 ルミ[ みんなが" ライ "と呼ぶと聞いてから、 なんとなく、同じ、は嫌だなと思っていた。 遠足で揶揄われたから、という彼に ] あのどうぶつ……? うぅん……ルミわかんないけど、やなら、やめる。 でも、ルミはおにいさんの名前、からかわないよ。 [ 幼い少女だった頃は、そんな動物一匹も知らなかった。 だから連想される生き物なんていなくて、 " 雷恩 "の響きは彼だけのものだった。 春が過ぎ、夏が消え、秋を失い、冬が枯れて わたしたちは時間と共に大きくなる。 同じ学校には通えなかった。 けれど、この辺に住んでるなら、と言った あの日の言葉だけは愚直に信じたままだった。 ] (82) 2024/05/06(Mon) 23:29:19 |
【人】 従業員 ルミ[ 小学校は、三年生からようやく通えるようになったけれど その頃には彼は卒業してしまっていた。 クラスメイトにも遠巻きにされ、 気まずくて居づらくて、結局通わなくなって。 それでもずっと公園に通い続けた。 遊ぶことも誰かと話すことも出来なくなり、 彼が姿を見せなくなっても、ずっと、ずっと。 時折遠くのベンチの近くに座る姿を見たことがある。 開いた距離が、彼の答えの証明だった。 ] (83) 2024/05/06(Mon) 23:29:32 |
【人】 従業員 ルミ[ ────中学生にもなれば、自分で稼げるようになった。 眠らない街。 ネオンで真夜中も輝き続ける夜の世界に飛び込んで、 初めて自分の市場価値を知った。 彼を忘れたくて。 もう一度誰かに愛されようと、大事にされようとして、 気付けば未成年でも働ける非合法の店で働いていた。 愛想よく、好きだと振る舞えば堕ちる客。 他に好みの女がいれば身勝手に離れていく。 客から稼いだお金を他の男に流すだけの生活。 金を渡した時だけ、都合よく構えるペットなだけ。 どいつもこいつも対価を渡して初めて成立する関係 ──フェードアウトするたびに彼を思い出した。 ] (84) 2024/05/06(Mon) 23:29:37 |
【人】 従業員 ルミ[ 対価も見返りもなくわたしを救ってくれたお兄さん。 ──────なにもないから嫌になったの? お金があればいいのかな。 わたしがかわいくなれば、いいのかな? なにもないわたしに優しくしてくれたなら、 何かを持ったわたしになれば、愛してくれるよね。 ] (85) 2024/05/06(Mon) 23:29:45 |
【人】 従業員 ルミ[ 危機感持ってくれよ、と呟く彼に微笑んだ。 ストーカーなんて真っ赤な嘘。 そんな人が出てくるリスクも高い仕事だけれど、 そうならないようにお客さんを管理してる。 好きな食べ物は──…… お店のプロフィールに書いてあるんだ。 「半分こできる食べ物」が好き。 それと、真っ赤で美味しい、甘いりんごも。 ] え〜? やぁだ。 お兄さんを信用したいから、するの。 [ 昔お兄さんが甘くて食べられなかったりんご飴。 間接キスの知識はさすがに当時はなかったけど、 お兄さんと同じものが食べられて嬉しかったな。 あのりんごには、魔女の毒なんて塗られていない。 ] (86) 2024/05/06(Mon) 23:30:20 |
【人】 従業員 ルミあの、その、……色々。 部屋はエレベーターで……10階の角なんだけど。 ちょっと、ここだと他の人に会うかもしれないし…… 中で話しても良いかな。 [ そう言って、わたしは彼の手を引いた。 エレベーターのボタンを押して、10階──最上階まで。 単身者向けではない間取りの角部屋。 丁度、二人暮らしに向いているような。 ついてきてくれるなら、わたしは部屋の鍵を開けて、 彼を中へ誘い込む。 蟻地獄のように、抜け出せない迷路へと。 ] (88) 2024/05/06(Mon) 23:32:07 |
【人】 従業員 ルミ[ 警戒されては元も子もない。 急いては事を仕損じる────わたしは馬鹿じゃない。 逸る鼓動を抑え込み、指先を握り締め、 彼をソファへ座るように案内した。 部屋の内装もインテリアも、白とピンクで飾られていて 住んでいるのがわたし一人だとすぐにわかるはず。 ] お兄さん、コーヒー飲む? [ 本当は冷蔵庫にね、ピーコックブルー、あるんだよ。 でも今いきなり出すのは違和感を生むでしょう? それに、緊張を解くには温かい飲み物っていうじゃない ──……真正面から貴方を抑えつけるなんて無謀、 出来やしないと分かっているから。** ] (89) 2024/05/06(Mon) 23:36:46 |