148 霧の夜、惑え酒場のタランテラ
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でも、僕は船と共に溺死したわけではないんです。
船が沈んだその後に、―――病死しました。
船が沈んだ後に、
「貴方はこれから死にますよ」って占われていたら、
僕はほっとして、
命を運命に委ねることができたと思います。
少しは苦しみも、和らいだのではないかと。
あの時、命を落としたのは、
運命がくれたなけなしの慈悲だと思っていますから……。
[高熱によって生じた悪寒に体を震わせ、
口内は血痰で鉄の味がした。
病魔に侵された肺では、まともな呼吸もままならず、
永遠に止まらないのではないかと思う程に、咳が出た。
海でまれ、
海でち、
海でんだ。
けれど僕が最期に乗った船は、夢と愛を乗せた船ではなく、
絶望だけを積み込んだ船だった。]
[ あの話の真実は1つ。
姫は賊に攫われたこと。
嘘が1つ。
騎士が姫を救い出したこと。 ]
[ ほんの僅かに、手が届かず。
耳障りな嗤い声と共に
私の目の前で彼女は攫われた。
…追わなければ。
首を飛ばされるだけでは済まないなんて
罪と罰の行く末など今はどうだっていい
守ると誓った
己の意思で、その日まで命を全うすると
嫌いだった
嫌いになんてなりきれなかった
一番近くで6年もの間、見てきたんだ
失いたくない
守らなければ
助けなければ
駆られる衝動の正体を僕は知らない まま。 ]
[ 薄い魔力の痕跡
途中、途中、途切れ
迷いながらも、追いきった。
暗雲立ち込める趣味の悪い敵のアジト
まさかダンジョンの中層部から
通じているだなんて。
一歩を踏み出す度に
ざり、と土の軋む音がする。 ]
[ 遠く
微かに耳が拾いあげたのは、
か細い女の子の声。
ぷつり、と 慎重の糸が切れて落ちる。
うだうだとしている暇はない
考えを纏めるより先に、
声の聞こえた方へ駆け出した。
愚かだった。 ]
[ 辿り着いた部屋に居たのは
賊のリーダーらしき男
縛られて床に転がされている主
姫様と幾分も歳の違わないだろう
二人の少女 2人とも違う国の姫だ
認識するまでの数瞬の間に
]
[ 目が合った。
にぃ、とリーダーらしき男が 嗤う。
石より冷たい、非道へ堕ちた者の眼。
───動けない
逸らすことも 閉じることも出来ない
少女の
白
い服を穢し
床に滴り落ちて広がっていく
赤
が
視界の全てを埋めつくした。
僕の顔を見た瞬間に、刺したのだ。
けたけたと厭らしい嗤いが、響き渡る。 ]
「 ────お勤めご苦労!
よくやったね、君が一番乗りだ!
ほら、そっちの子だよ
返してやんな、わりと優秀な騎士さんにさ 」
[ …何を言っているのか
分からなかった。 一番乗り?
困惑の収まらないうちに、
下っ端らしき男が姫を…ヴィオラを、
連れて 返してきた。
酷く怯え 震える身体を抱き締めて
欠けてしまいそうなほどギリ、と
歯を食いしばって未だ嗤う男を見る。 ]
………一体、何が目的なんだ
[ 犠牲となった一人の少女の
亡骸
を前に
呟けたのはそんな一言だけ。
遊んでいたのだという。
三国の王女を攫って、
誰が一番に助けに来るか、と。
もう帰っていいと言う男に、
逃がすかと食いかかりたい気はあった
…訓練された騎士を欺くほどの魔法の使い手
ヴィオラを守りながら
この数を相手にするのは、…無理だ。
逃がしてもらうしか、選択肢は無い。 ]
……その子は、どうするつもりだ
[ ──それでも、生きているもう一人を
見捨てて帰るだなんて そんなことは出来ないと
男を睨みつけた。
「 殺すよ?
当たり前だよね
騎士くんが無能なのがいけないんだからさ
この子の騎士は来てないんだ。
…なぁに、その目。文句でもあるの?
なら、君のお姫様
[ 絶望の二択
主に奪われた生存。
…事の顛末だけを記す。
少女は二人共生き残ったが、
騎士の活躍によるものではない。
一人の少女が
その身を差し出すことによって、見逃された。
私はまた、何も出来なかった。 ]
[ その日から 王女は毎夜
悪夢に魘されるようになった
魘されても大丈夫だという彼女を
見ていられなかった。
私は王に全てを話した。
年若い少女が 身体を犠牲にすることを止められなかった
自分の力ではどう足掻いても 誰かが死んでいた
それでも
命を持っても償いきれないことをしたのだ、と。
王は言った。 ]
「 ──…忘れさせなさい。
増える罪は 私も共に背負おう 」
[ 人の記憶を操る禁術。
王女を蝕む破瓜の記憶を奪った。
彼女の数年の記憶までも、犠牲にして。
…それより現在に至るまで
僕は 奪った記憶による悪夢を 見続けている。 ]
[ 吐くような痛み 胸を突き刺す下卑た視線
許して
声が頭の中を木霊する
返してしまえば きっとこの
痛み
は消える
返せるはずがない
それが
罪
で 彼女の幸せになるのなら ]
[ 開かない扉に縋り着いた昼
誰にも話すことの出来ない記憶
相反する悩みの答えは
未だ 見つかっていない。 ]**
命と天秤にかけても避けられない外出。
そう、セシリーだってわかっていたはずだ。
予想なんて、いくらでもつけられたはずだ。
覚悟の上だった、というの?
続く彼の身の上話を、私は聞いていた。
確かに、事前に船が沈むと伝えられていたら
そもそも乗らないって選択だってあったかもしれない。
でも、同時に思ってしまう。
それは先延ばしに過ぎないかもしれない。とか。
運命を覆した結果
更に大きな災厄が待っているのかもしれない、とか。
知らない方が幸せだった可能性とか。
どこまでも考えすぎてしまう。
変えた結果もたらされるものと
変えない結果を天秤にかけようとしてしまう。
── 続・あの日の話
──
[崖から足を滑らせ落ちた行商人一行の一人を
救助しようと現場に向かった俺は、
無事に目当ての人物を見つけた。
それは女性のように見えた。
長いブロンドの髪。
遠くから見てもわかりそうな濃い目のメイク。
大き目のネックレス、腕輪に指輪などの装飾品。
酒場の女性が着るような深紅のドレス。
胸元が大胆に開いたそれからは
逞しい胸板が見える。
肩を出したそのスタイルは、
よく見ると結構な幅があるように思う。
首元に目を移す。
なかなかの太さに喉仏が見えるような。
いや、これは────……
]
「ああ騎士様っ!助けにきてくれたのね!
あたし、すっごく怖かったの……。」
[口を開く。低音が響く。
あ、これ男性だな。
アリアから降り立ち、近くに駆け寄る。]
もう大丈夫ですよ。
怪我は無いですか?
……いえ、足を負傷しているようですね。
痛みはどうでしょうか。とりあえずは応急処置を。
仲間の皆さんは無事なので安心して下さい。
さぁ、ここから上がりましょう。
天馬に乗って一緒に───……
[少し、考えた。
目の前の人物は男性だと思われるが、
服装や口調はどちらかというと女性寄りである。
ならば女性対応をするべきなのか?
そして相手は足を怪我している。
踏み台化ではなく担ぎ上げるべきだろう。
触って、持ち上げ良いものかと伺いを立てる。]
「えっえっ……それじゃあ、あたし……
お姫様抱っこして貰うのが夢だったの!
」
[俺は夢を叶えた。
重くない?との問いかけに
羽のように軽いですよ
、と答えながら
岩のような重さを体験した。
寒くはないですか、と外套をかけて渡した。
落ちてしまわないように、彼女(?)を俺の体に
しっかりと紐で縛り付けた。
対応は何も間違えていなかった筈だ。
間違えては、いなかったのだが。
]
念のため、後ろからもしっかりと
私に掴まっていて下さい。
…………っ!?
いえ、あの、そこまで強く抱きつかれると
鎧が割れてしまうので、もう少しソフトに……。
「あたしの名前はロザリンド。
ねぇ白馬の騎士様、貴方の名前を教えてくれる?」
[ロザリンドは情報通だった。
次の日には家に御礼の手紙が届いた。
それに返事をして、そこで終わる縁の筈だったのに。]
「エアハート様って、
お父様が騎士でお母様が商人なんですって?
まるであたし達の関係みたいですね♡
馴れ初めってどうだったんですか?
もしかしてあたし達みたいな運命的な出会いだったかも。」
「エアハート様がアリアちゃんと一緒に食べられるように
人参のスコーンを作りました♡
あたしの事をもっと好きになってくれるようにって
おまじないをかけたので是非食べて下さいね。」
("もっと"とは??食べ物は粗末にしませんが
呪文の効果は無かったようです)
[じわじわと、攻め込んでくる。
ついに家にまでやってくるようになった。
"俺は恩人なだけ"そう言い聞かせて対応していたが、
同時に何か身の危険を感じていた。
────そしてついに来た。]
「エアハート様、あたし……
そろそろちゃんとした関係を持ちたいんです。
本当はエアハート様の方から
切り出して欲しかったのだけど
どうか、あたしとお付き合いして下さい。
」
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