【人】 翠の星 クロウリー[祖国へ足を踏み入れたのは果たしてどれ程久しいか 世界情勢に振り回され、社会の糾弾を受け、行き場を失った結果 死に別れた友の伝を頼り隠れ潜むことを選んだ。 かの国で偽りの身分を持ち、魔術結社を立ち上げてからの 数十年の生活は悪いものではなかった。 別の団体の指導者であった彼とも出会うことが出来たのは大きい。 しかし、共に設立したばかりの求道の家から裏切り者が現れ、 敢え無く生活は終わることとなり、信奉者達とも引き離され 得る筈だった利益を思えば惜しさばかり。 妻の気が触れたのはお前の行った魔術のせいだなどと お前は悪魔だなどと、勘違い甚だしい。 私が悪魔そのものだったというのならば、 何故我々は各地を渡り歩き召喚儀式を行ってきたというのか?] (120) 2022/05/18(Wed) 21:30:52 |
【人】 翠の星 クロウリー[人間という生き物は愚かなままだ 繰り返される争いから学ぼうという姿勢すら見受けられない上に、 正体など分かりきっていることなのに妄言で勝手にそれを覆い隠す。 私がちっぽけな農村の子供であった頃から変わらない。 そんな利用する為の価値しかない生き物に 二十年以上を掛け作り上げたものを崩されたのは非常に苦々しい。 ただ、長らく喧しい人間社会に紛れ込んでいた身には 少数の支持者と共に生活する静かな日々は悪いものではなかった。 緑に囲まれる世界は、遥か遠い記憶を擽った。 その日の朝も、居室の窓を開き 香と薬物の臭気で濁る空気を洗い流していた。 風が吹き抜ければ葉と葉が擦れる音が静かに鳴り、 砌を迎えた郊外の森はどこまでも青々と彩られている。] (121) 2022/05/18(Wed) 21:31:08 |
【人】 翠の星 クロウリー[しかし、穏やかとは言い難い朝。 かつて悪魔と契約した魔術師である私には、見えぬものが感じ取れた。 森に踏み入った人間の人数を瞳を閉じて数えていた時、 ────後頭部に銃口が押し付けられ、口角を上げた。 この部屋にいるのは魔術結社の主宰と、その秘書だけ。 なるほど、もう随分前から間違えてしまっていたようだ。] 今更私を差し出せば神に受け入れられるとでも思うのか それとも、……我々はもう用済みということか? だとすれば悲しいことだ 我が友は同胞の心の裏切りに気づきもせず逝ったのだろうね [国の危機は人間の心の隙間を突くには最適であると、 一層にあの方の喜ぶものを献上出来る機会であると認識したが 驕り過ぎていたことは認めなければいけない。 半端な志を持った結社の寄生虫や入り込む鼠だけが 内側から米袋に穴を空けるわけではない。 この男は死者の団体を引き継ぎより大きくしていくことだろう。] (122) 2022/05/18(Wed) 21:31:41 |
【人】 翠の星 クロウリー[ お前はあの方を友となど思ったことはないだろう。 背後からの指摘には、一層に笑みが歪むばかりで 魔術師はこの時は敗北を素直に受け止めた。 ────それが数時間前の出来事である。] (123) 2022/05/18(Wed) 21:33:12 |
【人】 翠の星 クロウリー[魔術結社翠の星 主宰のアレイズ・クロウリーが某国にて国外退去を命じられ、 協力関係にあったカルト団体を頼りに当国へ渡り数ヶ月後、確保された。 しかし、どの紙面にも彼の写真は存在しない。 既に壮年を越えている筈のその容貌の若々しさと、 異様な程の白肌を知る者は異端思考に傾倒する仲間を除けばごく僅か。 クロウリーの亡くなった友の付き人であり 病を患ったことから悪魔信仰に傾いた青年、と外部ではされている。 一見その男の秘密を守るような情報操作は──── 教会主導で行われており、邪教徒らは関わっていない。 特異性に気づかせぬ為、悪魔と魔術師が誠に存在すると知られない為に。] (124) 2022/05/18(Wed) 21:33:47 |
【人】 落星 クロウリーなあ、秘書は君達に幾ら貰った? いやあ、恥ずかしいことだが確かに我々は常に金には困っていてね 聞いたところで恐らく同じ額は出せなかったのだけれど 何しろ私を明け渡せる程の金額だ、勿論それなりだろう [いつの間にやらこんな田舎街まで幾多の自動車が行き交うようになった。 結社を立ち上げほんの二十数年、森の中の廃教会に潜伏し僅か数ヶ月 人間の命は儚いものだが、その分彼らの文明圏の歴史は早く回る。 今までどれ程それに翻弄されてきただろう。 だが、護送車の中男達に挟まれていては窓の外を見る気にもならない。 そうでなくとも頭には布袋を被せられているのだが。] (125) 2022/05/18(Wed) 21:34:21 |
【人】 落星 クロウリーどうやって処刑する?火刑かい、断首かい 今時そんなものを見せつけられたら民も困るだろうな いや……案外、そうした刺激を待ち望んでいるかもしれない 私のブローチは何処に?あれだけは返してくれないか 養父との思い出の品なのでね [籠もった声だけが車内に響く、 喋り続けるのは指導者となってからの癖のようなものだが、 ここまで返る言葉が無いと暇潰しにすらならない。 警察を装った男達はその実教会の遣いであり、 魔術師の言葉に耳を貸さないよう言われているのだろう。 最後の問いだけは本当に知りたかったのだが。 ため息をつき、そろそろ口も乾いてきた頃 やけに烏が喧しく喚いているのが耳に届き────鳥肌が立った。*] (126) 2022/05/18(Wed) 21:34:36 |
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