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【人】 舞戸 黎哉[その答えは知っていた。 でも、それでも期待した。 もしかしたら彼女が違う答えを口にしてくれるかもと。 自分とは違う答えを選ぶことを。] ……言えないから、ここにいる。 そうだろ? [もう一度お茶を喉に流す。 ずいぶんとぬるくなってしまった様に感じた。 諦め共感の合間で柔らかく微笑む。] でも。 一度ぐらい言ってみればよかったかもな。 [たとえ現実が変わらないとしても。 何も変わらなかったとしても 声に出してみれば、もしかしたら自分の中で何かの欠片ぐらいは動かせたかもかもしれなかった。] (77) 2020/08/18(Tue) 0:58:40 |
【人】 舞戸 黎哉[お茶を置いて立ち上がる。 小さな机を挟んで手を伸ばし差し出す。 俯くように視線を下げた月子に向けて。] ……シようか。 今日が最後だって言うなら。 [月子が手を取るまで決して引っ込めたりはしない。 じっと月子を見つめる。 その瞳がこちらを見るまで、じっと、いつまでだって。] (78) 2020/08/18(Tue) 0:59:42 |
【人】 舞戸 黎哉[次に視線を外したのは自分の方だった。] ひどい女だな。 それは男にとって拷問みたいなもんだぞ。 [セックスを目的にここに来ているはずなのに、それ以外の何かを求める人。 何を思って男に抱かれたのだろう。 何を思って交わっていたのだろう。] いいよ。 一緒に眠ろう。 [差し出した手をそのままに、ゆっくり視線を戻した。] (90) 2020/08/18(Tue) 12:44:24 |
【人】 舞戸 黎哉[二人並んで布団の上に。 密着する身体、足を交差させて、包み込むように抱きしめた。 華奢な月子。 邪な衝動は胸の奥に沈めて、ただ静かに抱きしめる。 肌を触れ合わさないまま、互いの体温と鼓動、それと呼吸だけが交わって。 月子が望んだのはこれだけ。 セックス以外の何か。 本物の恋でなくても、本物の愛でなくても、身体以外の何かを求めて。 それでも、─── 嬉しかった。] (91) 2020/08/18(Tue) 12:45:24 |
【人】 舞戸 黎哉[声はない。 その沈黙が何より雄弁な答え。 わかっていること。 それは諦めでもなく、流されているわけでもなく、とうの昔に自分たちが選んだことだから。 お互いを誰よりも理解し、同じ気持ちを抱く人。 だからこそ。 自分では彼女を救えない。 同じ者が二人いても、選択肢は増えやしない。 同じ物が二つ並ぶだけ。 月子を救えるとしたら、それは別の何か、別の誰か。 きっとそうなのだと思う。] (112) 2020/08/19(Wed) 7:29:25 |
【人】 舞戸 黎哉………… [抱きしめる腕に力を込めそうになる。 奪い取ってしまいたくなる。 無理矢理にでも犯し、子でも成せば何もかも壊せるだろうか。] ………… [泣いてくれたらよかったのに。 泣かせられればよかったのに。 理解なんてできなくて、気持ちも違っていて、それならきっと強引にでもその手を掴めたのだろうか。] (113) 2020/08/19(Wed) 7:30:29 |
【人】 舞戸 黎哉[微睡の中に沈む月子にそっと囁く。 口にしてみたその言葉、本当かと問われれば、きっと「わからない」と、答えるだろう。 軽口ではなくとも、こんなものは戯言だ。 戯言でしかない。 ゆっくりと目蓋を閉じて、月明かりに身を委ねた。]* (114) 2020/08/19(Wed) 7:32:45 |
【人】 舞戸 黎哉[朝。 おはようと言う君の声。 抱いたままの腕の中から解放すると、物寂しさを押し殺して、おはようと短く返した。 布団から這い出る君を目を細め眺める。身体を伸ばして広縁へと向かって、ガラスの向こうを見た君を。] そうだな。 [同じように口元を緩めて、日の中でキラキラと綺麗な君の姿を見つめていた。 今なら、わかる─── 俺は、君に ───]* (118) 2020/08/19(Wed) 12:36:45 |
【人】 舞戸 黎哉── 百日紅 ── [伸びる月子。 大きな欠伸を一つして滲む涙を拭き取って。 そんな姿を見せてくれていることに嬉しさが滲む。 そして。 窓から差し込む陽の光に目を細めた。] ……綺麗だな。 [もちろん、─── お前の事だよ。] (141) 2020/08/19(Wed) 19:07:03 |
【人】 舞戸 黎哉[それから布団を引き剥がされては口を少し尖らせる。] ……あと5分だけ。 [わざとらしく眠そうに目を細めて言ったけど、口元の笑みは消せなかった。でも月子だって同じ様なものだったから。] ん、起こしてよ。 [我が儘を一つ。] (142) 2020/08/19(Wed) 19:07:49 |
【人】 舞戸 黎哉[細めた目で月子を見上げていたら、愛らしい唇が結ばれ、綺麗な長い睫毛が伏せられた。 そして、差し出される手。] 仕方ないなぁ。 [柔らかくその手を掴んだ。] (143) 2020/08/19(Wed) 19:09:17 |
【人】 舞戸 黎哉[その瞳が伏せられている間に首を横に振る。 両手で確りと掴まれた手。 その手に体重かけて、でも、体を起こして引き上げ“られて“しまう。 だから───] 隙あり。 [唇と唇の合間にチュッと音が鳴った。]* (144) 2020/08/19(Wed) 19:11:48 |
【人】 舞戸 黎哉── 百日紅 ── ぁ─── [微笑む月子に、何か言おうとして結局言葉にならなかったから、ニッコリと笑顔を作った。] 会えてよかった。 [絞り出した声は明るい響きで、我ながらうまく出来たものだと心で苦笑いを浮かべて。 そうして月子に背を向けて。 目を瞑ったまま浴衣の合わせを直して、帯を締め直して、それからあと何を直そうかと思案して、だけど、もう何も直すものが無かったから。] お茶、ご馳走様。 [だから、そのまま扉へと向かった。]* (153) 2020/08/19(Wed) 21:27:52 |
【人】 舞戸 黎哉── 柳の間 ── [月子と別れ、部屋に戻った。 諦めたはずの柔らかな微笑みが焼きついて離れない。] 礼なんて………言うなよ。 [聞きたかった言葉はそれじゃない。 でも、聞けないこともわかっていた。 自分だって、戯言と知っていながら、耳に届かないとわかってなければ口にすることも出来なかった。 お互い自分から手を伸ばせない者同士だから。 だからこそここに来て、ここで出会って、そして─── ] ……くそ…… [パタリとベッドの上に倒れ込んで。 後悔と、自嘲の中に沈み込んでいった。]** (168) 2020/08/19(Wed) 22:49:32 |
【人】 舞戸 黎哉── 数ヶ月後 ── [ソファに座って写真を眺めていた。 それは、つい先日決まった婚約者で地元有力者の娘さん。 どこかあの子に似ているけど、でも、よく見るとやっぱり似ていない。似ているのは長く綺麗な黒髪だけで、そこだけは好きになれそうだった。] ……十分だ。 [十分遊んだし、十分楽しんだ。これはその対価。] (173) 2020/08/20(Thu) 8:58:34 |
【人】 舞戸 黎哉[あの晩は楽しかった。 酸いも甘いも知った夜は、これからもきっと忘れられないだろう。 この先。 婚約者と結婚し、子供をもうけて舞戸の家を盤石にする。一族のさらなる繁栄のために生きていくのだ。 いつか子供たちに、孫たちに言い聞かせた時に誇れるような生き方を。 だけど。 あと一歩、前に踏み出せていたらこの生き方は何か変わっただろうか。 今の生き方に不満はない、苦もない。 だけど決められた生き方以外の苦楽のある生き方があっただろうか。 そんな想いをずっと抱えて生きていく。 それでいい。 ─── それがこの舞戸 黎哉の生き方だ。] (174) 2020/08/20(Thu) 8:59:11 |
【人】 舞戸 黎哉[彼女には背を押してくれる人がいた。 自分には居なかったし、居てもきっとこの背を触れさせることはなかっただろう。 これが彼女と自分の違い。 ……そうということを知ることもないが。]** (175) 2020/08/20(Thu) 9:00:09 |
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