124 【身内P村】二十四節気の灯守り【R15RP村】
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新
[1] [2] [3] [4] [メモ 匿名メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
ーー先代の記録ーー
[正直、小雪域に連絡されるなり、眞澄を呼ぶなりされると全力で逃げなければならないので、匿ってもらえるのはかなり助かりました
。
もう、小雪域に戻るつもりはなかったから。
僕のことを覚えている住民がいなくなるまでは、戻れないから。
そんなので、格別な酒に舌鼓をうつわけですが。
酔った勢いで子育ての苦労話とかも語って聞かせた気もするし、風呂の話になれば行こう行こうと軽率に乗って笑った。
冗談を冗談のまま終わらせない。それが菴クオリティ。
小満域を出る時には、どうせまた寂しくなったら寄るよ。なんて軽く答えて。
じゃね!と軽く出ていった。
見送る方は黙ったもんじゃないかもしれないけど、見送られるのは安心した。
その事に気付いたのは、こんなに遅くなってからで。
これは眞澄には教えられなかったな、なんて。
]
[結局、飛心に任せると言わなかったのは、言わなくても見てくれると思ったからだ。
心から信頼していたから、言わなくても通じるでしょと甘えていたのだ。
大丈夫でしょ。
僕が教えてもらったんだ。眞澄にも教えてくれるでしょ。*]
[ 春分域の桜は、名勝として広く知られている。
その辺を歩いているだけで美しく、
ただの公園でも観光地かと思いそうになるけれど
本当に観光地として発展した場所の
山ひとつ薄紅に染まる様子を初めて見たときは
『 すごい…! 山が桜色です!
春分域の桜といえば世界的に有名ですが
本当に、ほんとうにきれいなんですね…! 』
柄にもなくはしゃいでしまって、
春分さまも少し驚いたようだった
(ように見えた)
立春の祝い事は世界的な祭の様相を見せるけれど、
春分の祝いも、ちょうど桜の時期と重なるために
ちょっとしたお祭りになる。
「この桜を見るために来たんだ」なんて
各地から足を運ぶひとも少なからずいる。わかる。
なんならそうやって来る観光客、只人だけでなく
(移動の観点で言うと只人の方がすごいのだけど)
どこぞの灯守りだったりもするから驚く。わかるけど。 **]
――回想:庵とのひと時
[ 其の日も己は其処に居た。
其処に居ながら 其処には居ない
"彼"の大嫌いな人間達と話していた時だった ]
……?
[ それは予感めいた何か。
少しずつ呼ばれることのなくなっていく
其の名を 呼ばれた気がした ]
[ 冬至の領域への扉は
どこにでもあって どこにでもない。
許された者以外が迷い込めぬよう
其の入口は緩やかな迷路のように秘されている
故に、権利を失った者が入るのは難しい
権利を失った事を知っていたならその限りではなくとも
もし 後者であったなら。
彼のもとに使い蛍が見えた時 その先に戸は開かれたろう ]
[ 彼が小雪域を出て どれくらいであったか
彼のくだした選択を。
知っていても 知らなくても
少女は変わらずに迎え入れるだろう
近くとも近すぎず
親しくとも親しすぎない
そういう間柄だからこそ出来ることもあり
居心地の良さのようなものがあるとも 想うが故に。
彼が露天風呂を所望する様子があったなら
いつかの雪見風呂だって再現しよう
この頃には試作品ではない風呂用衣服もあった。
なんなら一緒にのんびり浸かろうと用意したりして ]
[ 他愛ない話をしたろう。
お風呂大作戦の話はやっぱり外せない
慣れない酒も 其の時ばかりはちびちびと飲んだろう
彼が陽気にこのひと時を楽しむなら
己もまた それに興じよう。
その内にもし、
陽気だけではない声を零すなら
己もまた 彼の声に耳を傾けよう。
そうして 彼が旅立つ時には
お土産に金平糖を渡して
「さようなら」ではなく
「いってらっしゃい」の結びを * ]
ーー回想:あるお祭の日ーー
[お祭りが開かれる日は、必ず会場へ出向いて様子を見るのが慣例だ。
その年は、15の風見家の子が挨拶に来るという事だったけれど*。]
……元気で活発な子ね。
[そこまで気を使わなくてもいいのに。と思う反面、その気遣いが嬉しくて。
ようやく来た頃に抱えられた量に、更に笑った。]
甘いものは大抵好きよ。
だから、どれが良いか悩んでしまうわね。
[その両腕に抱えられたものを見て、目が移ろってしまうのは本当のこと。だからね。]
貴方の好きなものを頂戴?
[一緒に分けて食べましょう? と、答えたこともあったか。*]
─先代霜降より見た立秋─
[ 立秋は明るく場を和ませる雰囲気を持ち、
なお可愛く甘えて来るものだから、紫明が心を許したのも
早く、後輩として可愛がっていた。
]
「なに、葵ならすぐにしっかりとこなすだろう。
ここに頼れる先輩もいるからな。
そうだな、落ち着いたら各領域をのんびり
見て回りたいと思っている。
その時には、俺の好物でも用意しておいてくれ。
[ 好物とは、百年以上前から味も銘柄も変わらないままの
立秋域産茶葉の紅茶クッキーとリーフパイ、紅茶セットのこと。
ハグには自らも背に手を回し、何度か背中と頭を優しく叩く。
立秋も灯守り歴は現役では長い部類であり
幾度と灯守り達の引退、着任を見てきたのだろう。
去り際には「じゃあな」と、やはり別れの言葉は告げずに。]
[ 私が立秋域に初めて足を踏み入れたのは
蛍になり間もない頃、まだ十歳弱の時でした。
紫明様の昔からのお知り合いであり、灯守り歴も長く
「気さくな奴だから緊張しなくて良い」との前評判通り
外見も言動も、年齢を感じさせない方でした]
あの、これ、生まれつき、この色なのです。
[ 霜降域は銀髪と赤、もしくは黄系統の髪色の子が
多く生まれると聞きます。
私の場合父は銀、母は金で、私の髪色は
どうやら縁起が良かっただったようですが
道を歩けば視線が刺さるこの髪色は、
あまり好きではありませんでした。
勿論、綺麗だと言って下さる方も多かったのですが。]
おしゃれ、きれい……。
……名前、そういえば、そうですね。
三色……ふふっ……。
[ 直感ですが、立秋様の反応は偽り無き本心だと思いました。
褒めてもらえたことは嬉しかったのです。
さらに葵が青で三色という発想は無かったので
自然と表情が綻び、笑みが漏れたのです。
──この時、私は漸く、自らの髪の色を
少し好きになれたがしました。
以降、立秋様に好感触を抱き、紫明様には]
立秋様と、またお会いできますか?
[ と尋ね、立秋域に行く有事の際には、同行したいと
おねだりしたこともありました。
立秋様は紫明様にカリーユと呼ばれていたことは
初対面の頃から知っていましたので
私も何度か会ってから「お名前で呼んでいいですか?」と
尋ねたのですが、快諾して下さったでしょうか。
私が霜降となってからも、霜降域を訪ねて下さることがあり
その際には「相変わらずお上手ですね」と
慣れた対応が出来るまで、成長していたことでしょう。]
[ 少女の心を鷲掴みにした、立秋様の蛍──
ダイくん様チュウくん様ショウくん様とも
訪れる度に会いたい、お姿を見たい、と
周囲を見渡していました。
最初はぬいぐるみのような存在で、
会話は出来ないのかと思っていたのですが
唐突に喋り始めた時>2:*32は、びくっと肩を震わせて]
きゃっ! びっくりした……おしゃべりできるの?
わたし、葵。よろしくね、ダイくん!
チュウくん、ショウくんもね。
[ 驚きながらも、可愛らしい蛍さんたちにお辞儀をしました。
許されるなら、手を伸ばし、恐る恐る頭を撫でてみます。
果実のような姿をしていらっしゃる蛍の皆さんは
食べられるのかしら? と純粋な疑問を抱いたのですが
素直な子供とはいえ、さすがに口に出すのは憚られました。
]*
[ 大雪の彼女とは、実年齢は同じぐらいであったと思うけれど、灯守りとしては彼女の方が先だった。
先代とも被る期間があったと思うけれど、
「ぬいぐるみの姿で話す灯守りが居るんだけど」
と、雪兎同様に笑みで話していたのが思い起こされる。
彼は私と違って、可愛いものを正当に「可愛いもの」として受け取れる人間だった。
]
[ ――“蛍”でも“弟子”でもなかった私が、“灯守り”になった当初、
灯守りの何を知っていたかと言えば、一般人と殆ど変わらない事しか知らなかっただろう。
先代の彼と一緒に住んでいた訳でもないし、彼は仕事の事を深く私に話すような人ではなかった。
処暑域の行政職員は相当頭を悩ませていたと思うし、非常事態に中央域の職員も対応に追われたのではないだろうか。
当時の私にはどうでも良いことであったが。……否、今もそうかもしれない。
処暑域の職員は、突然灯守りになった私に対し諸々の必要事項を伝えつつも、
彼を失ったショックで
気のない私に業を煮やしており、私への対応は強かった。
しかしそう急かされても私はぼんやりしていたから、それが益々彼彼女の反感を買っていただろう。
職員は、彼と私の関係を知る事はなかった。
私も喋ることはなかったから、唯、容姿が似ているから血縁だろうか、と判断されていた。
それと、私が彼を亡くして放心しているのも話していなかったし、傍目からでは、私の様子は分かりにくいから。
故に、私の心情は慮られることは少なかった。
……それでも諦めることはなかった職員たちには恐れ入る。
否、先代の彼の部下と思えば納得するのだが。
なんとか行政が形だけでも回るようになった頃、灯守りの会合への参加を勧められた。 ]
[ “
灯守り”としての仕事については、立秋の彼に大きく世話になったと思う。
職員が教えられぬ事については、彼に教わった。
幸い、というべきか、灯宮の番からは遠い時期ではあったし、教わる時間はあった。
……尤も、当時の私は放心状態であったから、反応も普段より更に鈍く、良い新人とは言い難かっただろうが。
そこについては、少々申し訳なく思っている。
彼にも会合の参加は勧められたのだったか。
職員に言われた事は、聞かない事も多かった。
それでも参加に踏み切ったのは……彼に言われたから、というのもあったのかもしれない。 ]
[ 当時の会合出席メンバーで、今も残っているのは、24の席の1/3程度か。
そう思えば、当時の私を知る者は今でも案外多いのかもしれない。 ]
―― 小雪の彼女 ――
「 彼女は“雪”みたいに凛としたひと……かな
雪を見てる時みたいな、ぴんとした空気を感じるひと 」
[ 先代の彼が、私に仕事の話をする事は殆どなかったけれど、
その代わり、灯守りの人となりについては随分聞いていた気がする。 ]
「 規律に関してしっかりしているし、
統治者として尊敬出来るひとだよ
少し近寄りがたく見えるけど……本当は優しいひとなんだ 」
[ その時彼が話していたのは、当時から小雪号に就いていた彼女の事。
小雪域は少々遠くて行ったことはないし、そこの灯守りについて全く知らない。
ただ、彼が尊敬し、理想としているのだな、という事は分かる。
元々行政職員であった彼。
少々住民に対して心を砕きすぎるところはあるようだが、規則は出来る限り侵さないようにする気質であったから、彼女とは相性が良かったのだろう。
でも「目を引くような美人だよ」と、私の前で躊躇もなく言うのだから、本当に仕様がないのだが。
]
[ 等身大の灯守りの話を聞こうとも、実際会う機会があるとは思っていなかった。
それが今、
灯守り同士として会っているのだから、どう受け止めれば良いのか分からない。
小雪の灯守り、と名乗った彼女は、確かに雪のような鋭さを持つ美人であった。
]
………………初めまして
……はい、『処暑』です
……何か?
[ “新しい”処暑、とは言えなかった。
当時の私の容姿は今より少々若く、見方によっては彼の弟妹か、従兄弟ぐらいに見えたかもしれない。
しかし当時から、感情が表に出ないのは変わらず、更に当時はそもそも感情が凪いでいたから、何を考えているかは分からなかったかもしれない。
ただ……灯守りとして私の灯りを捉えたのなら、弱弱しくなっているのが判った、かもしれないが。
灯りと離れる事が不安で、最初は灯りを持ってきていたのだ。
]
――――っ、
[ しかし、先代に似ていたから驚いた、という言葉を聞いて、私は一瞬、あからさまに科表情を歪めただろう。 ]
[ もしかしたらその反応で、先代の関係者だという確信は持たれてしまったかもしれないが、それはさておき。
彼女は「何かあれば相談に乗る」と言ってくれた。
……彼の言っていた通りの、優しい人、のようだ。
有難い事だとは思った。けれど私は、どうするのが正解か分からずに、「ありがとうございます」と当たり障りのない反応を返したのだったか。
人見知り、人と関わる事自体が苦手、加えて全他者に対して薄く不信感があったから。
その厚意を、素直に受け取る事が出来なかった。
……話したくない訳ではなかった。けれど私から何かを話すことはなかったから、彼女は直ぐに離れて行ってしまったか。
彼女の心の内は知らない。私自身を気に掛けられていた事も。
]
[ 半ば強制的に関わりが深くなった立秋の彼はともかく、私は他の灯守りに対してなかなか心を開けなかったし、会合へ出るのも、暫く間が空いた。
私は“外”へ出られずに、殆ど領域に引きこもり、淡々と業務をこなしていたけれど、
ただ、“外”のことは、“風”によって“見て”いた。
処暑の灯守りに受け継がれる能力『風星』。
空から地上を見つめる星のように、風によって離れたものを観測出来る能力。
ただ、私は処暑域を見れば見るほど、分からなくなってしまっていた。
この人々に守る価値があるのだろうか、と、そういうことを考えてしまう。
彼から託された位。きちんと継がなければいけない、という思いはあったけれど。
それでもやはり、彼を失った世界に、意味を見出す事が出来なかった。
――私は、この世界を嫌いになってしまっていた。
“風”を小雪の彼女の元に飛ばしたのは、ほんの気紛れだ。
彼が尊敬していた彼女の仕事を“見れ”ば、もしかしたら民を治めるとはどういうことか、分かるのではないかと。
……さて。それが始まりであった。
灯守りという存在を“観測”するのは
興味深く、元の学者気質は蘇り、熱心な趣味となってしまった。 ]
[ 会合にも出るようになった私に、彼女は再び話し掛けてくれたのだったか。
何れにせよ、私も彼女には慣れていったし、それから私が目的を持つきっかけになったことにより、少し、特別気にするようになった。
もしかしたら彼女は、私が問題ある統治者となっていることを良く思っていないのかもしれないけれど。
今の印象としては、理想の統治者とも言える、しっかりした灯守りだということだ。
しかし……どうやら、先代に反発していて、そこに何かがあるらしい、という事は分かった。
私にはそれをどうすることも出来ないし、
傍観者故にどうしたいと思うこともないけれど。
私は時々彼女宛に、処暑域の農作物を送っている。
彼が、短い就任期間にどうやらそうしていたらしいから。
最初は彼女に相談に乗ってもらった事の礼だったようだけれど、幾ら感謝しても足りないから、とそういうことだったらしい。
私の言動は彼と似ても似つかない訳だけれど、彼の行動をなぞる私は、彼女にどう見えているのだろうか。
今なら、なんとなく分かる気がする。彼女が最初、私の容姿を見て驚いた理由。
彼女も、彼の事をそれなりに大切に思っていたのではないか、と。** ]
[ 子供らしい遊びの一般教養が足りず
おままごとの『たべる』は食べるふりでいいのだと
知らないうちは話をそらすことで誤魔化そうとした。
『一般的な夫婦』の会話を知らないうちは
なんでも小さな妻の望むようにしたいと
質問に質問で返してでも
彼女の望みを聞くことでやり過ごした。
母親の生き写しみたいな彼女はいつでも母親役を望んで
わたしはいつもその伴侶役、父の役で。
ママの真似をしたがる彼女とは対照的に
その場面で父ならどうするかを一切知ろうとしなかった。
こんな場面でまで父の代理を与えられることには
不思議と然程何も思うことはなかった。
単純に、父の存在が必要がなかったからだ。
青く茂る草原の上に広げた虹色のピクニックシートの上の
間取りも曖昧な小さなおうちで
即興で紡ぎ出される物語は、彼女にとっては
日常をくり抜いた両親の真似事であっても
わたしにとっては知らない世界の出来事で。
全然父親の真似をできないわたしの存在を彼女は最初から
そうじゃないと否定して責めることはなかったから。
そのまま受け入れてくれたから。 ]
[ 父がどうとか、そんな些細なこと。
わたしと、この子と、ぬいぐるみたちだけの
この小さなおうちのなかでは必要がなかった。
わたしが何者かも理解していないこの子が
わたしをわたしのまま受け入れてくれるのなら
この2メートル四方程度のささやかな幸せを
いつまでも守ってやりたいだなんて
傲慢に、軽率に、思うようにさえなっていった。 ]
[ 彼女の望むことはなんでも叶えてやりたいと
思うようになるのにそう時間は掛らず
彼女の母親がちょっと困るくらいに彼女を甘やかした
たまに遊びに来ては甘やかしたい時だけ甘やかす
彼女にとって都合のいいわたしに
彼女がなついてくれることは
あまり不思議はないと思えたのでもうこわくはなかった。
愛情を与えられることも与えることも不慣れな
気の毒な子供の顔をしておけば
彼女の母親も過ぎた贈り物を咎めることはしなかった。
唯一望まれても叶えられなかった望みは
『帰らないで』だけだと思う。
そこだけは踏み越えないと決めていた。
彼女にとって甘やかすだけの都合のいい存在で居たかった。
家族になってしまうのがこわかった。
なろうとしてもなれないと思い知るかもしれないことも、
近すぎる距離で衝突することも、なにもかも怖かった。
彼女の母親からかけられる言葉が
「またあそびにきて」から「もう行くの?」に変わっても
頑なに、「また遊びに来ます」を繰り返した。
「自分の家だと思って何時でも帰ってきて」と言われても
形だけでも頷くなんてできなかった。
望んでも父から貰えなかったその言葉は
あんなに欲していたくせに
いざ与えられてみると
受け取り方がわからなくて、怖くて堪らないだけだった。 ]
[ 歪な愛情を捨てるゴミ箱みたいに、節操なく贈っては
はしゃいで喜んで懐いてくれるだけでよかったのに
それだけがよかったのに。
自分の趣味を刷り込む父のやり方を
同じやり方で押し付けて否定したつもりになって
気持ちよくなっていられる時間は案外短かった。
初めて返された贈り物は、彼女の説明を聞いても
全然何がどう描いてあるかわからなかったけれど
隣で一緒にお絵描きをしていたからわかることもあった。
画用紙いっぱいに彼女のお気に入りの色と
一生懸命が詰まっていた。
彼女のような、相手が喜ぶ上手な喜び方ができなくて
上手く笑えなかった顔はきっと
泣き出しそうに歪んでしまったと思う。
「上手にかけたね」「うれしい」「ありがとう」
「たからものにするね」
彼女の傍で過ごした時間のおかげで
正解の言葉を返すことはできたけれど。
そんなものじゃたりなくて。
背筋が冷たく凍りついて
恐怖に震える心地だった。
どうしよう、かえしかたがわからない。 ]
[ 今でもわからないままだ。
全然成長できないわたしを表すみたいに
灯守りになったわたしのすがたは時間を止めて
あの子だけがどんどん成長して、離れてゆく。
与えられた暖かなものを
まだ全然返せていないのに。
焦る気持ちは次第に消えて
今ではそれのままでいいとさえ思っている。
返し終えてしまったら、
全て終わってしまう気がして。 *]
― 先代の話 ―
[村雨は家庭に恵まれない男だった。
家族は出来のいい弟ばかり構う。人当たりをよくして、交流を広くして、仕事に励み、いい顔して世を渡ったが、精神が段々もたなくなっていった。
端的に言えば孤独だったのだ。
自分に好意を寄せてくれる存在がいても、自分と似てて、自分よりはるかに出来がいい弟が現れれば全てもっていかれる。
そこで出会ったのは先々代雨水だった。
彼は穏やかに、村雨の話を聞いた。出会ったばかりなのに、不思議と全てを話すことが出来た。]
「それは、さみしいね」
[そう言われて心の孤独をまるで雪解けのように。解いて貰えた。]
[それから村雨は彼の元に通い詰めた。色々話を聞いて貰った。
先々代には蛍はいたが、彼が着任する時同時に共に頑張ろうと手を取り合った友人同士。年も年だった。先々代の引退と同士に引退すると明言していた。
先々代は人間としての寿命で終わる事を望んでいた。後継が必要だった。
先々代はそんな環境でも心根を曲げなかった村雨を気に入って、雨水になる話を持ち掛けた。
彼は受け入れた。
家族にはその後、今頃という清々しさですり寄られたが、最低限の仕送りだけ確約して近づかないよう約束させたのだった。
灯守りになってからは大変だったけれど、やりがいもあった。先代に蛍だった人がが手伝ってくれたし他の灯守りや中央の人間にあれこれどうしたらいい? と問いかけるのを恥じない男だった。
なお、その当時既にそこそこおじさんの年になっていて。今更外見を若くするのはそっちの方が恥ずかしくないか? とそのままにしたという。
やっと居場所を手に入れた。
その幸福感で満ち溢れていた。]
[彼女と出会ったのは、灯守りになって少しした頃。
そろそろ自分の蛍を探したほうがいいだろうと思った時期だった。
彼女は自分と偶然出会って
彼女は自分に惹かれてくれて
彼女は自分と結婚したいと望んでくれた
家庭を持ちたい。その願いが強い男は彼女を受け入れ、蛍にして妻にした。]
[すべてが壊れたのは……年月が暫し経ってから。]
[彼女は若く、美しい女だった。
結婚した時は皆に自慢したものだ。
だから外見年齢を止めたまま。少しでも釣り合うように見目も気にした。
女は自分の容姿に自信を持っていた。
だから、気づいた時逃げるしかなかった。
自分だけが年をとっている現実に。
告げれば男は一緒に老いると言っただろう。
愛しているからいかないでくれと懇願しただろう。
女はそんな男の優しさが苦しかった。
本当は、だって本当は。偉い人の妻になって自慢したかった。自分が特別だと思いたかった。
それが彼に近づいた理由だった。
美しさがなくなる自分はもう、そんな彼とつりあうものは持てないと──── 彼から、
逃げた。
]
[蛍をやめる言い訳に妊娠したかもしれないから引退すると。他に引き継いでほしいと願った。
村雨はは妻以外を側におかないと告げた。
安心させたいと惚気た。
愛されるほど、自分の醜さが嫌いになった。
対して村雨は家族をほっしていた。
だから懐妊の可能性にのぼせあがった。
気づけなかった。何もかもに。
気づいたら離婚の手続きも終わっていて
一人、残された。
置手紙には時間がずれていくのが辛い旨
本当はあいしてなどいなかったと
彼女の最後の嘘を 残した。
村雨は泣いた。あちこち探した。
後日、知人越しに彼女は他の男と結婚していると教わり、ようやく諦めをつけた。
引きこもりの灯守りは珍しくない。ただ、彼は会合に積極的だったからこの騒動の暫くの間、顔を出さなかったのは珍しかっただろう。雨水の季節でなかったのは彼女の気遣いだったら伝わる事はない。]
[彼はそれから、離婚した事は書類として提出し
他の誰も、妻に出来なかった。
他の誰も、蛍に出来なかった。
代わりなんて見つけることは出来なかった。
彼女がどれだけ自己愛で近づいたとしても
彼女は村雨の唯一の、愛した人だった
それから会合に戻った際には何事もなかったように顔を出し、何事もなかったように振る舞い
自分に残った居場所をひたすらに、守った。
彼は父親になりたかった。
だから嬉しかった。反抗してくれた灯守りも
花雨に父親のように、見て貰えたのも──── ]
[ 元妻の持つ灯りの色は、
白
く柔らかく 暖かなものだったという。
ーむかしむかしー
[ボクは夏至領域の中でも結構な権力と実績のある家庭に生まれた。幼い頃から次のこの家を継ぐ者として、英才教育を叩き込まれてきた。
ボク自身それが当たり前だと思ってきたし、それ自体に特に抵抗なんてなかった。
……
少しだけ気持ちに靄がかかっていたのは、きっと気のせいと押し殺して。
]
[そんなある日、ボクはひょんなことから一人になってしまった。
基本的には側近がボクのスケジュールや行動を管理していて、それに沿って行動しているのだが…どうにも側近と逸れてしまったのだ。
別にスケジュールなんて知らないし、スケジュールが遅れたとしてもボクの知ったことではない。
ふらふらと騒がしい領域内を歩いて、公園のベンチに腰を下ろした。]
[夏至領域の人達は基本的に明るい。常に天候が明るいからなのか、ここの灯守り様の政策なのかは知らないけれど。
公園で一人座り、小さい子が遊んでいるのを眺めながら、側近たちがボクを見つけてくれるのをボーッと待っていた。]
『……どうしたの?一人ぼっちなの?』
[……全てはこの時から、動き始めたのだ。]
ーー先代の記録:103年前ーー
[家は2つに別れきる、とまでは行かずとも、割れていた。
直系長子の眞澄こそ灯守りに相応しいという意見と、
現灯守りである菴にこのまま任せるべきだという意見だ。
どちらも付いている側が違うだけで、考えていることは同じだった。
要は2つとも“灯守り”に取り入り、暴利を貪りたいのだ。
傍迷惑な話である。
灯守りの仕事に、暴利を貪りたいだけの無能はいらない。
だから集る蝿を適当に“払い”続けていたわけだが。
一番汚い大きな蝿共を払い終わった今でも、まだ意見が割れている。
せめて僕と眞澄が実の兄妹なら、ここまで面倒にならなかったんだろうけど。
これ、どっちか消えないと収まらないだろうなぁ……。
そう思い至ってから、眞澄に統治の仕事をまるっと
おしつk
任せることにした。
元々手伝わせていたけれど、統治の仕事を大体卒なくこなす妹に感心していた。
まあ、たまに悩む素振りを見せるので、ヒントぐらいは出していたけど。
それで何とかしてしまう辺り、結構素質があるのでは。
これなら安心して号を譲れるな、なんて考えていた。
だから妹の質問には簡潔に答えたのだ。そうだけど? と。]
「篠花家直系長子の君が、正気かい?」
[正直、ここに来て最大最強の反対勢力が出てくるとは思ってなかった。
昔から予想外の事をして、愉快な世界に変えてくれる子ではあった。
あの時、期待した以上に変えてくれる存在だった。
だから守ろうと、自分の中にある“大事なものリスト”上位に食い込めた訳だが。
完全に余談だが、他の灯守りも上位にある。中央? それ聞く?
だが、今ここでそれは、本当に勘弁してほしい。]
「直系に名を列ねていたって、傍系の出なのは変わりないさ。
血筋っていうのは、結局一番わかり易い力だからね。」
[君を守る為には、何としてでも君を灯守りにしないといけない。]
[声の方を向けば自分と同じくらいの年齢であろう少女がそこに。黄色いマリーゴールドの髪飾りをつけた少女。]
『一人ぼっちなら、一緒にあそぼ?』
[…他の誰かと遊んだことなんて無かった。名家に生まれた者の勤めとして、そうするべきと教えられてきたから。
でも今はボクに出来ることなんて無いし、側近もまだボクを見つけられていないらしい。時間潰しには良いか。]
良いよ、遊ぼう。キミの名前は?
私は萩。萩ちゃんって皆呼んでるよ。
…そんなちゃん付けなんて恥ずかしくて呼べないよ。ボクの名前
葵だ。よろしくな。
[時間にして1時間くらいしてからだろうか、側近が迎えに来て、ボクは萩に別れを告げた。
……楽しかった。色んなお稽古や勉強なんかよりもっともっと。萩だけじゃなく、この領域に住む皆の顔が明るいのは、きっと夏至様のお陰なんだよね。
そう考えたらボクは…カゴの中に居る小鳥のようだ。
数年後、突如屋敷を抜け出し、基本的には入ることの出来ない夏至様の居る屋敷へと乗り込んだ**]
「能力があっても血筋が悪ければ納得されない。」
[血筋が悪い統治者は、余計な所で恨みを買う。
同じぐらいの能力なら、本来継ぐべき方が継いだ方が余計な火種は燻らずに済む。
例え、それで本人達が納得していたとしても、周りが許さなければ意味がない。]
「そりゃ確かに僕は優秀だけど?
だからと言って今までの考え方を改めさせる気はないね。
そんなやる気、僕にはない。」
[それは僕の仕事ではなく、君の仕事だ。
本来継ぐべき方が言い出すのは勝手だが、継ぐべきではなかった方が言うのは反感を買う。だから僕が進めるべきではない。
こんなに引き止められるとは思っていなかったから、正直気持ちは嬉しいけど。
今回ばかりはその願いは叶えられない。]
「やれやれ……。」
[妹にしては珍しく荒く閉じられた扉を見ながら、ため息をついた。
本当に、あの子は己の予想の斜め上を行く。
あんな事を言ったから
、あっさり納得するかと思っていたがとんでもなかった。
嬉しいと思う反面、頭痛がする。]
「説得、説得……どうするかなぁ……。」
[正直、妹を説得、言いくるめるのは一二を争う苦手分野だ。
今までも何度かやろうとしたことはあるのだが、いつも押し負けてしまっている。
つい甘やかしたくなるのだ、恐ろしい。
おまけに仕事の最低限の会話以外、話してくれなくなったので取り付く島もない状態。
幸い、仕事は放り出していないようだが(まあ僕と違うから、サボるって考えないんだろうね)
、これでは説得の余地もない。
結局、僕に残された手段は強引に号を受け渡すことだけだった。*]
ーー先代の記録:冬至の君とーー
[小雪域を出て半月は経っただろうか。
もの珍しさに充てられてフラフラしてたなんて言えない。
ようやっと冬至域に着いた僕は地面に両手と膝を付いていた。
何ということでしょう。
そ う い え ば 僕 は 領 域 に 入 れ な い
灯守り辞めたんだからそりゃそうだ。
そんなホイホイ入れるーー所もあるだろうけど、入れない所もあるよね。
浮かれてそんなことを忘れるなんて、僕としたことが何たる不覚。
そんな……露天風呂……などとガチ落ち込みを見せていたら、蛍が
。
それが迎えだと気付くまでにそう時間は掛からなかった。
奥に開かれた扉が見えたから。]
[迎えられるままに踏み入り、我儘で露天風呂を所望したらいつぞやの雪見風呂を再現してくれた
。
試作ではない風呂用衣服が渡されたなら、一緒に入ろう!などと誘ったりして。
この時、親友も誘えばいいのでは? 等とちらっと考えたが、まいっか☆と投げ出してしまった。
後程小一時間愚痴られた時は大いに反省した。やっぱり誘えばよかった、と。
近くとも近すぎず、
親しくとも親しすぎない関係は
とても心地よいものだった。
こちらが話さなければ聞かれないと言うのは、
結構楽になれるんだな。ということを考えて。
人間関係って難しいな、なんて。
のんびりとした時間を過ごした。]
[ただ、たまにお酒を飲みながら語り合った。
お酒は特に勧めることもなく、ちびちびと。長く語り合えるように。
お風呂大作戦の時、まさか君が乗ると思ってなかっただとか、そんな他愛ない話を。
穏やかに楽しい時間を過ごしていく。]
「眞澄を守る為に奔走したつもりだけど、上手くいったかなぁ……。」
[やがて酒が回り、酔いが回れば、そんな弱気なことを呟いた。]
「あの子が幸せに暮らせると、いいなぁ……。」
[妹に触れたのはたったそれだけ。
それ以上は触れず、ただただ思い出話に花を咲かせた。
やがて旅立つとき、「いってらっしゃい」と言ってもらえるなら。
金平糖を手に「いってきます」と答えて出ていくのだ。*]
―葵ちゃんと―
三色団子とか作ったら、ちょっとした名産品になるかもよー?
[そんな冗談を紫明に言ったりして。
自然な笑みを漏らす小さな女の子に、可愛いねえ。と一人呟いた。
それから時々霜降と共に立秋域に訪れる葵の為に、定番の紅茶クッキーとリーフパイ以外にもプリンとかケーキとか、子供の好きそうなお菓子が用意されたりした。
なお、橙色のゼリーを用意した時には、葵がちら……とダイくんを見たような気がしたので。]
あ、違うからね。ダイくん達から作ったわけじゃないからね。それに非常食にはなるかもしれないけど、多分食べない方が……
[頭を撫でたりして、可愛がってくれていることは知っているので。ただ、少々不穏な単語が飛び出したことには自分では気づいていない。]
『我ノ顔ヲオ食ベヤス。
……ト迫ッテクル食物ガ、モシモ居タラ怖イデッシャロナ』
[話を側で聞いていたダイくんジョーク。
ちなみに彼は言語設定が適当なのか、方言?が色々混じる。]
[よく慕ってくれているからか、名前で呼んでも良いですか?と尋ねられた時には「うん、いいよー」とあっさり承諾した。]
いやしかし、小さい頃のあだ名って、
一度定着するといつまでも消えないものだね……
[成り立ちを思い出すと少し気恥ずかしい物があるが、今更訂正するのも勿体ない程度には定着した名前なので。僅かなくすぐったさを覚えながらもそのままに。*]
ーー回想:処暑の君とーー
[先の処暑の君とはそれなりに仲良くさせてもらっていた。
相談に乗れば、お礼と農作物を送られてきて。
同僚なのだから気にしなくてもいいのに。とその律儀さに笑ってしまって。
お礼のお礼に、と処暑の君から頂いた米で、清酒を造って送り返したりして。
(お酒が苦手だったなら、知った次から柑橘類にでも変えたでしょう。)
そんなお礼合戦をするぐらいには、仲良かった。]
[あからさまに表情を歪めた子に
、しまった。と思った。
似ている容姿からして、弟妹、または従兄弟なのかもしれないと。
関係者という意味では間違ってはいないけれど、少しずれた見当をつけた。]
ごめんなさい。
嫌な思いをさせるつもりはなかったの。
[これは完全に私の失敗。
この子が持っている灯が弱々しいのは、表情がないのは。
きっと体調不良なんかではなく。
心のーー先の処暑の君が亡くなったから。
心の傷に触れるには、あまりにも繊細な問題で、あまりにもこの子を知らなすぎて。
だから無難に、相談するようにとしか言えなかった。
それに対して無難な返事しか来なかったから、その場を去ることにした。
私には、祈ることしかできなかった。
]
[私は知らない。誰かさんが私の仕事振りを覗いていたなんて
。
何事も起こらなければ、いつも同じルーティンワーク。
書類に目を通し、統治域内の情報を集め、時間があれば視察し、民の声を聞く。
何事かが起これば真っ先にそこへと向かい、状況を把握し、判断を下し、指示を飛ばす。
そんな、何一つとして面白くないだろう日々。
……もしかして、これが面白くないと思うのは私だけかしら?
ただ、1つ。
他と違うことがあるとすれば、後継問題での苦悩ぐらいか。
直系では無いからと出ていった先代。
まるでそれを繋ぎ止めるかのように、頑なに血筋を受け入れようとしない姿勢。
血筋ではなく、能力で決めれば。
あの時の兄様を繋ぎ止められる気がして。
“ そんなことは有り得ない ”
でも、結局求められる場所は家しかなくて。
そんな自分に憤って、時に泣いて。
先代とのことが凝りになっていることは、見ていればわかるだろう。
そんな非常に人間臭い苦悩が、誰かさんの気を引き、趣味にまで昇華するものとなったかはわからないけれど。]
[会合に出るようになったあの子には、一度は声をかけるように気にかけていた。
どうやら表情が乏しいのは元からだと、気付くことはできたかしら。
統治者の態度としては。
……まあどこぞの誰かと違い
、起きているだけ、寝てないだけ、マシではないかしら。
例えずっと何かを書いていたとしても。
一応、気分次第ではあるけれど、淡々とでも読み上げる姿勢はあるし。
先代と違い、統治にやる気がないのは見てわかる。
何処か、他人事の様にしていることが気にはなるけれど。
こちらから口を挟む気はなかった。先代とこの子を比べたくはなかったから。
]
[先の処暑の君と、今の処暑の君。
顔が似ているだけで、全くの別人。それなのに。]
[時折届く、処暑域の農作物
]
…………まだ、引き摺ってるの?
[まるで先の君の行動をなぞるような贈り物。
それらは、未だ先の君の影を追っているように見えて。
勝手に切なくなってしまう。
お返しはいつも同じ。
檸檬の実と、領域に咲いている一輪の山茶花の花。]
どうか貴方が、困難に打ち勝てますように。
[願うことしかできないのが、どうしても歯痒い。**]
―お隣さんとのあれこれ―
[先代処暑とは共に仕事をしたお隣さんだ。
先々代は良い跡継ぎを見つけたなと思う程度には人の良い青年だった。長い人生の中、彼と仕事をした時間はとても短い。そろそろ自分も……と引退を考え始めていた頃。
特筆するような思い出はないが、仲良くやっていけそうだと立秋は思っていた。隣りのよしみで「大切な人がいる」と雑談で聞いたこともあった。「君も隅におけないね!」と笑ってからかった。
そんな彼が殺された、という話は隣りということもありかなり早い段階で耳に入ったと思う。]
……バカなことしたもんだねえ、そいつ。
[残りの人生を棒に振ってまで復讐を選ぶなんて。灯守りにそこまで固執するなんて。立秋にはその蛍の心が理解出来ず、長い溜め息を一つ。]
[それでも、灯守りとして、立秋として。
新しく「処暑」になった灯守りに会いに行く。
魂が滞れば、処暑域の住民達が困ってしまう。
「やあ、こんにちは!」と挨拶に行ったものの、先の彼に似ている姿に少し驚いた。一瞬生きていたのかと勘違いしそうになった。
気を取り直して何とか色々教えようとしたけれど、無気力というか上の空というか?
急に押し付けられることになって戸惑っているのか。
それとも、ショックを受けているのか。
生気のないその姿。血縁関係者だから……というだけには理由が弱すぎる気がした。その辺りを敢えて聞かなかったのは、話せる状態に見えなかったから。]
処暑、おいでー。
[ある時、立秋は処暑を自分の領域へと引っ張っていった。仕事の一環だから!と。
到着した立秋の領域は昼と夜の間。外とはあまり時間が変わらない領域だが、夕方の時間がやや長い。あぜ道のようなものが整備されているが、剥き出しの土や草があって自然のままの姿に近い。その奥にそこそこ大きな小屋があるが、それは今は置いておいて。]
そこ座って見てて。
[簡易的だが用意していた椅子を処暑に勧め。
立秋は処暑に背を向け、草原に立った。]
……ほら、こっちだよ。こっちおいで。
[立秋は、いつもとは違う静かな声で囁いた。
すると、その声に応じるように、何かがふわふわと集まってくる。灯りを失い、光らなくなった魂たちだ。片手に足りないほどの数。その一つを手のひらに招き、祈るように囁きかける。]
[ ふわり。 ]
[やがて、立秋の手のひらから飛び出したのは、一匹の赤トンボ。夕暮れの空に浮かびあがった。その行為を何度か繰り返し、数匹の赤トンボが空を舞う。]
『立秋域では、赤トンボは捕まえてはいけないことになっているんだよ』
『人の魂を運ぶとされているからね』
[年寄りの昔話とか、それを聞いた子供の言葉だとか。
色んな人から聞く機会があったかもしれない。
先代の時からこの形だから。]
よし。
飛んでいけ。
[その声に呼応して、赤トンボたちは夕焼け空を自由に飛んで、やがて灯宮を目指して視界から消えていった。]
死んだ魂と、生まれた魂は自力で戻れないからねえ。
だからボクらがいるのさ。
[灯守りには当たり前のことだけれど、実際に送る所を先輩として見せておこうと立秋は考えたのだ。]
ボクらにしか出来ない、一番大事な仕事はこれだけさ。
その他はオマケみたいなもの。
もし辛かったら、ちょっとくらいサボってもいいと思うよ。
[赤トンボの消えていった空を見ながら呟いた。
悲しみを癒やすには、何か考える暇もないくらい、仕事を詰め込むことも一つの方法であることは知っているが。新人が潰れないよう、休息をさりげなく勧めた。
涼しい風が一つ、灯守りたちの頬を撫でていく。**]
── 中央域の苦労人 ──
今、すこしお時間よろしいかしら?
[ 最初の一言はいつだってそんな
当たり障りのない言葉と他所行きの微笑。 ]
[ 休憩の時間を狙いすましたように声をかけたのは
彼が中央の勤務に慣れ始めた頃だったかもしれないし
わたしが芒種を継いで幾らか
落ち着いた頃だったかもしれない。
ふと目に付いた、条件に当てはまったのが彼だった。
それ以外の理由は特にない。多分。 ]
ご結婚もご婚約も今はされていないと聞いたのだけれど
今のところはご予定もない、ということで間違いはない?
他にお付き合いされている方や
好意を寄せる相手はいらっしゃる?
もしもね、もしも問題がなければ………
すこし、つきあってほしいの、わたしに。
[ いないことは周りに確認したものの
当人の心の内まで備に知ることができたとは思わない。
だからこその確認だったが
まるで尋問のような語り口だったかもしれない。
何につきあえばいいか、問われて間違いに気付いた。
言い回しとして間違いはないが、
間違ってもいないだけで正解でもないと。 ]
あらやだわ、言い方がいけなかったかしら。
訂正するわ。
ねぇ、天乃さん。
付き合って欲しいの、わたしと。
こいびととして。
[ 大人しい顔をして、落ち着いた声色で
頬に手を当て気持ちばかりの恥じらう真似事をしてみせて。
彼に一番最初に持ち込んだ面倒事は、たしかそんな話。 ]
[パパは、私の知らないことをなんでも知っていた。
ママは、私の出来ないことがなんでも出来た。
お姉ちゃんが現れるまで身近な大人が
両親かご近所のおばさんくらいしか居なかったから、
『大人』はみんなそうなのだと思っていた。
だからお姉ちゃんは、幼かった私にとって
『めずらしい大人』だった。
お姉ちゃんは、おままごとで
『お料理』を食べるふりをするんじゃなく
その『お料理』をきっかけにお話をしてくれた。
ママを真似してどんなに『おいしいお料理』を作っても
『本当のごはんみたいには食べられない』のは
子どもの私もちゃんと理解していたから、
お姉ちゃんが話してくれる色々なお話が
楽しくて、わくわくして、大好きだった。
パパはいつだって私より先に私の気持ちを察そうとして
パパの考える最善を尽くそうとしてくれて、
それはそれで優しかったと思っている。
けれど、『ぱぱの役』を担ったお姉ちゃんは
私の気持ちをひとつひとつ根気強く尋ねて、
私自身も上手く言葉にできなかったような私の望みを
丁寧に紐解いてから形にしようとしてくれた。]
[空を映したような虹色のピクニックシートの上で
ほとんど休みなく毎日のように生み出される
"ぱぱ"と"まま"とぬいぐるみたちとの物語は、
最初は確かに両親の真似事だったけど
そのうちに私達ふたりしか知らない新しい物語になって
それがとても楽しかったのを憶えている。
お姉ちゃんが、ごっこ遊びじゃなく現実に
代理を担っていたことを
幼い私はまだ知らなかった。
お姉ちゃんが一体何者なのか、さえも。]
[何の疑問も抱かずに目の前のものを素直に吸収しては
模倣と反復、少しの創造を繰り返していた幼少期は、
やがて身近にあるもの全てに疑問を抱く
いわゆるなぜなぜ期へと突入する。
どうして空は青いの?
どうして夕やけは赤いの?
どうしてお花が枯れると木の実ができるの?
どうして土にお水を混ぜると固まるの?
どうしてアメンボはお水の上を歩けるの?
世界のありとあらゆる物事が不思議で仕方ない。
最たる謎に包まれていたのは他ならぬお姉ちゃんだった。
どうしてお姉ちゃんは、
まつりにやさしくしてくれるの?
どうしてお姉ちゃんは、
まつりのおねがいを何でも叶えてくれるの?
どうして、『行かないで』は叶えてくれないの?
どうして、どうして、
『行ってきます』じゃなくて
『また遊びに来ます』なの?]
おねえちゃんは、
まつりのほんとのおねえちゃんなんだよね……?
どうしてずっといっしょにいられないの?
どうしてどこかにいっちゃうの?
パパも、まいにち、どこかにいっちゃうの。
なんにちもあえないときもあるの。
おしごとだ、っていってた。
おねえちゃんもおしごとなの?
どんなおしごとなの?
[お姉ちゃんがどんな想いで私に付き合って
どんな想いで私の質問を聴いていたか、知らない。]
おしごと、たいへん?
あのね、パパもママも、かたをとんとんってしたら
よろこんでくれるの。
とってもらくになるんだって。
おねえちゃんも、
とんとんってしたらげんきになれるかな?
[今にも泣き出しそうな笑顔で
私の絵を受け取ってくれたお姉ちゃんが、
どうしてそんな表情をしたのか、知らない。
幼い頃から貰い続けている抱えきれない程の愛情に
感謝の気持ちを返せている気は
大人になった今でも全然していない。
けれど、
お姉ちゃんがどうしたら心から喜んでくれるのかは
ずっと、ずっと、今も考え続けている。]**
["
それ
"を、消してあげるべきなのか迷ったこともあった。]
[現小満の能力は稀有な方であると言え、直接人に作用するものだ。
悪意を持てば簡単に他人を害することができ、他の
雨水や大雪のような
そうした能力持ちが受けてきたように奇異の目に晒され人から遠ざかっても何らおかしくないもの。
それが巷で天使などと呼ばれ
(本当に本質にそぐわぬ字だ)
疎まれることなく平穏に暮らせていたのは、ひとえに運が良かったことと、本人にまるで悪用する気がなかったのが幸いしたのか。
いや、誰しも能力に苦しんだ者は、悪用のつもりなどなかっただろう。だから苦しむ。
人を根本から変えてしまいかねない力を持った灯守りは、その力の影響範囲をごく狭くすることで律してきた。
悲しみを取り除くこと。
穏やかな日常を返すこと。
心が充分に癒えたら、預かった記憶を戻すこと。
それで充分だ。それ以上は手に余る。]
[記憶を操ることが出来るということは、他人の記憶に触れることが出来る。
何があったかを知ることができ、それらが形成された根幹を知ることが出来る。
だから、新たに"処暑"となった彼女が語らなくとも、喪われた"処暑"との間にどのような関係
があったのか、知っている。
とはいえあまり好まれる行為ではないというのも当然わかっているから、日頃無断独断でそのような行いはほとんどしない。
数十年の先の未来で、己の蛍となる少女に向かって同じことをするのだが。
けれど、今にも消え入りそうな灯りが目について、身体が勝手に動いていた。もし能力の暴走を事故と呼ぶなら、これはそうと見て差し支えないものだろう。
そして、すべてを知り、迷い――結果、何もしなかった。
]
[夕来は、死んでしまった。
彼女は、灯守りになってしまった。
喪われた処暑に対して悔やんでも悔やみきれぬ感情を抱えているものもいる。
罰された蛍も存在する。
それは付け焼き刃の処世術で変わる現実ではなく、その深い悲しみを彼女から拭おうものなら、今の彼女のすべてが揺らぎかねない。
そしてあまりにも部外者でしかない小満の灯守りが何事か手を出して癒えることとも思えなかった。
彼女に対しては何もできない、と悟り。
そして付け焼き刃の処世術と薄っぺらな笑顔ばかりを身に付けた男は真に彼女に寄り添えもしない。
そういったのに向いているのは、他にもっともっといたから。]
[それきり小満は、処暑に対しては見守るばかりだ。
あれほど誰にでも笑いかけ輪に入り話題に首を突っ込み酒を酌み交わしする小満が、ひとり居る処暑に対しては、積極的に動かない。
違和感を覚えるものはいたろうか。いたかもしれないが、指摘されてもはぐらかす。
数十年それを重ねてきた。
今もなお、処暑は人の輪から一歩引いたところに居続けている。
ただ昔よりは落ち着いているように思うのは気のせいではないだろう。
僥倖、と内心、静かに笑うだけ*]
――回想:月夜、金色の領域にて
[ 処暑の領域を訊ねたのは
随分と久し振りのことのように思えた
処暑の恵みから離れて 少し。
その夜、処暑の領域を再び訊ねたのは
米の美味しさに感動したことも本音だとも
それ以外の感情が無かったといえば嘘になるだろう。
少しばかりの懐かしさを遠くに感じ
朝までこの景色を見ていようかと思っていた。
けれど処暑は こんな時間の来訪者を律儀に出迎えてくれた ]
[ 冬至の領域より 其の時ばかりは暗い領域
けれど夜目は利く性質であるからして
其の世は 収穫するには十分な光があった ]
……。
…………。
…………………。
[ 処暑が見守る中で見つめる稲穂達
踏み入り かき分けど稲。引っこぬいて 其の根を見て
時に千切れた其処を見つめ 空へ数度振って ]
処暑、…お米はどこですか?
[ 見当たらぬ米に 処暑を見た ]
[ 初めて実感した。
恵んでくれる様々なものに
ぽいと気紛れのようにくれた処暑の米にも
大変な汗や何かが滲んでいるらしいことを。
この時 傍観を決め込む処暑に頭を下げ
再び米を恵んでもらう事が出来なかったら
其の時、おむすびさえも作る事は叶わなかった。
米というものを甘く見ていた事を 認めざるを得なかった ]
ー パーティー会場の外 ー
[小満、天乃との会話を終え、外の空気を吸いながら、ゆっくりと考える]
[大先輩ともいえる灯守りの眼には、自分はどう映ったのだろうか。……少なくとも、悪くはなさそうだが]
[目の前の大先輩に、助言
や励ましを受けたことも思い出した。……どうにも大先輩は、自分とは比べ物にならないくらい肝が太かったようだが]
[ 何はともあれ、ご飯をたいた
米にさえなっていればお手の物だった
風呂にもこだわりはあるが 米炊きにも自信はある ]
おむすびは 具をいれるのも醍醐味です。
私は鮭や唐揚げが好きですが
あなたは何が好きですか?
……とはいえ。
処暑の米はそのままも美味
今日はおしおのおむすびにしましょう
[ 手近な台の上に立てば すいすいとおむすび作り。
ほかほかあつあつのごはんを ふっくらやわらかさんかくに ]
……コーネリアに任せて、私は最後まで寝ていたら。
彼女、どんな顔するんでしょうね?
[大先輩の助言を実行した時の彼女の顔は、浮かびそうで、浮かんでこない*
[ あたたかいお茶を添えて
まっしろなおむすびをのせたお皿を差し出そう ]
すっかり朝ごはんの時間でした
遅くなりましたが――どうぞ
こちら おむすびです。
[ 具もなければ海苔も無い
お米のあじと ほのかな塩の甘み
ただそれだけの、さんかくおむすび ]
[ ――見ていた
差し出したおむすびを
差し出された処暑のことを
伸ばす其の手
喉を通る、ひとかけらの行方
こぼれるひとつぶ ひとつも漏らす事の無いように
彼女が言葉をこぼさぬのならば
己は何をこぼすこともなく ただ少しの間、見守るのみ ]
[ やがて 隣りに並んでかぶりつく ]
…――おいしいですね。
矢張りここのお米は 世界一です
[ 少しずつ空の白む世は
随分と 久し振りに見る気がした ] *
――回想:続・処暑の領域にて
[ 再訪問は数日後。
陽の昇り少しした目覚めの頃。
片手に鎌を、片手に本を持ち 処暑道場の門を叩いた ]
処暑先生、おはようございます
先日のリベンジを果たしに来ました
[ 書名――"お米ができるまで"
冬至は一つ、力強く頷いて ]
予習はばっちりです
共に 世界一のお米をいただきましょう
[ こうして 処暑と冬至のお米作りが幕をあけた
引きこもりたる概念を投げ捨て 修行に明け暮れる日々が ]
[ 朝陽に見守られながら始めた稲刈り。
77分後 見上げた空は青すぎた ]
( ぱたり )
[ 常、夜に引きこもる幼女が
朝、田に出て急に鎌を振るなど
始まりの街を出て大魔王に挑むが如き蛮勇 ]
[ 灯守りは 英雄でも 最強でも 無敵でもないというのに ]
…、
……処暑。
助っ人を 呼び
呼び、たいの ですが
処暑、どうか
ひ 光が 眩しいのです 処暑
陽の ひひ…光は
――…っくく
闇に生きる 私とは 相容れ
うっ
[ 其の日冬至は 死にかけた ]
[ 何はともあれ お米作りは進んでいく。
その内に もし
処暑が"助っ人"を許していたなら
おつるやいづるが(冬至比)強力な助っ人として
領域に現れる事があったかもしれない。
それはそれとして
お米の完成を間近に控えた日
顔を合わせた立秋に米作りのことを話し
「よければごはんを食べにきませんか」
「そろそろお米ができるのです」
などと 助っ人兼お米のお披露目に招いたのだったか ]
[ ほかほかごはん
なすのおみそ汁
野菜炒め、目玉焼き、
焼き鮭、漬物、デザートに葡萄 ]
[ 処暑や立秋、使い魔と
朝ごはんをもりもり食べたのは
死にかけの冬至が見た夢か―――それとも ] *
[物心がついた時から、わたしはお人形だった
真っ赤なベロアのカーテンがひかれたお部屋
大小様々な椅子が用意されている
お部屋その
お部屋の、
ハート
のソファの上
そこがわたしの
おうちだった]
[お部屋にはわたしの他にも、たくさんのお人形がいた
輝く様な金髪の子、透き通ったガラス玉みたいな瞳の子、ちいちゃなお口の子、可愛い赤毛の子
みんな可愛いお洋服を着せられて、可愛らしく微笑んで、私たちは御行儀良く椅子に座っていた
どうして?
わたしたちがお人形だからよ
当然でしょう?
たくさんの女の子がいたのに、お喋りの一つも溢れなかった
だって、あそこはお部屋なんだもの
お人形は喋らないでしょう?
あら、
どうしてそんな顔をするの?]
[あの人は、きっとわたしたちを愛してなんていなかった
いっそ狂気とも呼べるほどのあれは、執着心かそれとも…
わたしたちの知ることではなかったようだ
可愛いお洋服を着て、微笑んでいたけれど
わたしたちはいつも”捨てられる”恐怖と隣り合わせだった
“捨てられる”のはあの人の気まぐれで、その方法だってその時の気分次第
わたしは運が良くて、お出かけ先から帰る途中に”捨てられた”けれど
ゴミ箱に捨てられた子もいれば、寒いからと暖炉に放られた子だっていた
捨てたと思ったら、また拾い上げてきたことだってあったのだ
ほら、わたしたちはお人形でしょう
あの人にとっては、その程度だったのだと思う
癇癪をぶつけるのも、醜い欲をぶつけるのも、抱きしめて眠るのだって間違っていない
人にしなければ良いのだから]
[——最近、夢を見てしまう
わたしを捨てたわたしが、色んな人と笑い合うことを
先代大雪が籠る直前。
妙な騒ぎが領域内で起きている、と
そんな事を明かしていたことも有ったろう。
「 急に子供の泣き声がして、そんでサ、
みいんな可笑しくなっちまうんだって ……
ったく、ウチで何が起きているんだか。 」
「 元凶は、探りを入れている処だが、さて。
何とかしてくれって言われてもね、
こっちもどうすりゃいいんだか。 」
「 まあ暫くはごたごたしてるだろうよ。
あんたも気を付けな、小満の坊や。 」
すこし骨ばった手で、そんな事を先代は言って。
姿をすっかり見せなくなるのは、数日後の話。
私が灯守りとしてはたらくようになったのと、
彼が灯守りとなった時期は、そう離れていない。
どこか同期のような心地で居る部分はある。
先代の処暑とも、顔を合わせる機会は有ったろう。
その頃は、人間の姿で人前に出るなど、と
怯えて、どこに行くにもぬいぐるみを動かして
どうにか会合や業務をこなしていた頃だが。
もっと周囲を見る目が自分にあればとは、
これは……もう過ぎた話。
あの頃は自分のことで精いっぱいだった。
自信がどう評されていたとまでは 終ぞ知らず。*
―― とある風が知る記憶 ――
「 おや、冬至さん
こんにちは。こちらに来られるなんて珍しい……おや
お久しぶりです、おつるさんまで。
そして、そちらは…… 」
[ 冬至の彼女が蛍を連れて処暑の領域を訪ねると、田園風景にひとり立つ彼を見つけられただろう。
先代処暑の頃の領域は、夕景の時間が大変長かった。
空色が薄くなり、徐々に紅み掛かり、橙に焼け、紫へと変わる。
それをゆっくりと繰り返していた。
それから今と違うのは、田畑の割合。
先代の頃は、一面の金色ではなく、畑の割合もそれなりで、様々な作物が実っていた。
更に先々代から見ると、田の割合が増えているのが分かるだろうけれど、それはさておき。
その焼ける空を眺めていたところ、端末ではない本体の彼女の一行と顔を合わせたのだった。 ]
[ 先代処暑と冬至の彼女の関わりは深い。
ブドウの甘い、瑞々しい香りから始まった関係は、
回数を重ねること、留まることを知らず。
雪兎の入り口の大きさに合わせて小さいものを。大きいものも、偶に直接彼女に送っていた。
彼女からも色々な物が返ってきた。送られてくる可愛らしいものが、先代は好きだった。
中でも金平糖が多いことに気付いたならば、ある時「金平糖がお好きなんですか?」と、臆面もなく尋ねたこともあっただろう。
しかし、こうして彼女が態々訪ねてくるのは珍しい。
不思議そうに彼女を見ると、足元には“蛍”であるゆきうさぎ。
小さい身体に合わせるようにしゃがみこんで挨拶を。
それから、腕の中に見覚えのない、“新しい”蛍。 ]
「 わあ……
いずるさん。初めまして。灯守り・処暑です……うん? 」
[ 元気よく跳ねる、ひとまわり小さい雪兎に、笑みが零れる。
可愛さに温かい気持ちになりながらも自己紹介をすると、寄ってくる雪兎。
その姿をよく見てみると……見覚えがある気がした。 ]
「 ……いずるさん。前に何処かでお会いしましたか? 」
[ 先代は考えるように首を傾げた。
……先代は、少々天然気質な人であった。
とっくのとうにすっかり溶けた雪と、目の前の雪兎が繋がらなかったというのもある。 ]
[ 冬至の彼女には正体を教えてもらえたか。
聞けたならば、納得しながらも、あの雪兎が動いていることに、そして彼女の蛍となったことに、感動した顔をしただろう。 ]
「 はい……兄弟みたいで可愛らしいですね、ふふ
いえ、私の方こそありがとうございます 」
[ 夕景の中で、雪兎の“兄弟”が遊ぶのを眺め、目を細める。
その温かい光景にとてつもない幸福感を感じた。
むしろ、自分の方こそ感謝しても足りない。
自分の雪兎をこれから冬至の彼女の側に置いてくれることに。
此方を見上げる彼女ににっこりと笑い掛ける。
こんな姿であっても、自身の倍どころではない長くを生きている。
可愛らしいと思う反面、大先輩としてとても慕っているから。 ]
「 欲しい物……うーん……
本当に、お礼なんて要らないんですが…… 」
[ 申し出には首を傾げて迷う彼がいただろう。
本当に、雪兎を“蛍”にしてくれた、とそれだけで充分すぎるのだから。 ]
「 ……それじゃあ、冬至さんのお話を聞かせてくれませんか?
辛いこととか、悩んでいることとか、言えないこととか、
僕を頼ってもらえれば嬉しいです
冬至さんから見れば頼りないかもしれないですが……
僕も“灯守り”ですから 」
[ 「ね、ゆきさん」と、名前を知っていたらそう呼んで。
ゆっくりと彼女の正面へと回り、彼は穏やかに笑い掛けた。
あれ?これはお礼になってないですか?と彼が気づくのかは……冬至の彼女の返答に依るだろうけれど。
きっとその時も、僕の我儘な“お願い”です、と主張するのだろう。 ]
[ 彼女が彼を頼ったかはともかくとして、
その苦言は、その“お願い事”にも掛かっていたのかもしれない。
]
「 ……分かっては、いるつもりなんですけど 」
[ 言われた彼は、痛いところを突かれた、とばかりに苦笑するだろう。
分かっているつもりで本当に分かっていないということまで、彼には自覚がある。 ]
「 ごめんなさい、ご心配をお掛けしてますね
……気を付けます 」
[ 小柄な身体の頭に手を置いて撫でようとする。
自戒を伴った言葉。自分の姿を見て、彼女は余計に思うこともあるのだろう、と。
しかし彼は、民を目の前にすればそれに寄り添おうとしたし――そうして、悲劇は繰り返す。
彼女に、幸せを願われていることも、知らぬまま。
* ]
─龍池紫明という男・1─
[ 七年前に退位した、龍池紫明の灯守り在位期間は
約百六十年。
現役の灯守りで、彼と同時期に灯守りであった者は
多々居れど、就任した当初を知る者となれば限られるだろう。
就任当時、彼の年齢は十にも満たない
酷く手のかかる子供だったことを。
紫明の先代は、在位数か月で突然失踪し
(暗殺説、自殺説、駆け落ち等、様々な説がある)
後継者の目星どころか蛍すらいなかった状況、
霜降域は空前絶後の混乱に見舞われる。
では、新たな後継者候補は、と云えば。
前灯守りの血縁は論外。
栄光も一転、既に面汚しと石を投げられる状態であり、
既に一族郎党他の領域に亡命したとされる。
数週間後、中央域の出向職員が、前灯守りの関係者を
探し出してきたものの、
その間、空位に滑り込んだように継承したのは
小暑域出身の無名の少年・龍池紫明だった。]
[ 霜降域の灯守りは、ほぼ霜降域出身者からの選出であり、
髪色は銀、赤、黄系が多いのだが
霜降域の出身でも無く、鴉のような黒髪である彼の継承は
誰もが予測していないものだった。
対立候補が現れながらも、紫明が就任出来たのは、
外様の幼子を御輿に乗せ、傀儡として操るべく
野望を企てた者達。
一族の子が着任することで、財産や権力を得るべく
浮足立った親族達の手柄と言える。
世間一般では、この少年灯守りは
正統なる次期霜降への「つなぎ」の役割でしか無かった。
誰しもが、そう思っていた。 ]
『頂点に立ったからには、ずっと立ち続けてやるからな!』
[ 少年紫明は、大人顔負けの聡明さ、知性の高さから
周囲の企てには気付いていた。
その上で自らの姿を二十年近く成長させ
二十代中〜後半位の容姿に留め
霜降域の混乱を自らの手で平定させ、新灯守りの座に就く。
会合でも年齢を感じさせない発言や所作、立派な態度で
中央域の職員や他の灯守りから一目置かれるようになる。
とはいえ、これはあくまで
「作り上げられた立派な灯守り様」の姿でしか無かった。
自らの才を鼻にかけた傲慢我儘少年時代は
数十年続いていた為、当時の彼を知る者は
表と裏を使い分けるその様子を見て
避ける者や対立する者も少なく無かったとか。
歳月を重ね、我儘少年も精神的に年相応の大人となり
子供時代の黒歴史を語られば、顔を覆う程に精神も成長した。
これが、大半が知っている「龍池紫明」である。]
[ 尚、葵は紫明の過去──我儘で面倒だった少年時代の話は
聞いてはいたのだが]
紫明様、我儘な子だったのですか? 意外ですね。
でも、男の子なんて皆ヤンチャなものですよ〜
ふふふっ。
[ どうせ尾びれをつけて盛っているのだろうと、
本来の問題児っぷりを砂糖
(2)(1)2d10個分は甘く見ている。
紫明も、夢を見ている方が幸せだろう、と
これ以上は修正せず、彼女の理想を崩さずにいたのだった。]**
[ 彼、あるいは彼女。
処暑様はおそらくわたしとそう変わらない、
灯守り様です。
処暑様に対するわたしが持っている印象は
人を恐れている。
人を寄せ付けようとしない。
通り過ぎるはずの大嵐の中から抜けられないような
それに近いものでした。
少なくとも悠然としてお餅を頂くような方では
なかったように思いました。
決して長くも、短くもなかった時の流れ。
わたしはきっとあなたの苦悩も、
とまどいのなにひとつも知らないままに
雪に閉ざされた世界を眺めていたのでしょう。 ]
[ 話は少し変わります。
それはわたしがはじめて、手紙を出したとき。
何通も出したって返ってくるものは
その半分すらもありませんでした。
面白半分でしたことです。
返ってこないことには何ら思うことはなくとも
ローザのように丁寧なお返事が返ってくることは
わたしはほんとうに嬉しかった。
「大寒」とつけてしまえば
また違ったものが帰る気がして。
『わたし』ははじめて、
『わたし』になまえをつけました。
エアリス、雪の雫。
大寒域では聞きなれない名前の並びです。
領域に残されていた本からいただいて。
便宜上、先代様が存命のころは
わたしは寒月と呼ばれていました。
エアリスはたびたび、誰かへと文を届けます。
何度めかの手紙を送ったあと。
その一通は届きました。
]
今日は雪をとどけにいってきました。
届けなくとも雪は降りつづくのですが
季節によって少し降る雪がかわるのです。
あなたは今何をしていますか?
この空の続くはずの下にいるあなた。
花は咲いていますか?
どんな風が吹いていますか?
[ ある日は風景を、
ある日はお食事の内容だったり。
だからわたし、
あなたがどの手紙にお返事をくれたのか
正直きちんと理解していませんでした。
だってあなたのお返事は観察日記の延長で
返信と呼べるものであったかはちょっぴりあやしい。 ]
[ でも嬉しかった。
こちらからは宛先もなくて、
あなたからの差し出し人の名前もない。
ななしさんから届く風景の文は
風が踊っているかのようなのに
それが自分にはわからないと言ってるようでした。
でも、わたしはあなたの風景が好きでした。
わたしにはあなたのように、見渡せる風はないけれど。
写実的で、絵ではないからこそ、心が溢れるみたいな。
だからわたし、わたしは
あなたのことがすきでした。 ]
ななしさん。
あなたは、世界が好きですか?
[ ある日わたしはななしさんにだけ、
そんな事を書いた事があります。
お返事はあったかもしれませんし、
なかったかもしれません。
ぼんやりと浮かぶ街明かり。
季節の殆どは雪で覆われています。
薄暗い空は陽の光を忘れたようです。
短い春の期間に、人々は備えをして、
日々を生き抜くような世界です。
彩の花はありません。
豊かな緑は、雪の下。
わたしは、他の灯守り様をお出迎えすることはあれど
わたしが行くことはありませんでした。 ]
[ お誘い下さった灯守り様には
そうしていつも断っていました。
わたしが大寒域を嫌いになったら
この場所は壊れてしまうのでしょうか?
多少は、灯守りらしく
そんなことを考えてみたりして、
時には立春様からいただたいた葉書を、
清明様が持ってくるお花を飾りながら
わたし、ななしさんに出した問いの
自分の問いを、考えていました。
ずっと。 ]
ななしさんへ
今日は久方ぶりに外へ来ました。
お外で感じる風はあたたかくて、
これでもまだ寒い方なのだそうですけれど。
わたし、外の風はこわいと思っていました。
今でもすこしこわいです。
けれど、はだしでひとり歩くよりきっと、ずっと
心地よいのでしょうね。
ななしさんは今日はどんな一日でしたか?
わたし、あなたのお友達になりたいです。
いつか、わたしとお話してくださいますか?
ゆきだるまとしずく
[1] [2] [3] [4] [メモ 匿名メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新
視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
トップページに戻る