241 【身内】冬の物語
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[ このまま雪奈に溺れていきそう。
我に返るのが怖かった。
もうどうしたって友人には戻れない。
この夜が終わったとき、二人の関係がもはや何物でもなくなってしまう気がして。]
……雪奈……
[ 口付けて、ベッドに縫い付けるように押し付けて。
繋がってまた雪奈を激しく求めて。
なんと呼んでいいかわからない二人の関係。
これでも友人だと言える?それともセフレ?
いや、名前なんてどうでもいい。
今はただ雪奈に溺れて、何もかも忘れるように。
二人のことも、先輩のことも、何かも忘れて。
ただ雪奈と繋がっていることだけを感じていたい。]*
[名前を呼ばれたのは、誘惑に対しての返事とも、
そこまでするのかと言う窘めとも、
すがるような……そんないろんなものが混じっているように聞こえた。
だから、いろんな意味を込めて、微笑むのは一瞬]
……んっ、んぅ!?
ぇ…… …ぁっ……ぁぁん……
[あまりの荒々しさに、驚いてしまう。
なぜ……どうして……打って変わった激しさに、そんな疑問が浮かぶが、
その先を考えさせない激しさ。
すがりたいのか、忘れたいのか…。
思うのは、ただ抱きしめたい……それだけ。
腕を回して抱き着く。
抱き着くから、揺さぶられるに合わせて、肌をこすり合わせる。
──ここにいる。ずっといると言うように。]
……しら、なぃ……しゅぅ、を…しれて……うれしー…のぉ。
[友達では知りえなかった事。
もし普通の恋人になっていたら……そうだとしても、きっと知りえなかった事。
こんな事になったから、知りえた、柊の顔、行動。
荒々しい激しさに、怖いと思うより、嬉しいのが勝ってしまうのは、やはり惚れた弱みか。]
……いっぱい…してっ
[耳元で、甘く囁く。
もっと、柊に溺れて、もっと、もっと、知らない柊を知りたかったから。*]
[ 必死に二人の関係の呼び方を探す。
見つからない。
失いたくないのに、都合よく扱いたくもない。
でも結局は甘えている。]
雪奈……
[ 二の句は続かない。
側にいて欲しい?
それともまた違う何か。
自分でもわからないまま、雪奈を抱いている。]
[ 考えも想いも定まらないまま、体力が続くまで雪奈を抱いた。
駄目だと思いながらも何度も何度も、付け入るように、縋るように。]
なあ、
[ 強い疲労感と軽い眠気。
胡乱な意識の中、だけどはっきりと伝える。]
付き合わないか?俺たち。
[ 雪奈の顔を見れないまま。
仰向けに天井を見上げて、それは呟くように囁くように。]*
[柊の腕の中で、淫らにイキ狂うよう。
甘い声を上げ、躰を跳ねさせ……。
時折、呼ばれると見上げる。
その顔が声が、何かを探しているようで、でも見つからなく、
縋るようなものに思えるから。
何を探しているのかなんて、予想で来てしまう。
なにか…と思って、結局は何も伝えてない気がして、
伝えようにも、言葉をうまく紡げないから、せめてと、安心させるように笑いかける。]
[何度も、何度もとっくに限界を越していた。
それでも、求められるまま感じてしまい、途中からは何も考えられないほどであった。
本能的な何かなのに、縋るように抱き着いていたほど。]
………ん?
[身体が重い。意識が朦朧としている。
目を閉じたまま、呼ばれたら反応だけはする。
まだ一応、意識はあると。]
………ぅん………。 ………?
はい!?
[何もわからぬまま、流れで返事をする。
が、すぐに何を言われたと、考え、理解すると、がばりと起き上がり、覗き込むように見つめる。]
しゅ、しゅ、柊…何を言ったか解っている!?
解っているから、言ったんだよね。
嬉しいけど、良いの? ではなく、冷静になろう。
[どういう事と、混乱してしまう。
幻の余韻?それとも、責任を?とか…いろいろ駆け巡る。
意識もうろうとしていたのが、一気に覚醒させられたが、そうやって考えていると、
やはり、眠たいような、意識がふわふわとして来てしまう。]
返事は…ちゃんとした時に言う……。
[夢から覚めたあとも、同じ思いを持ち続けているなら…。
やっぱりなかった事にしてもいいように、後にする。
それは、こちらを見て言わなかったからかもしれない。]
あ…でも、これだけ……柊、会いたかった。
[避けていたのは自分。
それでもずっと会いたかった…。
避けないで、何事もなかったようにふるまえばよかったと思ったほど。
それにいつも通りなら、冗談にして伝えるだろう言葉だが、まだ余韻が残っているから、素直に伝える。
が…やはり身体が重い。
起き上がっているのも限界で、横になり]
ただいま…。
[その言葉だけをつぶやいて、意識は途切れてしまうのであった。
もしかしたら、その言葉がすべての返事だったかもしれない。*]
[ その手紙は決別だった。
夜遅くに帰ってきて見つけたそれは、その半年ぶりのコンタクトは決定的な別れを告げるものだった。
半年経ってどんな大きな穴でも埋まっていくのだと。
そう確かに思えたのに。
こうしてまた心を揺さぶられる。
いつまでも。
まるで化膿した傷口のようにじゅくじゅくと。
膿んで熱と痛みを忘れさせない。]
どうしろって言うんだよ。
[ 呟いた暗いひとりの部屋。
どこにも向けられない感情と、どこにも届かない言葉。
テーブルの上の手紙。
メッセージならすぐ返せるのに。
本当に返すかどうか自分でも不確かなままそんな不満を抱く。]*
[夜も、随分ふけってきた。
だから余計、思い出すのかもしれない…この部屋にいるから。
と、息継ぎをするように、ベランダに出る。
空を見上げて、隣を見つめて、会いたいなと思えば…溢れそうになって。
夜の空気を吸い込んで、気持ちを落ち着けようとするのであった。*]
[ 暫くして、ベランダに人の気配。
というより、隣の部屋の雪奈の気配。
いつもなら避けるように決して外には出ない。
けど。
こんな手紙のせい。
隣に雪奈がいることがわかっているのにベランダに出た。]
よっ
[ 初夏の生ぬるい夜の風。
手すりに体を預けて隣の部屋の方を見た。]*
[久しぶりに聞いた声。
会いたいと思っていた人が、すぐそこにいる。
会いたいなと思っていたところだから、よけい。
夜だからはっきり見えなくても、そこにいるという事実。
驚きと、嬉しさでいっぱいになる。]
…………っ
[何か言いたいのに、こみ上げてくるものがあるから、言葉がでてこない。
こみ上げるものを抑えるように、空を見上げて息を吸う。
落ち着かせるように、俯いて、吐き出す。
それを数度繰り返した後]
ょ…よっ……
[同じように返すが、声をはっすると、同時に我慢できなくて、涙が落ちてしまうのであった。*]
[ ビールの缶を片手に言葉を交わす。
防火壁のせいで雪奈の姿は見えない。]
引っ越すのか。
[ 言葉にしたのはそれだけ。
ベランダから今度は遠くを見てビールを一口。
全然美味しくない。]*
[我慢しようとしても、溢れるものが止まらない。
読んでくれた。無視されてもおかしくないのに、読んでくれた。
それだけでまた…。
息を吸い込み]
……その…つもり………
[何とか一言吐き出した後、がんばって声のトーンを上げる。]
隣に住んでいるって、気にさせるかな…って思って…さ……
[何でもない事のように言ったつもりである。]
………ごめん。それは、建前。
本当は、私が気にするから……。
ここは、思い出がいっぱいだから……
どうしても在りし日を思ってしまうの。
隣だから、偶然とかも考えてしまう。
それに、声を聞いただけで……。
[想いが溢れてしまう。
この場で座り込みたいが、それでは声が遠くなってしまう気がしまい、壁に寄りかかりながら]
………未練がましくてごめんね。
本当はさ…あの事なんて、無かったかのように、友達して、
また飲みに行ったり、遊んだりしたいよ。
けど…そうするには、私の気持ちが、大きすぎるから……。
[言葉にすれば、否応にあふれ出してしまう。
目元をぬぐうが、それ以上は、言葉が出てこない。
好きと言う事も、今度こそ、さよならと言う言葉も。*]
[ 雪奈の声が震えている。
あの夜、決定的に変わってしまった二人の関係。
だけどそれは不幸なへんかだったのか。
友人という形におしこめて。
それが変わってしまうこと、変わってしまったことを恐れたのは何だったのか。罪悪感と後ろめたさにただ変わることへ怯え、びびっただけではないのか。]
無かったことに、しなきゃ駄目なのか?
[ 問い掛ける声は雪奈に向けたものだったのか、それとも。]*
………………えっ
[口に出したのか、思っただけか、定かではないほどの驚き。]
な、無かった事にしたくない……ううん。
出来ないよ。
だっ、…だって……あんな方法でも…嬉しかったから。
[ああでもしないと、関係を持つなんて事はなかったと思うから。
それでも、嬉しいだけでは終わらない。
一つの時間を手に入れたために、それ以外の…
傍に居る事すら叶わなくなった事は、後悔するほど辛かったから。]
それになかった事にしたいのは、貴方の方でしょ。
後悔したから…だから………
[だから一人で残された…と言う言葉は飲み込む。
半年も前の事だとしても、今もまだ昨日のように痛んでしまうが、それは過ぎた事。
どうにもならない過去だから。]
無かった事にするのが良いと思ったんただよ。
ねぇ…それを聞くと言うのは……貴方は、どうなの?
[自分は告げた…柊はどうなのか。
目元をぬぐい、ベランダの柵から身体を乗り出して、隣の…柊の部屋の方を見る。
声だけでなく、しっかりと見たいから。
でも…うっすらでも見るとこみ上げるから、唇を噛んで、答えの行方を待ってしまう。*]
俺は……
[ 無かったことになんかしたくない。
後悔はあった。罪悪感もあった。
雪奈を利用した。そんな自分が嫌だった。でも。]
雪奈にそばにいて欲しい。
[ それは恋ではないのかもしれない。
それもまた、後ろ向きになった原因だった。
でも。
恋ではないとしても、雪奈が好きな気持ちに嘘はない。それは友情の延長かもしれない。執着かもしれない。失いたくないだけなのかもしれない。
だけど、それの何が悪い?]
[ 本当に自分が嫌になる。
身勝手で、雪奈を利用して、雪奈を傷つけて、でも。]
俺は……お前を失いたくない。
[ それは何一つ偽らざる本心だから。]*
………。
[ゆっくり、自分の気持ちを確認しているよう。
何を言われるのか…とても怖い。
怖くて逃げだしたい。
あんな言い方をするんだから、期待してしまう。
でも同時に、期待してもと、後ろ向きになっていたが…]
………っ
[目を丸くして、息を飲んでしまう。
そんな事を言われるとは思わなかったから。
嬉しいと同時に、どういう意味なのと浮かんでしまう。
でも……そんな事を言われたら、どんな意味だろうが、どうでもよくなる。
嬉しいから…どんな意味だとしても、そう思ってくれる事が嬉しいから。
嬉しくて、別の意味で目の前が霞む。
やはりすぐに言葉を口に出せない。それほど胸がいっぱいだから。
乗り出していた身を、引っ込めて]
いるよ……傍に居る。
私から、離れるなんて…出来ないよ。
しないとと思って…でもずるずるできなくて、今度こそするぞって意気込んで、
手紙を出したのも、決意と言うかけじめというか、振り払う為とか…。
でも、結局最後の踏ん切りはつかなかったから…。
[大きく息を吸う。
別に今までだって、何度か口にした事であるが、初めて口にするような緊張が走るから]
ねぇ……そっち行って…いい?
柊に……会いたい。
[声だけのやり取りではなく、顔を、しっかりと会いたいから。*]
いいよ。
俺も……雪奈に会いたい。
[ 半年の間、避けていた。
会えない理由も、合わない理由も曖昧で定まらないまま。
だけど半年経ってみて残ったのは雪奈に会いたいということだけ。
ベランダから部屋に戻る。
それから、玄関に行って鍵を開けた。
いつでも彼女を迎えられるようにそのままそこで待っている。]*
すぐに行く。
[会える…それだけで胸が躍る。
ずっと笑い方なんて、忘れていた…けど、会えると思うと自然と笑っているだろう。
ベランダから部屋に戻って、気づく。
今、Tシャツと短パンの部屋着である。
久しぶりに会えるのに、こんな格好なのは…が、着替えるとなると、選ぶだけで時間がかかる。
許してと、鍵を持ち外へ。
部屋の鍵をかけて、すぐ隣に。
柊の部屋の前で足を止める。夕方…ここで足を止めた時とは違う気持ち。
行くと言ったから、勝手に開けてもいいだろうが、久しぶりなのもあって、インターホンを押してしまう。
扉が開けば]
会いたかった。
[はにかんだ笑顔を向けるだろう。*]
[ きっとそれは熱に浮かされるような激しい想いではない。
雪奈が向けてくれるそれとは違う。これは恋ではない。]
よ、久しぶり。
[ 扉を開けて雪奈を迎えいれて。
それから強く抱きしめた。
半年の空白を埋めるように彼女を強く腕に抱く。]
俺も会いたかった。
お前がいないのは寂しくて苦しかった。
[ そのはにかんだ顔を見て思う。
自分は確かに雪奈を必要としている。
そして確かに彼女を想い、愛していると。]*
[変わらない事が嬉しい。
半年も離れていたけど、それが嘘のように思えるくらい。]
うん。久しぶり…っ
[でも変わったのは、その腕の中にいる事。
行動一つで、すぐに胸がいっぱいになる。
その力強さに、実感させられ、負けじと手を回して、力を込めて抱きしめる。]
それは…私も……
ずっと、寂しくて苦しくて…辛かったよ。
声が聴きたくて…………会いたかった。
[もう一度、会いたかったと呟く。
ずっと、ずっと願っていた事だから。]
ねぇ、柊……覚悟してね。
がんばって、貴方を口説き落とすから。
[必要とはしてくれる。
でも、そこに恋があるかは解らない。
もしかして今更の宣言かもしれないが、それは解らないから。
見上げてにやりと笑う。*]
[ そんな必要もうないのにって思いながら。
雪奈に負けないぐらい不敵に笑って答える。]
楽しみにしてる。
……これからずっとな。
[ 先輩に失恋した
傷
はとうに癒えた。
そこに残ったのは埋められなかった喪失感という穴だけだった。
恋をした。
それは実らなかった。
恋はしなかったかもしれない。
でも、そこに愛情はあった、今もたしかにここに。]*
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