113 【身内】頽廃のヨルムガンド【R18G】
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| (a3) 2021/12/19(Sun) 1:16:50 |
| (a5) 2021/12/19(Sun) 1:19:53 |
| 返り血は流しきった。香りもまた消した。 昨夜一暴れして、重役を殺してきた結果は比較的思い通りに。 次の御布令は出されず、誰かが打たれる声も聞こえてこない。 そこには男の望んだいつもどおりの時間が戻っていた。 「あ〜とうとう終わりましたか。 スカリオーネの旦那も連れていかれなくてよかったですね〜。 あたくしも目立つ怪我は治りましたが……休んだ分の補填は帰ってこないんですよね。本当損をした期間でした」 ミズチに、首をレイから貰ってくるように言った男。 酒場で貼られていたスカリオーネの名を破り捨て、 いつか譲られたチキン頼んで、いつも通りの席に座っている。 「とんだ災難でしたよ、まったく」 そうやって不満を吐く男の表情は明るく、ご機嫌そうだった。 (6) 2021/12/19(Sun) 2:26:40 |
「―――えぇ」
そうであると。
貴方も思ってくれること。
「私も、とても嬉しい」
以前と同じ事を。
以前よりも柔らかな表情で返した。
実験体や奴隷に近い扱いを受けていたという所はもやりとしたものが燻ったが。
似ているなと思った事も、あるのだ。
掃き溜めで生まれたこと。拾われたこと。救われたこと。
形は違えど、『親』を手伝っていたこと。
どうあれ、最期を見送ったこと。
食事も決めきれなかった貴方だ。
なし崩しになったとはいえ、仕事が勝手に舞い込んでくるものでもない冒険者という職には苦労したのだろうと思う。
実際に難儀している所を見た事だってあっただろう。
「……何故、その方が貴方に自身を殺すよう命じたのか。
理由はわからないのですか?」
その魔術師は最期に何を思ったのだろう。
つい、そんな疑問が口をつく。
―――貴方を困らせたり傷つけるような問ではなかったか。
言いたくなければ無理には、と慌てて添えた。
"あの頃生きていた自分"と"今ここにいる自分は"違うと認識している。前世の記憶みたいに。他人事というには近くて、自分のことだと言うには少し遠い。
でも確かに身体に刻み込まれている記憶は、掘り起せば
じわじわと。蝕むように蘇ってくる。あれは自分だった。
「あの時、殺せと命じられたのは──"家族"」
「目の前に用意された、見たことのない人間を殺した記憶はある。……おれはたぶん、それを家族だと認識できなかった」
生みの親の顔なんて覚えてなかったから。
だから、本当に命令通りに家族と思っている者を殺しただけだ。
「"殺してみろ"」
「"身内も殺せないような脆弱なヤツはいらない"」
彼の最期のことばは、それだった。
そこからもう命令してくる声は二度と聞こえなくなった。
「…………それだけだ」
せめて苦しまないように、即死できるような殺し方をした。
何を思い、死んでいったなど、知る由もない。
もし、死人に口があったらと考えると
その時、はじめて……恐ろしいと感じた覚えがある。
「おれはきっと、捨てられるのが怖かったのだろう。
だが、その行動の矛盾に気づかないくらいどうかしていた」
しかしそれも、もう昔のこと。
今更困ることも、傷がつくこともない。
もしそうだとしても、そんな顔は貴方には見せない。
「………おれが、貴方に命令を乞うたのも
そういった生き方しか、してこなかったからだ」
これは、前にも同じようなことを言ったかもしれない。
最初から、貴方でなくてはいけない理由なんてなかった。
誰でもいいからただ使ってくれればいい、簡単で単純な願い。
それだけで救われていた。
ただ、貴方の下す命令は、いつも知らない感覚を覚える。
だけど、その自身の望みによって、貴方の役に立てることに
感じる喜びは、いままでのものは同じようで、すこし違った。
「……でも、おれは貴方のおかげで、少し自分の望みを
許せるようになった、気がする……」
きっと様々な生き方があることをこれからも知っていく。すこしづつ、明りが灯るように、見える景色がひろがっていく。
「……………ああ、そうか…………」
「だから、」
何かに思い至ったように口を開く。
「これからもそれ
<喜び>
をおれに教えてほしい」
この街は、きっとこれから変わっていく。貴方が言っていた『より良い日々』かもしれないし、そうでないのかもしれない。
ただ、確かに言えるのは。どう景色が変わっていこうとも
番犬は──エドゥアルトは貴方の傍にいる。
くそったれ。
顔も知らない魔術師に思ったのはそんな言葉だ。
それでも貴方にとっては『家族』であって、捨てられたくなくて、大事な人だったのだから。
これもまた言葉を飲み込んで、素知らぬ顔でいるのだ。
「……それは、仕方ありませんよ。
だって、知りもしない『肉親』を家族だなんて思えないじゃないですか。
だって、貴方にとっての『家族』はそれぐらい大事だったんじゃないですか。
見捨てられたり失望されたり、したくなかったのでしょう」
自分だってそうだと零す。
少しの行き違いが起きて、これはその行き違いが取り返しのつかない事だった。
『それだけ』の話。
……そう思わないと、どうにも、誰も救われない話。
切欠は互いの声が聞こえた事。
理由がどうあれ、『より良い日々』を共に想ってくれた。
貴方の喜びが、もっと広がればいいと思うのだ。
「―――えぇ。
私が知るものを全部、教えましょう。
貴方が自分のそれ
<喜び>
を選び取れるよう。
もっと、たくさんの事を」
この街はまた、変わっていく。
良い方にも悪い方にも。
きっとどちらにも傾いて、最後にどこに辿り着くのかはまだわからない。
「……今度、屋台にでも行きましょう。
私はチキンが一押しですが、まだおいしいものはたくさんあります。
貴方のお気に入りを探してみたい」
それでも、きっと昨日より『良い日々』になるだろうと思う事ができる。
灯りに照らされ伸びる影は、もうひとつだけではないのだから。
| ノアベルトは、花売りにもらった花を人知れず故人の主へと届けた、もう思い返すことはない。 (a56) 2021/12/20(Mon) 20:58:57 |
| ノアベルトは、貰ったローダンセの花の言葉を裏切れない。これからもずっと。 (a59) 2021/12/20(Mon) 20:59:26 |
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