【人】 法の下に イレネオ「……」 この日男は非番であった。 しかしそれも形式上の話である。勤勉且つ生真面目且つ四角四面なこの男は、非番であろうが正義の番人の面を被るのをやめない。 黒縁の眼鏡の奥の瞳は目に映るもの全てを見定めるようであったし、かっちりとした私服は遊びに出たようには見えなかった。まとう雰囲気のせいだろう。心なしか周囲の人も避けているような気がする。 が。 「ダヴィード」 知った顔を見つけたらしい。目尻が僅かに緩む。 気さくに手を上げ、大股でそちらに寄った。 「珍しいな、こんな時間に。」 貴方の姿を見かけるのは比較的陽の傾きかけた時刻が多い。気がする。 若者が健康的な時間に外出しているのは好ましいことだ。そんな勝手な感想を携えて、急ぎの用がないなら少し言葉を交わしたいところだ。 >>48 ダヴィード #街中 (61) 2023/09/09(Sat) 2:44:56 |
【人】 法の下に イレネオ>>68 ダヴィード 「なら、お前を捕えないといけないところだ」 軽く笑って言うことには、吸血鬼は人間にとって害である。 ある種の前時代的で、昨今のフィクションのロマンチシズムに置き去りにされた発言は、この男の常だ。とはいえ、本人的には冗談のひとつのつもり。14cm上方から寄越される視線は、冷たいものではないだろう。 「そうか。気楽な休日だな……休日か?」 見た目だけならあなたは学生くらいに見える。 通っていないという話を聞いたことはあったろうか。そうでなくともなんとなく、真面目な生き方をしているわけではないのは察している。 しかし、若い頃のやんちゃはするものだ。厳格なわりに、そういう甘さのある男だった。 「俺は非番だよ。やることがなくて、ぶらついてる」 警察特有の言い方で休日をそう呼んだ男は、まだ新しい法案のことを知らない。知ったとて、あなたへの態度は変わらないのだろう────むしろ渋面を作って心配するのかもしれない。何も知らないのだから。 身内への甘さをそのまま眦に滲ませて、少し覗き込むようにして。 「はは」 「どうした。機嫌が良さそうだな。良いことでも?」 #街中 (81) 2023/09/09(Sat) 12:46:47 |
【人】 法の下に イレネオ>>83 ダヴィード きっと、気に入っているのはそういうところ。 初めて会った時は戸惑うどころか苦々しさを満面にしていた男のかんばせは、今は貴方の聡明さに満足そうにしていた。年上の者が年下に向けるそれだ。 「なるほど。一番良くて、困る日だ。」 「実のところ、俺もそうだよ。」 こちらは正しく休日であるけれど、予定のない時間というものはどうにも苦手。休日ではない日を休日らしくのんびりと過ごす貴方の方が、その点では上手かもしれない。 時間を浪費するのが苦手な男が、日のあるうちに貴方に出逢えたのは幸運なことかもしれなかった。 「はは。」 「可愛いことを言う。強請っても何も出ない、」 に、と閉じた口の端をあげて。 「……というわけでもない。」 「まだだよ。君がいいなら一緒に。目星をつけている店はあるのか」 #街中 (84) 2023/09/09(Sat) 14:38:59 |
【人】 法の下に イレネオ>>88 ダヴィード 合点のいった様子に軽く頷く。 そうものすごく親しいわけではない。自分のことを長々と語ったことはないだろう。 かといって知らない仲ではない。端々から人となりを察される程度の付き合いはある。 それを静かに再確認し、そういえば、好きな食べ物を聞いたこともないと気づいた。 「好きな方でいいよ。」 ともすれば無責任か、投げやりに聞こえるだろう言葉だ。しかしそれが、親愛からの優先であることはわかってもらえるだろうか。 「腹具合も、懐具合も融通はきく。ダヴィードが選ぶといい。」 手癖の悪い連中もいるもので、わざわざ中身を見せびらかしたりはしない。なんなら貴方もそれなりの手癖であると知っている。それでも、貴方に対しては紐を弛めるつもりらしかった。 #街中 (95) 2023/09/09(Sat) 19:06:03 |
【人】 法の下に イレネオ>>102 ダヴィード あなたがそんな風に気合を入れているのはつゆ知らず。これは鈍感な、ある意味ではお気楽な男だ。 「ないよ。そっちは?」 そして、そのままの軽やかさで世間話を。 これまでもゆっくり、ゆったり、のんびりと重ねてきたそれをもう一層と積み上げる。答えられずとも、はぐらかされても構わないくらいの浅い話。 貴方がどうであれ、この男は成人らしく大食らいで、かといって絶食にも耐えうる妙な対応力を持ち、辛いものも食べれば甘いものも嫌いではない────そんな便利な体質をしていた。貴方が何を好んだとしても、同行人として不自由ないだろう。 「なるほど。いいな、聞いているだけで楽しそうだ。」 「今日は外でも過ごしやすいしな。」 商店街の方に向けられた瞳からは、やはり厳しさは失われているのだろう。そのまま、滑るように貴方に注がれた視線からも。 可愛らしく、年下らしく振る舞う貴方にこちらは気を良くしている。年若い者を甘やかしたがるのは年上の性だった。職場では若者に分類されるから、なおさら。 「ピクニックは好きか?」 自分は縁がないけど、と暗に含ませる。これだって世間話だ。 #街中 (107) 2023/09/09(Sat) 22:41:33 |
【人】 法の下に イレネオ敬虔な信徒というわけではないが、人並みに祈りはする方だ。 見回りのついで、それとも出勤前か後。教会へと足を伸ばした。 「……」 単に祈りに来ただけで、或いは見回りに来ただけで、そんなつもりはなかったのに。 見知った顔、或いは一方的に知った顔。ノッテファミリーのカポ・レジーム。 およそ教会に似つかわしくないその姿が視界に映れば、知らずのうちに顔が歪んだろう。あからさまに苛立った、不快そうな声で呟いた。 「……何のつもりだ」 ここは教会。大事にするつもりはないが。 相手はマフィアで、何もしないとは言い切れない。体躯を端に寄せ、貴方の動向を暫し見守っていたことだろう。 #教会 (132) 2023/09/10(Sun) 16:01:08 |
【人】 法の下に イレネオ>>136 ダヴィード 「まあ、充分じゃないか。栄養食品ばかりとっているわけじゃないなら。」 言いつつ、大雑把な性格の先輩のことを考えた。あの人は今日も出勤だっただろうか。きちんと食事を取っていればいい。それか、誰かが取らせていてくれれば。 続く言葉には愉快そうに鼻を鳴らすだろう。思考は移ろい、初めて会った時の貴方に思いを馳せる。あの時も喧嘩帰りのような風体だった。こちらの問いに対し、貴方は絡まれたと答えたのだったか、突っぱねたのだったか。 「は、言うな。」 勇ましいような、少し背伸びしたような、頼もしいような言葉には感心したようにそう返して。 そうして再び、視線の動きと共に、脳内の主要素は切り替わる。 「なるほど。いいな、肉は好きだよ。」 「お前はどうする? 二つとも食うか?」 25歳はまだ若者だろう。がっつり食べることもまだ出来る年頃だ。 貴方にはもう少し歳を食って見えているかもしれないが。 #商店街 (138) 2023/09/10(Sun) 18:19:05 |
【人】 法の下に イレネオ>>133 黒眼鏡 名前を呼ばれれば一層表情を歪めた。真摯な様子ですら鼻につく。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いだとか、ピーターを憎む人は彼の犬をも傷つけるだとか、それと同じだ。貴方がマフィアであるというだけで、その全てが気に食わない。 でかかった舌打ちは寸前で飲み込んだ。相手のためにこの場を乱してやることすら不服だと言うように。 「何を企んでる。」 神の元には皆平等。Scuola dell'infanziaに行くより前に学ぶ。 その絶対的な教えですら貴方たちには適応されない、或いは貴方たちが跳ね除けると思い込んでいる。 #教会 (139) 2023/09/10(Sun) 18:49:11 |
【人】 法の下に イレネオ>>141 ダヴィード 親がいないのだ、と、聞いたことはあっただろうか。 なくとも、ある程度察してはいるはず。端々に滲む貴方の生活に、貴方以外の人間の存在が垣間見えることはない。それはきっと、男が貴方を気にかける理由の一つだった。 「温かい飯って、どうしてあんなに美味いんだろうな。」 「冷たい飯がまずいってわけじゃないが。」 「お高い冷製パスタだとか冷製スープより、安くて熱いミネストローネの方が美味い。」 なら自分が作ってやろう。この男がそんな風に言うような人間なら、今頃貴方の素性にまで踏み込んでいたはずだ。 生憎そんなタイプではないから、話題は食事の温度に終始する。 「はは、まるでmicioだ。」 風呂が嫌だったと聞けば笑ったんだろう。草臥れた容姿も、一拍置いて威嚇するような態度も、そういえば、あの可愛らしく凶暴な獣によく似ていた気がした。 であるからには、自分が声をかけずとも、貴方はしぶとく生き抜いていたのだろう。とはいえ、人が生きるのは獣が生きるより容易く、困難だ。 「いいよ。店員に頼んで切ってもらおう。」 「飲み物も貰うか?」 #商店街 (162) 2023/09/11(Mon) 1:24:25 |
【人】 法の下に イレネオ>>143 黒眼鏡 寄越された賛辞は目を眇めて受け流した。貴方が指を折る度に、眉間に刻まれた皺は濃くなった。 冗談めいたその態度。 常であれば────それをするのが同僚や先輩、友人であれば、この男も笑って聞いただろう。背もたれに存分に体重を預け、顎を引いて視線は相手に。笑んだ目元でなんだよ、と口を開く。だが、今はそうしない。 貴方がマフィアだから。その一点で。 仕上げに「ジョーク」だと締め括られれば、また一層、口元が苦々しげに歪んだ。 「どうだか。」 「偽証は罪だ。お前たちの特技だろう。」 マフィアの多くは、表向きの仕事で繕って社会に溶け込む。 貴方もそうであると知っている。 #教会 (163) 2023/09/11(Mon) 1:54:41 |
【人】 法の下に イレネオ>>164 黒眼鏡 たん。 たん。たん。たん。 革靴の底が教会の床を叩く。 響くほどの音ではない。それでも、苛立ちを隠せなくなっている証拠。 しかし零れたのは乾いた笑みだ。座っている貴方と立っているこの男であれば、当然こちらの目線が高い。自然に、且つ強調するように、見下ろして笑う。 「マフィアが法を語るか。まるで口上だな。」 「隠したいことがあるほど口数は増える。そうだろ。」 いつもの決めつけ。 プラスして青い勘。 「やけに囀るな。」 職場の年配には決してしない言葉遣い。 さされた指は腹立たしい。だがわざわざ避けるのも子どもくさくて腹立たしい。間をとって、目を逸らすに留めた。 窮した返答はしない。それだって、十分に子どもくさいのだが。 #教会 (175) 2023/09/11(Mon) 13:44:23 |
【人】 法の下に イレネオ>>166 ダヴィード 「言えてる。」 今のところ、貴方は思春期の少年だ。 その年頃特有の気の迷いや不安で、誰かとぶつかったり、やさぐれたことをしたりする。一過性の放浪者。 男にとっての貴方は、そうだった。或いは、そうであってほしいと思っているのだろう。だから、それ以上のことがない。 「はは。」 機嫌がよさそうな笑い声がまた零れた。 この国の人間らしく身内好きな男だ。それでいて、休日を休日にすることが苦手な男だった。誰とも会わないはずの日に、知り合いに出会えたのは、やはり幸運なことだったのだろう。 無骨な手が貴方の髪を乱して去った。 「そうだな。お前は人間の方が向いてる。」 猫はそんな風にお強請り上手でもないし、と。 ペットとして飼うならいざ知らず、男が知るそれは野生の、それとも捨てられたものだけだったので。 #商店街 (176) 2023/09/11(Mon) 13:56:54 |
【人】 法の下に イレネオ>>177 黒眼鏡 互いに隠すことでもないのだろう。向ける感情の色。今この瞬間のご機嫌の具合。腹の中に抱えた何かの、ほんの先端だけはむしろ覗かせる。 貴方にとってはきっと余裕の表れで、こちらはその逆。まさに未熟さの表れだ。 であるのに、蛮勇。噛み付こうとするのをやめない。 「お前たちの」 「そういうところが嫌いだ。浅ましい。」 視線が戻る。貴方の指は収められていただろうか。未だに突きつけられたままなら、やはり不快そうな渋面を作る。 「……」 聞いたって答えない癖に。そういう沈黙。 生憎実直で、駆け引きは苦手なたちだ。まさか馬鹿正直に「自分がマフィアだと白状しろ」なんて言えるわけもない。それに、自白だけで証拠がなくては意味がない。 「聞けば答えるのか。」 「なら聞く。次の取引はいつだ。」 それでも、そう言われたなら乗るのが道理というもの。 口を開けて、閉じる。やけに鋭い犬歯は、貴方の目に映っただろうか。 #教会 (179) 2023/09/11(Mon) 17:31:38 |
【人】 法の下に イレネオ>>180 ダヴィード であれば、そのままでいてほしいと思う。 醜いことや後暗いことは知らず、なるべく穏当に大人になってほしいと思う。 それは年長者が若者に押し付ける、身勝手で当然の願いだった。それでも、口にして押し付けることはない。立場的にも、距離的にも、性格的にも。 頭頂に浮いた一束だけ軽く払ってやろう。あとは任せて、会計を済ませる。受け取ろうとした紙袋は、横から伸びた手に攫われて行った。 木のそばにあるベンチに腰を下ろせば、ちょうど木陰になっていた。 秋口の穏やかさのおかげで、日陰でも肌寒さは感じない。今が一番ピクニックにはいい時期だろう。これから徐々に冷え込んで冬が来る。 「ほら。お前の分。」 パニーニの片方を手渡して。 「ああ、先にこっちがいいか。」 どちらでも大差ないだろうに、妙な気遣いをして寄越した。もう片手ではフレーバーウォーターを一度に掴んで置いてしまおう。 #商店街 (183) 2023/09/11(Mon) 18:55:39 |
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