人狼物語 三日月国


69 【R18RP】乾いた風の向こうへ

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視点:


拾うモノがあれば捨てるモノがあった。

『俺を拾ったやつは少なくとも神ではなかった。』

怒りも苦痛も畏敬も焦慮も懐旧も絶望も無くなった。
戦いを続ければどんなフラストレーションも落ち着いた。
隊長の称号を得た時からルサンチマンの概念も失った。
一番の恩人を崇拝をしていた気もするが、
それすらも忘れた。

いっそのこと愛も情も超越し、
人で無き者へ成りたいと何度も望んで、頓挫した。
芽が伸びる度、摘んで、摘んで、繰り返した。

己の下に積まれた者たちが、応えてくれる事も無い。
『そこにあるのは俺が捨てたもの』。



 それだけの事。     *

【人】 宵闇 ヴェレス

 起きないよ。

[ 起こしてと言ったり起きないと言ったり、自分の寝穢さは自覚している。

 旅の日々や風景を形として残したなら見せて欲しいとねだっておくと、勿論という快い返事と合わせ、お礼も、との申し出がある。

 礼を貰うどころか、自分が楽しんでいるだけだからと何度か固辞をしたことはあったが彼は譲らず、穏健に見えて譲らない頑固な面もある。
 
 礼を重んじるのは付き合ううちに何度か聞いた彼の生まれや育ちの良さ由縁もあるだろうが、端々の遠慮や気遣いは節度の言い様の元に距離を図っているようなもどかしさを覚え、起こすのは忍びない>>0:177と同宿する寝台を使うのを遠慮するような形で間々それは現れる。]

 服を見繕うのに付き合ってくれればいいよ。先払いになってしまうけど。

[ この国に滞在する間、女性の形である方が都合がよいこと、既に彼に告げてある。
 女性であれば都合がよいとの暗黙のうちを、朝の市で向かい合い言葉を詰まらせたまま、互いに確認せずにやり過ごしている。

 それくらいのこと、と彼は言いそうな気もするが、頑固なのはお互い様だ。]
(11) 2021/04/17(Sat) 12:59:36

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 浴室から出て女性の形をした自分に目を留める彼に、やはり気に入るのならこのままで、と申し出る前にその姿はこの国に滞在する間に>>0:178と機先を制された。
 変化時に多少の疲労があることを除けば、どちらかの形でいること、まして彼の好む姿であることに障りはない。

 彼に喜んで貰いたいという気持ちが利他的なものだけである筈がないが、それが元より自分が厭うた己の種族の特性そのものを用いているものだと思えばとても彼に説明ができない。
 最も、彼が望んでくれたとして、この先をずっと女性として生きるとことには、90年も性の自認を曖昧に過ごせば実感がないというのが正直なところだ。]

 僕は平気。

[ 朝食しか口にしていない自分の方が空腹なのでは、との彼の気遣いに首を振る。元より食事は嗜好品のようなもので、生きていく糧、栄養の摂取は別ごとだ。

 宿の客層故だろうか、隣接の店先に並ぶ衣類や装飾品は華美で値が張り>>0:179、食事目的もあったが市まで足を伸ばすことは特に相談せずともふたりの意向は合致していた。

 ゆるやかな坂を下る折り、転ばぬようにと彼が差し出す手に指先を僅かに掛ける。]
(12) 2021/04/17(Sat) 13:02:29

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 伝え聴きの紋切り方の印象を遠国に持つことはありふれているが、女性は大振りの布を纏う風習というのもその一つで、そういった流行りも以前はあったらしいが実際国に来てみれば必ずしもその姿の女性とすれ違う事は少ない>>0:180
 けれど観光客向けか、品揃えだけは豊富に揃う。]

 これなんか綺麗だね。

[ 淡い染や華やかな染、多種多様なヴェールが店先を飾る。幾つかの軒先を見て回れば、金額に見合った肌触りのよいもの、土産の数を購うに手頃な値付けのもの、織かと思えば布の上に図柄を描き付けただけの値札に首を傾げるもの、場所柄故かどの店も賑わいを見せているが、安易に選ぶと食わせ物を掴まされそうだ。

 陽射し避けが当初の目的であるから、鮮やかな布ではなく黒一色の、それなりの厚さがあるものを選んで身体に当てる。布端に目立ちすぎない程に銀糸の細かな刺繍と水晶が縫い付けられている。]
(13) 2021/04/17(Sat) 13:07:08

【人】 宵闇 ヴェレス

 旅を加護する紋様なんだって。

[ 刺繍で布地に魔法陣を描いているようなものか。他に広い範囲に鳥や聖獣の刺繍や目立つ鉱石を縫い付けた、恋愛成就や長寿祈願など加護も様々なものがあったが、旅の祈願を願うというそれを選んだ。

 刺繍自体はこの店で行っておらず、専門の職人に依頼しているらしい。
 もっと大掛かりな布地自体に魔法を込める代物は市ではなかなか取り扱っておらず、職人自体が直接住宅街などに店を構えている事が多いとも聞いた>>0:175。観光客が踏み入れても問題なさそうなら場所なら滞在中に足を伸ばしてみるのもよいかと彼と話す。

 外衣は選んだのだから、後はその下に着る衣類だ。
 何処かしらダンテの声が弾んでいるように聴こえるのは気の所為ではないだろう>>180

 以前、冬の旅行で外套を新調した時も主には彼が選んでいた。
 自分なんかは普段のような簡素で動きやすい衣類で充分なのだが、折角だから今回も彼に任せてしまうのがいいかもしれない。勿論、外套の時は自分が選んだのだからとダンテが支払いを譲らなかったが、今回は自分で精算すると譲らない気持ちだ。]

 あと、この辺りに良い食事処はありますか?

[ 支払いを済ませるついでに店主に伺うと、市場内ではないがそう離れた場所でもない場所に、最近評判の酒や食事の味と揃えが良い店があると言う>>0:184。]

 反対方向でないなら行ってみようか。

[ 買い物を済ませた後で選択肢として考えよう。店主に礼を言うと、店を辞した。]**
(14) 2021/04/17(Sat) 13:10:59

[ 彼の笑う、笑い方、というのだろうか。
  その声というのは喉を鳴らす感じで、
  とても独特な感じがする。
  彼女があまり聞いたことのない、
  何かを含んだような声。
  でも、その笑い方が何を意図するものか
  何も知らない彼女には全くもって
  分からずじまいのよう。       ]


   本当に……?
   何か、私に出来ることがあるなら…、

   お家のため、ってどういうこと?
   まだ、お昼なのに、おやすみなさい?
   どうしてなのかしら?


[ 会話をしていけば生まれる疑問。
  それを胸の内の中に秘められるほど大人でもなく。
  別れの言葉まで聞こえると、
  更に彼女は疑問を口にして。

  そう、まだ外は昼下がりのはず。
  でもこの場所というのはよく見てみると
  窓もなく空気が悪かった。
  異臭などはしないけれど彼女の住む環境とは違う。 ]




   私の名前は、アウドラと言います。
   あなたのお名前を伺っても?


[ わかれを告げられるのであれば、
  聞いておきたいことのひとつであろう。
  名前くらいは教えてもらえると信じて
  彼女は声の掠れたその人に、最後の質問を。 ]*





 あ、あと、君は下着は?

[ 今頃思いついたが、ぶかぶかの服で分かりづらいが、襟もとから覗く鎖骨から布で隠れた丸い肩。女性らしい線を思えば胸元なども変わっているはずで。

 それに下履きなどは今はどうしているのだろう。気づくのが遅すぎるのと縁遠い買い物すぎて慌ててしまう。*]


[ 握り込んだ指先、爪が掌の肉を突き破った
  感覚があった。
  ぷつ、と音がして、小さな痛みが生まれる。

  悪意のない純粋な質問が礫のように
  突き刺さり、目の奥ががんがんと鳴った。

  下卑た行為には折れることを許さない自尊心が、
  眩しい輝きに容易くぐらつく。 ]
 


[ きっと、それは、
  あまりの純な、汚れの無い
  澄んだ湖面のような彼女に映し出された己が、

  あまりにも下劣で、醜悪で、穢れているのだと

  まざまざと見せつけられるからだろう─── ]
 


[ 丁寧に名を名乗る彼女の顔は
  やはり見られなかった。
  父親が己にしていることを知れば、
  その美しく整った表情はどんな風に
  取り乱すのだろう、と醜く唇の端が歪む。

  けれど飼い主にされたことの仕返しを、
  この純な少女に擦ることが正しいとは
  どうしても思えずに。

  甘いのだ、己は。
  今も、昔も。

  馬鹿馬鹿しい。  ]
 


   ……名乗る名など、ありません。


[ 吐き捨てるように囁いて。
  そうして座ったまま凛と背を伸ばし、
  身体ごと彼女に向かい合う。

  口を笑みの形に動かして。
  にやりと微笑んだ。 ]
 


   そう、ですね。
   ならば、─── le chien.
   ルシアン、とでも。


[ 地下に飼われた、少々生意気な犬。
  彼女がその単語の意を知っているかは
  わからないけれど。

  シャルケ・セト・ドゥ・シュバリエ

  由緒正しき己の名は、
  もう捨てたと思って尚、
  この澱んだ地下で口にすることは躊躇われて。]*
 

*



  "私が作る国を。"




*



[ どれくらいの時が経ったのかも分からない。
  この場所で、過ごした時間というのは
  彼女の人生に大きな影響を与えたことだけは
  間違えることのない事実である。

  彼の爪が肉を通った際に、少しでも顔が歪めば
  彼女は心配そうに何かあったのかと聞いたけれど
  顔を伏せていたから、それは起こらなかった。 

  20年ほどの人生は、綺麗なもので大半を占めている。
  それに彼女は気づいておらず、
  やりたいことをやり、与えられるものを与えられ。
  過酷だと思ったことは、諸国の政治を知ること。
  座学は嫌いではないけれど、
  先生を選べないためものによっては
  眠たくなってしまうものもあった。 ]






   ルシアン、と呼べば良いのね?
   また迷ってしまったら……
   あなたのもとに来ることにします。


[ その人の祖国で、それがなにを意味するのか。
  語学をしっかりと学んでいない彼女には
  わかるよしもなく。
  もし、分かっていたのならダメ、と
  強い気持ちを持って言っていたと思うけれど。

  勿論、地下に迷うということは
  ほとんど無いだろうけれど、
  まだ散策は続くだろうから予防線。

  ルシアン、とまた呼んで、
  彼女は腰をゆっくりとあげる。      ]







   お邪魔して申し訳ありませんでした。
   おやすみなさい。


[ ふわりと舞った洋服の裾が
  床を軽く撫で、彼女は軽く腰を落とし
  会釈を済ませるとゆっくり元来た道を
  戻って行き、静かにその扉を閉じる。

  地下から上に戻れば、
  しもべの1人にどこにいたのか、など
  心配そうな声で沢山聞かれてしまった。
  そんなに心配をしなくても、と
  彼女は思ったが、国政が危ないからか、と
  歩きながら散策をしていたと教えた。 ]





────────


    お父様、お母様?
    私、何か愛でるものが欲しいの。



[ 夕食の折に、彼女はそう伝えてみた。
  犬や猫などのものが与えれるのではと
  淡い期待を描いてみて。

  どこか、不思議な反応をした両親を見ながら
  どんな子が来るのだろうか、と
  その日を待ってみることだろう。  ]*




  

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 路面から目立つ場所や棚には観光客向け然とした服飾が並べられていたが、縦に長い店の奥へ進むと一般的な衣類も陳列されている。更に奥にはこの店の工房があるらしい。
 遊覧を兼ね他の店を幾つか見て回ってもよかったが、先に購入したヴェールを見てもこの店の品質には信頼が置けそうであること、後の食事の時間もあってか、ダンテは同じ店で見繕うことにしたらしい。

 服を購うのに付き合って欲しいと頼んだ時は、自分が楽しいばかりと気が引ける様子だったが>>20、任せてしまうとあれはどうだろう、これはどうだろうと実際に甲斐甲斐しい。

 色違いのような長衣を2着示されると>>23、似たものであればひとつは着慣れているものを、と普段となんら代わり映えのない簡素な無地のシャツを選ぼうとしてしまい、選び甲斐と言った点では彼に付き合って貰ったのは正解だったかもしれない。

 それにしても、女性の形をして幾らか小柄になった身体は、覚えている自分の体格の感覚とは異なり、上段の棚など届く筈のものに手が届かないというような事が何回かあった。
 恐らくそれに気付く度にダンテが手渡してくれたのだろうが、甲斐甲斐しく女性の世話を焼き、服を選ぶ男性といった旅のふたりづれの様子に対する店主の目は、まとまった買物をする為もあるだろうが多少俗染みていても温かく、そうでなくとも、街行く時に昼に感じた刺すような視線は感じられない。そっと安堵の息を吐く。

 それから愛らしいワンピースをダンテが差し出す。身体の線に沿うシンプルなな作りだが、丈の短い裾は布地をたっぷりと使い、ひらめくドレープが如何にも女性らしい。]
(40) 2021/04/17(Sat) 21:18:59

【人】 宵闇 ヴェレス

 ……いいよ。

[ 普段の自分なら絶対選ばないだろうことは彼もわかっているのだろう。今は20cm近くも自分より背の高い彼が、まるで上目遣いに似て、だめ? と此方を伺う。

 最初に彼が選んだ薄紫のグラデーションの長衣と、色違いの1着の代わりに選んだシャツは、フリルのあるもう少し装飾性のあるものに変えた。立て襟の上衣をもう1着とハーフパンツ、それからワンピース。サンダルは踵が低く編み上げのもの。それからダンテの希望があるなら、もう少し愛らしい服飾品を幾つか。
 寸法を鑑みれば元の姿では着用できないというのに、ダンテが選んだものをを除けば普段とさして印象が変わらないものばかりで、もう一度、彼に任せて正解だったと思う。]
(41) 2021/04/17(Sat) 21:21:54
[ 今着用している服と替えたい為、試着室を使いたいと店主に問えば、快く場所を示された。店の更に奥まった一角。買った服を抱えそちらに向かおうとすると、気がついたようにダンテに呼び止められた。]

 下はそのまま。

[ つまり上は何も頓着していないということだ。すっかり弛くなった上衣で紛れている程度のささやかな膨らみであるから、特段気を払わなくてもいいかと思っていたが、ダンテの選んだ衣服を着るにはそれでは不都合があると自分にもわかる。

 結局数組の下着も合わせて購うことになった。
 流石にこの店には扱っておらず、商人繋がりで店を紹介して貰い、何せ寸法を測るところから。先の店で買った衣服に合わせたものを後は女性店員に見繕って貰う。]

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 買った服に衣類を取り替え、着ていた服も商品と合わせて纏めて貰い、なんだかんだと時間は掛かったが寸の合った衣服を纏えば気持ちも落ち着く。今は長衣に丈の短いスボンの出で立ちで、陽射しはないからヴェールは不要だ。
 ズボンと言えど、もう男性と見紛われることはないだろう。

 市を歩いているうち河沿いまで出、哨戒船だろうか水面に灯りが落ちている。風がだいぶ涼しい。]

 ダンテ、何が食べたい?

[ 自国は旅の要になるような駅であるから旅人の行き来頻りで、眠らない街と言われている。この国も陽がすっかり落ちても市の賑わいは変わらずであるのは心地いい。]

 すぐそこの河で魚が捕れるから新鮮だって。僕、魚食べたいかな。

[ ダンテはどう? と腹の具合を伺ってみる。]**
(42) 2021/04/17(Sat) 21:26:14
[ それから、買物の間に離れた指をまた掛ける。]**

[20という節目を迎える年に初めに贈られたものは、
陣頭に立って一番初めに返り血を浴びるという"功績"だった。

 そもそも。その日が、
 の誕生日であるということもすっかり忘れていたのだが。]**



 かわいい

[ きっとニコニコとして、あれこれヴィに当ててみて、最終判断は彼に委ねられてしまうが、合いそうなものがあればそんな風に言葉をかける。

 自分が夢中になっている間に、ヴィが手を伸ばしている事がたまにあったが、高い位置にあるものに手が届かないらしい
 ぶかぶかの服の袖が重力に負けて細い腕があらわになるから、どれが欲しいのとあわてて間にはいることしばしば。]

 女の子って大変だな

[ 顔立ちは普段のヴィと同じ系統なのに、頰が丸く柔和になり唇もやや桃色で少女めいた華やかさを纏う。白金の髪が輪郭を淡くして、店内の明るい場所で見れば本当に可愛らしい。

 小さくため息をついて動揺をごまかすようなことを言う。ヴィのことだから自身の変化だとか容貌が優れていることなんてのには無頓着なのだろうけど。

 無頓着というか、理解していてそれが当然といった様子なのかもしれない。彼の種族特性も関係しているとは過去に聞いたんだったか。食性のためか他者の好む姿を取るというのは、彼らの種族の生存戦略らしく、今更にそれを実感する。
 
 それとも、もとから自分はヴィに好意を抱いているのだから、その彼が女性姿になっているなら全部を可愛い綺麗だと思うのは仕方がないのか?]

[ 女性の上下の下着も必要になったと気づいて、この店だけでは流石に揃わず、店主が良い店を教えてくれた。
 それにしても、全部が必要だなんて何があったんですなんて控えめに聞かれてしまったが、着替えを入れた荷物がなんてもごもご言っていたら店主なりに勝手に理解してくれたようだ。]

 そうだ、化粧品もいるんじゃない?

[ 布地の多いひらひらとした可愛い衣服を自分が選んでしまったせいで、そんな衣服を女性が化粧もせずに身につけることはあまりないのではとようやく。

 だから、ヴィも今夜は長衣を身につけたのかもしれないとようやく。ただ、そのままでも似合うのにと思ってしまっているから脳が沸いている。]

[ 店を出て教えられた道順を辿り店を目指す。
 すっかり大荷物になっていたが、自分が持つと当然のように受け取った。

 それから開いた方の手にヴィがそっと指を掛けるから少し笑って。]

 腕を組んでくれてもいいんだけど

[ 流石に望みすぎだろうかと思いつつも冗談めかしてそんな言葉をかけ。こんな時は冬がやっぱり良いなとか考えたりもする。
 そうすれば彼の手を掴んで温めるふりだってできるから。*]

[

  ――いや、本当なら、王は死んだ。死んだから。
  真実を隠す鎖はとうに千切れているはずだった。なのに。


]

 ………"白痴のしゃべる物語"か。

 先程の俺じゃないか。


[ はて、それは独り言のつもりだった。
  貴女には5年間「私」と言ってきたつもりだったので。

[ 訳なく男女の形を取ることはないが、未分化の身体は月の満ち欠けに引き摺られることが大儀だ。分化を促す生理なのかもしれない。

 それでもまだ女性の形は、図体ばかりでかく油断をすればあちこち打ち付けてしまう男の形よりはマシだとしても、届く筈のものに手が届かないのはもどかしい。]

 ごめん、ありがとう。

[ 気が付く限りはダンテが手助けをしてくれるが、都度都度手を煩わせるのも申し訳ない。]

 ……楽しそうだけど、気の所為?

[ つまらない事で手を掛けさせてしまっているから、溜息を吐かれても仕方がないが、その様子と相反して、服を選ぶ様、下着、化粧も必要ではと、女体になった自分よりも女性であることに気を配る彼が浮足立つようにも見えるのに可笑しさを覚えてしまう。

 化粧品も必要では、と言われて己の頬に触れる。
 特段必要とは思っていないが、この形姿であるだけで幾らかも喜んで貰えるなら、彼の望む在り方であるのは易いものだと思う。]

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 承諾を得られるとは思わなかったのか、彼の勧めた衣服に肯うと、隠しもせず喜ぶ様子が可愛らしい>>70。スカートは履きつけていないが、女性として不自然な姿でなければサイズが合うなら問題ない。
 こんなにも喜んでくれるなら、自分が選ぶ衣類も多少は飾り気のあるものがよいだろうかと、無地の衣類を棚に返すと今度は別の物を身に当て、彼を伺うように小首を傾げる。それも無地が胸元に少しのフリルとリボンタイに変わった程度の事ではあったが。

 女性の身嗜みを整えようとするなら単純に衣服を求めるだけでは足らず、合わせて下着、化粧品とそれなりの買物になり、愛想の良い衣料品店の主の挨拶を背にそれから更に数軒を回った。

 荷物はダンテが片腕で抱えている。未分化の姿であっても自分より手足の長い彼にそういった点では甘えてしまうことが多いから、彼も当然の様に荷を受け取った。

 アクセサリーも、と彼は言ったが>>72、夕食としても既に遅い時間になりつつあり、また明日以降にしようとの話になった。

 思い出にもなるし、と慌てて付け加えたのは、彼好みの衣装はどうしても払うと譲らなかった彼に、プレゼントと言い出すつもりじゃないよね? との目線を向けた自分への弁解だったかもしれない。

 幸い、買物を終えた場所は店主に勧められた店に近く、魚が特に上手いと言われると、単純ながら魚が食べたくなってくる。]

 よかった。

[ ダンテも否はなかった為、ふたり少しばかり早足になったかもしれない。買物続きで足も疲れたところだし、そろそろ喉も乾いてきたのだ。

 店の名前も親切に書き付けて貰った。此方の文字は慣れてはいないが、看板と照らし合わせれば間違えることはないだろう。]
(81) 2021/04/18(Sun) 2:39:15
 いいの?

[ そっと触れても良いかと確認するように指を掛けると、腕を組んでくれてもいいというから逆に驚いたような声がでた。

 おずおずと袖を摘んで、いつ冗談だよと言われても離せるように肘へと指で辿っていく。拒絶がないなら、肘まで上がった手がするりと腕を絡ませる。人に添うことなど慣れていないから、仕草はどこかぎこちない。]

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 酒も回る時間帯であるのか、辿り着いた店内は活気に満ちている。けれどその騒がしさは居酒屋の様な猥雑なものでなく、隅々まで磨き上げられた調度品や輝く揃いの食器、グラスなどの店の雰囲気からも、純粋に食事や酒を楽しむ為に客が訪れている事が知れる。
 圧巻であるのはバーカウンターの奥に並ぶ酒の揃えで、思わず案内を待つ間、あれを見て、と囁き合ってしまう。
 席の準備が出来たと通されたのは運良く(?)そのカウンターで、横並びに身を滑り込ませる。]

 魚が美味しいと聞いたんだけど。

[ ダンテが店員に話し掛ける社交性の高さに便乗し、お勧めの料理を聞く。
 揚げ、蒸し、煮込み、なんでもあり特に魚の擂身がよく食べられるらしいが、焼き魚も美味しいという。まるまま焼き上げた魚にレモン、唐辛子、揚げた芋などが添えられている。それから鮭もよく捕れるらしく、これはマリネが美味しい。野菜はナスにズッキーニのフライ。口直しにパセリとミント、玉葱、小麦の挽割りを和えたサラダ。
 ダンテが最初の一品を頼んで以来何も注文を口にしていないことに気付いて、はたと見上げる。なんだか此方を見て笑っているようだ。
 さして食べられない癖、色々なものを少しずつ食べたがるのは悪い癖だ。

 それからこの国の酒精にも様々なものがあるが、ふたりとも酒好きでそれなりに強いのならば蒸留酒はどうかと勧められる。市街地から離れれば葡萄畑もあり、ワインなども作られているからホテルで飲んだのはそれだろう。

 グラスに満ちた液体は透明だが、水で割ると不思議に濁る。この様子から、獅子の乳などとも呼ばれるらしい。

 未だ透明な方のグラスを取って、縁に口つけぺろりと舐めると、まずは舌を熱さのような感覚が焼く。]

 うわ。

[ 相当度数の高い酒のようだ。]**
(82) 2021/04/18(Sun) 2:41:42


 [白と赤との格子柄が目に浮く様に
  並べられていくのは白磁と深紅の駒
  
  此方が執るのは
  何時もの様に 赤く紅く深紅≠フ側]

 



    一手、
    まずはナイトを進ませて

    *
 


[ ルシアン、と繰り返す彼女の声は、
  綺麗な鈴を転がしたようにころころと艶やか。
  
その意味も知らずに。


  質の良いドレスを纏い、
  穏やかな笑みを浮かべて己に向かい
  the DOG、と呼んでいることが可笑しくて、
  

  同時に自分で言ったことなのに
  何処か苦しくて。


  知らないということは、幸せなこと。 ]
 


[ 己のような怪しげな人間にも恐れず
  気負わず話しかけてくれる彼女
  ───アウドラと言ったか。
  
  良い娘だ、純粋で、素直で。
  きっとこの屋敷の中で、見るもの触れるものを
  彼女のまわりの人間によって選別され
  制限されているのだろう。

  そう、無知は、幸せ。
  ……そして時には残酷で。 ]
 


   もう、迷ってはいけませんよ。
   ここは、あなたの美しさには相応しくない。
   汚れた場所です。


[ 同じことを繰り返す。
  また彼女はここに来てしまう気がしたから。

  おやすみなさい、と小さな声が響けば
  部屋の空気も揺らぐ。

  花のようにひらり、ひらりと舞う
  ドレスの裾が冷たい床を掃いて。 ]
 


[ 邪魔なことなど。

  ここへ来てから、飼い主以外の人間と
  言葉を交わしたのは初めてだったな、と
  思いながら微かに頭を下げた。

  きちんとした礼をするには、
  体も、心も苦しかった。 ]
 

 *

[ 彼女が当の主である父親に、
  愛でるものが欲しいなどと懇願していること
  など知る由もないが

  もしその場に居合せたなら、
  その時主はどのような顔をしたのかは
  どうしても知りたいと思うだろう。

  己は己で、その主に
  閨に引き出された夜も相変わらず
  反抗的な態度を変えることなく。

  ぐ、と床に押し付けられた頬を歪めながら、
  そう言えば、花のように美しいお嬢様が
  いらっしゃるのですね、と笑ってやった。]
 


[ 顔色を変えた主から
  執拗になにがあったか聞かれたが、
  その先は頑として口を割らずにいてやった。

  その日からしばらくの間
  食事が与えられることはなかったが、
  主の動揺が己の心を満たしてくれ、
  それは愉快で満足だった。]**
 

[自覚が無いのだろうか?

どんなに温和に事を済ませたって、優しく接したって、持っているつもりが無いとしたって。伴う結果と彼の立場は、狂おしく、著しく、燃え盛る野心の塊を抱えているようにしか見えないのに。

いずれは虎とて、龍に頭を平服する日が来るのではないのだろうかと恐怖すら抱いていた事もあったのに。]

[ (何だ、随分と急に牙を向けてくるじゃあないか) ]

 

 楽しいよ

[ 楽しそうだねと言われたから肯定を返した。ごめんねとお礼と一緒に言われたから、その分は慌てて否定もしただろう。ため息は自分ごとだと伝えて。

 高いところのものが取れない様子やら何もかも可愛くて仕方がない。*]

[ 逸れないようにと自分が心配するからか、いろんな理由で繋がれていた指。それでは心許なくて。戯けたフリをして腕を組んでも良いなんて言ったら、逆に良いの?と問うような言葉。
 自分は是非と即答して、その声はきっと明るい。]

 どうぞって毎回言ったらそうしてくれるの?

[ 気恥ずかしそうに見えるのは、慣れないからであって腕を組むこと自体が嫌だとか恥ずかしいとは見えず道すがらそんなことを尋ねた。
 中性体の時でも自分はヴィと手を繋ぎたがっていたけれど腕も組んでくれたりするんだろうか。一つ許されたからといって前のめりすぎではないかと少し恥ずかしくなってきた。]

 ……

[ ヴィの手が少しずつ確認するみたいにぺたぺたと、彼の心中はしらず。冗談だよなんて言うわけがない。
 自分の空いた方の腕のちょうどいい場所を探している様にも感じた。すっかり収まった所で歩幅を合わせて、手の添えられた微かな重みが胸に明かりを灯すようで、少しだけ鼻の奥がつんとした。

 一瞬一瞬を全部記憶して置けたら良いのにと思う。だから、自分はメモをするのかもしれない。*]



   また、迷ってしまったわ。
   ……随分と、痩せてはいない?


[ また別の日。
  それは彼女が愛でるものを与えられた後。
  彼には話さなかったけれど、
  彼女の両親は容姿の整った少し若い
  ルシアンのような異性を数名連れてきた。

  彼女はその時訳がわからず、
  両親に猫や犬は?と人には目もくれずに
  聞いてしまい、少しだけその場がざわついた。

  しかし、数日をおいて迷子になった彼女は
  鉄格子の中のその彼の様子が気になってしまう。
  彼はどこか、先日連れてこられていた
  異性たちと似ているような気がして。  ]







   何か、食べるものと飲むものを
   厨房から持ってくるわ。
   ルシアンも連れてくるか…
   そう、あなたの髪色に似た
   毛の色をした猫を飼い始めたの。


[ 猫に犬と名付けてしまった彼女。
  悪気なんて一切なくて。
  目の前の彼に似た、グレーの毛色に惹かれ
  彼女はその猫を手元に置くことにした。
  止められたり、声をかけられたり
  しなかったなら、
  彼女の愛でる対象になった猫を連れ
  食事を持って戻ってきたはず。  ]*
  






 [さて途中から当初の目的など忘れて
  成り上がる事に喜びを抱く様になってしまったのは
  否定が出来ない。


  そして今この時世が
  単純で退屈なシステムを崩し得る
  絶好の機であると、歓喜し計り巡らせている事も。]


 



  返された応手にはどの駒で応えようか、と
  流れる仕草で口元を隠しながら。*

 

[ 怖じたような問い返しに、返ったのは明朗な肯定だった。
 それから、尋ねるならば何度でもとの言葉。]

 ……この国にいる間はそれでもいい?

[ 先の午睡の遣り取りのように、節度を望んでいる所が彼にはあるのではないかと思っていたから、言葉に詰まり、口に出たのはそんな答え。
 今の自分は確かに普段よりは頼りなくみえるだろうから、言葉通りに彼に甘えても許されるのではないかとの咄嗟の考え。

 元の姿に戻ればどうだろうか。今がそうでない為あまり想像がつかないが、大の大人が庇護を強請って、と、気恥ずかしさを覚えるような気もする。

 ゆるゆると探るように腕を絡めるまでの間、荷の空く腕を差し出しダンテはそこで待っていてくれた。

 自分の国へ訪う事があれば街中を散策し、旅にも出掛けたこともある。
 逸れないようにと手を繋ぎ歩くことはあっても、こんなに体温の触れるような距離で添うたことはなく、指先に血が集まるような熱さを覚える。

 一度だけ触れた熱を思い出すようで胸が苦しい。]

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 良い街だね、とダンテが一際明るい街並みを眺めて口にする>101のに頷いた。

 平時に比べ治安は悪化しているというが、陽が暮れても街は賑わいが収まる様子を見せず、人通りある場所ならこうして旅人も漫ろ歩く事ができる。

 国王が崩御し統治が乱れるまでは聞き及ぶままの豊かで穏やかな国だったのだろう。
 それは一介の旅客が表面を浚い覚えた感想に過ぎず、政争の当事者>>2のみが知る国の歴史に刻まれた血腥さを自分たちが知ることは恐らくない。

 店に着き、扉を開けての賑わいに此処まで足を運んで満席かと一瞬危惧を覚えたが、運良くカウンターに空いた席に身を滑り込ませる。
 市から少し離れた立地もあり、観光客より地元の住人が客層としては大半なのだろう。初めて店を訪れた体の自分たちに、店員はわかりやすく店の名物を紹介してくれた。

 それから酒精。アラックと呼ばれる蒸留酒が水を加えると白濁するのは、酒に溶かした香草の成分が分離する為らしい。
 ショットグラスに注がれたそれを一舐めすると、ダンテのいう甘味より薬草のような香りが度数の強さと共に鼻につく。]

 君も少し試してみる?

[ 既に割り物をしたアラックに口をつけているダンテへ小さなグラスを差し出す。]
(125) 2021/04/18(Sun) 19:59:02

【人】 宵闇 ヴェレス

 僕だって酔うよ。

[ ダンテは自分をワクだと思っているようだが、自分だって人並みに酔う。酒を片手に読書をしていれば気付けば寝込んでいたなんてこともある。ただ、自分が酔う前に同席している相手が潰れる場合が大半なのだ。]

 酔い潰してみたいって言ってたけど、まだ叶わないね。

[ 冬の旅先のスタンドで、店主と戯れてダンテがそんな話をしていた。同じ様にバーテンダーから彼女のほうが強いのかと問われて笑うダンテに澄ました様子で言ってみせる。

 アラックに合うからと、料理を待つ間前菜の様に出されたフムスで空腹を紛らわせていると、待つほどもなく焼いた魚が運ばれてきた。フォークを入れるとぱりぱりと焼き目の付いた皮目が割れる音がする。
 店員が器用に半身を外すと、そのまま骨も外して後の半身も現わになる。あとは好みで薬味とともに口にする。

 厨房から湯気の立つ料理が次々と運ばれ、食べる速度が追いつかずカウンターから皿が溢れそうになり焦りもする。
 自分たちが7割方料理を食べ終えた頃は、客数は半分ほどになっていた。
 カウンターも落ち着いた様子で、暫く国内に足止めをされている事を世間話の中で話した。どうせ是も否もなく滞在しなければならないのなら、見て回るに適した場所などを聞く。]*
(126) 2021/04/18(Sun) 20:01:20

 うん、勿論

[ 「この国にいる間は」その言葉に確かになと思うところもある。女性姿であるし治安に不安のある国という理由が有る。
 本当ならいつだって手を取って歩きたいし、腕を組んでくれるならとても嬉しい。

 まさか自分の彼への敬いや、指紋を残してはいけない宝物に触れるときのような距離感が彼からの躊躇いになっているとは気づかないでいる。]

 あの日…

[ 言いかけて口籠った、こんなに距離が狭まったのはいつ以来だろう。明け方目を覚まして一階に降りたらヴィはずっと起きていて自分の書いた拙い文章を読んでくれていたらしい。

 なぜか泣きそうに見えたとか今はそんなふうに記憶している。

 あの日自分は告白をして、君が好きだと。ヴィは人の記憶を糧としていて、自分のもう殆ど風化して心の痛みなんて伴わない懐かしいだけの初恋の思い出を、まるで得難いもののように扱ってくれた。]

 いや、後で話すね
 お店はあのあたりかな?

[ 教えてもらった道順ならそろそろな事を理由に先送りしてしまった。意気地がない。

 あのときの熱病みたいなものだったのかとも思えてしまうが、自分はそうじゃない。1度目は勢いでも2度目が欲しい。なんだか十代後半に戻ってしまったみたいで情けない。いつもならどうしていたんだっけ?
 過去のことなんてなにも参考にならない。*]


[ 食事を数日与えられないくらいのこと、
  どうと言うことは無い。
  そろそろ折れるかと出された食事にも
  さらに数日は敢えて手を出さずに
  いてやったほどだ。

  それでもさすがに意識が朦朧とした己に、
  焦った主が医者を呼んだのだと聞いた時は
  ひとり、笑ってしまった。

  
つくづく愛された犬だと。
 ]
 


   ……もう来てはならないと
   申し上げましたのに。


[ 溜息にも満たない吐息を溢しながら、
  横目でちらりとみやった先の、揺れるドレスの裾。
  当たり前のように、以前会った時とは
  異なる布地に、彼女が大切にされていることが
  改めて分かると思った。]


   そうですか?
   変わらないと思いますが。


[ 一度会っただけの己に、痩せている、と
  指摘する言葉になんでもない、と返す。

  目立つくらいには肉は落ちたのだろうと
  自嘲気味な含み笑いが浮かんだ。 ]
 


   お気遣いなく。
   そのようなことが誰かの目に止まれば、
   宜しくないでしょうから。
   お気持ち、嬉しく思っています。


[ 食べ物を持ってくる、と言う彼女は、
  いつかの時と変わらず穏やかに笑んでいて。
  こちらはやんわりと否定する。
  やれやれ、と竦めた肩が、
  続けられた彼女の言葉に一瞬、
  ぴたりと止まった。 
 
  己の忠告は彼女に届いただろうか。
  もしかしたら、気にせず厨房へ向かって
  足を動かしていたかも知れないが。]


   ─── 猫、……
 


[ そうして彼女の腕に優しく抱かれた猫を
  目にすることがあったのなら、
  己はその猫に大変申し訳ない気持ちで、
  くつくつと笑ってしまうだろう。 ]


   ……あなたのその美しい猫の名は、
   ルシアン、と言うのですか。


[ 無遠慮にけらけらと笑いながら告げる。]


   この国の言葉ではありませんから
   良いと思いますが、
   その方は嫌がりませんかねぇ。
 


[ すう、と顔に浮かんだ笑みを引いて、
  ちらりと猫に目を向けた。
  主と同じように美しく、
  艶やかな毛皮を纏っている。

  口を開けば、冷たい空気が喉に張り付いて。]


   ……変えてやってもいいかもしれません。
   ─── le chien、は、俺の祖国の言葉で
   
、と言う意味ですから。


[ 感情を削ぎ落とした顔で、けらけらと笑った。
  乾いた笑いが、この国の乾いた風に靡いて
  部屋を漂って、いつしか混じりそして消えた。]**
 

[ 身形姿と、情勢に甘えた問を彼は快く請け負ってくれる。
 許されているのだからと腕を取る。彼は何時だって優しく、それが自分だけに向けられた特別なものだと、夢のような自惚れを抱かせる程だ。自惚れではと自戒するだけの分別はある。物語にある恋の病のようだと他人事染みて独り言ちる自分がいる。

 文筆の傍ら、行き交う旅人が語る余聞が得難いとの方便で、簡易な宿を開いている。巣に招いているのだ。ひとの記憶を糧としてひとかけらを得る代償に、快適な寝台と温かな食事を差し出す。長くそうした生活を続けて、そこに彼は訪れた。

 行き交い過ぎ去る旅人を見送るだけの自分が、初めて手元に留めたいと願った。
 限られた彼の命の時間の、今を過ごせるだけで僥倖の筈が、過去に焦がれて未来までを欲しがった。
 記憶を糧とする食性であること知っているだろうに、何故彼が、あんなにも美しい初恋の思い出を自分に与えたのかわからない。もう二度と自分に与えられることはない過去の記憶に自分は羨望さえ覚え、口にしたいと涙した。]

 なに?

[ 彼が何かを口にし言い詰まった。
 あの日の出来事は麻疹熱に当てられたものだったろうか。彼の口にした、これきりにしないでとの言葉の響きも、今となっては熱に浮かされた自分の願望でしかなかったのではないかと思う。自分に取っては一時の熱ではない。

 あれからも変わらぬ様子で彼は何度か自分の元を訪れた。
 凪のように変わらぬまま今があり、こうして寄り添そう事で足り得ると思えればよいものを。

 道の少し先、灯りの下教えられた店名を刻んだ看板が照らされているのが見えた。]

【人】 宵闇 ヴェレス

 数が居ればいいってもんじゃないだろうにね。

[ 血統の維持として誇示として為政者は得てしてそういうものか。自分の故国は出生数の低下からゆるやかに滅びを迎えているだろうが、国に残っていれば統治側の縁戚として、女として成人を定められ産めよ増やせよとせっつかれていたのだろうこと想像に難くなく、些かうんざりとした声音が漏れた。辟易として国を出てそれきりだ。二度と戻るつもりはない。
 故国とこのアルファルドでは事情も異なるだろうが、王子が二桁も居れば後継を定めていなければ争い事になるのは必然も、生憎その皇太子も王の死後弑されているから>>0:151泥沼である。

 皇太子が殺害されたことは自分も読んだが、理由までは紙面に記されてなかった。
 調度ダンテと話題にしたから耳についたのか、地元の住人で混み合う店内のざわめきの中に、あれは禁忌を犯したから処されたのだ>>2、との声を拾った。嘘か真実かはわからない。]

 どうだろう?

[ 折角の地元産の酒精だ。流通に秀でた自国でも望めば入手することは可能だろうが、産地の風土で口にするのとは味が違う。

 ダンテも折角だから、と口にしたが>>156、味と度数を確かめるような暫くの沈黙に笑ってしまった。]

 僕もこれは止めておく。

[ 笑ってバーテンダーに新しい杯と、水と氷をオーダーする。食事に合わせるには風味も度数も強過ぎる。それに此処から宿に戻るにもそれなりに歩く。前後不覚になることはないだろうが、あまりに気を緩める気にもなれなかった。]
(162) 2021/04/19(Mon) 1:56:11

【人】 宵闇 ヴェレス

 酔うよ。ダンテが知らないだけだよ。
 ハンデってどれくらい? ワインボトル1本くらい?

[ もう1回言った。常にダンテが酔って終わっているのだと念押ししているようなものだ。挙げ句ハンデの値をつけたが、2本でもさして状況は変わらない気もする。

 カウンター向こうの店員だけでなく、並びの客からも冷やかしが入る。
 買物の時も感じたが、朝方この国に到着したばかりの頃に受けた疑心の眼差しは既にない。店の人間であったり、酔客であったりするからだろうが、概ね旅人を受け入れる様子は感じが良い。元の姿のままでは恐らくこのような扱いではなかったのではないか。それを思うと、この国に生まれ、同性を愛したならば苦労だろうな、というようなことを思考の端にぼんやりと思う。

 アラックを数杯頼み、ダンテの頼んだ赤と白の酒瓶も分けてもらった。というよりも、主に飲んだのは恐らく自分で、食事を平らげた割合とボトルを開けた割合はダンテでと自分で綺麗に反比例していそうだ。]
(163) 2021/04/19(Mon) 1:59:03

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 自分と同様、ダンテも滞在の間見回るところを店員に尋ね、商店で聞いた魔法を織り込んだ布を扱う職人の店を気にしているようだ。
 旅が多い彼なので、利便高い品があるなら見てみたいのかもしれない。
 それから王宮は警備が厳しく見学することは出来ないが、外から見てもそれは壮麗な造りだという。確かに、此処への道すがら幾筋か向こうであっても煌々と灯された燈籠の光は漏れ、一角は粛然とした雰囲気を醸し出していた。]

 ご馳走様、此方にいる間にできればまた来ます。

[ そうして席を辞そうとする頃には、自分たちの他に客はもう一組、二組しかいなかった。

 飲み比べの結果は、勝てる気がしない、とダンテの言葉で締め括られたが、足元は確かで>>158、実際張り合うような呑み方はしていなかった。
 彼も宿に戻るまでの道行きを気にしていたのだろう。]

 ほんとに強いね、あのお酒。

[ 自分もワインの1本、2本くらいなら平常の様だが、アラックの方が幾らか酔いを巡らせた。度数が強い故というより、独特の風味と口当たりで、どれほど呑んでいるのか見当が付きにくい事が理由だろう。

 歩みが危うい程ではない癖、許可もなく彼の腕を取り、宿への帰路を辿る。]**
(164) 2021/04/19(Mon) 2:01:41
[ 日付の変わる頃宿の部屋に着いた。サンドウィッチの皿は片付けられ、昼に乱した寝台のシーツは綺麗に整えられていた。顔を洗おうと浴室に入ると、水気も綺麗に拭われ、新しいタオルが備えられている。

 ワインとチーズの皿は窓際の卓にそのままだったので、アラックの酔いに乾いた喉をまた白ワインで潤した。]

 眠い。

[ 思えば今日の1日は長く、この国に足留められたこと、朝市の後宿を探し、姿を変え、必要な身の回りの品を購い、雰囲気の良い酒場で食事をした。

 昼に幾らか眠りはしたが、強い陽射しと姿形の変化、酔いも合わせて、こんな時間であるのに眠気を覚えた。寝台に腰掛け、編上げのサンダルの紐を解こうとするのも、気が急くほどに結び目を硬くする。

 酒場への道すがら、ダンテが言い差した言葉は店の喧騒の中続きを語ることはあったのだろうか。もしくは帰路。宿までの間に沈黙を守っていたなら、問うてみたかもしれない。]**


   お話をする相手がいるんだもの。
   どうしても迷い込みたくなるわ。


[ 今日は少し彼女の体型に沿った形のワンピースで
  薄いラベンダーカラーの珍しいものだったかも。
  前回よりはふんわりとしていないけれど、
  彼女が動けば床を裾がはらって動きが生まれる。

  彼のため息のような吐息が耳に入れば
  ふふっとゆったりとした笑みが彼女からは溢れた。
  それほど、特に気にしていないようで
  食事のほうが気になってしまった。   ]


   わかったわ。ルシアン見つけてくるわね。


[ とは言ったものの、やっぱり気になって
  彼女はルシアンを屋敷の中で見つけ出す
  その中で厨房に行き、パンと飲み物を
  こっそりと頂いてルシアンを見つけた。
  本当は他にも何か、と思ったけれど
  断食後はすぐになんでも食べられるわけではなく
  彼を思ってそれだけをとってきた。

  彼のところを出て少し経ってしまったような。 ]



   よければ、これを食べて?
   さ、ルシアンご挨拶を。


[ ようやく戻れば、
  鉄格子の中へ飲み物が入った瓶と
  布にくるんだ柔らかいパンを置いて
  一緒についてきていた短毛のロシアンブルーを
  抱き抱えると、にゃぁんっと鈴のような声が
  その場所に響いたことだろう。

  しかし、彼の言葉は彼女をまた驚かせるに
  十分すぎる話で。
  まさか、彼の名前の意味が犬だなんて、
  おかしすぎる話では?          ]


   どうして、そんなお名前なの?
   あなたのご両親は、
   あなたを愛していないの…?
   ────あなたの、
本当の
お名前は?







[ 矢継ぎ早に質問をして、鉄格子に近づいたら
  腕の中にいたルシアンが飛び降りて
  あちらのほうへと隙間を見つけて入ってしまった。

  どうしたものかしら、と思ったけれど
  名前を変えたほうがいいのかしら、と
  うぅん、と悩みつつ彼の返事を待った。  ]*




[ ホテルの部屋は自分がフロントで頼んでおいたように、空いた皿などは片付けをしてくれたようだ。ヴィがバスルームに消えて洗面台を使う物音がしたから、その間スーツケースにしまっておいた部屋着に着替えておいた。
 一人なら下着でもなんでも適当に寝てしまうのだが、ヴィの前でそんな図々しいことはしたくない。

 それから歯磨きをしたり、寝る準備をすませようとしていら、ヴィが眠たいと言うから再び驚いてしまったが、すぐに自分の至らなさにも気づく。]

 …ごめんね、無理させてた

[ 言われて見れば、無理に計画を変更させられいつもなら眠る時間に歩いて宿を探したり、その上身体の変化はそれなりの体力を使うなんてことはは少し考えれば分かるはずなのに失念していた。

 そんな中での数時間の移動や買い物は彼が疲れるには十分だっただろう。]



  それなら、そばで眠ってくれる?

[ 絞り出すような一言になっていたような気がする。自分が長椅子に行くなんて言えばまたヴィのほうが気遣うだろうし、と言い訳でしかない。

 店へ行く前に言おうとして言えなかった言葉も今なら言えるだろうか。**]


[ ラベンダー色のドレスが
  前回とは違う揺れ方で風を纏う。
  話をする相手というには、
  自分はあまりにも立場が違うと思うのだが、
  彼女はそんなこと意に介さないようで。

  ふふと溢れ落ちる笑みは軽やか。
  己の話も忠告も何処へやら、
  同じように軽やかな足取りで歩き出した彼女は、
  幾らもしないうちにまた舞い戻る。]
 


   迷子はご卒業されたようですが。


[ 迷うこともなく此処に戻られた様子に
  皮肉げに笑みを一つ。
  鉄格子から躊躇いもなくすい、と腕が伸びて、
  布に包まれたものと飲み物の瓶が
  そっと置かれる。

  いつだって仄暗いこの世界に、
  細く白い腕がやけに鮮やかで艶かしく映って、
  一瞬、目を奪われた。 ]
 


[ にゃぁん、という声に我に返り、
  は、と慌てて視線を逸らす。
  グレーの被毛、細身の身体はしなやかに伸びて。]


   ……君が、ルシアンかい?


[ くつくつと笑いを噛み殺しながら
  エメラルドグリーンの瞳を見つめる。

  主が口にする疑問を聴きながら、
  呆然、といった表情などどこ吹く風。
  その腕の中からすとんと飛び降りて、
  いとも簡単に鉄格子をすり抜けた猫は、
  足を伸ばして座り込む己の元へ
  怯える様子もなく近付いた。 ]
 


[ 差し出した指先に頭を押し付けるように、
  不運な名前をつけられた美しい猫は
  ゴロゴロと喉を鳴らす。 ]


   良い子だね。
   良い飼い主のもと良い子が育つ。


[ ふふ、と口元が綻ぶ。
  指に残る生き物の温もりが、
  じんわりと心に灯った。 ]
 


   ─── 本当の、名、ね。


[ 親指の腹でくりくりと猫の額を撫でながら。
  視線は艶やかな毛皮に落としたまま。 ]


   俺は、隣国の生まれです。
   両親は死にました。
   ……愛してくれていたと思いますよ、
   神話に登場する砂漠と異邦の神の名を
   俺に授けてくれたのだから。

   まぁ、砂漠を行く旅人の守護神とされながら、
   嵐と悪意、戦争を司る神でもあるそうですから、
   無償の愛とは少し違うのかも知れませんが。


[ 猫に向かって話すように、淡々と口にする。
  告げることなどないと思っていたはずの名が、
  エメラルドグリーンの瞳に吸い込まれるように
  静かに流れて。 ]
 


   俺の名は、セト。
   ここにいる間は、ただの犬だけれど。

   ─── 君の名も、変えてもらうと良い。


[ つん、と指先で、猫の湿った鼻先にそっと触れ、
  ようやく顔を上げて、彼女の瞳を見つめて。 ]*
 



   ここを見つけ出すのに少し時間を要したから
   やはり私は、迷子だと思うのだけれど……


[ 腕の中にまだ収まる愛猫を連れて戻った彼女に
  かけられた言葉に、
  まだまだ言い返すことはできるよう。
  でも本当は全く迷っていないから、
  彼の言葉は彼女の心にちくっと刺さっている。

  迷子が大義名分なのは既に気づかれているだろうし
  本来なら、ここにきていることが気づかれれば
  2人とも何が起きるか分からない。
  けれど、混乱のおかげで父親が家を空けているので
  ここに彼女もいられるというもの。

  迷子に、なりたくてなっている。  ]






   あ、っ……!


   良い飼い主なのかしら……


[ 腕の中から移動した愛猫は
  彼女の代わりに、なのだろうか。
  彼のそばに行って心地よさげに居座る。

  愛猫が褒められると嬉しくなるが、
  幾分不安は拭われることなく、
  彼と愛猫の様子を腰を下ろし眺めた。

  そして聞かされる彼の出生や名前の由来。
  ふ、っと何かが彼女の心の中に沸いた。
  彼の名前が耳に入れば、
  その何かは彼女の中で弾けた。  ]







   名前を、変えてもらう…
   私にも名前をくださるの?


[ 愛猫に言った一言だろうが、
  瞳が交わってしまったので彼女が誤解をした。

  首を傾げながら、愛猫への名前がふたつ。

  ひとつは、彼と同じセトという名前。
  両親が彼の名前を知らなければ
  その名前にしようと思うけれど、
  どちらかがしっているのであれば、
  ピヤール
-愛-
にしようと
  彼に話をしてみて、反応を見たくなった。 ]






[ ピヤールという名前が浮かんだ理由は、
  セトという人物のことから
  目が離せなくなったが故。
  彼女の中で弾けた何かに、
  彼は深く関与してしまっているが
  彼女は何もわかっていない。

  知ることができる時はあるのか。

  ──────それはまだ分からなくて。 ]*




【人】 宵闇 ヴェレス

[ 個々を軽んじるつもりはなかったが、何処かただ流れるものを見送るに似た平坦さが透けたかもしれない>>172

 偉くも何もなく、年寄りが威張ってるだけの国だよと、出会った頃にダンテに話したような記憶がある。生国のことは聞かれた分は話したが、楽しくもない話だよと常に前置いた為、此方を慮るばかりの彼があまり深くを問う事はなかったのかもしれない。
 その癖、彼の故郷や、幼い頃より居たという修道院の話は聞きたがった。彼の綴る言葉と同様、その記憶の情景は美しく思え、またそれが今の彼をつくりあげたと思えば一層の愛しみが増す。]

 自宅か、せめて宿に持ち帰るならいいけど、流石に。

[ 此処は旅先の見知らぬ土地で、況や治安においても警句が出ている。飲めない訳ではないと言外に漏れている。]
(185) 2021/04/19(Mon) 21:12:49

【人】 宵闇 ヴェレス

 僕だって好きで隠している訳じゃないよ。それに、ボトル3本は流石に胃に入らない。

[ 完全に戯れだ。酒精ではなく量の為だと言った。3本くらいなら執筆の傍らに栓を開け、気付けば明け方空瓶が並んでいるのに気付いた事があったかもしれない。

 そのうち、と勝負を順延する言葉に周囲から野次も飛んだが、その手の煽りに乗らない程度の節度はふたりとも弁えている。
 とは言っても、2杯、3杯を重ねた頃は窘め、ダンテを伺うような目配せをしたバーテンダーが、4杯、5杯と顔色を変えず呑みつける二十歳そこそこに見える娘にやがて諸手を上げ、先に野次を飛ばした酔客は終いにダンテに肩入れをする始末。]

 君はすぐ僕が水と酒の区別がつかないような言い方をする。

[ 礼と共に店を出、僅かに火照りを感じるような頬を運河からの風に晒し、火酒の素直な感想を口にするとダンテが驚いたような素振りを見せるからねめつけた。

 口噤んだまま許可なく腕を捉えても、彼は咎めることなく帰ろう、と優しく促す。

 それが旅先であっても自家であっても、こうして同じ塒に帰る夜道が好きだと言うことを、彼は知っているだろうか。]
(186) 2021/04/19(Mon) 21:16:08

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 留守の間に部屋は整えられており>>0:179、午睡で横になった寝台のシーツも皺ひとつなく張り直されている。大半の灯りが落ちた街並みを窓から見下ろすと、王宮の周辺だけが煌々と輝く様が見える。夜通しあの灯火は保たれるのだろうか。]

 近くで見てみたいな。

[ 窓際で呟くと欠伸をした。本来なら人種の昼日中に近いような時間帯だが、朝からの一連は酷く長い一日だったようにも思え、慣れない陽射しや身体の変化は疲れを澱の様に溜まらせて眠気を誘う。

 外出用の衣服は揃えても流石に寝間着まで買い求めておらず、荷から引き出した夜着は一回り大きい。その場で無造作に着替えようとし、咎められたか己が気がついたのが早かったのか、兎に角黙って浴室に向かい眠る支度を整えた。

 その合間にダンテが眠ってしまって居たなら、本を一冊片手に広い寝台の片端へと潜り込む。夜の眠りは浅く、恐らく明け方前の一番闇の深い時間に目を覚ます。]**
(187) 2021/04/19(Mon) 21:17:47
 君のせいじゃないだろう?

[ 国に足留められたのは不可抗力であるし、宿を探すのもその後の買物も自分の為に必要なものだ。夜の食事は楽しかった。なにひとつダンテに振り回されたものなどない。

 彼はまだ酔いが残っているのだろうか。掠れた声で傍で眠ってくれるかと言った。だから腕の届く場所より近くに寄り添う。
 大人ならば三人はゆうに眠れそうな寝台で、傍にと言ったのはダンテなのだからと腕の中へと潜り込む。

 沈黙は落ち、その唇が何かを言いたげに震えたなら、黙ったままに音が発されるのを待った。夜は思うより長いことを知っているので、彼の鼓動の音を聞いていればきっといつまでも待てる。]**


[ 自分があまりにヴィの事を貴重品のように扱うから、ヴィがその事を距離だと考えていることに気づけていない。自分もおそれているだけだ、厭わしいものと思われたくない。

 本当なら抱きしめてしまいたいし、触れてしまいたい。物欲しげにしながら許されはしないかと様子を伺っている浅ましさだ。*]



 そうなんだけど、いつもどおりに連れ回してしまったから。無理してなかった?
 まあ、今更なんだけど、寝る準備をしてきて、早く休もう。

[ 身体の変化が疲れる事に理解が及んでいたならもう少し労われたかもしれない。今更と言葉どおり反省しても無駄な問答になるからベッドに早くと招くような事をして

 自分は普通に眠る時間で、酒も入っていたから待ちながらも少しうつらうつらとしていただろうか。]

 猫みたいだね

[ ベッドの端に微かに振動がして、その後自分のそばにヴィが移動してくるのがわかった。掛け物を浮かしてヴィが入りやすい様にしていたなら腕の中に寄りそう位置まで来てくれて胸が詰まりそうな思いがする。

 そばで眠ってくれる?と自分が言った通りにしてくれたのだろう。]

[ 灯りを落とした室内は、窓から差し込む月明かりで青白く見える。自分のすぐそばに最愛の人が子猫みたいにそばにいて、腕に伝わる重みをもう一方の腕で閉じ込めてしまいたくなる。]

 あの日のことがまだ、夢みたいに思えていて

[ 先送りにしていた言葉を考え考え口にするから酷くゆっくりになる。あの日と言うだけでヴィに伝わるかどうかもわからないのに。]

 あれは、本当のことだったって
 君にまた

[ これきりなんて嫌だと、あの時も懇願したのだったか。何度も何度も確認してしまうのは、ヴィに責任を預けるような卑怯さのような気もしてくる。]



 だめだな
 僕は君が好きなんだ

[ 触れても良いかと許可を取ろうとして、結局出てきたのはそんな言葉だった。]

 君に触れたいっていつも思ってる
 君は?

 僕を好きだと思ってくれる?

[ 掠め取るようにして、以前のような幸運が舞い降りてきて、施しでも貰えれば良いなんてずるいことばかり考えていた。

 ヴィの気持ちを何も確認しないままだった。怖くて。 
 そっと寄り添ってくれて、手を伸ばせばそれを取ってくれる。ヴィのその気持ちを自分は何と思って受け取っていたのか。

 好意だと思っては図々しいような気がしていた。あまりに勿体無いことだと。だけど、逆ではないか?

 これが特別なものでなくて何なのだろう。
 自分だけが受け取れる貴重なものではないか?
 そうだったら良い。確認させてほしい。

 寄り添っている分きっと自分の鼓動はヴィに筒抜けだろう。ただでさえ五感が優れている彼なのだから。。**]



 [どうしてやろうかと考えるのが
  酷く楽しくて仕方が無い。
  
  無数のチェス盤が
  定跡ばかりで置かれていて、
       決めた手を返すだけで欲しい物が
        簡単に手に入る状態なのだから、と。]

 



          


 

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 自宅か宿か、これほど強い酒をそのままに味わうなら気兼ねなく寛げる場所がいいと言ったが、本当に持ち帰る土産という発想が抜けていたから、あ、と声が出た後くしゃくしゃと笑った。

 封の切られていないアラックの瓶を貰い受け、化粧箱に入れて貰う。服であるやら化粧品であるやら、嵩張る荷物をダンテに任せていたから、これは僕が持つよと片手に抱え、空いた腕を彼の腕へと絡ませる。

 酔ってないよ、と拗ねたように呟いて帰路を辿る。]*
(218) 2021/04/20(Tue) 7:24:02

【人】 宵闇 ヴェレス

[ 部屋に帰り窓から王宮方向を眺めていると、明日の朝に向かってみようと彼から同意が返る。]

 起きられるかな。

[ 自分は部屋に残した白ワインを酔い醒ましの水代わりにし、彼に氷水はどう? と伺った。

 起きられないのはどちらかとは言わない。陽が上がってしまえば自分がぐずつきそうだし、夜明けぎりぎりの時間では彼の眠りが足りないかもしれない。]

 せめてもう少しだけでも陽射しが弱ければいいのに。
 ダンテは行きたいところはある?

[ 職人の店を気にしていたようだからそこか>>158。同じ寝台に潜り込むと、存外近い他人の体温は一層眠気を誘う。どちらかが眠りに落ちる前に、答えは聞けたかどうか。]*
(219) 2021/04/20(Tue) 7:32:18
 昼間少し寝たから。

[ 日中活動できない訳ではないが、直接陽の当たるのはどうしても不得手で、朝方の早い時刻、もしくは夕方からの活動になりがちだ。
 旅行先なら一番活動しやすいだろう時間に、同行者の動きを制限してしまう事に申し訳なさがある。

 だからこそ彼も最初の旅行は、陽の短い季節に雪国へ行こうと誘ってくれたのだろう。旅の最中に、何がきっかけだったか海の話になった。北方の鈍色の海。物語にあるような青い海を見たことがないと言えば、次はそれを見に行こうと彼は言った。]

 明け方起きられたら、お城に行って、それから何処かの店で朝食にしよう。
 それから、もし僕が眠るようなら、ダンテは何処か見て回って貰ってもいいし……。

[ 寝台に膝で乗り上げると深く沈み、ほんの微かにだけ撥条が軋む音がした。ダンテが掛け布を開いて自分を招く素振りだが、既に眠そうで聴こえているかわからない。
 今日一日の様子では、外を出歩くに危険がある程の殺伐とした世情でないようではあるが、引き続いて明日もそうであるかはわからない。彼を一人にすること、語尾は言い淀む。

 寝台の軋みは体重を乗せた最初のひとつきり、後は音もなくシーツを渡って寄り添い腕に収まると、猫みたいだね、と彼が言った。起きている。

 月明かりが思いがけぬほど冴え冴えと、部屋の中の陰を明瞭にする。
 規則正しい筈の心音が時折跳ねるように響き、浅い長い呼吸の音が、隣の人が、横たわって暫くの後もまだ眠らずにいることを伝える。]

 




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