【人】 黒眼鏡あくびをひとつこぼしながら、古びた扉を押し開ける。 海沿いの開けた道に面して建てられた、トラックがまるまる入ってしまいそうなスチール・ガレージを改装して作られた店舗。 それなりに古びていて潮による錆も無視できないが、そこは短パンとサンダル姿で表をぶらぶら出歩けるくらいには気ままな彼の城だった。 「よっと」 片手で持ち上げた大きな木製、二つ折りの看板を、店先にドカンと置く。 【Mazzetto】という味気のない店名のそばには、似合わない小さな花がセロテープで張り付けてあった。 黒い眼鏡をかけたその怪しげな男が運営するここは、自動車修理工場だ。 …本人は、カフェだと言い張っている。 「腹減ったな。ピザ買いに行くか」 営業時間も、適当だ。 (39) 2023/09/08(Fri) 21:21:35 |
【人】 黒眼鏡>>65 ダニエラ ゆらゆらと揺れる照明。 薄暗いカウンター。 ほんの少しの珈琲と、金属と油、それと海からの潮の匂い。 飾り気のない店内には、ときたま似合わない花が飾られている。 どこをとってもちぐはぐな店内に、女の声が響く。 …しばらくは無音。 だが、すぐに。 がたん、がたんと店の奥から音がして、 のっそりと長身の男が顔を出す。 「おや」 いつでも、それこそ夜中でもかけているサングラスの奥の瞳が、笑みの形に変わった。 「いらっしゃい、お嬢さん。 コーヒーね。ミルクは? 砂糖は?」 注文を聞きながら、すでに手は動き始めている。 何を言っても、多分"今日のオススメ"が出てくるだろう。 #Mazzetto (66) 2023/09/09(Sat) 7:37:26 |
【人】 黒眼鏡>>70 ダニエラ 「はいよ、砂糖が2つ〜」 長い手足を、狭いカウンターの中で窮屈そうに動かしながらサイフォンに火をかける。 ゆったりとしているように見える動きだったが、かちゃかちゃと見えづらい作業が手際よく行われ、香りが漂い出してからは早かった。 「はい、コーヒー。 がんばってブレンドしたからさあ、そう言ってくれると嬉しいね」 笑いながら、カウンターにカップが置かれる。 ふわり、と漂う湯気と香りの中、サングラス越しの視線女の顔で止まった。 「…見覚えある? かもしれんなあ。 ナンパじゃないぞ。 どちらにせよ、綺麗なお嬢さんにはサービスね」 コーヒーカップに添えるように、クラッカーの箱が置かれる。 紙箱に何袋か入っているタイプのものだが…一袋は開封済みだ。 さっきまで食べていたやつだろう。 #Mazzetto (74) 2023/09/09(Sat) 10:01:00 |
【人】 黒眼鏡>>79 ダニエラ 「いーのいーの。 このトシになると腹膨らむものキツくなってきて」 つんつんとまばらに立った髪をかきながら、 恥ずかしそうに零す。 カウンターの内側には、半分くらいかじったホットドッグ……の、ソーセージ抜きが皿に乗っかったまま放置されている。 小食なのか、それとも食事を放り出して車でもいじっていたのだろうか。 「あ、ほんと? いやあ、当たって良かった。 こういうの外すと恥ずかしいからねえ」 ビンゴだ、と指を向ける仕草は、やはり少々古臭く。 「んー? なんだろうね。 君みたいな美しいお嬢さんは、デザイナーかカフェ店員と相場が決まっているものだが」 顎に手をあてて考える仕草をしたあと、もう一度指を向けて。 「……新聞記者」 どう? と。首をかしげる。 #Mazzetto (80) 2023/09/09(Sat) 12:41:41 |
【人】 黒眼鏡>>86 ダニエラ 「ええー、違うのかあ。なんだろな」 その控えめな笑顔に、まるで眩しいものを見るかのように目を細めた。 額に指をあて、なんだろなー、と首を傾げて、 「ええ、そんなあ。お嬢さんうまいねぇ…! 次、ってのに弱いんだよなあ、男っては」 降参するように、両手をひらりひらり。 口許を楽しそうにゆがめて、 「……だが、そうだなあ。 次も来てくれたら、 もっとサービスしちまおうかな」 しっかりと覚えてるよ、と。 カウンターに肘をつきながら、緩く微笑み。 「……あ。そういえばコレ」 と。突然思い出したように、カウンターの脇にある冷蔵庫を開ける。 中から出てきたのは、ラッピングされた小さな箱。 このサイズでもそこそこの値段がする、ブランドもののチョコレートだ。 「あげるよ」 …クラッカーをあげたあとに、あげるようなものではない。 #Mazzetto (93) 2023/09/09(Sat) 18:35:56 |
【人】 黒眼鏡>>98 ダニエラ 「言いましたとも。 男たるもの、口にした言葉をたがえることはないぞお」 今日の海風は静かで、するとすれば古びた空調の響きくらい。 それはやる気なく放られたゴムボールのように てんてんと軽く、気軽に弾む会話の音に遮られて、さほどの邪魔にもなりはしない。 サイフォンを片づけるかちゃりという音がときたま、 心地よい雑音として混じり込む。 「はははは。 上手になろうとここ10年、ずっと頑張っているからな!」 あまり実を結んではい無さそうな努力を埃ながら、 無精にしているわりにひげが生えた様子のない顎に指をあてた。 「いいや? かわいらしいお嬢さんにだけさ。 みんなじゃないとも」 …これはなんとも、信頼のおける言葉なことだ。 「あ。忘れてた。おしぼりドーゾ」 今更取り出したそれを、カウンターの上にとん、と置いた。 #Mazzetto (100) 2023/09/09(Sat) 20:50:33 |
【人】 黒眼鏡>>163 イレネオ 「おいおい、違うだろう。 『罪であると裁判で認められた偽証が罪である』。 そうだろ? ここは法治国家だ」 まるで講義するように指をたてて、悪戯っぽく「チ・チ・チ」なんて口でいって揺らす。 「俺が裁判で喰らったのは10年以上前の傷害罪くらいで、 それも既に釈放されてる。 だったら今の俺はなんだ? 『罪なき一般市民』だろ?」 確かに、逮捕されるような証拠は出ていない。 彼がマフィアに所属し、密輸や密売に関わっているのは99%以上事実だが、 それと逮捕権が適用できるかは別の問題だ。 「嘘くらいは、そりゃあつくさ。 基本的人権といってもいい。 それをいったら」 揺らしていた指がゆっくりと倒れて、あなたを指さす。 「警察は嘘をつかない?」 ――普段、こうまで挑発してくることはあまりない。 機嫌が悪いのだろうか。 …そういった感覚は、あなたがそう気づくほど、彼に詳しければの話だが。 #教会 (164) 2023/09/11(Mon) 6:41:40 |
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