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【人】 雨宮 瀬里いつかの 蓮司 に返した言葉。何度気持ちが失われたとしても、もう迷わないのだと、 心と、貴方に誓った言葉に、嘘偽りはない。 恋めぐる春、花の都のその中で。 恋の欠片に初めて名前をつけたあの日から、 私は、ずっと、貴方に恋をし続けていた。 (3) 2022/05/21(Sat) 18:22:21 |
【人】 雨宮 瀬里──── 壁が立ちふさがることなど、ないのだと 答えの出ることのない問いに、 限りない絶望に、 悩む日など来ないのだと、信じきっていた。 (4) 2022/05/21(Sat) 18:22:50 |
【人】 雨宮 瀬里雨宮、と呼ばれて顔をあげたのは 髪を後ろにきゅっと束ねたツナギ姿の女。 そのツナギも、砂や釉薬でところどころ汚れ 可愛いという形容詞はあまり当てはまらないだろう。 一年前と違うことといえば、 ここが専門学校ではなくて、 山間に住む著名な陶芸家の陶房であるということ あの時恋を知るはずのなかった恋天使が、 今は、恋を知っているということ。 蓮司さん と呼んでいた私がいつの間にか蓮司と呼び捨てになっているということ。 貴方との初めての春が過ぎ、夏が来て、 秋を迎えて冬を越し、それからまた春が来て。 今、貴方と二回目の夏を迎えようとしている。 (6) 2022/05/21(Sat) 18:24:31 |
【人】 雨宮 瀬里「 はい。何日かお休みをいただけたら、と。 ……ええ。そうです、あの。 」 ほんの少し顔を赤らめたのは、 心優しい陶芸家の口から、恋人のことが飛び出したから。 何度か迎えに来た彼の車を、そしておそらく彼の姿を 私の師匠であるその人はすでに見知っていて。 蓮司の夏の休みに合わせて休暇を取ろうという私を 快く送り出そうとしてくれている、のが今だ。 (7) 2022/05/21(Sat) 18:24:54 |
【人】 雨宮 瀬里 何も問題ないはずだった。 私たちは上手くいっていたし、 互いをあの時と変わらず想い合っていた。 何も問題ないはずだった。* (8) 2022/05/21(Sat) 18:25:11 |
【人】 雨宮 瀬里── 一年前夏 ── 今日は待ちに待った会える日=B 浮かれていなかった、は嘘になる。 土を捏ねながらも時折時計を見ては、 一日が終わるのを、今か今かと待っていて。 だから一日の終わりのチャイムが鳴ってからは早かった。 いち早く、お疲れ様です、と道具を片づけて、 そそくさと更衣室へと飛び込んでいく ツナギを着替えたあとは、 春までのようなひらひらの服ではなくて ラフなデニムとTシャツの雨宮瀬里が建物を出ていく 駐車場まで、あとすこし。 車が見えてきたなら、駆け足になって、 貴方が見えたら手を振った。 「 久しぶり 」 1週間ぶり?何週間ぶり?どうだったかな。 助手席のドアを開ければ涼しい空気が肌に触れた。 * (12) 2022/05/21(Sat) 20:19:33 |
【人】 雨宮 瀬里二週間ぶりに会えた恋人の顔を見た瞬間に、 思わずこちらの顔も綻んだ。 「 んー。前回はパスタだったっけ。 何がいいかなあ。蓮司は何がいい? 」 行先はどこだっていい、のは同じだったから。 貴方が和食にしよう、というなら和食で、 中華にしよう、というなら中華で。 適当に車を走らせて見つけた店で、なんて そんな提案だって受け入れただろう (15) 2022/05/21(Sat) 21:40:48 |
【人】 雨宮 瀬里「 …変? 」 ラフなんだな、の言葉に自分の体を一度見て 運転席に向かって首を傾げた。 そういう点では今日は高級フレンチだけは却下。 ドレスコードでひっかかりそうだもの。 ラフなのと同時に、きっと貴方の視線の先には 見慣れた大きめの鞄が目に入る。 その中に入っているのはあの頃みたいなドレス…ではなくて 1〜2日分の宿泊に必要なエトセトラ。 さすがに蓮司が遊びに来てるのにご飯だけ…ってのはないし かといって、自宅に蓮司を呼ぶのはちょっと。 だから毎回どこか宿泊施設にお世話になっているはず。 ……どうだった? (16) 2022/05/21(Sat) 21:41:17 |
【人】 雨宮 瀬里「 そういえば、来年から、 私、陶芸家の陶房にお世話になれそうなの 」 専門学校4年目。就職活動も盛んな時期だ。 春のコンクールに出した作品の評価が良くて、 著名な陶芸家の目に偶然留まったこととか、 他愛のない話を話すのはいつものこと。 「 でもそうしたら さらに蓮司の街からは遠くなっちゃうかな 」 都会で働く選択肢もあった。 だけどそうしなかった。 また何年も、離れ離れの暮らしになる。 だけど二人でいるのが当たり前、……でしょ? 当たり前は、そのまま続くものだと信じて疑わなかった。* (17) 2022/05/21(Sat) 21:42:22 |
【人】 雨宮 瀬里「 手料理?…練習しなきゃ 」 実家から出たことのない箱入り娘は 少し困った表情を浮かべながら、運転席に向けて微笑む 来年からは陶房の近くで一人暮らしになるだろう。 本格的に練習をしないといけないはずだ。 ちなみに住む場所は山間だ、 実は私には、卒業するまでに車の運転免許を取る、という 大イベントが控えてるのだけどそれはまた別の話、だし、 このときの私の頭からはすっかりと抜け落ちていたこと (22) 2022/05/22(Sun) 8:11:45 |
【人】 雨宮 瀬里「 うん、ありがとう 」 可愛い、と言われて気をよくした私が ありがとう、と口にしたのは二回目。 可愛い、と言われて一回目。 おめでとう、と言われた今が二回目。 週末デートが続くこと、 本当は淋しい気持ちもあったけれど だけど気持ちが離れること、一ミリも想定していないから 「 そしたらさっき言ってた話題のお店、行こうよ ラフな格好でも入れるし、 内装とかとてもおしゃれなんだよ。 」 蓮司の想定している少しだけおしゃれなお店よりも グレードは下がってしまうかもしれないけれど。 でも、どこだって嬉しい≠ナしょ? きっと、貴方と一緒なら。 (23) 2022/05/22(Sun) 8:12:00 |
【人】 雨宮 瀬里……なんてね。 それでもやっぱり来年、本当は、 蓮司は都会に私が行くことを望んでたのかなとか そんなことを考えないこともなかったから 「 本当は寂しい? 」 とか聞いてしまったのは、 車の中だったか、食事中だったか、それとも。* (24) 2022/05/22(Sun) 8:12:15 |
【人】 雨宮 瀬里そっと抱き締められて体温が伝わる 寂しくないか、と聞かれてすぐに、 首を横に振ることも頷くこともできず、 ただ少しだけ貴方の胸元に顔を押し付けるように 私からも腕を回して抱き締めた あの春から数ヶ月。 もう幾度こうしてきたか分からないし、 呼び方だって、変わったけれど だけどまだ、貴方の体温を感じる度に心臓は跳ねる 車の中もレストランも、 きっとこんなこと出来なかっただろうから これは多分ご飯を食べたあとのこと。 すっかり夜の月が空に浮かんでいた。 (27) 2022/05/22(Sun) 10:45:32 |
【人】 雨宮 瀬里「 少しだけ、ね 」 返す言葉は貴方とおそろいに。 だけど決めたことだから、と付け加える。 「 決めたことだし、望んだことだし、 とっても、嬉しいし楽しみだけど。 でも、蓮司にあんまり相談もしなかったから 勝手に決めたこと、ごめんね 」 恋人同士ってどこまで踏み込んでいいんだろう。 そんなふうにまだ、距離感に戸惑いすらあった頃。 (28) 2022/05/22(Sun) 10:46:19 |
【人】 雨宮 瀬里「 でもきっと、学校と違って 陶芸してるとこ蓮司にも見て貰えるよ 見たいって言ってたでしょ。 」 抱き締めたまま貴方に向かって微笑んで。 友達とも家族とも違う、この新しい距離感に。 私は、戸惑いながらも 得も言えない幸せを確かに感じていたんだ。 * (29) 2022/05/22(Sun) 10:47:06 |
【人】 雨宮 瀬里いつだって瀬里の味方。 その言葉がどんなに嬉しいことか。 負けてられない、っていう蓮司を間近で見上げて にこり、と微笑んだ。 「 わたしも、いつだって蓮司の味方。 ……負けないよ? 」 まだ付き合って数か月。 お互いのことをすべて知っているわけじゃないけど 今は、なんの不安も、不満も、なかった。 (32) 2022/05/22(Sun) 14:37:00 |
【人】 雨宮 瀬里「 そういえばこないだ 電話で少し元気なかった日あったでしょ? 具合、大丈夫だった? 」 そんなことがあったように思う。 蓮司が隠し通したつもりなら、私がお見通しだっただけ 蓮司が話してくれたなら、その時も大丈夫?って聞いてたはず でもきっと。 今具合が良くても悪くても、 蓮司はきっと、大丈夫、って言うんだろう。 そしたら「そう?」なんて首をかしげて、 私は、貴方の顔色を文字通りの意味で伺うはずだよ * (34) 2022/05/22(Sun) 14:37:33 |
【人】 雨宮 瀬里「 そう?ならいいけど 」 顔色を窺ったら抱きしめられ、 貴方への愛おしさに小さく微笑む 貴方の声に全神経を集中させて話してるんだもの 声の違いとか、分かるようになってきたよ ああ、今日は疲れているんだな、とか 今日は何か嬉しいことがあったのかなあとか だからあの日、いつもと違う様子に ちょっとだけね、心配になったの。 (37) 2022/05/22(Sun) 16:38:37 |
【人】 雨宮 瀬里「 私? うーん、そうだねえ あんまり病気はしないかも 」 実際そこまで体調を大きく崩すことは今までになく 風邪もめったに引くことはなかった。 「 熱中しすぎたら我を忘れて倒れちゃうってこと? ふふ。それはあるかもしれない 」 実際陶芸をしているときの集中力は 基本的になにものにも代えがたいほど。 ……貴方が来る日とかだけは、集中が切れちゃうけど。 寝食を忘れて…なんて状況が訪れたら もしかしたら、倒れちゃうかもしれない。 今までになくとも、それは否めない。 (39) 2022/05/22(Sun) 16:39:40 |
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