【人】 虹彩異色症の猫[ 澤邑が鈴を吟味し、財布を懐より取り出している間、猫は勘定台の売り子と戯れていた。 御台に並んだ授与品に、手(足?)を出し悪さをしようとしていたところ、嗜めるように伸ばされた手をおっかなびっくり叩いていた。その手が自分に害のないものだとわかると、後ろ足立って、両の前の足で挟むように戯れつく素振りを何度も繰り返している。 境内を寝床にしている野良の相手で慣れたものか、売り子も上手く猫の興味を惹いてあしらっている。 澤邑が鈴を選ぶ心情も知らず>>15、勘定を終え再び猫を腕の中へ仕舞おうとすると、まだ遊び足りないと抗うように抱えた胴を飴細工のようにぐねりと伸ばした。 それでもどうにか引き戻されると、前足や後肢を突っ張ってよい具合に腕の中に収まろうとしない。後ろ足でけけけけ、と何度も澤邑の腕を蹴る。 最初は不機嫌の表れだったそれが、そのうちそれ自体が遊びに変わり、大人しく丸まりはしないが先までの虫の居所の悪さを忘れたようにするすると澤邑の躰をよじ登り、器用に両肩の上に立つ。 広い参道は余裕があれど、桜目当ての物見遊山の姿は多く、猫にとっては高い位置にある方が気分が良いようだ。]** (17) 2022/04/11(Mon) 23:48:50 |
【人】 虹彩異色症の猫[ くうくうと鼻息を立ててすっかり寝入っている子猫は、舞が終わり演者の礼の後の暫しの静寂>>42、その後鳴り渡った拍手>>40にも目を覚ますことはなかった。飼主が同様に手を打っていれば、腕という己の寝床に響いて苦情に似た寝言をもにゃもにゃと口にしたかもしれない。 結局猫が目が覚ましたのはもう家の近場まで来た頃で、大口を開けての欠伸と伸びをすると、ひょい、と腕の中から路面に降りた。ふすふすと地面を嗅ぐと、ここは己の縄張りだと言うように尾っぽを立てて歩いている。 装具と飼主の付き添いがなければこんな大きな顔ができたものか。 帰宅すると、ただ帰ってきただけでえらいねえ、と家人に褒められる。 畳の間に戻す前にまた足と躰を丁寧に拭き清められたが、白い毛並みに桜の花びらがひとひら、ふたひら土産のように紛れていた。]** (54) 2022/04/13(Wed) 7:55:14 |
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