260 【身内】Secret
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
月が姿を変え、新たな一日が始まった。村人は集まり、互いの姿を確認する。
大槻登志郎が無残な姿で発見された。
伝承は真実だった。異形の刃を持つ魔物“人狼”は、確かに存在するのだ。
もはや村人たちに猶予は無い。早く人狼を見つけ出し、処刑しなければ。罪のない者を処刑してしまう事もあるだろうが、それも村のためにはやむを得ない……。
[物語には悲劇も存在する。
たとえば王子を助ける為にその身を犠牲にし
泡となった人魚姫。
彼女の死を持って閉じた物語の外で、
王子は別の女と結ばれる。
王子はきっと人魚姫の犠牲を悼んで苦しむことはない。
その死を美しいと称えるのは当事者ではない
外部の読者だけだ。
犠牲を払ってでも傍にいることを望んだのに
報われず死んだ彼女の人生は何だったのか。
死で終わる物語なんてくそくらえだという感覚は
幼い頃からある。]
[そんな変わらない価値観もある中、
成長で変わった部分も勿論ある。
ルミと会った頃には知らなかった恋の味。
深い場所の体温。
別離の痛みと――それもいつか薄れるという経験。
過去だけを望むなら、身体を繋げようとするのは
矛盾している。
過去を持ったまま大人になっている自分だって
心のどこかで受け入れてもらえていると自惚れた。]
[起き上がるには十分回復していたが、
急な姿勢の変化は少し眩暈を引き起こして
僅か顔を歪めた。
窘める声に「はは」と苦笑する。
まだ瞳が困っている。
冷静になって言葉の意味を反芻される前に顔を寄せ。]
……未来も?
はは、食いしん坊。
[同じおまじないが返ってくる。
昔の約束通り、大きくなった彼女が
嬉しそうに顔を綻ばせて。]
縛られて痛いって思ったら、それもルミが
食べてくれるんだろ?
[あの頃よりも低くなった声が笑う。
脅すように向けられた執着を微塵も厭わない響きで。]
……ところで、続き、する?
[下肢は晒されたままだ。
摩擦がなくなり萎れたそこが纏っていた水分も乾くだけの
時間が経ったが。]
俺のことが好きでセックスしようとしてた割に、
最初は濡れてなかったけど。
本当は好きじゃない?
[痛かっただろ、と強引に陰茎を飲み込んだ媚肉の傷を
確かめるように、背を支えた手で退路を断ちつつ
反対の手を下方に滑らせた。**]
[ 覗き込んだ彼の顔が僅かに歪んでいたから、
尚のこと声には窘める色が増した。
そもそも元凶は自分が盛った薬なのだけれど。
過去を搦めとることを望みながら、
いま大人になった彼を体を繋げようとしたのは
目的だけを考えればおかしな話だ。
──閉じ込めて脅して洗脳でもする方が確実なのに。
心が駄目なら体だけでも、なんて有名で陳腐なフレーズ。
結局わたしは、過去だけ欲しかったんじゃなくて
今の自分の恋すら叶えてしまいたかった。 ]
……だって、そうでしょ
ずっと傷を抉って、死ぬまで覚えててくれるなら
未来も一緒にいられるんでしょう?
[ だから全部、わたしのものだ。
過去も今も未来も貴方の全てを食べてしまって、
毒に依存して一緒にいようよ。
二人で死の幕が閉じるまで。 ]
うん! わたしが食べる!
だからずっと痛がってね、お兄さん。
────他の人で痛くなくなったりしないでね。
[ あの頃よりも低い声。
もっと聞きたい、と欲が顔を覗かせる。 ]
────約束だから、ね。
[ 本当は誰かと飲みに行くのも許したくないし、
何だったら仕事を辞めて貰いたいくらいなのだが。
朝から働く一般的な社会人の彼と、
会社員の退勤後から働く自分のすれ違いを思えば。
幸いなことに客はたくさんついているし
ここに住んでもらえば生活に不自由はさせない。
考えれば考える程名案のような気がしてきて、
思考を割いている間に。
「ところで」と変わった話題へ一瞬ついていけず
ぱちぱちと目を瞬かせる。 ]
続き?
[ 実際に腕を切る実演でも…?
などとあらぬ誤解をしそうになったけれども、
その意味はすぐに理解出来た。 ]
す、好きだもん! 好き、大好き、
嘘じゃない……ッ
[ 本当は好きじゃない?という言葉に首を横へ振り、
縋りつくように彼の服を握り締める。
とんでもないあらぬ誤解だ。
女は好きな人とセックスさえ出来れば
無条件に興奮して濡れるタイプの性格ではない。
それ以前に、 ]
……セックスって、濡れないのが普通じゃないの?
いきなり挿れたがる人以外は
確かにローションとか使って慣らしてたけど……。
[ でもこの家には用意がない。
即物的なセックスなら無くてもいい、と思って。
けれど、今の彼と自分は、こいびとというやつで
──後ろ暗さも無くなった今
続きをしたい気持ちはあるのだけれども。 ]
ちょっと痛かったけど……今はもう痛くないよ。
慣れてるから平気。
お兄さん、は?
[ 背を支える手は、自分が不意に倒れないようにと
気遣ってくれているだけだと信じている。
もう片方の手が下肢へ滑らされる感覚に、
少しくすぐったいような、そわそわするような。
視線を彷徨わせて息を吐く。
ローションがないから、痛かったなら今日は出来ないと
あくまで彼を気遣うトーンで。** ]
[過去の恋心には存在しなかっただろう身体の繋がり。
会わない間もルミは自分をどこかから見ていた。
恋心はルミに知識がつき身体が変化するにつれ
過去のものとは変質していたのだ。
男としてはそれで良かったと思う。
少女の初恋の形のままを望まれたら、
大人の自分には決して返してやれないから。]
[窘める視線に「ごめん」と許される前提の謝罪を。
間近で見るルミの顔は、表情こそ面影があるが、
綺麗に化粧が施され大人の色香を放っている。]
おー。
痛くすんのも痛くなくすんのもルミにだけ
やらせてやるよ。
[とはいえどんな痛みになるのか
想像出来ていない部分もあるのだろうが。
自分の住処を変えようとしていることとか
仕事のこととか。
このあたりはこの後話すことになるだろう。
男にだって、彼女が夜に他の男にチヤホヤされる仕事を
良しとしない感覚はあるのだ。]
[目的語を抜かしていたことに、必死なルミの様子を見て
初めて気づく。]
?あー、「セックスが」って言わなかったか俺。
俺への気持ちは疑ってなかったけど……
くく、慌てて「好きだもん」って、かっわいーの、
[目的語を補完してからの予想は
当たっていたと言うべきか。
処女ではないことは挿入した段階でわかっていたが]
うんわかった、そっからか。
そーだよな、好きな相手と気持ちいいセックスっての
知ってたら、俺に執着するこたなかったよな。
[下方に向かった手は秘所を解すに至らないまま止まった。
もう一度上に向かい、両手で背を抱き締める。]
アソコが痛いのに慣れてるなんて
もう絶対言わせない。
痛い内は俺も痛いから挿れない。
つまり、ルミが気持ちいいってなったら
挿れたいってこと。
[ルミの肩に顎を乗せた。
首筋に軽く口接けを落とす。
背をゆっくりと撫でながら、痕がつかない位の弱さで
何度も首筋や耳を啄んだ。
剥き出しの性器は再び兆していたが、それを殊更
誇示したりはしない。*]
[ 痛みも傷も他人には決して見えない。
どれほど交わってもどんなに近付いても、
言葉にし難いものだってあるのだろう。
経験していないことを警戒出来ないように
得たことのないものは想像出来ない。 ]
…うん、わたしだけ。
[ 満足げにふにゃ、と頬を緩めて頷いた。
後は住居や仕事のことを決められれば完璧だ。
──この後今後について話し合うことになれば、
必然的に自分の" 夜のカフェ "も話すことになるか。
さすがに恋人には胸を張って言える気はしないので
店の詳細がバレないことを祈るのみである。 ]
[ ここにきて好意を疑われているのかと思ったけれど、
自分の思い違いだったらしい。
縋りついていた指先から力を抜いて、息を吐く。 ]
よ、よかった……
セックスは別に、好きじゃない。
でもお兄さんとならしたいって思うよ。
[ 処女ならあんな凶行には流石に及べなかっただろう。
客とは決してそんな関係になったことはないが
それ以外の男とは何度かしたこともある。
内臓を押し上げられるような、妙な感覚だった。
ああそういえばシフト載せてないなあとか
次の自撮りどうしよう、と考える余裕があるほどに。
" 好きな人とするもの "だという知識はあった。
自分には適用されなかった言説だが。 ]
[ ところで今、彼はかわいいと言ったか。
今まで飽きる程に聞いてきたその言葉が鮮明に聞こえて
なにも言えず、聞こえなかったふりをする。
頬がじわりと熱を持った。
平常を保とうとして、今度は両腕で背を抱き締められ
否が応でも体がぴしりと固まる。
なんだこれは。夢を見ているのかもしれない。
毎日見ていた叶う筈もない夢が現実になって
雨のように降っている。 ]
……お兄さんもさっき、痛かった?
ご、ごめんね……。
でも今までわたし、気持ちいいってなったことないし
たぶん、不感症……とか……
[ しかしそれでは彼が一生セックスをしてくれないのか。
自分が気持ちよくなったら挿れたいと言われても、
そんな経験は一度も──── ]
ッひゃぅ、
[ 肩に心地いい重みが乗っかって、
次に首筋へ彼の唇が軽く触れ、くすぐったさに声を零す。
背中を撫でられるのは好きだ。
けれど、何にも守られていない首筋や耳を啄まれると
なんだか背筋や体がそわそわする。 ]
ん、ふふ、
くすぐったいよ、お兄さん…
[ 大型犬が甘えているように見えて、
思わずやわい皮膚を啄む彼の頭をふわりと撫でた。
えっちなことが出来ないから甘えているのかと
勘違いをしたまま、こそばゆさに身体が跳ねる。
少し身じろいで、目が瞬いた。 ]
…………お、お兄さん、って
わたしで勃ってくれるんだ……。
[ 決して押し付けられたりしたわけではないが
当たってしまえばさすがに気付く。
動揺を露にして、反射的にそう零した。
てっきり刺激しなければ兆さないと思っていたのに、
触れなくても固くなっていることに驚いて。* ]
[物語なら、一区切りがついた後の会話や
諸々の手続きは飛ばしてしまえるが、現実にいる二人が
約束通り「ずっと一緒」にいる為には
様々な条件をクリアする必要がある。
たとえば「道端で偶然ルミが転ぶのに居合わせて
自宅まで送っていくことになった」というメールの続報。
そのまま実家に連絡がなければ異変が起きたと
すぐに動くのが笹倉の家族だ。
たとえば住居の問題。
関連して服や生活用品、通勤の扱い。
たとえば踏み込まずにいたルミ自身のこと。
――その性を商品とする仕事に就いているなら
正直抵抗があると伝えざるを得ない。
それから、それから。]
[監禁して薬を盛るまで思い詰めたルミが
少なくとも今晩この部屋でひとりでいられるとは
思えない。
そうした話し合いが必要であるということは
頭で計算済みではあるが、今ここには
上等なソファの上でセックスを中断して性器を晒した
ままの男女がいる訳で。]
好きじゃないなら無理するなって思うけど、
俺とならしたいって思ってくれてんのは嬉しい。
[好きじゃないと評するまでに一体何度誰かのものを
受け容れてきたのだろう。
大切に扱われた経験に乏しいことは口ぶりからわかる。
経験していないことへの当事者意識が薄く、
経験したことがスタンダードだと思い込みがちなのが人間だから、
セックスによってその相手のもの扱いをされた場合、
セックスによって相手を所有することを求めても可笑しくない。]
つまり、「したい」って思ったのは俺が初めてって
ことで合ってる?
[好きじゃなくても自傷目的でしたいと思う場合もあるかも
しれないが、男にはその価値観は頭にない。]
痛くしたかったんだろ?
そういう意味の「痛い」を狙ったんじゃなきゃ、
さっきのやり方は痛いって知らなかったってことで、
謝ったらルミが長いこと頑張って今日をつくったのも
否定することになるから謝んな。
[これだけの容姿で「かわいい」が言われ慣れていないことは
ありえないだろうが、少々バグっているようなぎこちなさが
現れる。
そこもまた可愛いと思った。
口に出ていたかもしれない。]
気持ち好さを知らないんなら好都合かな。
俺の為に取っといたって思っとけ。
[くすぐったがる様子に目を細める。
不感症が身体機能から来るものならこんな軽い触れ合いで
反応することはないだろう。
今までの相手がロクに愛撫をしなかったのもあるだろうが
精神的な理由で感じなかったというのもありそうだ。]
右はくすぐったい、と。
左は?
……首よりやっぱ耳の方が好さそう。
[顔を収める頭を反対の肩に置いて、ちゅ、と音を立て始める。
耳にその音が届くように。
そうやって身動ぎをしていると、図らずも
又坐の変化に気づかれたようで。]
さっきは擦られたから充血して
俺の意思関係なく勃起したけど、
今のは純粋にルミに反応してる。
[ばつが悪そうに一瞬目を逸らしたが、
指摘を受けても萎むどころか質量を増していく。
首と耳を啄むことで分泌された唾液が、
喋る時に興奮で粘性の糸を引いたのは、
ルミに見えているだろうか。
背を撫でている手は感情の赴くままに動いているのではなく
ルミのツボを探している。
肩甲骨の内側から、尾骶骨、脇腹と動く手は
最早支える目的を果たせていない。**]
[ あの時覗き見たパスワードは" 計画 "のためで、
崩れ去った今、使う発想を持っていない。
今はもう連絡手段を奪う必要もないからこそ
実家への連絡を気にするのを忘れていた。
さて、物語を現実で続けていく為の話し合いの一つに
自分の仕事があるとして。
抵抗があると伝えられたら、どうだろう。
この仕事でなければ、というわけではない。
けれど辞めて他の仕事が出来る気もしない。
店用のSNSアカウントを教え、
彼が許せる範囲の営業方法を探していくことになるか。
────そう、それから。 ]
[ 大切に扱われるセックスの経験がないことを、
不幸に思ったことは一度も無い。
" 関心を失う "ことに対してはひどく敏感だったが
セックスにおいて静かだったのは、
前提となる経験が乏しかったおかげだろう。 ]
……? うん。
したいって思ったの、お兄さんが初めてだよ。
だって、ほんとは好きな人とすることなんでしょ?
今までの人には思ったこと、ないなぁ。
しなきゃ、はあったけど。
[ 捨てられて、他の女に関心が向くよりは、と。
埋まらない穴を体温とちっぽけな愛で埋めようとした
バカな女の自傷行為だ。 ]
──────……ありがとう、お兄さん
…………やさしいね、ほんと
そういうとこも、昔と変わんないな……。
[ 長い間頑張って今日を作った。
そう言われるだけでも、何故か泣きたいような心地になる。
おとぎ話のお姫様よりも傷だらけで、
なんでもしてみせると誓って来た道を汚して、
何度も何度も夢見た大事な人。
──可愛いの四文字は聴こえなかったことにした。
かわいくないと否定するのも違う気がするし
かといって、仕事のように素直に受け取れもせず ]
……期待外れでも捨てないでね。
[ 気持ちよくなるなんて無理だろう、と思いながらも
口にはせずにくすぐったさを受け入れる。
そもそも不感症なら戯れに反応しないというのを、
知識のつまみ食いで構築された女は知らない。 ]
ひだり、
……────ッ、んん、くすぐったいてば……っ
[ 頭が反対の肩に移動するのは良いのだけれど、
やわらかな髪が肌を掠める感覚に声が震える。
間を置かず、今度は音が鼓膜を伝って神経を揺らした。
かすかに首筋を吸い立てるような音。
近くで鳴るのを聞いていると、
耳から神経をくすぐられているみたいだ。 ]
み、 みみ、ぞわぞわする……
[ 決してそれは不快だなんて類ではないのだけれど
──適切な言葉はまだ、経験には無い。 ]
男の人が擦られたらおっきくなるのって、
そういう理由だったんだ……?
すごい、お兄さん。物知りだね、
………………ぁ。ぇと、……わたしに……。
……ぅ……うれしい、けど、
あたまおいつかない ……かも……
[ 何ならずっと今の言葉がリフレインしている。
信じていないとか嘘だとか言うつもりはもうないが、
「わあ嬉しい、ありがとう!」などと
素直すぎる反応が出来るほど子どもでもない。
蜘蛛の糸よりも細い粘性の糸がちら、と見えて
漂う夜の気配にたまらず目を逸らした。
そのまま彼の手が背を撫でてくれるのを
最初は「宥めてくれているのか」と
なにも咎めず、むしろ喜んでいた──が ]
[ どうにもこれは、擦っているわけでもなさそうだ。
落ち着かせるためなら一定数同じ場所を触れるべきで、
あちらへこちらへと動く手は
別の目的を伴っている気がしてならない。
窺うように彼を再度見上げた。
おず、と服を握り、問うための言葉を探している。 ]
お兄さん、あの、背中────
──────ッん、ぁっ!?
[ 尾骶骨と脇腹の部分を撫でられた瞬間、
妙に甘ったるい声が零れて、ば、と口をふさいだ。
くすぐったい、と笑っていた時とは違う色。
僅かだけ電流が奔ったような心地がして、
彼の手の動きを止めようと
空いている手で、咄嗟に彼の腕を取ろうとした。** ]
[いまだパスワードが盗み見られたとは気づいていない。
知られて特にやましいことはないし今後もない予定だが
自分の内臓を盗み見られているようで座りが悪いから、
知られているとわかったら変更することになるだろう。
……ルミにとってそれを突破することは造作もないだろうが。
逆に店用のアカウントを教えられたところで
逐一チェックするかと言われたら否だ。
そもそも男性が彼女目当てで来店することが
店そのものに推奨されている環境に対する抵抗が
どうしても拭えないから。
それならばまだ「カフェ」の内容を詳しく
知らない方が幸せなのかもしれない。]
いやまあ好きな人とだけするものなんて
潔癖なことを言うつもりはないけど。
好きな人とするのが気持ちいいってのを
教えてやれたらなとは思うよ。
[しなきゃ、という口ぶりに心が痛む。
そんな義務感を負う必要はなかった筈だ。
この家にあるというアフターピル。
本来緊急時の受診で処方されるある意味劇薬が
常備してあるという時点で、これまでどんな
抱かれ方をしてきたのか想像出来てしまう。]
……ルミが俺を好きだと思ってくれたところが
ルミから見て変わってなくて良かった。
[自分としては優しいという評価には疑問が残るが
ルミがそう思ってくれるなら、その評価のままでいたい。]
お。
俺がルミに「期待してる」ってのは
伝わってんな?
[不安そうに聞こえた前置きの揚げ足を取って笑う。
くつくつと笑う声がルミの耳朶を揺らした。]
[ルミがどれだけ身を捩っても逃がさない。
その感覚を身体が受け入れるように。]
ルミはくすぐったい時にゲラったりしないんだな。
そっか。ぞわぞわか。
[くすぐったさが快感の近い位置にあることを
今はまだ教えない。
彼女を抱いた男たちが恐らく少しは手を出したであろう
乳房や秘部への刺激も取り置いて、
愛されることに慣れていない身体を起こしにいく。]
知らんけど。
[物知りと言われると困ったように笑う。
男の生理については自分の身体の反応だけがサンプルで
詳しく勉強したことも聞いたこともない。
俺調べってだけな、と眉を下げた。
他の男に聞く機会はもう与えないから、
違う理由が正しくても訂正されることはないだろう。]
いーよ、
今あたまで考える時間があったら、
俺だけ夢中みたいで恥ずいから。
[会話も愛撫の内だと思っているから喋り続けても
良いけれど、冷静に何かを考えている内は
思考が邪魔して上手く気持ちよくなれないかもしれない。
撫でる手は慰撫の動きでも勿論按摩の目的でもなく。
強さはそっと、刺激はピンポイントに。
――見つけた。]
止めたら、あげらんないじゃん。
[気持ちいいの、と。
制止しようとする手ごと動かして。
快感を拾えたのなら、くすぐったさも快感に変換できる筈。
唇で口元を覆うルミの手をつつく。]
声抑えるの禁止。な?
[自ら外して貰えるようにねだる。
もう自分の手は自由に動くが、無理矢理外したりはしない。*]
[ そう、自分にとってはパスコードを盗み見ることも、
例え何度変えたってそれを見破るのも容易い。
毎日毎日勝手に覗いて女の痕跡を洗い出しはしないが、
知っておけば怪しい時に取れる手段が増えるから。
とはいえ合法的に浮気や類似するものを探れる今、
疑っていようとそうでなかろうと
定期的にスマホは見せて貰おうとするだろう。
元恋人と繋がっていやしないか、飲み会に女はいるか
不安の種はそこらにあるもので。
自分の仕事が快く受け入れられるものではないことは、
一応自覚もしている。
知られようとそうでなかろうと、
今の色をかけるような営業はやめていくつもりだった。
────歪んだ承認欲求はすぐには治らない。
並べてみれば、過去も感性も何もかも違うけれど
おとぎ話のようにすぐさま解決することは何もない。
続いていくには、続ける努力が必要なのだ。 ]
……──、うん。
お兄さんが教えて。ぜんぶ。
[ 大事にされなくてもいいと思っていた。
夢を見ない方が、現実に傷付かなくて済むからだ。
やっぱり自分にはこの道しかないんだ、と
一本道しかないと諦める方が楽だった。 ]
────……優しいとこ、好きだよ。昔から。
お兄さんなのに子どもっぽかったとこも
名前で呼ばれるのとか、
嫌なことは嫌って教えてくれたとこも好き。
でも、例え優しくなくなっても
お兄さんのことは、ずっと好きなままだと思うな。
[ 過去に執着していただけなら、
忘却を" 優しくない "と捉えて嫌いになっただろう ]
[ こんな自分に好かれて執着され続ける彼を、
可哀そうだと思う気持ちが無いわけでもない。
けれど手元に手繰った運命がここにあるのなら
今更聞こえの良い言葉で手放してもやれない。
これは、誰が何を言おうとも運命だ。
あの日貴方がわたしに声を掛けなければ。
わたしが貴方を好きになどならなければ。
例え人から獣に変じたって愛している。
────そう、例え意地悪を言われても、だ。 ]
…こ、言葉のあやってやつだもん……
[ 揚げ足を取られて思わず言葉に詰まる。
喉奥で笑うような、聞き慣れない笑い方が揺れた。
途端に気恥ずかしくなって、
それ以上を紡ぐのをやめ、ふ、と息を零す。 ]
ん、んん、……笑っちゃうより
くすぐったいの、感じないように意識する……から…。
というか、くすぐったくなったこと自体
今まであんまりない、し……。
[ 今まさに身を捩って感覚を逃がそうとしたわけだが、
上手く逃がせずに、返事は時折不自然に途切れた。
そもそも今までけらけら笑った経験と言えば
幼い頃くらいしかないような気もする。
子ども同士の戯れのような触れ合いの気分で、
彼の困ったような笑みに「ええ?」と笑い返した。 ]
なぁにそれ、適当?
……あは、お兄さん調べならそれが正しいでしょ。
[ 自分には彼が世界に等しい。
あっけらかんと見解を受け止め、知識を上書きして。 ]
わたしはお兄さんが夢中になってくれるの、
嬉しいけどな。
……わたしもべつに、余裕あるとかじゃないし……
[ 彼が絡むだけで何に対しても余裕など失われ、
まるで毒殺を試みた白雪姫の魔女のようだ。
目的を成すにはもう殺すしかない、と
りんごに毒を塗った短慮さを咎められない。
他愛ない会話にすこし力が抜けていた。
────だからだろうか、
高い声を抑えられずに零してしまったのは。 ]
ぇぁ、 あ、ぅ、
[ 声は言葉の輪郭を保てなかった。
気持ちいい、を教えてほしいとは確かに言ったが
自分のものではないような声が出るなんて聞いていない。
唇で声を抑える手をつつかれ、
言葉でも促されると、困ったように眉を下げた。
例えばここで彼が手を外してくれたなら、
声を聞かせることへの言い訳も出来ただろう。
自分から外すのは。
つまりそうすることを、自分で選んだというわけで。 ]
…………………ひかない……?
[ しかしこのまま意地になっても仕方がない。
まるで合意ではない行為のように見えてしまうし、
────きもちいい、を教えてほしいと思ったのも
したいと言ったのも自分なのだ。
そろ、と恐る恐るの仕草で手を下ろした。
行き場を失った手はすこしの間宙を彷徨い、
彼の肩をそうっと掴む。* ]
[やましいことがなくても誰かとのやり取りを
手放しに見せられるかと言われると疑問が生じる。
ルミの前では「お兄さん」であろうとする意識が
強いのと同様に、実家では末っ子の「雷恩」として
(親を困らせたくはないので自分の嫌悪は別として
雷恩と呼ばれても返事はする)
友達とは「ライ」としてそれぞれ見せる顔が違う。
そこを暴かれるのは嫌だ。
実際にはそこも既に把握されているので
新しく何かを知られるということもないのだが。
そして結局はそうせざるを得ないということが
ルミと恋人になるということなのだと
理解していくことになるのだろう。
その努力を努力と思わない感性が
少年時代から備わっていたことこそが
「運命」だったのかもしれない。]
あの頃は俺だって子どもだったからな?
[自分の優しさを神格化した訳でもなく、
当時の至らなさや強情も含めて好きだと言われるのは
むず痒い。
優しくなくても好きだと言われたら、
ずっと優しくしていたいと想ってしまう。
彼女の前で自分が肉食獣となることはない。
この先――例えば子どもが出来て。
混乱させない為に「お兄さん」と呼ぶことを
ルミが辞めたとして。
彼女の口から発する「ライオン」は「雷恩」以外を
想起しないと思えるから。]
それでもいいよ。
俺が期待してるのは確か。
ルミが気持ちよくなってくれて、
繋がれる瞬間を。
[恥ずかしそうに反論する声が愛しくて、
笑い声で震わせた耳朶をつい愛咬した。]
やっぱり自分でストッパーかけてたのか。
俺以外に見せなかったって想ったら正直ほっとしたから
我慢してくれてて良かったって思うけど。
我慢を癖にするのはもうナシな?
[自罰的に誰かに抱かれることはもうないから。
無防備な芯を見せることに怯える必要はない。
これからも自分が世界であれば良い。
とはいえ嘘を教えるのも忍びないので
あとでメカニズムについては調べてみよう。
この忘れん坊が覚えていればの話だが。]
[夢中にさせたい。
まだ自分と抱き合うことに戸惑いのある彼女の武装を
少しずつでも剥いでいきたい。
ルミの方は、声が言葉の形にならないのを
晒したくなさそうだが。]
引かない。
熱が引くどころか、ってのは、
当たってるんだからわかるだろ。
[開き直って楔がルミに触れるのを隠さなくなった。
先端から零れた蜜はルミの蜜の呼び水となるだろうか。]
[開き直って楔がルミに触れるのを隠さなくなった。
先端から零れた蜜はルミの蜜の呼び水となるだろうか。]
どうしていいかわかんなくなったら、
掴んでるとこに爪立ててもいいから、
そのまま俺に縋ってて。
[囲いの降ろされた唇を唇で迎えにいく。
もう血は止まっていたが、傷口は少し
ザラついていて、微かに鉄の味がした。
声を聞きたいと願った以上、
深くはしない。
名残惜しそうにゆっくりと重ねて離すと、
先刻ルミが喘いだ場所をもう一度擦りながら、
漸く胸に手を伸ばした。
まずは服の上から。
指先は先端の形を捉えないが、爪弾くように
こすこすと頂点で軽く引っ掻いた。
生地を傷めることを懸念されたなら、
脱ぐ方が良いか脱がされたいか、選択を迫るつもり。**]
[ " 知らない顔 "があることを許しがたく思うのは、
自分の悪癖であり、同時に変えられない部分だ。
正確に言えば「我慢をしろ」と言われれば出来るのだが、
重ねていくうちに遠からず爆発してしまう。
いつか暴くのではなく、
自分にも見せてくれるようになればいい。
何でもかんでもSNSで把握しようとしてしまう性分を、
愛の実感を得るために相手の全てを知ろうという欲を、
もし正せる日が来るのならば
それもまた、運命の成せる技になるのだろう。 ]
ふふ、そうだね
かわいかったな、小さい頃のお兄さん。
[ 記憶の中を慈しむように目を細める。
一緒に食べた美味しいものの味、
凪いだ風の音、祭りの喧騒、手の温もり。
降り注ぐ雨から守ってくれたのも彼だった。
肌から熱を奪うつめたい雨。
傘を差したかったけれど、わたしは持ってはいなくて、
けれど濡れないでいられる道を諦めさせないでくれた。
それなら。
傷を抉って、わたしをずっと憶え込ませて、
────そんな中でわたしは貴方の何になれるだろう。
痛い傷以外の何に、いつか、成れるのだろう。 ]
[ これは夢よりも優しい現実だ。
嫌われて憎まれて然るべきのことをしたわたしに、
貴方はずっと近くにいる許しをくれた。
防衛反応、あるいはストックホルム症候群。
傷付けてその痛みを食べ続けるという行為は
ある意味洗脳だと言われても反論できない。
────罪に対する罰はどこにあるのだろう。
けれども、食べていたいのだ。
愛されていると思えるような蜜の味。
貴方をこんなにも愛しているのは、わたしだけ。 ]
……が、がんばる…… ッ、
[ ────いやそれにしては甘い言葉が出てくるな?と
彼の経験値を推察し、過去の恋人の顔を浮かべ、
わたし以外にはそういう顔も見せてたのに……と
嫉妬の炎を燃やしてしまう。
耳朶をやわく噛まれる感覚に、すぐさま鎮火したが。
多くは言わないようにして、言葉を返した。
どうせSNS越しにもう知っている情報だ。
改めて肉声で聞きたい話でもない。
過ぎたことを詰って責めたいわけでもないのだ。
大声で喚いたのは関係が終わると思っていたからで、
続いていくためには堪えるべきことも分かっている。
過去は変えられないから過去なのだし。 ]
ぁ、 当たってる……けどっ
……お兄さんの、そういう……
えっちなことの対象に入ると、おもって、なくて
…………し、しんぱい、なのっ!
[ そういえば当たっていることを遠回しに言及しても、
特に位置をずらそうということはしていなかった。
あまり自分が身を引こうと動けば余計に熱を感じるし、
気にしないようにしていたのに。
再度意識すると、後はもう気にしないなんて出来ずに、
彼の熱から粘性のものが零れていることに気が付いた。
流石に正体を知らないほど無知ではない。
かぁ、と耳が熱くなって、
神経を言葉に出来ない感覚が奔っていく。 ]
[ 既にどうしていいか分からない迷子なのだが、
どうやら爪を立てても良いらしい。
こくんと頷き、緊張を逃すように息を零して。
傷の残る唇なんて美味しくもないだろうに
キスをしてくれるのが嬉しくて、目を閉じた。
りんごと同じ赤い色だったはずなのに
やっぱり甘さなんて微塵もない、鉄の味。 ]
お兄さん、
[ 優しいキスを名残惜しく思うのはこちらも同じ。
どこかねだるような色を帯びた声で彼を呼び、
離れていく唇を見つめて── ]
──ッんぅ、ぁ、ふ……っ
[ さっきと同じ場所を擦られると肩が跳ねる。
伸ばされた手に服越しで軽く胸を引っ掻かれると、
くすぐったさでもぞわぞわでもない、
身体が熱くなるような感覚が込み上げた。
胸は左程大きいわけでもなく、平均的だ。
戯れに触れられたことはあるけれども、
乱雑に扱われて痛いだけだった。
────だからこそ、自分は性行為では感じないと
思っていた筈だった、のだが。 ]
や、……へんな、かんじ、する……っ
[ 下腹部がわずかに重い。
きゅう、と勝手に膣が締まるような感覚があって、
彼の肩を掴む指先に力を込めた。
服越しという状況の生々しさに気が付いて、
ふるりと睫毛を揺らす。 ]
……お兄さん、あのね、その……
[ リボンやビジューが多く施された可愛い服だが、
彼の動きの邪魔にもなってしまうだろう。
──という最もらしい理由をつけて、
おねだりをするような上目遣いで彼を見つめ。 ]
服、……ぬぎたい、かも……
………………おにいさん、脱がせてくれる……?
[ おねがい、と甘えた声で。
図らずしも選択を迫られるより先に。** ]
[SNSで様々なことが把握できると知ったら
逆に何を書いて良いか迷うかもしれない。
それが彼女の不安に繋がることもあるかもしれない。
知りたいことに関しては他からの推理ではなく
自分に聞いてくれと思うし
自分がそこで明かさなかったことまでを
他からの推理で補完しないでほしい。
どこまでが許せて
どこまでが我慢できるのか
違う価値観で生きて来た者同士が
それでも相手と共に生きたいと望むなら
擦り合わせは必要だろう。
その過程でどちらも相手に対して疲弊しないで
済むようにと今は願うのみ。]
ルミは小さい頃も今もかわいいよ。
[可愛い、と言われ慣れている筈なのに、
そう思われる為に元々可愛らしい顔立ちに生まれたのを
自力でブラッシュアップしたところもあるだろうに、
ここまで自分が発する賛美に微妙な反応だったから、
追い打ちを掛けるように言葉を重ねた。
ルミ自身は気づいているだろうか。
ルミが「ライオン」より先に「雷恩」を知ったこと、
誰よりも強い気持ちで自分を好きでいてくれたこと。
傷以外の何かになろうとしなくても良い。
血の滴る毒林檎のタトゥーは自分にだけ赦された傷であれば良いのだ。]
俺が、かわいいって、言ってんの。
[世間的にこの関係が健康なものであるかどうかは
どうだって良い。
他に選べた選択肢がなかったのではなく、
たくさんある選択肢の中からルミの手を取ると決めただけだ。
他ならぬ自分が。]
[頭で考える余裕があると、自分の愛撫に過去の経験を見て
しまうだろう。
人は経験を元に動ける部分が多く、特に初めて身体を重ねる
相手に対して初めての行為を施すのは失敗のリスクを考えれば
避けたいところだ。
自然と経験則で運指することになるから、
元カノの存在を知っているルミは特に
嫉妬する対象を具体的に思い浮かべてしまうかもしれない。
今更取り繕わない代わりに、嫌な想像をする隙を奪うことにする。]
おっと?
もしかして俺がセックスに普通に興味ある男ってのは
解釈違いってやつ?
[困ったな、と言いながらも手は止めない。]
心配を我慢せずに言ってくれたのは助かる。
「だいじょーぶ」って否定できるからな。
[見つけた場所への愛撫とキスとで
ルミの身体が段々と芽吹いているのは感じている。
進むには性急すぎてはいけないと、胸は最初に
服越しに刺激したのだけれど。]
あつい?
[脱がせる役を任せて貰ったから、まずは髪飾りを外す。
季節とは真逆の結晶モチーフは、フィンランド語の
lumiから来ているのか。
単なる好みか偶然かはしらない。
それから、キラキラフリフリの装飾品を傷つけないように
黒いワンピースをそっと脱がせた。
ルミが安心できるように、自分もシャツを脱ぐ。
ルミに縋りつかれた部分が皺になっているのが愛しい。]
直接触ったら、「へんなかんじ」が
「きもちいい」ってわかるかも。
[腕を回してホックを外した。
本当は片手で外せるが、あまり手慣れた印象を与えたくない。
ショーツは少し迷ってまだ取り置いた。
ルミが気持ちよくなるまでは挿入をしないという誓いを
破る心算はなくとも絶対の自信がある訳ではないので。]
[そっと左胸を包み込む。
「ドキドキしてる」と鼓動を掌で味わって。
下方へずらして露わにした乳頭に親指をそっと這わせた。
色の異なる場所の輪郭をなぞって、
ふに、ふに、と何度か押して沈ませる。
小刻みに擦れば生理的な現象で堅くなってくるだろうが
それを自分の勲章のようにいちいち誇ったりはしない。
ただただルミの反応を見ている。
口元を覆うのを制するように時々唇を舐めながら。**]
[ 可愛い、はたくさん浴びてきた。
自分に似合うメイクも髪型も服装も知っているし、
生まれ持ったこの顔自体が可愛い類なのも分かっている。
SNSや店、或いは道でも言われてきたし
その度に笑って「ありがとう」と返せていたはずだ。
そう、誰に言われても今までずっと変わらなかった。
────今まで、なら。 ]
はぇ、
[ 気の抜けた声が零れて宙に溶けた。
小さい頃の彼をかわいいと言うだけのつもりが、
強烈なカウンターを喰らった気分だ。
かわいくないという謙遜などは頭にないけれども
妙にまごついてしまって上手くいかない。
──彼にそんな風に思って貰えるわけがないという、
無自覚の諦めがあったのかもしれず
重ねられた言葉に、瞬きを数度。 ]
…………ありがとう、お兄さん
あの、その、……うれしいよ。
[ 複雑そうな、微妙ともいえる反応ではなく
幼い頃のようにへにゃりと頬を緩めて笑った。
自分にとっての世界である彼が、
他でもない唯一がそう言ってくれるなら、
受け取りたくないわけがないのだ。 ]
[ 元カノの影を見るたび、嫉妬の炎がぱちりと弾ける。
何度同じことをあの人にしたの、とか
かわいいってわたし以外にも言ったんだよね──など
嫌な想像は枚挙に暇がない。
別れろと迫った女の顔を思い出して。
昏い思考に呑まれる前に、彼が想像を奪っていく。 ]
……一致してるのも嫌じゃない……?
解釈違い……でも、そうかも。
だって、わたしの知ってるお兄さんは
わたしのこと女として見なさそうだもん……。
[ 恋と聞けば鯉を連想しそうな少年だった気がする。
いや、さすがにそれは穿ちすぎかもしれないが、
色恋沙汰に興味など無さそうだったのは間違いない。 ]
……お兄さん、甘やかすの上手だね。
[ 一度許されると、なんでも許されるような気がしてしまう。
心配や不安を否定せず受け止めて貰えるたび、
相手の許容のラインを探りたくなる。
心の隙間を蜜で埋めようとする悪癖だ。
自覚しているから、堪えるためにそう言った。
何気なくしているかもしれないその受容は、
自分にとっては甘やかしなのだと示すために。 ]
[ あつい?、と問われて首を横に振った。
髪飾りを外してもらいながら、少しの間考えて
ゆるやかに口を開く。 ]
……この服、お気に入りなの。
だからよく着るんだけど。
[ きらきらで、ふわふわで。
幼い頃手に入れられなかった、お姫様のような服。
だから生地を傷ませたくないというわけではない。
物にはいずれ寿命が来てしまうのが摂理だ。
────あついわけではないのに、
恥ずかしさを覚えてでも脱がせてとねだったのは、 ]
…………服着たまま、しちゃったら
見たり、着る度に思い出しちゃいそうだなって
その……お兄さんのこと。
[ この服着てえっちなことしたんだ、などと
裾やレースが目に入る度に思い出すのは遠慮したい。
街中で平然としていられなくなってしまう。
髪飾りの結晶は、
白雪姫の制服が決まった時に買ったものだ。
自分の名前になにか意味があるなんて知らない。
──そんなものないと無意識に思い込んでいるから。
けれど、いずれ知っていくのだろうか。
この名前にもなにか、ひとつ意味はあるのだと。 ]
[ 自分の解釈と思い込みの世界で生きてきた女には、
知らないことの方が多くある。
────思えば。
考えをこうして誰かに話すこともあまりなく、
そんな経験にも乏しかった。 ]
……そう、かな……?
[ 服と同じ、黒いレースの下着のホックを外されると
心臓がいっそう音を立てて早鐘を打った。
彼の片手で外さない判断は英断だっただろう。
そんなことをされていれば、ほぼ間違いなく
女の幻影に牙を剥いてしまいそうだったから。 ]
[ 体全部に心臓の鼓動が届いていると錯覚するくらい、
跳ねて、動いて、全身で緊張を訴えている。
シャツを脱いだ彼の身体を直視できず、
まるで初めての女のように視線をうろつかせた。
──おかしい。
今までなら、こんな風に身体が固まるようなことも、
相手の肌すら何を思うこともなかったのに。 ]
────ひゃんっ、
[ 左胸に彼の掌が触れて、体温が融ける。
びく、と肩が跳ね、制御出来ない声を零して。
強く触れるわけではない優しい触れ方。
痛み以外を行為で感じたことは無かったのだから
これもきっと、くすぐったくて
少しぞわりとするような、妙な感覚で終わる、── ]
──…ッふぁ、ン、ん……っ、
ゃ、ぁ……っ?
[ ────終わるはず、で。
そっと薄桃の先端をなぞる指先の動きが、
ふに、と戯れのように沈ませられる感覚が。
今までの感覚とは違う痺れを奔らせてくる。
びくんと腰が僅かに跳ねた。
先端が次第に硬くなっているのは単なる刺激故ではなく、
確かに快感を拾っている結果だ。
唇を舐められる度、声を抑えるのにも失敗して
色の混じった喘ぎを零すしかなく。
すこしずつ、蕾が朝日を浴びて花開くように、
秘部は蜜を帯び始めた。* ]
[可愛いと口にすることに抵抗がなくなったのは
思春期を経て、女性と交際してからだ。
過去の交際相手に言ったことはないなんて
嘘は言わない。
数を数えることもない程自然に言えていたし、
愛を言葉にしながらその身体に溺れたこともある。
その事実を隠そうにもルミはもう知っているのなら、
「こい」で「鯉」しか連想しないような鈍感坊主が
第二次性徴を経てまっとうに性欲を獲得したことも
知っていたと思うのだが。]
ルミなら今の俺の中にも昔の俺を見つけて
くれんだろ?
あのガキの延長線上に俺がいるって。
[会話をしながらも手や唇は止めない。
下腹は触っていないが、肌を啄むだけでも
汗腺が開いて雌の匂いを放ち始めていることに
気づけば、思考を奪う心算が此方の思考が溶けそうだ。]
女の子だって思ったから、
中学になって制服着た時に今まで通りの頻度で
公園に行きにくくなったんだよ。
それまでアニメの話題しかしてなかった奴が
誰それの胸がデカくて体操服見ただけで勃起しただの
何組の奴が女子と喋ってた、つきあってるに決まってるだの、
「女子といる」ってだけで変に噂するようになって、
実際に俺もエロいこと考えるようになって、
……気まずかったよ。
友達に借りたエロ本の女よりルミのが可愛いなって
思った瞬間にイッたの、
会ったら知られるんじゃないかって。
[流石にここまでは知らなかった筈。
自室で起きた最初の秘め事は、誰にも言ったことがない。]
[そうして性を意識するようになっても尚、
恋を知らなかった少年は、先に大人びた女子に押されて
「彼女」をつくる。
彼女がいるなら他の女の子と会っちゃ駄目、なんて
一端の独占欲を見せられて、ますます公園から遠ざかった。
結果的に最初の交際は、縛られていることが
我慢出来なくてすぐに別れた。
そんな男が今、自分を好きで監禁しようとまでした
女性に「ずっと傷をつけろ」と言うのだから
人の心は不思議なものだ。]
ちゃんとルミを女の子として意識した瞬間はあったよ。
この状況が据え膳だから抱きたいとか
半年彼女がいなくて溜まってるからとかじゃなくて、
ルミを女として見てるからこうなってる。
[不安を消す為の言葉は尽くす。
もう何も言わずにフェードアウトして傷つけたくない。
その気持ちが「甘やかし」に繋がるなら]
諦めろ、これが俺だよ。
[期間限定でも特別サービスでもないと言っておこう。]
[黒いワンピースはお気に入りだと言う。
自分との出会いを演出する為に転んで、どこか生地を
傷めたらと思えば何故そんな時に、とも思うが。
自分との再会の為に一番可愛くしてくれたのだろうと
思えば愛しさも増す。
それを自ら脱ぎたくなったのは、暑くて汗をかきたくなかった
のかというと、そうではないらしい。]
脱がせた後に聞いたら残念に思うやつじゃんそれ。
何かの度に思い出せばいいよ。
このソファ座るときもそうだし、
……って今更だけど、ベッド行く?
立派なソファだから、ここでしても
壊れはしないと思うけど。
[あまりに可愛いことを言われて、喉が鳴った。
これが男相手に可愛さを武器にする生き方をしてきた彼女の
計算ずくの台詞であっても構わない。
自分といない時にも自分に抱かれた記憶が蘇るルミを
想像するだけで儲けた気分になるから。]
[裸になってソファで向き合う。
まだ昼間なので室内は明るく、ルミが緊張したように
皮膚を強張らせる様子もよく見えた。
欲望のまま乱暴にしないようにゆっくりと刺激を加える。
甘い言葉が上がる度に目を細めて。
それが少し続くようになれば次の段階。
左への刺激で連動したのか形がはっきりとしている
右の胸粒に舌先を触れさせた。
唇を塞ぐことができなくなるのは惜しいが、
何度か制したからちゃんと彼女は覚えてくれた筈。]
ルミ、かわいい。
[ちゅ、と音を立てて吸う。
痛みには通じないような、ほんの初心者向けの愛撫。
桃色がてらてらと唾液でコーティングされたら、
唇と指を入れ替えて刺激を施した。
されていることに慣れてしまわないように、
時折乳頭を扱く速度を速めてみたり、
両手で大きく胸全体を揉み解したり。
服越しに触れただけでも声をあげた尾骶骨と
脇腹の間に唇を旅させて軽く吸い付いたり。*]
[ 優しい嘘という言葉がある。
あれは言う側ではなく言われた側に許された例えだが、
今この場で「可愛いと口にしたことはない」などと
嘘を言われても、自分は優しさと捉えなかっただろう。
言った経験くらい推察できる。
インターネット越しに見て来たのだから。
なにも考えずにただ眺めていたなんてあるわけがない。 ]
ふふ、それはもちろん
──……ほんと、大きくなったね、お兄さんも
[ けれどネットとリアルは違うものだ。
いくら分かった気になっていても、
直に触れて初めて" 実感 "としてそれを得る。
過去の亡霊が大人になったような感覚が、
輪郭を伴い、温度を連れ立ってやってくる。 ]
[ 何でも知りたいと願って糸を巡らせても、
秘められてしまえば分からないもので。
長い睫毛を瞬かせ、呆けたような顔を浮かべた。 ]
──────……おにい、さん、って
そのときから、かわいいって
思ってくれてたの?
……わたしのこと、面倒になったとか
そういう理由じゃなかったんだ……。
[ よかった、と消え入るような声で呟いて、
彼の肌へ頬をすり寄せた。
例え知っても嫌いになんかならなかったのに、と
悔しいような気持ちにもなるけれど。 ]
[ 縛り付けられていることが我慢ならず別れた、
という事情までは知る由も無いが。
その過去があって尚「ずっと傷をつけていい」と
自分に許しをくれたのは、
他の誰よりも痛くて尊い特別だ。 ]
……ん、……うん。
…………うん。
うれしい、お兄さん、──だいすき。
[ 痛みも甘やかな毒にして、
ふたりしかいない世界で一緒にいられればいいのに。
出来ないならせめて、ここにいるときだけは、
自分のことしか見えなくしてしまいたい。
──……ぎゅう、と一度、彼をやわく抱き締めて。 ]
[ 運命の出会いには可愛いドレスが付き物だ。
再会を演出する道具にうってつけの気に入りの服。
鮮烈に記憶を彩って、
忘れがたい程の色を植え付けるための。
傷んでしまっても良かった。
わたしが可愛く在りたい理由は結局のところ、
貴方の目に入りたい一心だったから。 ]
えー……うーん……。
だってそれだと、お兄さんがいない時、
思い出すばっかりで寂しくなっちゃう……
……んん、いかない。
わたしばっかり思い出すなんてずるいもん。
お兄さんもこのソファ座る度に、
思い出してよ、わたしのこと。
[ 可愛さを武器に生きてきた自覚はあるし、
言葉や態度が男性にどう刺さるかも知っている。
が、これは計算でデコレートされた甘さではない。
そんなことが出来る余裕はとうに奪われた。
ベッドで熱を思い出すなんてのも良いけれど、
せっかくなら、彼の日常に潜む記憶でありたい。 ]
[ 部屋を暗くしたがるような初々しさは無いけれど、
慣れたような素振りを見せることもない。
ゆっくりと与えられる刺激へあまやかに鳴いて、
身体を跳ねさせ、内側に熱を燻らせた。
触れられずともぴんと立った右胸の先へ、
彼の舌先のぬくもりが触れれば ]
────……ッひぁ、あっ!?
[ やわらかな舌の感覚が妙に心地よくて、
なのにはっきりと分かるほどに舌があつい。
かわいく表情を作ることも出来ていないのに、
それでも彼には自分が可愛く映るのか。 ]
ンぅ、あ、──ッひぁ、ア、ん……ッ
や、それ、やだ……ぁ…っ
おなか、きゅうって、なる……っ
[ 刺激に慣れる前に別の愛撫が施されて、
すっかり力の抜けた手で彼にしがみついた。
胸を揉まれたことなんて幾度かあるのに、
あの時とはまるで感じ方が違うのだ。
尾骶骨と脇腹の間へ軽く吸い付かれただけで、
大きく震える体を抑えられない。
本当に嫌というわけでもないのに
それ以外に例える言葉を知らなかった。 ]
[ 言葉で「やだ」と紡ぎながら、
身体は決して彼から逃れようとはしていない。
しがみつくのと同時、
初めて味わう快楽を「もっと」と求めるように、
彼へねだっている。** ]
[ルミを女の子と意識しないまま別れて
今、大人の身体つきになった彼女と再会したら
混乱と罪悪感の方が強かったかもしれない。
自分の方は少年から今まで地続きに自然に
男となった実感を手にしているだけに。
だが実際には、離れる前に彼女が女の子だと
気づいていた。
だから、揶揄われる危険や当時の彼女の機嫌を損ねる
リスクを犯しながらも時々我慢出来ずに公園に
訪れたのだ。
小学生の頃のように屈託なく家に呼べなくなっても。
ルミがそこにいるのを確かめる為に。
自分以外の男が同じ目的で彼女に近づかないか
監視する為に。
その行為は、今思えばインターネットを監視する
ルミの行為と似ている。
どちらも、自分の知らないところで知らない顔を
されることを恐れての行いだ。]
良かった。
ルミに慾情する俺が受け入れられないって言われたら
流石に泣く。
……いや、傷をつけたいならルミ的にはアリなのか?
俺、墓穴掘ったか?
[ここでお預けは流石に辛い。
勿論、ルミが本当に「夢から醒めて」男を求めなくなったなら
無理矢理犯す愛を持っている訳ではないが。]
[長くくっきり分かれた睫毛には
マスカラのダマすら乗っていない。
瞬きに見惚れる日が来るなんて、当時は想ってもみなかったから、
他人から見れば自分の変貌にもっと戸惑ってもおかしくはないだろう。]
ルミといることでクラスの奴に揶揄われたり、
乗せられて何も知らない年下の小学生を襲ったりしそうな
中学生のサル並みの性欲は面倒だったけど
ルミ自身が面倒だった訳じゃない。
俺がもっと強かったら、あの頃だって
「かわいい」って言いたかった。
俺が一番に、俺だけが。
[肌にルミの柔らかな頬が触れる。
自分がルミの肌に感じたように、
ルミもまた自分の裸の胸筋から立ち上る雄の気配を
感じているのだろうか。]
[抱き締められると肌に告白が落ちた。
何年ぶりかの同じ言葉。
あの時は、返せなかった。]
……俺も。
[今もこれが精一杯だ。
どうしても陳腐に響いてしまう気がしたから、
言うならばルミが自分の恋心を疑わなくなってから。]
[これからは、可愛いを演出する為の服だけではなくて、
二軍服や三軍服だって見せてもらう機会があるだろう。
小さい頃は、顔の可愛さに見合った服を着ている印象は
なかったから、今、好きなものや似合うものに囲まれていて
良かったと思う。
そしてそれを着る時に自分との行為を思い出してしまう
ことを狙うのはまたの機会にして。]
寂しいかー。
そう言われると弱いな……。
確かにベッドだと寝る時しか目に入らないもんな。
じゃあ俺が座るのを一瞬躊躇うくらい、
すげーのをここでするか。
[可愛く訴えたかと思えば狡いと糾弾する芯の強さは
昔のままで。
きっとそれは計算を知る前からのルミで、自分しか
知らないのだろう。
今からのセックスが自分の最高であるかどうかは
別として、きっともうソファを見る度に押し倒された
ところから思い出す。ルミの想いは成就している。]
[寝室ではない分、部屋の光量も多い筈で、
その意味でも行かなくて助かった。
隅々まで見たい。
ルミ自身が把握しているかも不明な位置の
黒子だって覚えておきたい。]
ん、声も可愛い。
[もう「くすぐったい」時の声ではないと確信しているが、
指摘が早過ぎて乾いてしまってはいけない。
焦りを見せないように只管ルミの肌や胸を甘く刺激した。
動く度に隠すもののない性器から零れる先走りが
ルミの白い太腿に軌跡を残す。
時折鼻息が荒くなってしまうことには
気づかない振りをしてほしい。]
[そして漸く、ルミが愛撫で感じる感覚に
切羽詰まって来たことを訴えてくれた。
「おなか、きゅうって、なる」だって。
反芻して興奮やよくわからない感情で転げまわりそうになる。]
ほら、ルミは不感症じゃないってわかった?
おなかの奥で俺を飲み込む準備が
出来てるってことだよ。
[その「ヤダ」は本気の拒絶ではないと思っていても、
ガチ泣きさせる程追い詰めたい訳ではない。
脇腹から唇を外し、あやすようにキスを送った。
履かせたままだったショーツの隙間から指を差し込む。
軽く動かしただけで水音が立つ程に濡れていると、
実際に指を引き抜いて見せなくても
自分でわかっていることだろう。
生地が傷んでもいけないので、
ルミに協力して貰って尻を上げ、ショーツを下す。
クロッチと秘部を繋ぐ卑猥な糸がとろりと途切れるのを
目を細めて見つめた。**]
[ 愛しているから何でも知りたいような、
傷付けることすら出来てしまうこの愛はきっと
無理矢理に犯す愛を持たない彼とは
根本から違う色を帯びている。 ]
あは、……お兄さんはそれで傷付いてくれるんだ。
うれしいなあ。
でも今ここでおあずけするの、
わたしがヤだから、大丈夫。
[ 本当に夢から醒めたと嘘を吐いたとして。
彼を傷つけることが出来ても、
それで離れて行かれては元も子もない。
───日常に根差す毒花である方が
わたしのことを忘れられないでしょう? ]
[ わたしにとっての愛は優しくない。
目に見えないくせに形すらまばらで歪で
日常のどこにでもあるような色をして、
世界から隔絶されたような鮮烈さを残して。
縛っても呪っても抑え込んでも構わない。
だからずっと憶えてね。
わたしが貴方を傷付けた数だけ、
わたしが貴方で傷付いたこと。
────これじゃまるで人魚姫だ。 ]
…………ずるいよ、お兄さん
そんなこと言われちゃったら、許したくなる。
────────……。
[ もっと早く教えてよ、と肌に縋った。
彼が一番にかわいいと言ってくれていたら、
彼だけにかわいいと言って貰えたら。
もう手に入らない夢のたられば話だ。 ]
[ あの頃は、同じ気持ちなどひとつも返って来なかった。
好きなのも一緒にいたいのも離れ難いのも自分だけ。
それでも良いなんて健気な女のフリをして、
諦め悪く惨めに夢へしがみついて。
ふらりと足を踏み入れた夜の街は綺麗だった。
満たされてない人ばかりの雑踏に紛れれば
わたしの痛みも昇華されると思っていた。
時折金を貢いで気を引こうとした男は、
どれもみんな思い出の中の彼に似ている。
傷の中でしかもう会えなかった好きな人。
──これからはもう、全部、わたしだけの。 ]
………………、………
……お兄さんだけで満たされるように、
これからずっと、いっぱい言って。
[ この承認欲求が歪んでいることは分かっている。
数多の人に愛想を振りまいて、色をかけ、
薄っぺらな愛を得ようとする不健全さ。
一時だけ満たされるために始めた仕事も、
彼しか充たせない心の隙間が埋まった後なら
辞める決心もつくだろうから。
そうなれば。
その時ようやく、彼の好きだという気持ちを
微塵も疑わずにいられるのだろう。 ]
[ ソファを見る度押し倒された記憶が蘇ってくれるなら、
あのシュガーポットも警戒するだろうか。
捨てはせずとも仕舞い込む予定ではあるけれど。 ]
すごいの……?
…あんまりえっちなこと、分かんないけど
お兄さんの好きにしていいよ。
……いいって言い方、だめかな
してほしい、のほうが正しいかも…
[ 体から始まる恋もあるというし。
手放すのが惜しい体だと思われれば御の字である。
最悪顔で留めてはおけないものか。 ]
[ すぐさま体と顔に頼ろうとする悪癖を頭に過ぎらせたが、
与えられた刺激が即物的な思考を追い払う。
強くはないどころか、ただ甘くて優しい触れ方なのに
声がこぼれ落ちるのが止められない。
彼の熱が太ももに当たり、粘性の液体が肌へ伝った。
──それだけの刺激さえ甘いような、 ]
ン、ゃ、おにいさ…っ
[ 吐いた息は体温を乗せたようにあつい。
時折肌にかかる彼の呼吸も同じように熱を帯びていて、
堪らないような心地になり、軽く頭を抱いた。 ]
[ お腹がきゅうとなるような感覚は、
これが“ きもちいい ”ということらしい。
薄っぺらな生白い下腹部をやわく摩り、
ぽや、と半ば蕩けた目で彼を見た。 ]
これ、が、きもちいい……なら
もうお兄さん、挿れてくれる、の?
[ 確か最初、そんなことを言っていたような。
必死に頭を回し、あやすような柔いキスを追い掛ける。
甘える子どものようにキスをねだり、
乱れた息を落ち着けた。 ]
[ 差し込まれた指が軽く動かされるだけで、
いやらしい水音が立って鼓膜を揺らす。
ローションも使っていないのに、
気付けば下着は粗相でもしたように濡れていた。 ]
ぅ……や、だめ、みないで……
[ 彼の視線の先に気が付いて、
思わず手で秘部を隠しては俯いた。
生まれつき薄い陰毛は大事な場所を隠すにはやや足りず、
卑猥な糸がとろりと太ももへ伝い落ちる。
どう見ても不感症のそれなどでは無い。
それくらい自分にも嫌ほど理解が出来て、
今しがた秘部を隠そうとした手を動かし直して
今度は彼の目を覆うようにあてがった。 ]
……えーと、えへへ……
か、かくれんぼ……。
[ 何とも色気のない言い訳だった。
幼い頃かくれんぼをふたりで遊んだ記憶が蘇り、
どこか懐かしいような気持ちになる。
そのまま彼の髪へ顔を埋め、目を細めた。
砂や太陽の匂いがしていた昔と違って、
匂い立つのは大人の男としての色。
ずくりとお腹の奥が重くなって、熱が疼いて、
それを隠すようにまた息を吐いた。** ]
[小声を拾われて言葉に詰まる。
そう、今は、小声も拾われるほど近くにいる。]
……良かった。
まだルミにとってセックスが「良いもの」って
思えていないだろうから、引き返されるかと。
[傍に居て傷つけ続けろと言ったのは、自分が被虐趣味だから
という訳ではない。
ルミももうわかっているだろうが、
今は二人が離れない理由にその名分を使う。]
俺は狡いから「許すな」って言うよ。
許されて仲直りで終わったら、
「今」が仕切り直しみたいになる。
[過去の罪の精算が形だけでも成されてしまったら、
ここにいる二人は大人になったただの男女になってしまう。
恋人よりももっと強い結びつきでいなければ。
他の相手との間にも生じた「恋人」の関係性ではなく、
ルミが初めてで唯一の存在になれる立ち位置を。
肌に縋るルミの身体を撫でた。
許されない限り、ずっと償える。]
[恋を知らなかった頃でも、知らないまま
鸚鵡返しに同じ言葉を返す違和感だけは持っていた。
だから「おー」とか「うん」で受け取った。
恋に育っていない気持ちを同じ言葉で表すのは
嘘になると思ったから。]
[嘘を吐かなくて良かった。
本物を渡せる。
これから育っていく気持ちも、その都度。]
ルミだけ。
俺だけで足りないなんて言わせない。
[とはいえ、ふつうに生きて来ただけだから、
「すごいセックス」が出来る程テクニックに
自信がある訳ではないが。
ルミが此方に心身を預けてくれるなら、
これを特別な初夜にすることはできると思いたい。
顔も身体も自分を興奮させる要素ではあるが、
ルミがそれだけが自分の武器と勘違いしないように
気を付けなければ。]
うん、もうちょっと、な。
一口目で「美味しい」って判断したら、
食べきれなくなった時に泣くのはルミだから。
[と食べ物に例えてはみたが。
一口目でりんご飴をギブアップしたのは自分だし、
一口目で白雪姫は毒林檎に斃れた。
あまり上手くない例えだったかもしれない。
ルミがそれに気づく前にキスを重ねた。
交わる唾液にはもう盛られた薬の影響は出ていない
だろうか。]
[期待通りに下着が湿っているのを確認したが、
下した先の体毛の薄さには喉が鳴るのを止められなかった。
剃ってあるのでもなく、生えてはいるのだが。
その量が少ないことがこんなに興奮を煽るものだとは。
見ないでと言われても、と無意識に顔を近づけようとしたら
視界が塞がれた。]
……目隠しじゃなくて?
かくれんぼなら、10秒数えたら見つけて
良いってことだろ?
[児戯の名称は自分にも懐かしく。
だが児戯の思い出に浸って落ち着くには
慾が成長し過ぎた。
頭皮に感じるルミの気配がくすぐったい。]
いーち、にーぃ、
[否定をされる前に数え始める。]
さーん、よーん、
[その間、剥ぎ取ったショーツは横に避けたが
身体には触らない。]
ごー、ろーく、
[これだけ時間が経てば、濡れた性器も乾いてくるだろうか。
――狡い大人はルミの覚悟を待たない。]
ななはちきゅうじゅう!
[早口でカウントを終え、ルミの手に自分の手を重ねた。]
……ルミ、「見っけ」させて?
[児戯の時の用語を使い、見ながら続けたいと乞う。*]
[ 虐げられるのが好きなら最初から喜んでいるだろう。
さすがの自分でも、まさか被虐趣味かと疑ってはいない。
いや、もしそうなら受け止めるつもりではあるが、
SNSも現実の彼もそんな片鱗は見えないので。
許されるつもりなどないまま、毒林檎を手向けた。
ふたりを結ぶのはもう過ぎた過去の青さでも、
陽だまりの柔さでもないと知っていたから。
呪って縛って、
血よりも赤い糸で彼と自分の世界を繋ぐ。 ]
……
[ わたし以外の誰のものにもならないで、と祈るのも愛で
わたしを忘れられないくらい傷付いて、と呪うのも愛で
わたしとずっと一緒の地獄にいようよ、と願うのも愛だ
日常の色に紛れた呪いは愛の顔をしている。 ]
[ 大人になっただけのただの男女ではなく、
恋人よりも強く結びついた唯一の関係というのは
傍目に見れば正しいものではないのだろう。
正しくないことを「おかしい」と糾弾するのは簡単だ。
自覚している。理解だってしている。
けれど、" おかしい "からなんだと言うのか。
わたしは狡いから、きっと許したくないと言う。
傷を主張すればずっと償わせて傍に置けるから。
過去のふたりも、捨てたくないから。 ]
[ イミテーションの愛はもう飽きてしまった。
どれだけ与えられても満たされない。
求めた本物のひかりをいつか素直に受け入れられたら、
きっと、縋り続けた偽りだって手離せるのだろう。
愛される存在を演じて、そして向けられた愛は
手離す間もなくやがて朽ちるかもしれないが。 ]
────ん。
お兄さんの今の言葉、忘れないでね。
何かある度に突き付けてやるんだから。
[ その度に腕を切って脅すことも躊躇いがないのだ。
都度罪悪感で転げ回って欲しい。
彼となら初めても、それを越えたあとだって
どんなことも特別ないろになる。
──雪は何色にだって染まるものだ。 ]
…………?
りんごあめ食べ切れなかったのはおにいさ、
────ンむ、
[ なるほど……と神妙な顔で頷こうとしたが、
思い返さなくてもりんご飴ギブアップは彼ではないか?
わたし泣いたことないもん、と
異議を申し立てようとするより先にキスが降る。
────まあ、いいか。
途端に思考を溶かして目を閉じる。
薬が抜けきったなら、交わる体液にも影響はない。
白雪姫はキスで目が醒めたのに、
今はまるで真逆のような。 ]
[ 喉が鳴る音が近くから聞こえるのが居た堪れなくて、
まるで幼い頃に戻るように戯れを重ねた。
したいと言った思いに嘘はないのに
許容量を越えそうな現実が、判断を鈍らせる。 ]
えっ、えと、じゅう……?
[ 十秒しか猶予がない遊びだったか、あれは。
今この場では至極どうでもいい二人のルールを、
必死に思い出そうと海馬に潜る。
いや三十秒だったじゃん!などと言ったとしても、
どのみち時間制限があることに変わりないのだが。 ]
……あぅ……。
[ 恥ずかしいからといって反射で動かなければよかった。
着実に進み続けるカウントダウンに、
むしろその時を意識してしまう。
今更やめた、など通用しない空気になってしまった。
身を守っていたショーツが横に避けられ、
もう意味も無い可愛いだけの布一枚になる。
触れられる距離にいるのに、触れられない。
お預けに似たことをしたのは自分なのに
そのくせ落ち着かない気持ちになりながら。
律儀に数え続ける彼へ、つい昔の影を── ]
────ッは、反則……!
[ 見なかった。
素直な少年は狡い大人になり、早口でカウントを終え
面影を辿る時間を奪っていく。
そのまま彼の手が自分の手に重なって熱を帯びる。
幼子のじゃれあいのようなやり取りは終わって、
ここにあるのは、体温を融かしあう二人の男女だけ。 ]
[ 息を吐く。
少しの間忘れられていた腹部の熱が重く疼いて、
そろりと彼の目から手を離した。
見つかってしまったら、鬼は交代。
────けれど今回に限っては、
ありきたりなルールは返上になるだろうか。 ]
……みつかっちゃった。
ふふ、懐かしい
昔はよくこうして遊んでた、けど。
[ 今と全く同じ言葉を紡いで、
彼を見つける側に回ったものだった。
夜の匂いなど無かった頃の話。 ]
…………ああもう、…だめかも。
はずかしいと、わたし、言葉が多くなっちゃう。
……お兄さん。
あのね、……しゃべれないくらい、きもちよくして。
[ ぎゅ、と彼に再び抱きついた。
そのまま首へ吸い付いて痕を残そうとしたけれど、
経験が足りないのか、上手く赤がつかなくて。
代わりにかぷりと首筋を噛む。
ふふんと笑って、「浮気防止」と呟いた。* ]
[ルミが自分を見つめてくれていないまま
再会していたら、傷つけろと迫る自分を被虐趣味だと
勘違いされただろうか。
恐らく意味のない仮定だ。
ルミが頑張って見続けてくれていなければ、
自分達の道は交わることはなかった。
ふつうの家庭に生まれた少年と
家庭環境に恵まれていない5歳下の少女が
あの公園で知り合えたことも奇跡だった。
それを運命にしたのはルミの力で、
その運命の糸を赤く染め続ける為に自分の力を足したいと願っている。
他の誰かに繋がっているかもしれない糸よりも赤く。]
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