196 【身内】迷子の貴方と帰り道の行方
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["ラサルハグ"
流石にその名前には、目を丸くしました。
見た目年齢は当てにならないとは思いましたけれど、
そもそも生きている事すら
あり得ない存在だとは思いませんでしたから。
口を挟むことなく、耳を傾けます。
不老不死ですか……。
わたくし個人は
何故そんなものを欲しがるのか理解に苦しみますが、
そういう人が多くいることは知っています。
最後まで、わたくしは口を開くことなく聞きました。
こうなるのも致し方なし。
というような内容で、まず何を言うべきか少し迷います。]
[手を伸ばします。
彼の手に触れることは出来たでしょうか。]
分かりました。
[「満足?」という言葉には、そのように返しました。]
知らない方が生きやすいと、言いましたね。
そしてわたくしは、未知は恐怖だと言いました。
どちらが正しいかは、この場合は後者なようです。
ネリリさんを除く、他の方々は違ったのでしょう。
けれどわたくしは、
貴方のことを知りましたので、怖くはありません。
[瞳を閉じて祈るように、
寄添い合う二人の幸福を願いました。]
貴方が貴族社会を知らないように、
わたくしは魔法使いの人生を知りません。
けれど、生まれてすぐに国に保護され、
一生人の為に生きることを強いられる。
幸せな人生を送ることが難しいのは、
想像がつきます。
ネリリさんのやり方が
大分強引であることは否めませんが、
貴方の”人と共に在りたい”と言う我儘は、
叶えても罰は当たらないものだと思いますけれど。
[わたくしから言えることは、一先ずこの位でしょうか。**]
[フリップ氏の評判については
へぇ、と返した。
身分があるから表立って言われないのか
それとも本当に一回の失言なのか。
はたまた、彼女が知るフィリップと本当に同一人物なのか
憶測はいくらでも出来るけど、結論は出せない。
婚約者の前で根拠のない事はやめておこう。]
そういう事にしておくね。
[しっかりしてるようだけど
僕に魔法使いだろう? と踏み込むし
それなのに自分の人生に必要な情報は欠けてるし
そもそもここに迷い込む子が大丈夫、と言っても
僕は大概信頼なならないと思っている。
情報についてはやっぱり、と言ってもいいけど
そこは僕から口にしないよ。]
[年月を考えれば不死は兎も角かなりの不老だ。
欲しがる人が理解出来ないのは僕もかな。
人間老いや死を恐れるのは普通の事ではあるけど。
伸ばされた手はそのまま拒絶はしない。
人の輪郭、人の温度が手に伝わる。]
……うん。
[続く言葉を聞く。
今、この場で恐れないならそれで十分だ。
僕の恐ろしさは長い年月共にいない限り
本当の意味で理解することはきっとない。
それは言わない。]
これについては本当に機密だからね
[ありがとう、と小さく加える。]
……衣食住は保証されてるから
不幸にはそうならないけどね。
[罰はそれはそう。
僕の願いはささやかなものだ。
でも、それは叶えるのが困難な事。]
さて、湿っぽい話はこれまでにしようか。
[結論を聞く前に君の方に情が移るのは良くない。
だから言葉はここまで。
僕なりに君に言葉は告げたつもりだ。
あとは彼女の答えを聞き届けてから。]
ネリリは多分すねてるだろうな。
エルメス嬢、行こうか。
これ以上君は迷ってはいけない。
帰り道を見失う前に、結論を告げるべきだ。
[行先は館の出入り口の門だ。
手はどうなっていたかな。
触れたままならエスコートするよう歩くし
離れていたらそのまま先を歩くだけだった。]**
[その手を取れば拒絶されることはなく、
当然ですがその手はわたくしのものと同じように
温かみと弾力を湛えています。]
口封じの魔法をかけるのですもの。
ご自分の魔法は、信頼が出来るでしょう。
[機密であることについて、改めて答えを返す。]
[話が終われば、彼に導かれ向かうは館の出入り口。
わたくしは一瞬きょとんとして立ち止まりました。
手は、その時に離れました。
"分かった"なんて軽率に口にしましたけれど、
そんなものはきっと氷山の一角。
そうですね。わたくしは客人ではなく、一夜限りの居候。
分は弁えるべきです。
最後にきちんと別れを告げられれば、それで十分。
「何でもありません」と言って、共に門へと向かいました。
足を止めれば、館を見上げ口を開きます。]
ネリリさんも、聞こえていますね?
[念のために一声かけて、確認をしておきました。]
もうおよそ見当はついていることと思いますが、
わたくしは―――
家に帰ります。
わたくしがここに来る
原因となった家に帰りにくい理由は、
不可解な縁談への不安でした。
この話をした時に、良い人かどうか判断する
材料さえないと言いましたね。
相手がどういう人間か、わたくしはまだ知りません。
知りもしないで答えを出そうとするから、
未知に対しての恐怖が生まれるのです。
99日後、留学から帰ってきた婚約者と、
顔を合わせることになっています。
ですが、顔を合わせてすぐに
結婚するという訳ではないのです。
ですから、顔を合わせてしっかり相手を見定めようと、
今はそう思っています。
噂を辿って、知人をあたって、本当にその人のことを、
理解することなど出来るでしょうか?
直接本人と相対して初めて、答えの出ることだと思います。
噂なんていくらでも揉み消せますし、
同じ人間の印象と言えど、人によって感じ取る物は様々。
実際会ってみて
この方と一生添い遂げることは無理だと分かりましたら、
その時は周りを頼りますし、
わたくしも自分の気持ちに正直になることにします。
最悪、修道院に逃げ込むという力技も、
あるにはありますからね。
確かにここに居れば、
不幸になることはそうそうないと思います。
その反面わたくしが、
ここに居て幸せになることもないでしょう。
自分の目で見る前から、
現実から逃げ出した負い目は消えませんもの。
でもこのように、現実に目を向ける気になったのは、
間違いなくここへ来たお陰です。
だから、お話を聞いてくれたお二人には、
とても感謝していますよ。
[これがわたくしの出した結論です。
ご納得いただけるかどうかは自信がありませんが、
納得しなくても帰ると決めたら帰すと、
言質は取りましたものね。
**]
そうだね。僕は自分の魔法を疑ってない
[その言葉で推測は確信になった。
やっぱり、という思いしかわいてこない。
門に向かう前に遮断の魔法はといておいた。
ネリリの不機嫌さがなんとなく空気で伝わってくる
けどそっちだって二人で話したんだから
そこはお互い様だよ。]
うん、聞こえてるよ。エルメスお姉ちゃん
二人してそうしてるって……
答えが出たの?
[呼びかけに対して不安そうな声が響く。
そうして響いた言葉。
それにネリリの方はえっ! と
泣き出しそうな声を出した。]
[僕の方は推測通りとしか言いようがない。
ここに残る人は他に道がない人や
現実を放り投げれる人等々。
彼女が残る理由は僕視点見当たらなかったからね。
告げる言葉を静かに聞く。
成程。人づてに何かを聞くじゃなくて自分の目と耳を使うか
それは、思っていた以上にいい答えだった。]
ここに迷った事が何かの糧になったならよかったよ。
え〜〜〜〜!!!
やだやだやだやだお姉ちゃん帰っちゃうの
やだ〜〜〜
なんで、どうして!?
何が足りなかったの? ねえねえ
こっちの方がい〜〜っぱい楽しいのにっ!
取り込まれるのが嫌? なら考えるよ!?
[ネリリの言葉はもうただの駄々っ子でしかない。
僕は苦笑いした。]
ネリリ。
それがこの子の選択だ。
さて、じゃあ約束だ。帰してあげる。
その前にお土産を渡さないとね。
ええと、まずは……家族への手紙と詫びの品と……
[魔法で手紙をどこからともなく生み出し
そこに光が文字を書いていく。]
この手紙には、誕生日に娘さんを此方の都合に
巻き込んだ詫びと、口外出来ない実験に付き合って貰った
そう書いてあるから。適当に口裏合わせてね。
実験については極秘で口外出来ないよう魔法をかけた
って書いておいたからそう追及はされないと思う。
魔法使いの印を押してあるから保証になる。
あと、ここにいた魔法使いは女性という事にしておきな
異性と一晩いたというのは嫁入り前によくないし
ネリリが魔法使いの役割なのは嘘じゃないからね
[物は言いようだ。
補足するなら魔法使いの印は魔法がかかっていて
そうじゃない人が真似するのは決して不可能だ。
あと捜索されてたかもしれないから
売ればかなりの額になるであろう
魔法で作った美しい石をいくつか。
魔法で作り出したそれは持っているだけで
ある程度のステータスになるはずだ。
そんな解説をしながら袋に土産をつめていく。]
あとこれはエルメス嬢へのお土産。
[手を開けばそこには珊瑚のような石がはまったブローチ
所有者は彼女一人。他の人の手には絶対渡らない。]
何もないに越したことは無いけど
身の危険から守ってくれるから。
君にケガさせるような攻撃は絶対に当たらない
そんな魔法だよ。
[因みに
受け取り拒否を認める気はない。
貴族令嬢のお嬢様を手ぶらで帰すわけがない。]
じゃあ準備が出来たら言って。
秘匿事項を言えなくする魔法をかけて
それから 迷子の君の帰り道を示そう
迷わず行って
もう二度と会わないけど
君の幸せを願うよ─────
お、おねえちゃん……うううぅぅぅ……
─────……
[まだ話があるなら気がするまで付き合うけど
そうじゃないなら道を開こう。
門から出れば、君の家がすぐそばに見える事になる。
今度は長く歩かないですぐ、たどりつけるよ。
君が振り向くなら、白いワンピースを着た緑の短い髪
そしてどこか全体的に透けている小さな少女が
僕の背中にいるのが見えたかもね。]**
- 回想 -
[ぼくは許せなくなっていったんだ。
ここに招かれて、最初から帰るという人はいい。
いいけど、残ると決めたくせに帰る人
そして魔法使いさんを恐れて逃げる人を
ここは幸せなのに。
魔法使いさんは優しいのに。
満ち足りた生活の何が不満なんだろう。
許せなくなった。どうしても。]
[我慢が限界を超えたある時。
ぼくは帰らない人を逃げれなくしてあげた。
体をとりこんだ。
もう飢える事もない、寒さに凍える事もない
家がなくて迷う事もないんだ。
[僕はネリリの行為を止めることが出来なかった。
最初はあまりに唐突で、信じられなかったから。
幼いまま体を失った彼女にはそれが正しんだ。
間違っていると教えるのが大人の
保護者の役割だというのに。
これで、ずっと一緒
その誘惑に、負けてしまったんだ───── ]
[せめて、せめて。
この弱い心を抱えながらでも
帰りたい人は絶対に帰す。それは約束にした。
取り込むこともせめて説明をするよう言ったけど
それはなかなか聞いて貰えない。
権限を取り上げることも考えた。
でも、彼女はそれがあるから今も精神を保ってる。
それを実行すると存在がどうなるか分からなかった。
彼女を殺す選択肢だけは僕には取れなかったんだ。]**
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