64 【身内】珊瑚の天使を贈る村【R18G】
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[シキから迸る甘い声、蕩ける気、
それから濃厚な白蜜を
たっ‥‥ぷりと喰らった我は
腹だけではなく
心まで、溢れる程に満たされて
爪先から、毛の一本一本に至るまで
力が漲りまくっていた。
そんな己とは裏腹に
最愛の花嫁は
柔らかな波の上にくたりと沈み込む。
重なる手と同じに
気持ちも重なり合っているのを感じ取り
更に笑みを深めつつ、]
お前も何か食わねばな?
獲って来てやるから、そこで休んでいろ
[慈愛に満ちた声を掛ける。]
[我の精は、仔の栄養にはなるだろうが
人であるシキには
口からの摂取も必要な筈だ。
ずっと探し求めていた特別すぎる存在を
娶れることになるなんて
微塵も思っていなかったせいで
色々と準備不足なことが悔やまれる。
(本当は、片時も離れたくはない。
が、……まあ、今の我なら造作も無いことか)
次から次へと湧き上がってくる霊気に、
世界の端まで
ものの数秒で辿り着けそうな気さえする。]
[もう一度、優しく臍の辺りを撫で、
波打つ柔らかな布地で
色気がだだ漏れている気怠げなシキの体を
くるりと包み込みながら、]
半刻も掛からぬと思うが、
この虚からは、決して出ぬようにな?
ここの中は
我の気で満ちていて安全だ。
お前たちのことを隠し、護ってくれる。
[この様子では
しばらく動けないだろうと思いつつも、
あまりに大切すぎて
つい過保護に言い募ってしまう。]
[我の与えた気を
身の内に飼っていた時ですら
諌めた筈の縄が、するりと付いてきた。
我の仔を宿した今のシキならば
簡単な望みならば
きっと叶えられてしまう。
ただでさえ、妻の”思い”は濃ゆい。
水が飲みたいと欲すれば
温泉の代わりに、清水が湧き出すだろうし、
モノの配置替えや
梢や入り口の開閉くらいなら
手を使わずとも出来てしまうだろう。
強く望めば、おそらく更に────。]
[シキの世話は全て
己が焼きたい、などと思っているから
そのことには言及せずに、]
では、行ってくる
[名残惜しげに
ちゅっ、と頬に唇を落とすと
ゆったり立ち上がった。
部屋の隅の、宝物の山から
黄金のものやら
青に赤にキラキラと透ける石やらを
瞬時に引き寄せると、
袂に忍ばせながら外に出る。]
[しっかりと虚が閉じたのを確認し、
これまでよりも厳重に
幾重にも結界を張ってから
ひゅるる────
やや丸みがやや足りない月が昇る空を
疾風が馳せた。]
[あの欠けが無くなるまで、あと3日。
煌々とした月明かりの中
最愛の花嫁を、皆に披露する宴が開かれる。]*
[夫が食糧を用意してくれるという。]
……ああ、……有難う
[言われてみれば、空腹だ。
良く動いていた彼と裏腹に俺は
彼の下で喘いでいただけだが……、
自力で支度をする余力はなかった。
申し訳なくはあるが
素直に世話を焼かれることにして礼を言った。]
[布で包んでもらい
汗をかいた身体が寒さを知らずに済んだ。
「お前"たち"」と
胎の仔を含めて気遣ってくれる彼は
すっかり良き夫の顔をしている。
数刻前の掴み所のなかった男とは
もう別人のようだ。
────愛おしい。]
……ん。……行ってらっしゃい
[頬への口づけはあたたかく
胸がきゅんと高鳴って嬉しくなる
けれど]
[彼を見送った後
徐に起き出して温泉で軽く汗を流した。
慣れぬ体勢だったからか腰は痛んだが
それすらも愛おしく感じてしまう。
此処で暮らすことを考えていなかった。
故に着てきたものの他に着替えはなく。
掛下ではあるが端折りを作り
裾を引き摺らないように着た。]
……、
[そうして目を閉じ
瞼の裏に描くは取り戻したばかりの記憶。
人の世と魔のものの世の境界線
沢を越えたところでの出逢い。]
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